昴と仲直り
翌日のサークルが終わったあと昴の家に来た。
「彩華さん、一輝さんただいま」
「隼人、おかえり」
「おかえりー」
「昴は?」
「もうすぐ帰ってくると思うわよ」
「そうなんだ」
昴はなにやらパソコンが故障したかもしれないとかの問い合わせの電話を受けて解決法を伝えるアルバイトをしているらしい。俺は昴らしいなと思って温かい目で見てる。
昴は食べて帰るというから夜ご飯の焼き魚を食べて昴の部屋のベッドに座って携帯をいじる。
そうだ、誠司に連絡してみよう。俺は出るかなと思いながら電話をかけてみた。しばらくコールしてると途切れた。
『久しぶり、珍しいね』
「うん、久しぶり。今忙しい?」
『勉強してたけど良いよ。なんかあったの?』
「特にないんだけどどうしてるかなって思っただけ。医大の勉強って難しいの?」
『そりゃあね。毎日勉強漬けだよ』
「そうなんだ」
『隼人は?』
「バイトとサークルばっかりだったよ」
『だった?なんのバイトしてるの?』
「塾講師と家庭教師」
『へえ、隼人らしいね。今は違うの?』
「ううん、やってるけど減らしてるの。椿を探そうと思ってね」
『そっかー。坂下さんか』
「うん」
『じゃあもう心配ないね。隼人は坂下さんのことを思ってれば無敵じゃん』
「敵はたくさんなんだよ」
『そういう意味で言ったんじゃないんだけど。なに、戦ってるの?誰と?』
「みんなだよ、家族みんな。昴なんて当たりが強すぎて反抗期みたいだ、俺に対してだけ」
『えーそうなの?大変だね』
「困っちゃうよ。でも親父が昴と話しなって言うから今昴の家で昴が帰ってくるのを待ってるんだよ」
『そうなんだ、仲直りできると良いね』
「どうかなー。昴は椿を好きだって、まさかのライバルだよ」
『友達としてってことでしょ』
「当たり前だよ。けどそれでも椿のことを1番好きなのは俺だから昴の意地悪に負けないんだ」
『なにやってんだか……。とりあえず頑張って』
「うん。あ、帰ってきたかも」
『そっか。じゃあ切るね』
「また連絡して良い?」
『良いよ』
「じゃあね」
電話を切ると部屋のドアが開いて昴が入ってきた。
「おかえり」
「ただいま」
昴は鞄を置くと椅子に座った。
「でー?話ってなんなの?写真なら渡さないよ?」
「写真はもう良いよ。いや、よくはないけど。でも代わりにこれがあるんだ」
「なに?」
「これだよ」
俺は携帯を昴に見せる。フォルダに保存してあるパンダうさぎたちをスライドして見せていく。
「……隼人くん」
「ね、可愛いでしょ。描いたんだよ」
「そっかー」
なんでだろう。項垂れる昴に携帯を見せる。
「上手く描けてると思わない?」
「上手いよ、上手い。さすが隼人くんだよ」
「でしょ。いろんな色で描いてるんだよ」
「わかったわかった。もう見たよ」
「そう?」
昴には特別にもっとよく見せてあげようと携帯を押し付けると押し返されてしまう。
もう、仕方ないな。
「毎朝メイン画面を変えるんだ。今日は赤色の帽子を被ったパンダうさぎにしたんだよ。昨日椿を探しに行った所のカフェの店員さんが赤色のスカートをはいててね、椿がこの制服を着てたら可愛いんだろうなーって思ったんだー」
「そうなんだー。良かったねー」
「でもね、カフェでバイトしてる椿を想像したら笑顔で男の客に接客してるからダメダメって思って、コーヒーが熱いって思ったら椿が一人暮らしで火傷とかトラブルが起きたらどうしようって思ってね、お店を出る時にはすごく疲れたよ」
「……大変だったね」
「椿カフェで働いてたら困っちゃうなー……どこでバイトしてるかな……」
「……教えないよ?」
「もー」
今度は俺が項垂れる。
「でもみんな椿が好きで椿を守ってるんだもんね。俺が椿の所に行きたいって思ってもみんなが守ってるんだ。椿に酷いことをしたから罰が当たってるんだと思うけどそれでも椿の所に行きたいってもう止められない。椿が一人暮らしで寂しがってるかもしれないとかトラブルが起きたら助けなきゃってどうしようって思って早く椿の所に行きたいけど全国のどの辺りにいるのか全然わからないからどれだけかかるかわからなくて。けどみんなは椿を守ろうとしてるし無理やり聞き出して見つけ出したらそれこそ制止を振り切って椿の世界に踏み込んで行くようなものだし、そんなことするような人じゃ椿の隣にいる資格がないし自分で探さなきゃって思うんだよ」
「隼人くんってさあ……いや、なんでもない」
「なに?」
「なんでもないよ。坂下さんのことじゃないけど、一人暮らししてる女の人なんて多いんだよ?水道トラブルが起きたらここに電話してくださいとか連絡先ちゃんとあるから対処できるよ」
「そうなの?」
「そうだよ。このくらいのね、ステッカーがあって冷蔵庫に貼れたりできるんだよ」
「そうなんだ、良かった」
「うん、それに坂下さんはしっかりしてるんだから心配要らないよ」
「そうだよね、けど心配は心配だし……隣の人が男の人とか大人の変な人だったりしたらどうしよう」
「隼人くん……見てみな、学生の一人暮らしなんてたくさんいるんだからそういう心配してこういうのがあるんだよ」
昴は携帯を見せてくる。
「例えば学生寮とか学生マンションとか、それからこういう女の子だけ住めるところとかもあるんだよ。こういうとこに住んでると思えば良いじゃない。坂下さんだってきっとちゃんと考えてるよ」
「ふーん……。それもそうだね、椿はしっかり者だもんね。おかしな所には住まないか……。治安が悪いとか悪くないとかもちゃんと考えるよね」
「そうだよ。だから安心して10年くらい探し回ってなよ」
「10……そんなに?そんなにかかるの?せめて2年くらい」
「それくらいかかる覚悟しなよ」
「そうだよね……頑張る」
でも10年は長すぎるな……。
「親父にね、どうして椿と別れたのか話したんだよ。他のみんなには話さないでって約束して。そしたら車を貸してくれるって」
「良かったね」
「敵に塩を送るのって聞いたら話してくれた対価にって」
「僕はなにも提供しないけど?」
「だよね、いや、わかってるよ、もちろん」
「まったくもう……」
「じゃあもう良いよ。別の話をしよ。昨日ね、関さんに相談したいことがあるって言ったら高級なイタリアンレストランに連れていかれたんだよ。あ、関さんはね「スーツのお店の琉依さんの先輩でしょ」そうだよ、よく覚えてるね」
「隼人くんじゃないんだから。去年からよく買いに行ってるんでしょ?」
「そうだよ、若菜に話してないよね」
「話してないけど?別に話したところでどうもしないと思うけど」
「あそこって有名人とかセレブが足しげく通うおしゃれタウンなんだよ。何人も見かけてるし」
「隼人くん芸能人わかるの?」
「通りすぎる人が話してるからね。で、そんなところで親父のつけで買ってるとか知り合い価格で買ってるとかそんな非庶民的な話したら馬鹿にされるに決まってるよ」
「そんなことないと思うけどな。っていうか割引されてる時点で庶民的な気がするけどまあ良いや。隼人くんだいぶおしゃれだもんね」
「向井さんって人のお店だよ。親父みたいだけど色合いも落ち着いてるしデザインもシンプルだし良いでしょ」
「うん、かっこよさがより際立ってるよー」
「けど時々俺に似合うのをって思って作ったって新作を着させられて写真を撮られるよ。変なとこに売られてたらどうしよう」
「大丈夫じゃない?」
「そうなら良いけど。ま、関さんも知ってるし平気かな。で、関さんに連れられて行ったレストランは親父の後輩の村岡さんっていう人のお店なんだよ。村岡さんはね、ポーカーフェイスであんまり笑わない人なんだけど親父と母さんに学生の時から迷惑を被っていた人なんだよ。けどね、俺は覚えてなかったけど昔うちに小さい台があったでしょ?あれを作ってくれた人なんだって」
「覚えてるよ」
「……へ?」
「僕の身長に合わせて作るからって途中で呼ばれて行ったもん」
「昴覚えてたの?」
「覚えてるよ」
「そうだったのー?言ってよ」
「ええ……ごめん?」
俺は昨日のことを話した。親父と母さんを落ち込ませていたと知ったこと、俺には見守ってくれる人が家族以外にもたくさんいたと知ったこと、関さんみたいになるにはどうしたら良いのか聞いたこと、7月にまた母さんを落ち込ませてしまったけど親父に俺は毎日元気でいてくれるだけで良いと言われたこと、みんなを家に招待することにしたこと、長い話になったけど話した。
「昴のなんちゃらノートに書いておいて」
「今の長い話をどうまとめるの?まったく……でもすごく濃い時間だったんだね」
「うん、みんな俺に贈り物をするって明日届くものとか親父が受け取ってくるものとかたくさんあると思う」
「良かったじゃない」
「いろんな人と会って話を聞こうと思うんだ。椿を探しながらだけど。けど村岡さんとかみんなの話をまず聞きたい」
「そっかそっか」
「なんで昴が嬉しそうなの?」
「教えなーい」
変なやつだな、と思いながら今度は昴の話を聞いた。大学のよくわからないシステム関連の授業のこと、新しくできた友達のこと、それからもちろん若菜のこと。日付が変わる直前までずっと話した。




