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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
44/136

初デート



 日曜日は勉強の邪魔をしてはいけないと思い、月曜日は家族親戚と過ごすのを邪魔してはいけないと思い、おはようと3、4往復のやり取りと、おやすみとだけメッセージを交わした。

 そして連休明け、火曜日。待ち合わせしていた時間よりもだいぶ早く駅についてしまった。仕方ない、興奮して早く起きてしまってすることがなかったんだから。

 しばらく待って約束の10分前、椿が改札を通るのが見えた。人が何人もいてちらりと見えた椿は椿だけど俺は首を傾げる。そして俺に気付いた椿は駆け寄ってきた。


「待たせてしまいましたか?」

「今来たとこだよ。おはよう」

「おはようございます」


 そばに来たことで不思議に思ったわけがわかった。

 ゆるく巻かれた髪の毛と広めに開いた襟に緩んでるリボン、短いスカート。俺たちが通う高校は校則が緩いからこういう子は多い。椿もかっちり着ていたわけではないけどそれでもここまでではなく、清楚という言葉がぴったりだった。俺がじっと見つめていると椿の顔はみるみるうちに赤くなる。ああ、俺のためにおしゃれしてくれたのか。そう思って心がじんわりと温かくなった。

 手を繋いで学校へ向かう。椿のゆっくりしたスピードに合わせてゆっくりと歩く。


「昨日は楽しかった?」

「え?」

「親戚に会ったんでしょ?」

「あ、はい。そうですね」

「椿は賑やかなのが好きって言ってたもんね」

「ああ、はい」

「従兄弟もいるの?」

「いますよ。みんな年上で年も離れてしまってるんですけど」

「そうなんだ?大学生?」

「一番年が近い人で25才なんです」

「そうなの?じゃあ話合わなそうだね」

「でも私が高校生になってからはそうでもないですよ。それまではなにを話したら良いのかわからなかったんですけど」

「高校入ってから?」

「結城くんに似てるんです、その従兄のお兄ちゃん。だから結城くんと話してたら自然と話せるようになりました」

「そうなんだ」


 昴のやつ、俺の機嫌が悪くなるってわかってて俺に話さなかったな。けど俺はそこまで心が狭い訳じゃない。


「昴に似てるなら良かったね。若菜みたいなのが従姉妹だと苦労するよ」

「え、そんなことないですよ!!絶対楽しいです!!」


 あれ?前は若菜の名前を出すだけでまごついてたのに普通に戻ってる……。不思議に思ってる間も椿は話し続ける。


「年が近い人がいなくてしかもみんな男の子で小さい時はゲームの話しとかばかりでついていけなくて」

「男の子はゲームばっかりだもんね」

「そうなんですよね。私ゲームは全然わからなかったので困っちゃいました。若菜は先輩たちとなにして遊んでたんですか?」

「んーおままごととか絵本とか」

「そうなんですね!!先輩と結城くんが合わせてたんですね」

「違う違う。俺は昴とゲームして、昴と若菜がそうやって遊んでたの」

「先輩は?」

「俺はちょいちょい口挟むだけ。絵本だと昴が読んであげてて、意味がわからない単語が出てくると教えてーって言ってくるから教えてあげたり」

「優しいですね」

「そんなことないよ。若菜が好きなお姫様の物語ならともかく、優菜さんが面白がって買ってくる絵本は大人向けの絵本でね、2人にはわからない言葉がたくさん出てくるんだ。何回も何回も聞いてくるからどんどん面倒になって最終的に辞書を引けって突き放したよ。でもほら、そのおかげで若菜も馬鹿なのに勉強はわりとできるでしょ。俺のおかげ」

「馬鹿じゃないですけどね、お勉強は得意ですよね」

「だけど昴なんかは辞書より俺のおおざっぱな言い方の方がわかりやすいって。辞書に書いてある言葉を俺が言う言葉に訂正してたよ」

「ああ!!それで結城くん電子辞書使わないんですね」

「そういえば今でも紙の使ってるね」

「大切にしてるんですね」

「本当に昴は良いやつだよ。昴は」

「若菜も先輩を見てたら小学生の低学年の時には二重跳びができるようになったって結城くんが言ってました。お手本だったんですねー」


 そういえば友達がいない若菜は昴がいない時はいつのまにか俺の横に来ていた。暇なんだな、と思ってると縄が当たってしまい、大泣きしてるところに用事を済ませた昴が駆け寄ってくるから若菜が悪い、俺がいじめた、と2人で昴に文句を言うこともあったなと思い出す。

 どんな話をしていても椿は楽しそうにしてるけどやっぱり若菜の話をしている時が一番楽しそうだ。なんで前は話したくなかったのかはわからないままだけど。

 だけどそろそろ恋人らしい話もしたくなって話を変えてしまうことにした。


「ねえ椿、週末はどこに行こうか。植物園?庭園?オムライスのお店とかにしようか?」

「え?えっと、先輩はどこに行きたいですか?」

「俺は椿の行きたいところが良い」


 普通に答えただけなのに椿は無言で考え込んでしまった。なんだろう、椿はいろんなことに興味を持ってるから行きたい所もたくさんあると思ってたんだけど。

 だけど繋いでる手に力が入ってもしかして、と気付いた。


「俺に気を使ってくれてる?」

「いえ、そういうことでは……」

「んー……。でもそしたら今回は俺が決めちゃうね。土曜日は映画に行って日曜日は植物園に行こう」

「はい」


 椿はDVD派だけどいきなり家に呼べないから映画館で我慢してもらおう。映画は好きだろうし。そして前に話してたように俺のお勧め映画をいくつか教えてあげよう。

 日曜日は椿が好きそうな植物園。こことか行くのかなと調べていた所がある。その中の1つの電車で10分で着く所に行ってみることにしよう。







 俺と椿は毎朝駅で待ち合わせて帰りも毎日一緒に帰っている。火曜日と木曜日は部活が終わるまで図書室で待っていた。急がなくて良いのに部活が終わったら図書室に駆け込んできて俺が顔を上げて目が合うと嬉しそうに笑ってくれる椿を見て幸せを感じる。

 そんな一週間を過ごして土曜日、椿と初デートの日だ。俺は普段通りTシャツとジーパンで待ち合わせの20分前に駅に来ていた。女性誌を読み込んでいたが肝心の男物の流行りをなにも知らないと気が付いたのは金曜日の夜。慌てて昴に電話をしようとして思い止まった。そして相澤の言葉を思い出していつも通りで良いかと思った。休みの日は制服かジャージ、それ以外はTシャツにジーパン。そう何着もいらないのに母さんたちが俺の服を選びたいそうだから買ってもらっているだけだ。お陰で同じTシャツにジーパンなのにやたら洒落た服ばかりある。

 駅にいるとカップルが数人通りかかる。その男性の方の服を見るとなぜかすごくキメてる気がして悩み始める。やっぱり父さんに服を借りてくるんだったかな。だけどもうこれで来てしまったんだから仕方ない。部活ばかりでお洒落な服を持ってないと言ってしまおう。相澤の言う通り背伸びしても仕方ないんだから。

 そう思っていると椿が来た。


「お、おはようございます」

「おはよう」


 俺はいつもと変わらず挨拶しながらも不思議に思う。椿はフリルの付いた白いブラウスにピンク色のチュールスカートを着ていた。

 ……椿と言えばモノトーンのパンツスタイルだと思っていた。毎日見ていた写真がそうだし、俺はそういう格好の椿と並んで公園のベンチに座ったりいろんな場所に出掛けている想像をこれまでずっとしていた。

 けど俺のじっと見る視線に恥ずかしそうにする椿に火曜日と同じようにハッと気が付いた。俺は馬鹿か。椿は俺とのデートのためにおしゃれをしてくれているんだ。


「それじゃあ行こう」


 俺はそう声をかけて手を繋いでバスに乗り込んだ。

 バスに座ると椿がチラチラとこちらを見てくるのがわかった。久しぶりに椿から話を振ってくれるのかと思ってドキドキしながら待つ。だけどおかしい。5分経っても10分経っても椿は声をかけてこない。このまま待っていたら1日終わってしまいそうな気がして俺は問いかけることにした。


「椿、どうかしたの?」

「え?えっと……服が……」

「服……?誰の?」

「先輩の……」


 俺の服が変だったのかな。そのあとまた黙ってしまった椿。


「俺の服が変だった?」


 俺がそう聞くと椿は首を勢いよく横に振りだした。

 その反応を見て思わず吹き出してしまった。なんだ、そういうことか。


「部活ばかりでお洒落な服は持ってないんだ。だけどこれで良かった?」


 そう聞くと椿はぎこちなく頷くと小さく呟いた。


「かっこいい……」


 心の底から安心した。今まで椿の表情から俺への好意はすごく伝わってきていたけど言葉でこうやってどう思ってるのか伝えてくれたのはこれが初めてだった。

 俺はすぐに椿も可愛いと答えようとした。でも結局言葉にはならなかった。どんな時でも椿は可愛い。だけど椿にはもっと椿にぴったりの椿が好きな服装があるのに。以前はストレートでさらさらして気持ち良さそうだなと思っていた、くるくると巻かれてワックスのついた髪の毛を触りながら耳元で言った。


「椿、好きだよ」


 バスの中で恥ずかしがるようなことを言った自覚はあるから椿がそのあと顔を真っ赤に染めて俯いてしまっても仕方ないと思いながらショッピングセンターについてバスを降りた。


 映画はアクションものにした。こういう時は恋愛ものが良いという人もいるけど椿はなんでも好きだから、話題の新作映画にした。人気があるから事前に予約していて劇場の発券機でチケットを取り出して椿に1枚渡した。慌てて鞄から財布を取り出そうとする椿に待ったをかける。ペットボトルの100円すら払おうと真剣になっていた椿に俺は言う。


「デートでは男が支払うものだから」

「デート……」


 そう言ったきり口を少しだけ開けて止まる椿に笑ってから手を引いた。





 映画を観たあとはショッピングセンターの中のレストランに入って少し遅めの昼ご飯を食べることにした。


「今の映画、面白かった?」

「はい!!」


 椿はオムライスを食べながら映画の感想を楽しそうに話してくれた。俺は同じオムライスを食べながらその話を聞いていた。別に同じものを頼まなくても良いだろうけど今回は特別だ。記念すべき初デートの初ランチは一緒に同じものを食べて一緒に観た映画の話をする。こんな幸せなことが他にあるだろうか。

 椿は一通り喋るとなぜかスプーンを持ってる手が宙で止まる。


「ご、ごめんなさい」

「え、どうして?」


 急に謝られてわけがわからずすぐに聞き返す。


「なんでもないです。先輩はどうでした?今の映画」

「え……と、面白かったよ」


 なんでもなくないんじゃないだろうか。だけど椿は笑ってどういうところが面白かったですか、と聞いてくる。なぜか俺は追及することができなかった。理由はわからないけどごめんなさいと謝った椿の暗い表情が、今は笑っているからかもしれない。俺は面白かったところを話し、途中で椿が遮って前みたいに脱線しながら楽しく話した。

 そして話が一段落すると俺は言う。


「前に話してたお勧めの映画ができたんだよ」

「お勧めの映画ですか?」


 俺にお勧めの映画ができたら椿に教えるという約束がやっと果たせる。そう意気込んで言ったら椿は首を傾げてしまった。


「うん。俺にお勧めの映画が見つかったら椿に教えるって話したでしょ?」

「……?」


 椿は不思議そうな顔をするだけで全然覚えてないみたいだ。


「良いの、良いの。1年も前のことだもんね。覚えてないよね」

「……すみません」

「謝らなくて良いってば」


 1年も前に話した話なんて普通覚えてないよね。記憶力に関しては俺は人のことを言えない。覚えてないものはどうやったって頭を捻っても出てこないものだ。それで母さんや優菜さんに何百回と叱られてる。覚えてることでもそうじゃないと、なぜか怒られるし。だから椿が覚えてないのは仕方ない。俺にとっては重要な話だったけど椿にとってはただの日常会話なんだから。


「それでね、ミュージカル映画なんだけど」


 俺の話を楽しそうに聞いてくれる椿に、楽しいと思える映画ができて良かったと思う。まあ、椿ならどう見るのか、どこに注目するのかと考えながらだったから楽しめたというのもあるけど結果楽しかったんだからなんでも良いだろう。


「意外とあのあと観てみたら結構面白いと思ったものがあってDVDになってるのもあるから今度観よう」

「そうですね」

「このあとどうしよっか?」


 時間はまだ15時。帰るにはまだ早い……はずだ。けど椿はなぜかそわそわしだした。


「あ、なにか用事あったの?」

「そ、そんなことないです」

「本当に?椿は友達多いから付き合いあるでしょ」


 明日も会えるしそもそも毎日会えるんだから今日はもう帰っても良いかもしれないな。……毎日?


「椿、来週は?」

「へ?来週がなんですか?」

「来週の土日は空いてる?」

「空いてますよ。だって毎日会いたいって……」

「え、本当に良いの?」


 毎日会いたいとメッセージを送ったあとに返ってきたあの変換なしのメッセージと今目の前で恥ずかしそうにしている椿が重なって、メッセージを送った時もこうしてたのかなって思うとすごく嬉しくなった。


「じゃあ来週も再来週も毎日会えるんだし今日は帰ろうか」


 椿のそばにずっといたいのは山々だけど椿もいきなり1日中いられたら緊張するかもしれない。慣れたらきっと……。そうだった、いつまでも恥ずかしがってる椿は可愛いけどこれではいつまで経っても家で椿の好きなDVDを観れない。

 ショッピングセンターを出てバスで駅に戻り椿を見送る直前。


「椿」

「はい?」


 繋いでいた手を引いて椿を引き寄せるとそっと抱き締めた。


「また明日ね」

「……はい、また、明日」






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