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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
50/136

高校生活の終わり



 忘れよう、忘れなきゃ、どうしたら忘れられる?と考えた時に自分の部屋を見て目に入ったのは問題集。今の自分がするべきことを思い付いた。

 大学だ。志望校にしていた私立大学は家からバスで20分で行ける場所にあった。何度も先生に勧められてきた国立大は電車で1時間もかかる場所にある。そんな所に通っていたら彼女と過ごす時間が減ってしまうと断固拒否していたけど今となってはそれが良い。近いと学校帰りに会ってしまう可能性が出てしまう。それになにかに忙殺されていないと余計なことを考えてしまう。

 俺は問題集を開いて勉強を始めた。だけど勉強をしてると家で2人で勉強をしていたことを思い出してしまう。これでは駄目だと本屋で国立大の問題集を買ってきて近所の図書館で勉強することにした。でもこれでも駄目だ。場所は良くても問題がすぐに解けてしまってまた気付いたら考え事を始めてしまってる。

 こうなったらバスケだ。体を動かそうと、部活に顔を出し、小学校に顔を出し、なにかと世話を焼いてみた。

 そして大学受験の結果は合格。国立大に受かった。良かった、これで生活リズムが違くなって会わないで済みそうだ。



 今日、高校の卒業式が終われば学校で会うこともなくなる。彼女も安心して過ごせるだろう。良かった。





「佐々木」

「あれ?相澤?」


 卒業式が終わり、安心して部活のメンバーが開いてくれる送別会に参加するために体育館に向かっている途中で相澤に会った。


「ちょっと付き合ってよ」

「その言い方、紛らわしいからやめた方が良いよ」

「はいはい、悪かったわね」


 ひらりと手を振りながらスタスタ歩いてく相澤の後ろをついていく。


「卒業おめでとう」

「いや、相澤もでしょ」

「まあそうだけど。雰囲気よ、言いたくなるでしょ」

「わかったよ。おめでとう」


 卒業生同士でおめでとうと言うのは普通なのだろうか。まあ、良いか。


「私ね、彼氏できたんだ」

「そうなんだ、それこそおめでとう」

「ありがと。っていってもだいぶ前から付き合ってるんだけどさ。野球部でなよなよしててヘタレなやつ」

「付き合ってるんでしょ?」

「そう。そういうへっぽこなやつ。だけど1年の時からずっと好きだったって言ってくれた。佐々木みたいになんでもできるスーパーマンみたいなやつと違うけど誠実でまっすぐで良いやつなんだ」

「そっか。良かったよ」

「うん、私幸せだよ。佐々木私のために悩んでくれてたでしょ?」

「え、どうして?」

「だからずっと見てたって言ったでしょ。でも佐々木を追いかけてる私を彼はずっと見守ってくれてた。最初は気乗りしなかったけど今は私もへっぽこな彼のことが大好きなの」

「のろけるために呼び止めたの?」

「それもある。だけどもう1つ。私は地元の私立大学に進学する。高校を卒業したら私はただの脇役Bじゃなくてただの過去に知り合いだった友達B。もう佐々木のこれからに登場することもない過去の人間になる。だから最後に1つだけ。無茶しないで。っていっても無茶するだろうけど佐々木のことを心配してる人たちがたくさんいるって忘れないでほどほどにして。それだけ」

「……わかった。覚えておく」

「ちょっとー?覚えてられるの?」

「昴のノートに書かせておくよ」

「ま、それが良いわね。佐々木の記憶力なんて信用できないもの」

「なに言ってるの。俺相澤に言われたこと覚えてるよ」

「じゃあなんか1つ言ってみてよ」

「……パッとは思い付かない」

「だから信用できないって言ってんの。まったくもう。じゃあ、こっちも女バスの送別会行くからバイバイ」

「あ、待って!!多分相澤過去の人間にならないよ。だってほら、同窓会とかバスケ部の男女混合の集まりとかそういうのあるでしょ」

「ふふ、そうだね。あんまり使ってなかったけど私の連絡先その携帯に入ってるの知ってた?そういう集まり幹事やるのどうせ私だから連絡するわ。じゃあね」

「うん、ありがとう」


 そのあと部活のメンバーが送別会をしてくれてるところにさりげなく途中で紛れ込んだらあっさりバレた。遅いから始めてしまったと文句を言われた。色紙やら花やらリストバンドやら大量のプレゼントを渡され、号泣する後輩たちを宥めているとお開きになった。


「隼人ーちょっと」

「今度は誠司なの?」


 相澤の次は誠司なのか。どれだけみんな俺にもの申したいんだと呆れながら体育館の裏につれてかれる。


「愛の告白?」

「ち、違うよ」


 ただの冗談なのに誠司は肩をさすって大袈裟に動揺する。


「で、なに?」

「相澤が言ったこととほとんど同じなんだけど」

「そうなの?もう、みんな心配性だなあ」

「呆れたいのはこっちだよ。まったくもう。で、もう1つは積年の恨み」

「え、恨まれてたの?」

「隼人、高校1年の時からテストの学年1位が誰だったか知ってる?」

「んー……誰だろ?生徒会長とか?」

「なんで毎回確認しにいってるのに覚えてないかなー。俺だよ」

「え、そうなの?」

「そうだよ。ずっと隼人のこと意識してた。なんでいつも数問だけ間違えるんだろう、絶対わかってるだろうって」

「ふーん……。あ、誠司、お前すごいね。成績学年トップな上にバスケ部の部長してたなんて」

「両方とも隼人の代わりみたいなものだよ。しかも周りと距離を置かなくなってから学年トップは隼人だよ。それに全国模試で2位ってどういうこと?学校で微調整しなくなったからって全国模試で調整できる?」

「えーそんなのなんにも考えてなかったよ。まぐれだよ」

「まあ、考えてるようで考えてない隼人だからそうかもとは思ったけど。でもずっと悔しかったんだ。どうして本気でやらないんだって。わりと話してるのに全然俺のこと意識してないし。ずいぶん仲良くなってから隼人のこと知って、そういうんじゃないんだってわかったけど」

「そう……。えっと、ごめんね?」

「いや、良いんだ。ちょっとそんなこと考えてたんだって知ってほしかっただけ。こっちが本題。俺、隼人と友達になれて良かった。結構楽しい高校生活だったよ。多分卒業したら……って相澤と被るかも……でもとにかく俺の方が隼人に会うことは少なくなるんじゃないかと思う。俺は他県の医科大学に進学する。こっちにはなかなか帰ってこないと思う」

「そうなの?医師になるの?」

「そう。俺の父親もだからわりと昔からの夢だったんだ」

「ますますすごいね。モテてたでしょ」

「俺の顔平凡だから全然。目立たないもんだよ」

「ふーん。そうかな?誠司は結構かっこいいと思うけど」

「本当に?それはありがとう。友達補正だね」

「そんなんじゃないけど」

「まあ、良いや。とにかく隼人に忠告。自分に鈍感なのは良くないよ。もっと自分を大切にしな」

「医者っぽい」

「真面目に言ってるのー!!」

「わかったよ。ありがとう」


 そうして誠司と別れると正門で昴が待っていた。


「ごめん、待った?」

「ううん、隼人くん人気者だから時間かかると思ってた」

「人気者って……」

「行こう。もうアンナさんたち来てるって」

「ただの高校卒業なのに大袈裟だなあ」

「高校卒業と国立大進学祝いだよ。早くー」


 時間かかるってわかってるならみんなもすぐ帰ってくるとは思ってないだろうに、と急かしてくる昴に呆れながら家に帰る。



 家の前にいる人2人を見て苦笑いする。


「あ!!隼人ー!!昴ー!!」


 俺たちを見つけると大声で叫んで手を振ってくるおばあちゃんはそばまで来ると俺に抱きついてきた。


「隼人、卒業おめでとう」

「ありがとう」


 頬にキスしてこようとするからするりと避ける。


「もう、意地悪ね。昴ー久しぶりー会いたかったわー」

「アンナさん久しぶり。僕も会いたかったよ」

「ん、良い子ね、隼人と違って」


 平然とキスを受け入れて返す昴を変なの、と思う。


「隼人、卒業おめでとう。大学も合格おめでとう」

「ありがと、おじいちゃん」


 ずっと昔は厳格であまり笑わない人だったらしいおじいちゃん。俺たちはあんまりそんなイメージじゃないんだけど。

 剣道を昔からやってるから今でも背筋がスッとしててこっちまでちゃんとしなきゃって思えてくる。


「そうよねー!!国立大すごいわ!!」

「おじいちゃんも父さんもそうじゃん」

「でもすごいわー!!すごいすごーい!!」

「ちょっと!!そういうの禁止っていつも言ってるでしょ!!」


 髪の毛をわさわさと撫で回してくるおばあちゃんをどうにか退けて家に入ると母さんがおかえりーといつも通り言って背中に回りぐいぐいと押してくる。わかってるからそういうのいらないのに母さんが楽しそうだからまあ良いかと思いながらリビングに入る。



「「「高校卒業おめでとー!!」」」


 パンパンとクラッカーを鳴らしてくるみんなに苦笑いしていると母さんにここに座ってと椅子に座らされる。


「これ被ってー」

「嫌だよ一輝さんが被ってなよ」

「それじゃ意味ないでしょ」

「あ、待って帽子の前に首飾りだよ」


 一輝さんに派手な三角帽子を被らされそうになって一輝さんに被せようとすると浩一さんに宥められて父さんにハワイアンみたいな派手な首飾りをつけられ、仕方なく帽子も被っておいた。

 うちの恒例特別なお祝い事で用意される横断幕に卒業おめでとう&国立大合格おめでとうと書かれていた。

 テーブルにはチキンやらちらし寿司やら洋なのか和なのかよくわからない料理がたくさん並べられていた。


「さ、若菜あとから来るって言うから食べちゃいましょうよ」


 優菜さんがそう言う。


「はい、隼人。卒業おめでとう。たくさん貰ったのね」


 彩華さんがみんなにお酒やジュースやお茶を渡して壁際に置いたプレゼントを見る。


「なになに?先輩のおかげでレギュラーになれました。へー、あ、いつもご指導ありがとうございましたっていうのも書いてあるわ」

「先輩愛してますって書いてる子もいるよ。大人気だねー隼人ー」

「彩華さん、母さんじゃないんだから人の色紙読まないで。一輝さんはやると思ったけど」

「ごめーん。つい嬉しくて」

「ごめーん。予想通りのことして」

「テンション高……」


 でも嬉しそうだからまあ良いかと思いながら受け取ったお茶でみんなで乾杯をした。





「隼人は良い子だけど意地悪だわ。また挨拶させてくれなかった」


 小さい頃からずっと言い続けるおばあちゃんの言葉に母さんは言う。


「まあ、隼人、意地悪しちゃ駄目よ」

「仕方ないわよママ。隼人は人でなしの最低野郎だもん」


 優菜さんが言う。最初の一月程は家族みんな俺のことをそっとしておいてくれてたけどそれ以降は名前を出さないだけで俺は最低だ、人でなしだ、鬼だ、と口々に言って俺のせいで彼女が傷付いた、もう遊びに来てくれないだろう、酷いと文句を言ってくるようになった。俺も昴もなにも言ってない。若菜も詳しくは話してないだろうと昴が言っていた。それでも大人たちは若菜の怒りのぼやきから察しているんだと思う。優しい言葉はかけてほしくなかった。昴はもちろん家族みんなもそれをわかってくれてる。初めはそっとしておいてくれていたものの、これが俺たち家族らしい気遣いなのかもしれない。直接名前を出さないなら良いだろうと思ってるところが不可解だけど。


「まあ優菜、そうなの?隼人はこんなに優しくて良い子なのに。ちょっと意地悪だけど」

「女心のわからないクソ野郎よ」

「優菜、またお前はそんな「パパは黙ってて」……すまん」

「お義父さん……」

「ありがとう、浩一くん」


 優菜さんに怒られたおじいちゃんは浩一さんにお酒を注がれて一気に飲んでいた。

 これもいつも通りだな、と思っていると後頭部になにかが当たった。


「若菜!!食べ物を投げちゃ駄目でしょ!!」

「ふん!!ママ煩ーい!!パパのばーか!!」

「え、パパなにかした……?」


 浩一さんのグラスにおじいちゃんがお酒を注いでいるのを見ながら俺は振り向く。若菜がむすっとした顔で立っていた。

 床に落ちているのは見覚えのあるクッキーが入った透明の袋だった。俺はそれを拾うと若菜を見る。


「あげる」

「嫌がらせ?」


 どっちの意味の嫌がらせだ?いつものように言い返す用意をする。


「この前のより甘くないから」

「へ?」


 そっぽを向いて言う若菜の言葉の意味を考える。考えてもわからなかった。


「だから、この前隼人が食べたクッキーよりは甘くない。だって隼人を思う気持ちなんてこれっぽっちもないもん」


 隣に座っていた昴が小声で言ってくる。


「ついこの前話したんだ。そういえばあの食べてもらいたかった人に食べてもらえなかったクッキーはどこに行っちゃったんだっけって言うから。隼人くんが全部じゃないけど食べたよって。この甘さの分だけ若菜が大切に思ってるってことなんだなって言ってたよって」

「余計なことを……」

「ごめんね」


 悪びれもなく謝る昴にデコピンしてからそのクッキーを食べてみた。


「甘くない。というかただのパサパサしたものだね」

「そんな馬鹿な!!……ありゃ?本当だ!!なんで!?ママと作った時と違う!!」

「もう、下手ね若菜は」

「若菜ー久しぶりね」

「アンナおばあちゃーん!!私のクッキーがー!!」

「大丈夫!!練習したら上手になるわよ。おばあちゃんも練習付き合ってあげるわ」

「ありがとー!!」


 結局そのパサパサした食べ物は興味本意でみんなが食べてみて話はそのまま優菜さんの丼もの料理の特訓の話に変わり、そのあともいろいろと話をした。









 昴に言ったように俺は彼女のいない世界でこれからもずっと生きていく。この教育方針の基準がおかしな賑やかな家族が俺のことを見守ってくれてる。心配をかけたくない。だから俺はこれまで通りに振る舞う。もう心配いらないとみんなに安心してもらえるように。




 こうして俺の高校生活は終わった。



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