チャラくなるには
後期の授業は1日の中で空き時間もある。単純に取れる授業がないというわけだけど前の自分だったら無理にでも必要ない講義を聞くだけ聞きに行ったんだろうなと思う。でも今はゆとりを持って椿を探す調べものに勤しんでいられる。
前の授業が終わってから智也と拓也と一旦別れた俺は図書室に行こうと外の広場を歩いていた。すると少し先に目立つ赤髪を見つけた。誰かと一緒にいるみたいだけど間宮さんってどこにいてもわかりやすいなと思いながら駆け足で駆け寄る。
「間宮さん」
「ん?お、佐々木かー」
「やっほー佐々木くん元気?」
「あれ?川口さん?」
振り向いた間宮さんの隣にいたのは川口さんだった。川口さんは待ってるだけじゃ人は来ないと言ってアルバイトを探してる学生を探し歩いてるという名目のサボりをよくしてるからその時によく会っている。
「どうして川口さんと間宮さんが?知り合いだったんですか?」
「そうなんだよー。間宮くんが入学したばかりの時に書類を山積みにして歩いてて躓きそうになったところを助けてもらったんだ」
「助けたところで書類はバラバラに落ちてったから拾う羽目になったんだけどな」
「川口さん……毎年そうやって学生に接触してるんですか?」
「酷い言い方だねー。そんなことしてないよ。偶然偶然」
「本当かなー……」
「でもそれがきっかけでよく話してるんだよー」
「そうなんですか……。あ、もしかして間宮さんに変なこと言ったの川口さんですか?」
「変なことってー?」
「いろいろです」
「あーモテモテとかって話だろ?」
「僕は真面目な子だよーって教えてあげただけだよ」
「普通に学生生活してたら自然に佐々木の噂なんて聞くから川口さんには実際話してどんなやつなんですかって聞いただけだよ」
「……そうなんですね。あ、じゃあ川口さんが前に言ってた忙しくしてる学生っていうのはもしかして」
「そう、間宮くんのことだよ。同じバスケサークルじゃんって思ったけど4月から行かなくなったんだったと思ってね」
「そうだったんですね」
「あ、じゃあ僕は行くねー」
「え、行っちゃうんですか?」
「うん、今日は僕忙しいんだよ」
「そう言ってまたサボるんじゃ」
「違うよーいつももサボってないし」
「就職のガイダンスがあるんだよ、今日」
「そうなんだよーだから準備しなきゃなの」
「そうなんですか?仕事してるんですね」
「酷い!!大講義室で説明してるの見たことあるでしょ」
「ありますけどいつも通りペラペラ雑談してるだけじゃないですか」
「まあそうとも言うけどー3、4年のはかなり真剣にやるんだよー」
本当かな……と思ったけどわりと急いでるらしくて川口さんはすぐに走っていった。
「なんか昨日までに用意してって言われてた資料をまだ作り終わってないらしい」
「……あんな社会人にはならないようにします」
「まったくだな」
「間宮さんはどこに行くんですか?」
「図書室行こうと思ってた」
「図書室ですか?」
間宮さんのイメージに合わない……。
「今イメージに合わないと思っただろ」
「え、いや、思ってませんけど」
「ま、良いや、お前は?」
「俺も図書室に行こうと思ってたんですけど……あ、でも間宮さんに聞きたいことがあったんです」
「そうなのか?んじゃ、カフェテリアでも行くか」
「はい」
ラウンジより小さめのカフェテリアに間宮さんと2人で行くとちらほらと人がいた。適当なところに座る。座ってすぐに俺は聞きたかったことを話す。
「どうしたらチャラくなるのか教えてください」
「そーだなーとりあえず遊びにいけば?女の子がたくさんいるとこ」
「ち、違います。チャラい雰囲気を出せれば良いんです」
「あ?」
「言ったじゃないですか、探しに行くって」
「ああ、カミーリアちゃんだろ」
「そうですよ。なのに女の子たちに声をかけられて困ってるんです。逆ナンはチャラい人にはしないそうなので」
「ふーん……。ってかそれを先に言えよ」
「え、すみません」
「ま、良いや。とにかく声をかけられない雰囲気を出したいわけだ?」
「そうです。親父の友達に相談したら帽子とかサングラスとかヘッドホンをプレゼントしてくれたんですけどチャラくはならなくてどうしようかなと」
「ヤバいやつだと思われれば良いわけだろ。俺のアロハシャツを贈呈してやろう」
「え、アロハシャツ……?なんでそんなの持ってるんですか?」
「俺は夏のビーチが似合う男だから」
「へえ……」
「裸でアロハシャツ着て海にいるんだよ。かっこいいだろ」
「でも街では着ないんですよね」
「……着ないね。でも着てるやつは着てるさ。やってみろよ」
「裸でですか?捕まります」
「ちげえよ。お前馬鹿だなー」
「そうですか?」
「良いから着てみろよTシャツの上に。次のサークルの時に持ってきてやるから」
「あ、はい、ありがとうございます」
「それでサングラスして帽子被ってろ。変なやつだと思われて声かけられねえから」
「……声かけられないならやってみます」
「んで、宮本たちはどうしたんだ?」
宮本というのは智也の名字だ。智也も拓也も留学に行く人は必須の授業に出ている。それを伝えると間宮さんはあーと言う。
「あの2人は留学行くって言ってたもんな。お前は行か……ないよな」
「行かないですね、元々行くつもりもなかったし今も」
「俺もじいさんのことがあるから行くつもりなかったけどうちの学部は4年間の内にほとんどのやつらが行くからな」
「……ん?」
「あ?」
「うちの学部ってなんですか?」
「うちの学部はうちの学部だろ。文学部」
「間宮さんって文学部だったんですか?」
「言ってなかったか?」
「聞いてないです」
「えーここはえーであるからしてーえー」
間宮さんは目を細めて棒を持っているような仕草でそれをペシペシと叩きつけるように腕を振りだした。
「盛岡先生ですか?」
文学部の盛岡先生だ。喋り方も特徴があるし指し棒をホワイトボードとか教卓に強く叩きつけるようにしてるよくわからない先生だ。
「正解。びぇっくしょいこんちくしょい」
「ふっ……秋道先生?」
「そうそう。酷いよなあのくしゃみ」
「でも笑ったらすごい怒りますよ。智也それですごい睨まれてました」
「みんな笑いこらえんの苦労するよな」
そのあともいろんな先生の物真似をしていく間宮さん。いつの間にか間宮さんのワンマンショーみたいになっていた。川口さんの真似もしてそれもそっくりで俺は終始笑いながら聞いていた。
「そっくりです。間宮さんすごいです」
「だろーもっと褒めろ」
「すごいすごい!!」
「はやとー」
「ここにいたんだな」
「あ、もうこんな時間なんだ」
いつの間にか授業が終わっていたみたいで智也と拓也がそばに来ていた。
「んじゃ、俺も野口と合流するわ。じゃあな」
「あ、はい」
間宮さんはさっと立ち上がるとすぐ歩いていく。
「なに話してたの?」
「アロハシャツをもらう話」
「なんだそれ」
「チャラい感じが出るかなーて」
「あーそのことね」
「お前言葉足りないんだよ。教えるの得意なのに話下手な」
「そう?」
「あ、これって隼人の欠点?」
「欠点とは言えない気がする」
「なに?」
「隼人のできないこと探そうって話してたんだー」
「お前が失敗するとこが見たいって智也が」
「欠点とか……すごいあるけどな」
「そういうのじゃなくてさ、スポーツのこれが壊滅的に下手とかさ」
「ダンスができないとかないのか?」
「どうだろ?体育の授業はなんの問題もなくやってたけど」
「スキーとかスノボーができないとかはー?」
「んーやったことない」
「じゃあやってみよー!!」
「え、中華街行くんじゃないの?」
「雪山で偶然坂下さんに会うかもしれないんだよ?1パーセントもないって言い切れるの?」
「確かに……」
「また乗せられてる……」
「でもとりあえず中華街先に行こうよ。スキーは来年にして」
「それもそうだねー出費がねー」
「バイトは?」
「隼人と違って出てくからねー」
「そうなんだ」
智也は居酒屋で働いている。ちなみに拓也はレストランのキッチン。
「年内には行きたいね中華街」
「12月?」
「だねー。クリスマス?」
「わざわざ混む日に行くことないだろ」
「隼人今年はどうすんの?」
「どうしよ……」
「またその辺で適当にやるか」
「今年も彼女なしかー」
「お前は作るつもりあったのか?」
「良い子がいればねー。そういう拓也は?この前の子」
「え、なにそれ聞いてない」
「言ってなかったっけ?なんかバイト先の子に告白されたんだって」
「そうなの!?え、付き合うの?」
「もう断ってるよ」
「なーんだ、そうなの?」
「え、なんで断っちゃったの?」
「同じバイト先で付き合って別れたら気まずいだろ」
「なんで付き合う前に別れること考えるのさ」
「そうだよ」
「こっちは好きじゃないんだからそういうもんじゃないか?」
「そういうものなの?」
「さあねー。でもうちの居酒屋で付き合ってる人いるけどいつもバイト中喧嘩してちょっと困る」
「ほら、面倒だろ」
「そっかー……。ま、仕方ないか」
「大人しく今年も3人でクリスマスしよう」
「いや、待って。椿が見つかればないよ」
「見つかったら良いね」
「あと2ヶ月で見つかればそっちで楽しめば良いだろ」
「でも10年かかるとこ2ヶ月で見つかるかなー」
「そ、それは昴が言っただけだから。そんなにかからない……はずだよ」
「ま、どっちでも行けるように予定立てとこう」
「今年は遠出してみる?車出してさ」
「そうだなー」
「ラーメン巡ろうよ」
「またラーメンか?」
「良いじゃん、寒いとラーメン美味しいよ」
「お前は一年中美味いって言ってるだろ」
「ああ、ラーメン屋に椿いないかな……」
「いるかもよ、ほら、だから巡ろうよ」
「……ん、そうだね」




