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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
59/136

ただいま



 霧が晴れた俺は考える。椿の所に行こう。椿は今一人暮らしをしている。大好きな若菜と離ればなれにさせてしまった。ごめん、椿。兄弟がいたら良いのにって家の中で話しながらお母さんの代わりにご飯を作ったら楽しいんだろうなって言ってたのに、ずっと1人にさせてしまってごめん。寂しくない?椿は社交的だから友達と外食したりおうちに呼んだりするのかな?それなら寂しくないのかな。でも夜遅くまで外で遊んでたら危ないよ。22時には家に……21時には家に帰ってないと女の子の一人暮らしなんて危ない。ああ、でもそしたら椿が1人ぼっちな時間が長くなっちゃう。どうしたらいいんだろう……。行かないと、早く椿の所に。


 一人暮らしをしてるのはやっぱり俺から離れた場所に行きたかったからなのかな。塾に行ってるって、あれも椿のことだったんだろう。椿は頭が良くて塾に行かなくても十分やっていけたはずなのに。また一生懸命勉強して頑張ったんだろうな。そこまで頑張ってこの近くにはしないだろう。遠く遠く離れた所に行ったんだろう、県外だ。椿は優しい子だからお父さんとお母さんに負担をかけさせたくないって思ったはず。学費が少しでも免除になるようにそういう制度がある大学に入るために一生懸命勉強したんだろう。


 俺は調べ始めた。まずは隣接する県。そうしていると塾に行く時間が迫っていることに気が付いて慌てて支度を始めた。

 ネクタイを絞めながら階段を降りる。


「あら、隼人……時間平気?ご飯は?」

「ごめん、時間ない。途中でなにか買って食べるよ」

「そっか」

「隼人、おはよう」

「おはよ」


 ハッと気付いた。俺は昨日どうやって帰ってきたんだろう。記憶がぶつ切りで最後は昴に会った気がするけど……。


「えっと……昨日はごめん」

「良いのよー」

「大学の友達が昴に連絡してくれて昴が車で迎えに行ったんだよ」

「そうなんだ」

「お酒は飲みすぎちゃ駄目よ」

「うん」


 俺なにも言ってなかったのかな?椿に会いに行くとか。なにも言わないのかな……あ、そっか見守る姿勢か。それならと母さんと親父に言う。


「椿の所に行くよ」


 母さんはやっぱり泣いた。親父は母さんの肩を抱いて笑って言う。


「行くんだね」

「うん、探すんだ」

「「探す?」」

「どうせ聞いても教えてくれないんでしょ?自分で探して見つけるんだ。あ、若菜には秘密にしてね。母さん、わかった?絶対秘密だよ」

「ひ、秘密ね秘密……」

「駄目かもな……なんでもオープンだもんな……」

「だ、大丈夫よ!!」

「昴にも話して口止めしないと。電話……はすぐ電車乗るから駄目だよね、メッセージ送ろう……じゃあ行ってくるね」


 俺は慌ただしく家を出て駅に着いて電車に乗ると昴にメッセージを送る。


『昨日はごめん』


 続けようとしたらすぐに返事が来た。


『ごめんで済んだら警察はいらないんだよ!!』


 なんだ?予想外に怒ってるみたいだ。


『いきなり呼び出して悪かったよ。若菜とイチャついてたの?機嫌直して』

『心配したんだよ!!』


 ああ、そういうことか。


『ごめん。もう飲みすぎないようにするから。でも俺はお酒強いんだよ。間宮さんって人が突っかかってくるのがいけないんだ』

『隼人くんのばーか!!』


 困った。椿のことを口止めする前に昴の機嫌を取らないと。なにで機嫌を取ろう、昴が今欲しがってるゲームはなんだったかな、と思っていると続けてメッセージが来た。


『心配したんだよ』

『だからごめんってば』

『行くんでしょ?』


 なんだ、俺は昴には言ってたみたいじゃないか。


『行くよ。椿のところ』

『そっか』

『だから昴は若菜に話しちゃ駄目だからね。若菜にバレないように探すんだから』

『へ?探すの?』

『そうだよ。どうせみんな聞いても教えてくれないでしょ。みんな椿が好きだからね。全員敵だ』

『ああ、そう……。頑張って。それからおかえり』

『おかえり?』

『わからないなら良いよ!!バイバイ!!』





 なんなんだ?……とりあえず昴より椿のことだ。そうは言っても予定を詰め込んでいたから今すぐには行けない。バイトを減らせるか相談してみよう。塾に着いてすぐに塾長に声をかけた。すると今日の授業のあとに時間を作ってくれた。


「次の変更の時にバイトを減らしたいんです」

「うん、良いよ」

「え、良いんですか?」


 難しいかな、どうしよう、後期の講義を減らしてバイトの前に探しに行くとかにしようかな、と思ってたらすんなり了承された。


「だってせっかくの大学生活だからね、遊びたいでしょ。平日休みにする?あとは土日どっちか休みにするとか」

「土日だけにしても良いですか?」

「良いよ。じゃあ土日も夕方までにしようか」

「すみません、お願いします」


 土日の夕方から探しに行く。それにもうこれまででだいぶ単位を取ってるから後期の講義は少し減らしても大丈夫だろう。




 そして次のサークルの日、体育館に行く途中で見慣れない派手な髪色の人の後ろ姿を見つけた。


「間宮さん」

「ん?おー佐々木かー」


 間宮さんだ。練習が始まるまでまだ時間がある。


「あの、少しだけ時間良いですか?」

「おー良いぞ」


 俺たちは体育館の近くの広場のベンチに座った。


「この前はすみませんでした」

「別に佐々木は悪いことしてないと思うけどな」

「いえ、酔っていたとはいえ、年上の人に失礼なことを言ったような気がします」

「覚えてないんだ」

「なんとなくは覚えてるんですけど」

「じゃあカミーリアちゃんの本名教えて」

「それは駄目です。彼女の名前は特別なんです。俺も失礼なことを言いましたけど間宮さんもそれ以上に失礼なことを言ってきましたよね。カミーリアっていうのも可愛らしい響きの特別な呼び名だけど教えてあげたんです。これでイーブンです」

「ああ、そう……」

「けど彼女の所に行くと決めました。間宮さんのおかげです。ありがとうございました」

「それも言うのは俺じゃないな」

「え?どういうことですか?」

「そもそもどうして俺があのタイミングで佐々木と話したかわかるか?」

「え?俺と話をしたいと思ってたからって言ってませんでしたっけ?」

「それもあるけど俺は元々今日からサークル復帰しようと思ってたんだよ」

「そうなんですか?それじゃあなんであの日?」

「佐々木の友達が野口に相談してたんだ。どうしてもいつも笑って誤魔化されちゃう。踏み込めないけど心配で、どうにかして話を聞き出したいって。で、ズケズケ物言える俺に白羽の矢が立ったんだよ。そろそろ復帰するって言ってあったしな。サークルの飲み会があるから来てくれって。ちょっと早く行って佐々木を観察してみようって思ってたら告白現場を偶然目撃しちゃったってわけ」

「智也と拓也が……」

「感謝するならあの2人にしな。って言っても俺が佐々木を酔い潰したって怒ってきて割りに合わないよ。俺って損な役回り」


 なんだかこの前はただ失礼なチャラい人という感じだったのに今は普通の人に見える。なんなんだろう、この人。不思議な人だ。


「あの、サークル来てなかったってどういうことですか?休学してたんですか?」

「学校には来てたよ。サークルだけ行ってなかったってだけ。俺地元はずっと離れた場所なんだ。で、高校3年の時に親父の方のじいさんが倒れて介護が必要になったんだよ。でも親父は会社を経営しててお袋はアパレルブランドのデザイナーやってて見られないから施設に入ってもらおうってなったんだけどばあちゃんが猛反発して、でもばあちゃんが見るにも限界があるだろって。じゃあヘルパー呼ぶって言ってもそれも嫌だって、じゃあどうすんだって八方塞がり。だったら俺がこっちに来てじいさん見ながら大学行くわって。最初のうちはサークル出ながらでもやっていけてたんだけど1年半くらい前に病状が悪化してサークル行かないで毎日早く帰って面倒見てたんだよ」

「えっと……それで復帰って」

「いや、落ち着いてきたし海外に行ってた親父の弟夫婦が帰ってくることになったんだ。それもばあちゃんが文句言ってたんだけど和解させて。これで俺もお役御免だなって」

「大変だったんですね」

「ま、昔から放任主義の両親の代わりにじいさんばあさんが実家までよく来てくれて相手してくれてたからな。じじばば孝行だよ」

「なんだかイメージが違います」

「そう?」

「チャラくていい加減な人だと……」

「ま、実際そうでもあるしな。楽観的だし」

「そうですか」

「まーみーやー!!」


 大声で間宮さんのことを呼ばれたと思ったら後ろから人が走ってきた。俺が先に気付いて間宮さんに言う前にその人が後ろから間宮さんの首に腕をかけた。


「いってえなあ!!」

「悪い悪い」


 その人は3年の野口さん。明るくてムードメーカーな人だ。


「復帰だなー!!良かったよー!!元気か?元気そうだな!!」

「いやお前はほぼ毎日同じ講義受けてただろうが!!」


 野口さんと仲が良いみたいだ。じゃれあってる2人を見ていると野口さんと目が合う。


「よ!!」

「おはようございます」

「佐々木も元気か?元気そうだな!!」

「はい」

「そりゃ良いことだ!!もう2人来てるぞ、体育館に」


 俺は野口さんにもお礼を言って体育館に行った。ボールを手に壁に寄りかかっていた2人を見て俺は駆け寄る。


「あー隼人ー」

「おはよ」

「おはよう。智也、拓也、心配かけてごめん」


 俺がそう言うと2人はお互いに顔を見合わせたあと苦笑いした。


「サークルのあと強制召集だかんな」

「だからなー」

「うん」





 そしてサークルが終わったあと3人で居酒屋に入った。


「隼人は飲むなよ」

「え、平気だよ」

「もう烏龍茶頼んじゃったよー」


 注文する機械を手にしている智也が言う。


「大丈夫なのに」

「隼人はシラフで正直に話すんだ」

「……はーい」


 仕方なく俺は烏龍茶で乾杯した。


「で、隼人の忘れられない子は椿ちゃんって名前なんだねー」

「智也、お前はエスパーだったの?なんで名前を知ってるの?」

「へ?」

「自分で言ってたから」

「え、そうだったの?」

「そうだよー」

「そうなんだ……。でも椿って呼んじゃ駄目」

「「は?」」

「椿は俺のだから名字で呼んで。坂下さんって」

「そーですか……」

「坂下さんねー」

「ん」


 唐揚げを食べながら頷く。


「この前俺たち近くで聞いてたんだ」

「そうだったの?」

「うん、気になっちゃってね。隼人なにに囚われてるのかなって」

「お前いつもなにかを思い出しては具合悪そうにしてるのに笑って誤魔化してなにも言ってくれなかったから」

「そりゃあ付き合いの浅い僕らに話せないこともあるだろうと思ったけど思い詰めてるならどうにかしないとってね」

「そう……。ごめんね」

「いや、もう謝らなくて良いって」


 俺たちは飲み物を飲んで無言になる。


「椿は俺を変えてくれた。椿は俺にとって光なんだよ。椿に出会う前の俺はなにも興味を持てなくてなにも楽しいと思えなくて周りと壁を作っていろんなことに手加減して、人の気持ちを踏みにじるようなことばかりしてきた酷い男だった。椿に出会ったから椿にかっこいいと思ってもらいたくて椿に似合う男になりたくて考えも話し方も変えた。椿がいたから俺はいろんなものの見方が変わった。椿は俺の真っ暗だった世界を照らしてくれた。だから椿がいなくなったら俺はこの真っ暗な世界でなにも見えなくて椿のいない世界では生きていけない。それでも椿の幸せは俺の隣にいることじゃないって自分で手放したんだ」

「……でも、もう一度坂下さんの所に行くって決めたんだな」

「うん。拒絶されるかもしれない。もう椿の隣には別の人がいるかもしれない。だけどもう自分を偽っているのはやめる。探すんだ、その時椿の隣に誰かがいたら待つ。無茶苦茶だよね。昴にいつも言われてた。俺も自分がおかしいってわかってる。普通ならこんなにならないんでしょ。俺はずっと普通じゃなかったから。だから椿しか愛せないし椿がいないなら生きていけないって思った。でも俺の周りには家族がいるから。みんなに心配かけたくなくて椿と出会ってから変わった俺のままみんなが安心できる俺の状態で接してた。心配いらないって」


 2人は俺に話してほしかったみたいだけど聞いても楽しい話じゃない。話さない方が良かったかもしれない。


「坂下さんと別れてから隼人の時間はずっと止まってたのかもしれない」

「……うん。そうかも」

「でもその時間に隼人はたくさんの人に会った。その人たちは隼人に会えて良かったって思ってるよ。隼人がその人たちと真剣に向き合ってたから。隼人は家族だけじゃなくてその多くの人にとっても大切になった。それでも隼人は坂下さんのいない世界では生きていけないって思うのか?暗い世界で出会った人たちはどうでも良い?」

「……そんな風に思ってないよ。ごめん。やっぱり話さない方が良かったね。俺が大学に入ってから出会った人たちも俺にとって大事だよ。椿のことを忘れるために逃げて逃げた先で出会ったとしても俺はちゃんとその人にちゃんと向き合って話してその人たちのことを理解しようとして」

「だからそうやって接してくれる隼人をみんな好きになるんじゃないかなー」

「隼人は自然に人を惹き付けていくことに関してもピカイチだ。俺からしたら隼人は坂下さんのいない世界でも十分生きていけるって思う。もっとずっと忘れるために必死になっていたら本当に忘れられたのかもしれない。けどそれだと隼人は本音を置き去りにしたまま前に進むことになる。隼人の世界は坂下さんがいて本来の形になるんだと思う」

「隼人が誰かを忘れようと必死になってるのはわりとね、すぐにわかったんだ。行き急いでるって感じで危うくてね。隼人は坂下さんの所に行かないように自分を律してがんじがらめにしてた。けど隼人がいつも普通を考えるのはさ、普通じゃなかった昔の自分を後悔してるからじゃない?自分が初めから普通の人だったら坂下さんを幸せにできたのにって。それを今でも普通のことをしようとしてるのはもう一度坂下さんの隣に行くことを諦めきれずにいたからじゃないかな。行っちゃ駄目って律してるのに無意識に諦めていないことに気が付いたら罪悪感に押し潰されちゃうんじゃないかなって思ったんだ。推測だったけどね。世間知らずで僕たちの小さい時に流行ったものを知らないし知ってても昴くんから聞いたことがあるってだけで隼人のこれまでは僕たちと違ったものだったんじゃないかって思った。誰かを必死に忘れようとしてる、普通であることに固執して普通を知ろうとしてる、これって隼人にとって重大なことで、あってはいけないものなんじゃないかって思ったんだ。そこに気付いた時隼人はどうなっちゃうんだろうって」

「俺も智也も来年の4月から半年間留学するだろ?その前にこの宙に浮いた危ういとこからどこでも良いから着地してくれないとヒヤヒヤして留学どころじゃないって」

「留学から帰ってきたら大学に隼人がいないってなってたらどうしようって拓也と話してたんだ」

「こっちの都合で無理矢理なことしたのは悪かったと思ってるよ。相談したのが野口さんだったのがいけなかったのかな?」

「適任者を知ってる、お人好しで面倒見の良いお節介野郎を派遣してやるって言うから任せてたのにさ」

「強引にも程があったわ。ごめんな」

「ううん、結果的に良かったよ。それに間宮さんにも感謝してる。本当はすごく良い人みたいだよ。こうなって良かった。ありがとう。もう心配しなくて本当に大丈夫。椿がいるから。椿に出会ってから変わった俺が一番自然でいられて自分でも良いと思える。椿を想うことでそんな自分に戻った気がするよ」

「確かに顔つきも変わった気がする」

「今の隼人が本当の隼人なんだねー」

「付き合ってないのに自分のものだなんて言えないよな」

「独占欲っていうのかな?」

「だから付き合ってないって」

「あ、けど隼人。普通を知るのは悪いことじゃないけどね、なにも普通にこだわることないと思うよ?だって隼人普通じゃないもん」

「そうだぞ。お前はこの前言ってた。写真を従妹から奪って毎日眺めてたって、それにボディータッチが酷い。昴が止めようとするのも当然だ。お前は変態だ」

「そうだよ、隼人は変態だ」

「違うよ」

「いや、違くない。お前は変わって変態になったんだろ。それがもう普通じゃない」

「けどまあ、坂下さんに嫌がられないなら良いんじゃない?それが隼人なんでしょ?けど普通を知りたいならこれからも教えてあげるよ」

「んん……貶されてるわけじゃないよね?」

「してないしてない。そうだな……とりあえず坂下さんに再会して変態なだけじゃ残念なやつだからな、普通の趣味を作れ」

「どうやって?」

「映画が共通の趣味なんだろ?また映画でも観たらどうだ?」

「音楽ももっと積極的に聞けばー?どんな音楽聴くんですか?あー私も好きなんですって一緒にイヤホンで聴いてみたり、やったなー高校生の時」

「定番だな」

「そうなんだ……わかった。でも椿を探すのが最優先だからたまにね」


 そのあと女の子は甘いものとイルミネーションが好きだからリサーチして連れていったりドライブデートも定番だと聞く。そういうものかと思いながら椿は辛いものも好きだと言うと試しに中華街とか行ってみたら会えるんじゃないかと智也が言い出す。普通に行きたいだけでしょと言うと良いじゃん行こうよと駄々をこね始めた。


「その辺の中華の店が並んでる街道とか?」

「ノー!!本格的に!!」

「中国行くのはちょっと……。バイトあるし」

「日本で本格的なとこあるでしょ!!小籠包!!」

「それにしたってどれだけかかると思ってんだよ。新幹線乗っても半日かかるぞ」

「泊まりだー!!」

「だからバイトが」

「中華街で見つかる可能性がゼロじゃないんだよ!!その可能性にかけないの!?」

「た、確かに……それも椿を探す一環……」

「良いのか?それで良いのか隼人」

「よし!!決まりだよー!!留学行く前に3人で行こうね!!」


 それから洋服とか髪型ももっとこだわって洒落てみたらどうかと言われたから親父の写真を見せて前髪をかきあげてみるのはどうだろうとかなぜかそんな話になっていて、俺はいつの間にかビールやらハイボールやらを飲んでいて結局3人でああだこうだ喋っていた。




 終電で帰った俺は部屋に入ってから昴に電話した。


『もう……こんな時間になんなの?』


 5コール目で不機嫌な昴が電話に出た。俺はお構いなしに言う。


「ただいま」


 智也と拓也と話していてこの前のおかえりの意味がわかったと思ってそう言ったのに昴は無言。


「昴?すーばーるー」

『おかえり』

「うん、ただいま」


 良かった良かった。俺は仕舞いこんでいたことが気になって昴に聞こうと思っていた。


「ねえ昴、椿の写真はどうしたんだっけ?連絡先はあの夜昴に携帯渡して履歴も全部消したけど写真も消した?消しちゃったの?椿の可愛い写真。人でなしなの?」


 昴が答えない。


「ねえねえね『消してないよ!!』あー良かった。昴は人だね」


 一安心だ。また椿に会えない代わりに写真を見て頑張ろう。


「じゃあ返して」

『無理』

「え?」

『無理』

「なんで?」

『僕隼人くんの敵だもん。なんで敵に塩を送らなきゃいけないの?』

「あ?お前調子乗ってんの?」

『まさかそこまで戻ってる?……でも折れないよ。僕も坂下さん好きだもん』

「は!?」

『友達としてだよ。だからなんにも協力しないよーだ』

「意地汚いな。若菜のが移ったか。反抗期か?止めときな、うちで反抗期なんてろくなことになんないから」

『そんなんじゃないよ。改めて考えてごらん、大人になった隼人くん。自分が知らないところで自分の写真を毎日眺めていかがわしいことに使われてたらどう?気持ち悪いでしょ。時間が経って改めて考えてみてもこんな犯罪紛いなことはやめた方が良いよ。大丈夫、僕が保管しておくから』

「気持ち悪いと思うかな……?」

『普通は思うよ。坂下さん天然だけど常識は普通にあるし常識はずれな隼人くんとは違うもん』

「そっか……仕方ない、椿に持ってて良いって言われたら返してよね」

『言うの?』

「……言うのが駄目か」

『黙って新しい写真を撮らせてもらったほうが賢明だよ』

「わかった。これは俺たちの間だけの秘密にしよう」

『そうだね』

「けど昴の携帯に入ってるの?」

『隼人くん僕の携帯で撮っちゃ駄目って言ったじゃん。だから僕の携帯に坂下さんの写真は1枚もないよ』

「偉いな、やっぱり昴はよくできたやつだ」

『くっ……ムカつくけどやっぱり嬉しくなっちゃう……』

「で、写真はどこにあるの?」

『CDに保存して僕の家の……い、言わないから!!』

「惜しかった……」

『しつこいな……教えないし探さないでよね!!』

「わかってるよ。昴が忘れちゃった時に行方不明になったら困ると思っただけだよ」

『隼人くんじゃないから忘れないよ!!』

「なら良いよ。じゃあね」

『え、それだけ?』

「それだけって重大なことでしょ」

『ん、そうだね。じゃあね』

「うん、ありが……」


 あ、切られた。別に切ろうと思ってたけど感謝の言葉の途中で切るとはいったい何様なんだ。昴だし俺は心が広いから許してあげよう。



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