恋人らしいこと
日曜日は植物園に来た。ピンク色のブラウスに花柄のスカートを着た椿と植物を見て回った。やっぱり来たことはあったそうで、あっちにはあれがあります、と道案内をしてくれた。色とりどりの花や温室で見慣れない植物を見ていると好きなところだからか、昨日よりリラックスしてくれているみたいで嬉しい。
時間をかけてゆっくり見てからベンチに座った。
「疲れてない?」
「全然大丈夫です」
座って肩を抱いてみると椿は一瞬震えた。
「駄目?」
真っ赤になった顔を勢いよく横に振る椿の頭を自分に寄せて撫でる。母さんには雑だと言われるがそんな風に言われていつも通りするわけがない。そっと優しく撫でた。
「母さんにね、なんでもない日のプレゼントで花束を送ってから何回もせがんでくるんだよね」
「なんでもない日……プレゼント……?」
「あれ?これも覚えてない?」
「……?」
黙ってしまった椿の頭を撫でながら続ける。
「母さんは花が好きなんだけどね、いろいろあって誕生日とかではない日に花束をプレゼントしたんだよ」
「へえ!!なんでもない日にプレゼントなんて素敵ですね!!私母の日でも誕生日でもない日に花束のプレゼントなんてしたことないです」
あの日とまったく同じことを言う椿に思わず吹き出す。
「え、どうして笑うんですか?」
「この話、椿は若菜から聞いて俺に話を振ってきてくれたんだよ。その時も今と同じことを言ってた」
「え、そうでした?」
「うん。俺に対抗しようと昴と若菜が俺を連れ出して花束を買いに行ったって話。覚えてない?」
「うーん……」
「まあ良いよ。俺もよく忘れる。昨日言われたことも忘れてよく怒られる」
「いくらなんでも昨日言われたことは忘れませんよ」
「すごいでしょ?」
「逆にすごいです」
クスクスと笑う椿をもっと自分に引き寄せる。
「それでね、その時母さんたちと俺のおばあちゃんにも花束をプレゼントしたんだよ。そしたら母さん2ヶ月に1回くらいのペースで明日はなんの日ー?なんでもない日ーとか変な歌を歌ってくるようになっちゃって」
「先輩のお母さん可愛いですもんね」
「子供っぽくて困るよ。おばあちゃんも花束を送ったお礼の電話で気が向いたら連絡するって言ったら、気が向くのはいつなのかって向こうから連絡がくるんだよ。まだって返すと電話がかかってくるから結局話すことになるんだよね」
「ふふ、そうなんですね」
椿の不思議な若菜の話拒絶症はなんだったんだろう。なにもなかったみたいに普通に話している椿。
別に意地の悪いことをしようとは思わないけどやっぱり不思議で、若菜のことが出てきそうな話題を振ってみる。
「昴が言ってたんだけど、谷本先生にかつらをプレゼンしたって」
「かつらじゃなくてウィッグです」
「どう違うの?」
「調べたら女性がつけるのをウィッグと言っておしゃれな感じで売ってるらしいんですけど男性用ウィッグっていうのもあるんです。私と若菜がプレゼンしたのは男性用ウィッグです」
「薄毛を気にしてたから?」
「はい。若菜が、先生は夏は良かったけどこれからの季節は寒そうだねって言ったら先生がすごくすごーく怒ってしまって。それでウィッグがあれば秋冬も暖かいです、健康のためにプレゼンしますって次の日言ったら今度はすごく喜んでくれました」
「ふっ」
健康のためだからすごく真剣な顔で話す椿が面白くて椿の肩から腕を離してお腹を押さえて笑う。
「そ、そんなに面白いですか?」
「うん、可愛い」
「か、可愛くないです!!」
そう言って抱き締めると初めのうちはもがいて離れようとしていた椿がしだいに静かになった。
「椿、好きだよ」
顔を近付けようとすると椿の様子に気付いてストップする。
「椿?」
「……はひ……」
テンパってるみたいだ。あ、とかう、とか言葉になってないことを発してる椿の頭を肩に乗せて頭をポンポンとしてみた。そして、椿が落ち着くのを待って帰った。
まだキスは早かったみたいだ。今週はハグまでが限界だな。
それにしても若菜のことは本当になんだったんだろうか。……そうだ、俺と若菜は会うたびにいがみ合ってる。椿はずっと喧嘩するほど仲が良い従兄弟だと思っていたけどそうではないと気付いてくれたとか?若菜の話をすると俺の機嫌が悪くなると気を使って話さなくなったと考えると、椿のごめんなさいという謝罪の理由もわかる気がした。
そうだとしたら悪いことをしてきた。俺は若菜のことは気にくわないけど若菜の話をする椿は好きなのに。付き合い始めたばかりでそこまで頭が回ってないから前みたいに話してくれるということなのかも。なるほど、そういうことか。それなら普通に若菜の話をしても良いっていうように俺からももっと若菜のことを話そう。そしたら落ち着いてからも自然に話せるようになる気がする。
───────
「本当に志望校変えないのね?」
「はい」
「国立大もいけると思うんだけど」
「行けないですよ。家から1時間もかかるんですから」
「通学時間じゃなくて。ほら、この前の全国模試で「それじゃあ先生、急いでますので」え、佐々木くん!?」
火曜日か木曜日ならどうせ椿を待ってるから良いもののタイミングの悪いことに水曜日に担任の先生に進路のことでと呼び出された。俺は話すことはないというのに先生の前置きが長くて本題に入った瞬間にばっさりと遮って教室を出た。椿には10分位待ってて、と連絡していたから足早に椿の教室に向かった。帰る時は上の学年の教室に来づらいだろうと思って教室で待ってもらってる。今日も自分の机で待ってる椿の後ろから近付くと雑誌を見ているようだ。遊園地で遊ぶカップルが写ってる。これはおそらく着まわしコーディネートページの中の1日だ。……パッと見て推測できるようになるなんて前の俺からは想像できないだろうな。と、心の中で思いながら椿に声をかける。
「お待たせ」
雑誌をしながらぼーとしていたんだろう椿は少し驚いて振り向いた。
「なに考えてたの?」
「え、あ、前に若菜と行った遊園地のことです。若菜絶叫好きなのでジェットコースターとかコーヒーカップに繰り返し乗るんです」
「コーヒーカップあり得ないくらい回すよね」
「そうなんです!!もう危ないってなってもずっと続けてくんですよ。コーヒーカップが絶叫アトラクションです」
「絶対おかしいよ。1回は付き合わされるから乗るけど2回目から撮影係にされてね、周りと全然回転速度が違うんだもん。その状態で俺のそばに来たとき名前を叫んできたり悪口叫んできたりするからやんなっちゃう」
「ふふ、楽しいですよね」
俺は椿の前の席の椅子を借りて話す。
「ねえ、それじゃあ土曜日は遊園地に行こうよ」
「え?先輩並ぶの嫌いじゃないんですか?」
「そんなことないよ」
「行列嫌いって若菜が」
「ああ、だってそれ若菜とだからだよ。長い、早くしろーって煩いでしょ」
「若菜らしくて良いじゃないですか」
「疲れるよ。ずっと昴間に挟んで口喧嘩してるの」
「楽しそうです」
「俺は椿と一緒なら楽しいよ。だから行こう。それともまた静かな公園とかの方が良い?」
「いえ、そういうところも好きです。行きましょう」
「あそこはどう?近場の動物園と一緒になってるとこ。家族で小さい頃よく行ってたんだ」
「良いですよ」
遊園地と動物園が併設されてる規模の小さいレジャー施設はバスで数分のところにある。パンダがいないのは残念だけどうさぎはいるから良いだろう。じゃあ帰りながら話そうと言って2人で並んで帰る。
「椿は絶叫好き?」
「はい。でもエンドレスでは乗れないです」
「若菜じゃないから大丈夫。あれについていける昴はすごいよ」
歩いているとふと目についたコンビニを見る。そういえば若菜と昴は付き合い始めたけどどうせなにも変わらないんだろうな。2人がよくしてたコンビニで買い食いするのも恋人っぽい気がする。
「先輩?コンビニ寄ります?」
「うん。昴と若菜がよく買い食いしてたんだよ。放課後デートみたいだから俺たちもしよう」
「え、あ、そうですね!!行きましょう」
そして入ってみたものの、めったにコンビニで買い物しないんだよね。そもそも買いたいものがないし。
「先輩、こっちに若菜が好きなお菓子がありますよ」
「それは良いかな」
「こっちです」
「え、いや、そっちの意味じゃなくて」
なぜか若菜の好きなお菓子を勧めようとしてくる椿の手を引く。若菜が好きなお菓子なんて砂糖菓子に決まってる。椿と一緒に食べたいのに。いや、俺はまったく甘いものを口にできないわけではない。激甘なアイスは受け付けなかったけどビターチョコくらいなら食べられる、と思う。でも平然としてられるかはわからない。とりあえず今は甘いものじゃなくても良いだろう。
「椿の好きなのが良い」
「なんで私のなんですか?」
「むしろなんで若菜の?」
「へ?だって若菜が買い食いしてたんですよね……?」
「ん?」
「え?」
「……ああ!!」
お互い首を傾げて不思議に思ってると俺は思い付いた。俺が昴と若菜が買い食いしてるのを見て同じものを買って食べてみたいと思っただけだと思ってる、ということか。……ちょっと自分で思い付いてよくわからないけどまあ良いか。と、その時他のお客が横を通って来たから椿と壁に寄る。
「椿とデートしてるんだから椿の好きなものを一緒に食べたいってことなんだけど。……って椿?」
「は、はい!!私のデートですた、ちょ、ちょっと待っててください!!外で!!」
「外で?」
「外で!!」
なぜこんなに慌ててるのかわからなかったけど周りをちらりと見て数人こっちをチラ見してるのに気付いた。
「あ、ごめんね。外で待ってるよ」
店内でイチャついて恥ずかしかったのかな。別に普通にしてたけど、とそう思いながらコンビニを出て入り口のそばで椿が来るのを待つことにした。
少しすると椿がビニール袋を手に出てきた。
「ありがとう。いくらだった?」
「これは良いですよ、私の好きなものを買って先輩の口に合うかわかりませんし」
「500円くらいかな。はい」
「ええ!!それは多すぎです!!336円だったんです!!」
「あ、そうなの?じゃあ残りあげる」
「どういうことですか?164円返します」
「それでも良いよ」
椿はお財布から164円ちょうどを俺に手渡してあ、と声をあげる。
「そうじゃなくて!!」
「良いから良いから。買ったのは?」
椿が持ってた袋に入っていたのはハバネロの絵が書かれたスナック菓子にピザの絵が書かれたポテトチップス。
「美味しいの?」
「美味しかったですよ。この前出たばかりの新商品です」
「そうなんだ」
チョイスの仕方が面白いと思いながらハバネロ味らしいスナック菓子を食べてみた。
「わっ!!辛い!!」
「それが良いんですよー」
椿はそう言いながらもう1つの袋も開けて差し出してきた。
「ピザだね」
「ピザ味ですから」
なんだかんだで2つとも食べてみると意外と癖になる味だった。それを椿と2人で食べるというのがまた嬉しかった。




