表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
61/136

ただの相談がなぜこんな事態に(1)



 21時少し過ぎに関さんのお店に行ってみる。


「隼人くん」


 関さんはいるかなと辺りを見渡していたら後ろから声をかけられて振り向くと関さんがいた。


「あ、関さん急にすみませんでした」

「全然良いよ。じゃあ行こうよ」

「え?お店良いんですか?」

「平気平気。あとは任せてるから」


 関さんがそう言うなら良いのか、と俺は関さんのあとに続いてお店を出る。


「こっちだよ」

「え?」

「隼人くんワイン好き?」

「え、えっとあんまり飲んだことないですけど」

「そうなんだ。イタリアンで良かった?ちゃんと個室にしてあるけど」

「ええ!?わざわざ予約してくださったんですか!?もしかしてここですか!?」


 関さんのお店から目と鼻の先にあるレストランで立ち止まる関さんに俺は慌てる。

 何度か服を買いに来てるから前を通りすぎたことはあったけど高級感のあるレストランだ。


「大丈夫。味は保証するよ」

「そういうことじゃなくて!!こんな高そうなお店なんて持ち合わせがないです」


 バイト漬けなわりにあまり出費がないから貯金がすごく貯まってるけど今は持ってないと財布の中身を思い出す。


「なに言ってるの?奢るに決まってるでしょ」

「えー!?そんなの悪いです!!ちょっと相談したいだけでこんなことになるなんて!!」


 これだからお金持ちは価値観が違ってびっくりだ。


「良いから良いから。琉依にもうここで食べるって言ってあるしずるいって言われてるし」

「え、親父に話したんですか!?それにやっぱり駄目ですよ、親父もずるいって言ってるじゃないですか。うちは庶民的でこんなお店年に2、3回しか来ないから」

「なにとんちんかんなこと言ってるの?自慢になるからとりあえず行くよ」


 ぎゃー!!お店に入っていく関さんを慌てて追いかける。落ち着いた雰囲気のお店の入り口でスーツを着こなしている男性が関さんにお辞儀をしていてまた慌てる。


「いらっしゃいませ」

「見て、琉依の息子の隼人くん」

「よく似ていらっしゃいますね」

「でしょ」


 ひぃ……なんで親父のこと知ってるの?怖い、高級店怖いと思っているとその人は俺にも深くお辞儀をしてきた。


「琉依さんと美香さんにはいつもお世話になっております。ご満足頂ける料理をご提供いたしますのでどうぞごゆっくりお楽しみください」

「……あ、ありがとうございます」


 怖い怖い、その男性は笑顔なのに俺は顔をひきつらせながらそれだけ言った。そしてお店の奥の個室に案内されて落ち着かない気持ちで座る。


「こっちで勝手に決めちゃってるよ。肉料理のフルコース。平気?」

「ひぃ……大丈夫です」


 すぐに赤ワインがきて乾杯をする。関さんは苦笑いして言う。


「個室だし別にそんなにかしこまらなくて良いのに。年に数回でもこういうお店来てるんでしょ」

「そうなんですけどいつもは通常運転の母さんに付き合ってるので緊張しないと言いますか……」

「なるほどね。で、どう?そのワイン?口に合う?」

「あ、はい。美味しいです」

「琉依は飲むけど生ビールとかの方が好きでしょ。ほら、優菜ちゃんとか彩華さんの旦那と」

「確かに家で飲む時は大抵そうですね」

「俺はビールも良いけどやっぱりワインだねー。隼人くんをワイン党に染めようと思って」

「ええ?けど好きな味です」

「お、わかるねー。琉依に自慢しよっと」

「あ、でもそんなに親父に言わない方が……。あとで怒られそうです」

「なんで?」

「ですから、俺だけこんな贅沢してたらそりゃずるいって言われますよ」

「だからそれがとんちんかんなんだってば。琉依がずるいって言ったのは俺が隼人くんに相談したいことがあるって言われたからだよ」

「へ?」

「隼人くんに頼られるなんてずるいって、ちゃんと良いものをご馳走してくださいよって」

「ええ……そういうことですか?」

「当たり前でしょ。親バカだからね。それに平社員って言っても琉依はだいぶ稼いでるよ。琉依の技術は各界で有名だから。ごくごく普通の家にしたいってだけだよ」

「俺は庶民的なのが良いです。平和です」

「ふふ、やっぱり隼人くんって不思議だね。普通もっと贅沢したいとかそんなにイケメンなんだから美人に囲まれたいとかもっと貪欲になっても良いのに」

「変ですか?」

「いや?良いと思うよ。ただ、人より優れた才能があるのに鼻にかけないのはなんでだろうって思うだけ」

「んー……なんででしょう?」

「大抵人は他人より優れたものがあればひけらかしたくなるんだよね。それに男なんて単純だから女性に言い寄られれば嬉しくなるし。少なくとも隼人くんみたいにいつまでも慣れなくて慌てたりしない」

「え?まさにそれが相談したいことに関わることなんですけどなんで知ってるんですか?」

「簡単だよ。人を探してるんでしょ。で、その子は大学生、探すなら大学のそば。ということは人の多い場所に行くってこと。今朝意気揚々と探しに行くって言ってた隼人くんが相談があるって言うならどんなことかなって考えただけ」

「すごい……俺って分かりやすいですか?」

「いや、隼人くんのぶっ飛んだ思考回路はちょっと手強いくらいだよ。けど隼人くんが生まれた時からずっと話を聞いてたし大学生になってからはだいぶ直接話してたからね、なんとなく。隼人くんって琉依と美香ちゃんを上手く掛け合わせてるよね」

「そうでしょうか?」


 話しているうちに料理がきてそれを味わいながら続ける。


「そうだよ。ああ、隼人くん忘れてるかな?昔美香ちゃんが食器で怪我をして隼人くんが冷静に対処したの」

「んー……あ、母さんが馬鹿なことしたの覚えてます、なんとなくですけど」

「その時隼人くんが言ったんだって。美香ちゃんに琉依にばかり似てるって言われるのが嫌だって、美香ちゃんの子供なんだから美香ちゃんに似たいって」

「絶対違います。絶対言ってません、曖昧な記憶ですけど俺マザコンじゃないのでそんなこと言うはずないです」

「まあまあ、けどあの一件で美香ちゃんがすごく落ち込んじゃってね。隼人くんが傷付いてるのに気付いてもあげられなくて母親向いてないって」

「え、そうなんですか?」


 俺の記憶だと次の日にはすっかり忘れて親父に似てる、自分に似てるってペラペラ言ってきた気がするけど。


「美香ちゃん繊細で落ち込みやすいからね。隼人くんの前では明るくしててもたくさん悩んでたんだよ。考えすぎちゃってとんちんかんな発想になってね。ね、隼人くんに似てるんだよ。わけわからない思考でもずっと見てたり聞いてたりしたらこういうことかってわかる。それでも唐突に予想の斜め上なことを言い出すから不思議なんだけど」

「確かに母さんはそうです。……え、俺も同類ですか?」

「個性だよね。見た目は琉依にそっくりなのにそういうとこは美香ちゃんにそっくりで琉依は隼人くんの存在自体が愛しくて仕方ないんだよ。けど琉依もその一件で隼人くんの悩んでることを知って、隼人くんは隼人くんなのにわかってあげられなかったって琉依は琉依で悩んで。それに、隼人くんに美香ちゃんが好きだから自分は二の次って思われてたことにもショック受けてて。あの2人は付き合ってる時もバタバタしてたけど結婚してからも変わらずバタバタしてるよ。俺も子供がいるけど子供は両親に似てるんだよ、両親のいろんなとこを受け継いでそれでその子らしく成長してくれる。みんなそうだよって言っても2人ともどうしたら隼人くんのためになるんだろうって頭を悩ませてたよ」

「ふーん……。全然知らなかったです」

「そりゃあ子供には知られないようにするものだよ。クリスマスのサンタさんみたいにね」

「たぶん俺サンタがいるって思ったこと1度もないと思います。初めから母さんが親父がサンタに扮して枕元に置いてくれるって言うから」

「おっちょこちょいだよねー。けど昔から2人を知ってるのに琉依がこんなに子煩悩になるとは思わなかったよ。美香ちゃんは昔から子供が好きだったけど琉依はあくまでも子供と接してる美香ちゃんに釘付けって感じなだけだと思ってた。美香ちゃんは琉依にも隼人くんにも同じ大きさの愛情を向けられるんだよ。でも琉依にとっては絶対的に美香ちゃんが一番の存在なんだと思ってた。それでも隼人くんをないがしろに思ってるわけじゃない、美香ちゃんみたいに複数の人に同じだけ愛情を注げる人はそうそういないからそういうものだって俺は思ってた。けど隼人くんが生まれて父親になった琉依は俺が思ってたよりずっと父親になってたんだよ。不器用なのに器用なところもある美香ちゃんと対称的に器用なのに不器用なところがある琉依が美香ちゃんと隼人くん別の括りで同じだけ愛してるんだって、それが隼人くんに伝えられてなかったってショックを受けて俺に話してきた時に聞いて初めてこいつ父親なんだって思った。琉依はいろんなことを経験して大きくなる隼人くんの成長がなによりも嬉しいんだよ。自分の運転姿に興味を持ってくれるのも自分のヘアスタイルを真似しようとしてるのも逐一俺たちに連絡してくるから」

「え、なんかニヤニヤしてるなって思ってたら……」

「美香ちゃんになんでもない日に花束をプレゼントしてくれた時も毎回知らせてくるよ。初めての時はすごく興奮してたし」

「ひぃ……あの時身内だけじゃなかったんですね」

「昇にもそうだし他の仲良いやつらにもすぐ連絡してたよ。その前の隼人くんが相談してくれたっていうのも」

「なんで筒抜けなんですか、もう、恥ずかしい親だな。じゃあ今日はやけ酒ですかね」


 家で浩一さんや一輝を呼んでビールを飲んでるのかな。


「いや、酒は飲んでないよ。車で迎えに行くって言ってたからその辺にいるんじゃないかな」

「ええ!?そんな馬鹿な!!」

「隼人くんになつかれてずるい、僕も相談乗りたい、でも邪魔したら隼人くんがプンプンするし、けどそれも可愛いし……だって」


 携帯の画面を見せてくれる。あ、また送られてきた。


「こうやって連続で恨み節を送ってくるんだよ、よく。隼人くんがうちでスーツ買ってくれたあとに俺のこと褒めてくれるでしょ、渋くてかっこいいなって。だからそれを聞いた時もこうやって来るんだよ。シカトしてるけどね。あ、また来た。しつこいね」


 あはは、と笑う関さんに俺は複雑な気持ちになった。親父は母さんが世界で一番好きで危険な思考を持つ、よくわからない不思議な人だと思ってた。


「あの、親父呼んだら駄目ですかね?この辺りでうろうろしてたら余計に危ない人だし」

「素直じゃないね。親父大好きって言えば良いのに」

「そんなんじゃないです……」

「あ、すぐ来るって」

「え、もう言ったんですか?」

「うん」


 早いな、そして来るんだと思いながらワインを口にする。


「あ、来たかも」

「はや!!え、もうですか!?」

「はやとー」

「え、嘘でしょ!?」


 まだ送って1分も経ってないのに親父がひょいっと個室に顔を覗かせてきた。笑顔で。とてつもなく嬉しそうだ。


「琉依、どこにいたの?」

「入り口の横ですー。村岡くんに気付いてたのに無視されてました」

「琉依さん、どうします?コーヒーでも飲みます?」

「ふーん。無視してどうぞお入りくださいの一言も言えない意地悪な村岡くんなんて知らない」

「コーヒーで良いですね」

「村岡くんは冷たいなー。心が冷たいなー」

「なに言ってるんですか。こんな変態店に入れたら信用問題になります」

「そんなことないよ」

「なります。業務執行妨害と変態の罪で訴えますよ」


 村岡くんと呼ばれる初めに入り口で会った男性は親父を鬱陶しげに見る。さっきと雰囲気が違う。


「隼人くん、村岡は大学の後輩で琉依の1つ下なんだよ。さっき言った仲良いメンバーの1人。ここのオーナーやってるんだ」

「げ……筒抜け……」


 関さんの言葉に俺が絶句してると村岡さんは腕にしがみついてる親父を剥がして俺に顔を向けてきた。


「先程の訂正です。琉依さんと美香さんにお世話になっているのではなくお世話してます、村岡です」

「え、あ、初めまして。いつもすみません」

「非常に厄介です」


 わからないけど絶対迷惑をかけてるんだろうと思って申し訳なくなる。


「あ、来た来た」

「え、なんですか?」

「琉依が村岡の店に乱入してきたって言ったら昇が大人しく待てしてなって言ったのにって」

「昇さんですか?」

「竜二は琉依に相談しても役に立たないんだから大人しくしてなよだって」

「役に立たないことないです!!竜二さんの意地悪!!」

「ちなみに竜二さんというのは関さんの同級生で会社の経営をしながらマンションもいくつか持ってる嫌みな人です」

「そうなんですか……」

「あ、村岡の相棒の木村からは無理だと思いましたけどって。小林からは、というか僕と木村は琉依の同僚で昇と同じく昔から隼人くんと知り合いなのに見守り隊してるんですけどどうしてでしゃばるんですか?だって、村岡」

「俺ですか?俺はあくまでも琉依さんが乗り込んで来なければただの店員Aでしたけど?それを言うなら関さんでしょ。っていうか敬語だから小林さん関さんに言ってますよ?なにさりげなく隼人くんに悩み相談される仲になってるんですか?」

「そうですよ!!関さん酷い」

「琉依が頼りないからだ」

「いじめだ!!隼人!!こういうのいけないよね!!」

「えー……」


 戸惑いながら隣に座って頭を撫でてくる親父の手を払う。


「とりあえず村岡仕事続けなよって竜二が」

「わかってます。では」


 村岡さんはお辞儀をして歩いていった。入り口で会った時と違って終始鬱陶しげな顔をするか真顔の人だった。不思議な人だな……。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ