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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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状況の悪化と昴の報告



 俺が冷静でいられたのは椿が俺のことを好きだと確信していたからだ。嬉しそうな笑顔を見せ、ぎこないながらに会話をしてくれたから。

 だけど夏休みが明けてからの椿はどう考えても俺のことを避けている。最初は偶然かと思った。渡り廊下で若菜だけが歩いてきて椿は、と聞くと先生に用事を頼まれて遅れてくると言う。あいかわらず椿は頼まれ事を断れないんだな、と思った。だけど違う。若菜が気紛れをしてもすぐにじゃあ私も行きますと言って走っていってしまう。雑談を振る余裕もない。だからといってあの時と同じ間違いは起こさない。

 部活も引退した今、俺には時間に余裕がある。受験生だけど志望校の私立大学は既にA判定。そもそも普通にテストを受ければ日本で有名といわれる大学に入れるくらいの学力はある。それでも必要最低限の勉強はするから抜かりはない。

 忙しさで気を紛らせていた部分があった。だから部活を引退した今、悪化した状況に最悪な結末しか考えられなくなっている。このまま避けられてフェードアウト。

 まずい、なにか考えなければ。会えなければ話もできない。俺は休み時間に椿の教室に行ってみた。1年前はなにかと阻まれていたけど状況も変わったし問題ないはずだ。



 ……と考えていた俺が甘かった。引退したバスケ部の後輩たちが俺を見つけるやいなや飛びかかってくる勢いで駆け寄ってくる。耳と尻尾が見える。それ以外にも恋愛マスターの話を部活の先輩にでも聞いているんだろう。女の子たちもこういう悩みがあるんです、と声をかけてくる。邪険にも出来ずそこそこ話を聞いてあげてから椿の教室にたどり着くと椿はいなくて若菜に聞くと先生に質問があるって出ていったとかトイレに行ったと返ってくる。

 これは思い違いではなく俺が来ていると知ってわざと逃げているのだろう。そう考えて落ち込む。そんなに会いたくないのか。


 会えもしないなんていったいどうしたら良いのか。こういう時に連絡先を知っていれば……。いや、待て。そもそもなんで知らないんだ。いくらでも聞く機会はあったのに。こんなことになる前に聞いておけば良かったと今さら後悔する。話に夢中になってすっかり頭から抜けていたんだろうな。はあ……。せめて一度だけ会えたら連絡先を聞いて携帯でやりとりをできるのに。その一度が会えないんだけど。

 俺は学校から帰ると机に向かってノートにどうしたら良いのか書きながら考えを巡らせていた。そうして夜通し考えて気付くと朝になっている。

 ある時閃いた。会えないんだから携帯でメッセージを送るしかない。でも会えないんだから連絡先を聞く手段がない。昴に聞けば良いんだけどそれだと無理矢理感が酷い気がする。同意の下で連絡しないと余計に距離が開いてしまいそうだ。そこで俺は自分の連絡先を伝えて椿の意思で連絡をくれれば良いんじゃないかと朦朧とする頭で思い付く。

 そして朝早くに学校に行き椿のクラスの下駄箱に連絡先を書いた紙を入れようとした。


「あれ?佐々木先輩じゃないですか!!こんな朝早くにどうしたんですか?」

「おおおおおはよう。早いね、部活は?」

「今日休みです!!課題持って帰るの忘れて早く来てやろうと思って。あ、せっかくなので先輩教えてくださいよ!!」

「え、う、うん」


 またしても部活の後輩に阻まれてしまった。

 その日の夜中、連絡してくれなかったら単にメモに気付かなかったのか拒絶してるのかはっきりわからなくてモヤモヤしそうだと思い付く。はっきり拒絶されるのは完全に灰になりそうだけどモヤモヤが残るのも駄目だ。この方法はなかったことにしよう。



 そんなことを繰り返してたある日、あいかわらず机に向かって頭を悩ませていると昴から着信がきた。


「もしもし。もう0時すぎだよ。こんな時間にどうしたの?」

『どうせ起きてると思って!!』


 第一声の昴の声がいつもよりテンションが高くて大きい。


「どうしたの?」

『聞いてよ!!付き合うことになったんだよ!!』

「そっかそっか。良かったね。じゃあまた」


 そう言って電話を切る。まったく、寝てない頭に高くて大きい声は響く。頭をおさえてため息をついているとまた昴から着信が入る。


「もう、なんなの?」

『酷いよ!!』

「酷いのは昴の方でしょ。頭に響くの、その高くて大きい声が」

『わかったわかった。普通にするから聞いてよー。いつも聞いてあげてるでしょ』

「……それもそうだね。良いよ」


 いつも聞いてもらってるのは確かだから聞いてあげることにした。


『あのね、若菜と付き合うことになったんだー』

「良かったね。で、今までとどう違うの?今までも付き合ってるようなものでしょ。あ、わかった。セッ『わーーー!!』なるほどね、それでこの時間になったんだ。卒業おめでとう」

『もう!!なんてこと言うの!!してないよ!!』

「はあ?なんでしてないの?」

『隼人くんみたいに欲求不満じゃないもん』

「俺はそんなんじゃないよ」

『うそだあ。坂下さん見つけたら襲いかかりそうだよ』

「人を獣みたいに言わないでよ。しても抱き締めるだけだよ」

『それが駄目だよ』

「はあ……。カミーリア最近どうしてるの?」

『どうもこうも普通だよ。一昨日も言った通り。今日も谷本先生が薄毛を気にしてたからウィッグを調べてプレゼンしたけど先生って大変な仕事だねって。そうだねーって話しただけ』

「そっかー……」


 椿は俺のこと以外はなにも変わらない。変わらず楽しそうに毎日過ごしているそうだ。そのことが余計にわからない。そんなに俺のことが嫌いなのだろうか。


『あ、ダメダメ。今日は僕の話をするんだから』

「……わかってるよ」

『あのね、今日の放課後去年同じクラスだった女の子に呼び出されて告白されたんだ。その途中に野球ボールが飛んできてね。ちょうど僕の正面から来て、その子に当たりそうになったからとっさに庇ったんだけどそばにあった木の枝で手を切っちゃって。庇った拍子にその子と頭をぶつけて血が出てるのに気付かないでおでこを擦ってたら血がたらーってね。その子が驚いて頭から血がって騒いじゃうから周りに人がたくさん集まってきちゃってさ』

「なんてかっこつかないんだ。どんくさいなあ」

『これでも良い方だよ。昔スポーツはあんまりだけど体力測定があるからちょっとは頑張ろうってキャッチボール付き合ってくれた隼人くんが僕がよそ見してるのに構わずどんどん投げてくるから瞬発力が鍛えられたもん。まったく目的が達成されてなくて意味わからなかったけど』

「そんなことあったかなあ……それで?」

『その子が保健室行こうって言うから大したことなかったけど大事になる前に立ち去ろうかなって。で、保健の先生いなかったからとりあえず洗って絆創膏貼ってってしてたら若菜が駆け込んできたんだよ』

「ふーん」

『僕が大怪我したって聞いたみたいで椅子に座ってる僕に泣きついてきてね。それで説明してあげたら初めてそばにその子がいるのに気が付いたんだ』

「わかった。修羅場だね」

『違うよ。でもその子を守ってあげたんだって、私だけの王子様じゃないのって泣いたりいつまで待てば良いのって怒ったり』

「ふっ……ほら、大暴走だ。それでその子に怪我させたんでしょ」

『そんなことしないって。目配せしてすぐにその子には出ていってもらったから。明日ちゃんと謝らないと』

「で、なにを投げてきたの?保健室にあるものだから……なんだろ。椅子とか?」

『だからそんなことしないって』

「絶対鬼みたいな顔してたよ。あははは」

『隼人くん、ほとんど寝てないから頭働いてないね?』

「そんなことないよ。鬼みたいな若菜が椅子を持ち上げて襲いかかってきたんでしょ」


 それで保健室を駆け回ってる若菜と逃げる昴を想像したら馬鹿だなと笑いが込み上げてきた。


『もう、笑いすぎ……。絶対それで記憶残るじゃん。一言も言ってないからね……』


 そのあとも椅子の次はあれを投げつけてきたこれを投げつけてきた、噛みついてきた、と話しながら笑っていると余計に頭が痛くなってきた。痛みに苦しんでいたら昴がやっと落ち着いたと言って今度は昴が若菜はお姫様だ天使だ妖精だとおかしなことをつらつらと語ってきた。頭と手を動かしてるのと違って聞き慣れた昴ののんびりした声を聞いていると眠くなってきた。意識が遠退くたびに昴の大声に起こされた。

 結局朝まで昴の話を聞かされ続けた。








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