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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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一週間の前倒しはライオンのせい



 動物園兼遊園地に行く日。この日も変わらず早く来すぎて駅で待っていると15分前に椿が来た。椿は俺を見ると慌てて駆け寄ってきた。


「おはよう」

「おはようございます」

「そんなに急がなくて良いのに」

「いえ、すみません」

「俺が勝手に早く来てるだけだから気にしないで」


 変わらず女の子っていう感じの淡い色の洋服を着ている椿の手を握ってバスに乗る。20分でついたそのレジャー施設は入り口を入るとまず動物園になっている。


「わー!!可愛い!!」


 椿はすぐそばのうさぎを指差した。


「触れますよ!!」

「うん。行こう」


 ここはふれあえる動物園で、ライオンとかはさすがに無理だけどうさぎとかは直接触れたり餌をあげたりできる。


「見てください!!可愛い!!」


 そばに近付いてうさぎを膝に乗せた椿が言う。うさぎの椿がうさぎとコラボレーション。可愛すぎる。だけどやっぱり椿の方が可愛い。椿を見ていたら別のうさぎが俺がしゃがむそばにすり寄ってきた。ごめんね、うさぎ、お前も可愛いよ。だけど椿が世界一可愛すぎだからお前の敗けだ。するとうさぎは前足をかけてきた。そんなに拗ねるなよ、お詫びに撫でてあげよう。頭をそっと撫でてあげているとふと視線を感じて顔をあげる。


「椿?どうしたの?」

「い、いえ!!先輩は動物好きなんですね」

「嫌いじゃないよ。なんで?」

「な、なんでもないです……」


 なんだろう。椿は顔を赤くしてうさぎを地面におろして立ち上がった。


「次行こうか」

「そ、そうですね」


 ライオンがいる所に行くとなぜかじっと見られてる気がして複雑な気持ちになった。親近感を持たれたのか?いや、俺はお前と違うぞ。

 そのあともいろんな動物を見ていくとアルパカがいる所にきた。アルパカといえば、と昔のことを思い出す。


「先輩?」


 微かに思い出し笑いした俺に椿が首をかしげる。


「家族みんなでよく来てたって話したでしょ」

「はい」

「母さんがね、アルパカに触って、もふもふしてて可愛いって興奮してたんだ。そしたら父さんがアルパカと母さんを比べたら母さんの方が可愛いよって言って母さんがすごく喜んでた。アルパカと比べられて嬉しいのかなって不思議に思ったよ」

「えっと……本当に比べてなんて言ってました?」

「言ってたよ。だから昴になんで母さん喜んでるんだろうねって。で、昴の隣には若菜がいてね、若菜とアルパカを比べてみたらこっちは劣ってるって言ったら突進してきて。牛ならどっこいどっこいだねって言ったらもっと怒りだして宥めるのに苦労したよ」


 こんなところに赤色のハンカチがあったとか、あんなところに赤い服を着てる人が、とか言ってたら、もー!!って叫びだして大騒ぎだったと思い出す。


「せ、先輩……ちょっと座って休みませんか?」

「じゃあ、もうお昼だしご飯食べようか」

「そうですね」


 そして昼ご飯を食べてから遊園地に移動した俺たち。とりあえず食べたばかりだからコーヒーカップを普通に回して乗ろうといって乗り、空中ブランコなどのアトラクションに乗ってからジェットコースターに乗った。あまり混まないレジャー施設だからすんなりいろんなものに乗れた。

 そして手洗いに行った椿をそばの園内地図の前に立って待っていると女性たちのグループが来た。


「お兄さん」


 ここは邪魔になるかと思って場所を変えようとするとそのグループの1人が声をかけてきた。携帯を見ていた顔をあげる。大学生っぽいグループだった。今どきなお姉さんって感じの人たちで金髪にしている人もいる。その中の1人がなんとなく若菜に似てる。茶髪に染めてパーマをかけてるだけだけど。若菜の身長を高くして大人しくさせたらこうなりそうな気がする。


「すみません、退きますね」

「違う違う!!お兄さん1人?」

「男1人でこんなとこ来る人なかなかいませんよ」

「ふふ、確かに。友達も一緒に遊ばない?」

「いえ、彼女と一緒なので」


 ただの逆ナンだった。愛想笑いで話していると椿が来たのが見えた。俺は適当に言って椿の元に駆け寄った。


「次どうしよっか」

「えっと、どうしましょう」

「向こうでショーがあるみたいだけど見ていく?」

「あ、そうですね」


 さっきまでリラックスしてた気がするのにぎこちなくなってしまった椿を不思議に思いながらマジックショーをやっているという会場に行った。

 体験型のマジックで観客が何人か参加していた。椿は隣ですごーいと呟いたり手を叩いたりして楽しそうだ。マジック3割椿7割で見ているとマジシャンが顔をこちらに向けてきた。


「そこのイケメンお兄さんと可愛いお姉さんのカップルさーん」


 周りを見渡してみると俺たちの周りは家族ばかりで俺たちのことだとわかった。


「椿、行ってきなよ」

「え、え?先輩が行ってくださいよ」

「いや、椿が」

「じゃー彼女さんの方おいでー」

「ほら」

「う、はい……」


 恥ずかしそうにステージに上がる椿。可愛い。あ、そうだ、写真……。そういえば付き合ってから一度も写真を撮っていなかった。携帯で撮ろうとポケットに手を伸ばそうとして思い止まる。携帯越しに椿を見つめるのはもったいない気がする。でもこの瞬間の椿を写真に収めたい。究極の選択に、椿のことならなにもかも忘れない俺の頭にだけずっと焼き付けておこうという結論に至った。反応よく驚き笑う椿を愛しく思いながら見つめた。





「先輩、いります?」

「椿が持ってなよ」

「そうですか?」


 体験した後にマジシャンから受け取った手のひらサイズの赤色の風船を両手で持つ椿は、それなら持ってます、とはにかんだ。


「そろそろ時間的に最後かな。観覧車良い?」

「良いですよ」

「ちょうど夕焼けが見えるんじゃないかなー」


 夕焼けをバックに見る椿はすごく綺麗なんだろうな。そう思いながら観覧車に乗る。

 観覧車のドアが閉まると狭い空間に2人きりということの重大さに今さら気付いた。ひぃ……どうしよう、どうしたら?急に頭にさっき見たライオンが思い浮かぶ。ダメダメ。しっしっ。


「あの……さっき「ライオンじゃないよ!!」……はい?」


 頭の中のライオンを追い払うと椿は首をかしげる。


「い、いや。なんでもないよ。どうしたの?」

「あの……さっきの女の人……若菜に似てましたね」

「若菜?さっきの人って?」

「え、さっきの人ですよ。私がお手洗いに行ってる間に話してた……」

「あー……いたね、そういえば」


 そういえば若菜に似てると思った気がする。椿が可愛すぎて既に忘却の彼方だけど。

 既にどこが似ててどう似てないかも覚えてないと思っているとちょうど夕焼けが見えてきた。


「ね、それより夕焼けだよ。綺麗だね」

「え……そうですね」


 横に顔を向ける椿の顔がオレンジ色に染まる。うん、やっぱり綺麗だな。じっと見つめてると夕焼けと俺を交互に見ていた椿の頬が赤くなってきた。と、そこでハッとする。真っ白な肌に赤く染まる頬、真っ赤な唇、手のひらにはりんごのような赤い風船。気付いた時には正面に座っていた椿の隣に座ってキスをしていた。

 ゆっくり唇を離すと椿の大きな目が視界に入る。しまった。そう思った時には遅かった。泣きそうになるのを我慢してるような椿に俺は動揺する。しまった、どうしよう。そうだ、椿の好きな話をして気をそらせよう。椿の好きな話……。


「つ、椿、見てみてあそこ、うすピンクの家があるでしょ。若菜が昔羨ましがってペンキで「先輩」ん?……ん?」


 外を指差して外の薄いピンク色の派手な家を見ていた顔を椿に向けると椿の指が俺の服の裾を掴んでいて目は閉じられていた。

 どういうこと、どういうこと、どういうこと?それってキス待ちなの?

 唾を飲み込む。俺は椿の頬を手で触って再びキスをした。何度も何度もしているといつの間にか追い払っていた頭の中のライオンが完全に居座っているのに気が付いた。

 キスを止めて抱き締める。もう駄目だ。キスをしたら理性もなにもかもなくなってしまった。抱き締めてる椿の耳元で言う。


「これから俺の家……来てくれる?」


 密着しているから椿の身体が硬直したのがわかった。そりゃそうだよね。むしろ止めてくれて良かった。そう思っていると椿の頭が下に動いた。


「……えっと、意味わかる?」

「……はい」


 小さいけどはっきり聞こえた声に俺は歓喜してライオンをわさわさと撫でまわした。

 観覧車を降りて恥ずかしがって俯く椿の手を握りながらもう片方の手で携帯を操作しメッセージを送る。


『母さんと遅くまでゆっくり楽しんで』

『隼人もね』






 赤い風船を観覧車に忘れたことに気付いたのは、夜遅くなったから最寄りまで送ると言った俺に遠慮した椿を駅で見送って家に戻ってから思い出に浸っている時のことだった。







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