表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
4/136

確信


 そして俺の可愛いお姫様探しを始めようとした。だがあの日の仮病がなぜかあっさりバレ、今が重要なんだと逃げないように警戒され、部活中も休憩時間も見張られてしまい中々外に出られない。部内のやつらにも困ったものだ。俺1人いないくらいでなにも変わらないだろうに。


「佐々木!!そろそろ休憩に入るが逃げるなよ!!次の部長にさせるぞ!!」

「嫌だな、先生。逃げませんよ。部長は俺なんかじゃ務まりませんからそこの豆腐みたいな木下に押し付けてください」

「お前は……成績も優秀で品行方正なのに時々口が悪くなるな」

「そんなことありませんよ。あはは」


 木下は俺が部長に推薦してる男だ。明るくて昴ほどではないが気も利く。チームメイトからの信頼も厚い。だが1年の時に同じクラスだったがどうも打たれ弱いし気が小さい。鍛え直してやろうといろいろしてみたが逆効果だったみたいだ。でもまあ、部内で一番体格も良いしセンスもあるし問題ないだろう。

 探しに行けないなら仕方ない。大人しく普通に休憩しよう。


 結局夏休み中は練習前と後に校内を一周することしかできず、やきもきしていた。だが俺も彼女のことばかり考えていたわけではない。昴のことも考えていた。最後にした電話での様子が気になっていた。いくら最近当たりが強くなったと言っても気が優しい昴があんな物言いをするなんて。冷静になると俺も興奮して気分を害しても仕方のないことを言った気もする。あまり覚えてないけど。とにかくこのままだと気持ちが悪いから昴の欲しがっていたゲームを買った。部活を終えて一度家に帰ると携帯とゲームだけを手に昴の家に来た。鍵のかかってないドアを開けてリビングに寄る。


「隼人、おかえり」

「ただいま」

「焼き魚で良い?」

「うん、和食ならなんでも良いよ」


 俺たちはどの家に帰っても外から帰ったらおかえり、ただいま、と挨拶をする。周りから見れば不思議だが、3つのどの家も自分の家だからだ。

 朝母さんに昴の家で食べることを伝え彩華さんに夕方行くと伝えていた。優菜さんは丼ものしか作らず、母さんは和食以外はプロ並みの腕前なのになぜか和食が下手くそだ。それに対して彩華さんは和洋中なんでも作れるし美味しい。聡い彩華さんは俺が行くと言えば気を利かせて和食を作ってくれる。彩華さんは9人の中でまともな人の1人なのだ。ちなみに他は俺と昴。あとは癖が強すぎて駄目だ。

 リビングを出て階段を登って昴の部屋のドアを開ける。一応昴にも今日行くと伝えていたが少し気まずい。


「あ、隼人くん。おかえり」

「ああ、ただいま」


 昴は机に向かって勉強していた。こいつは本当に真面目だな、と苦笑いしながらベッドに腰掛ける。


「昴」

「なに?あ、これ……」


 俺がゲームを差し出すと目が輝く昴にホッとする。


「やるよ」

「本当に?やったー!!さすが隼人くん!!」


 普段落ち着いて冷静な昴が目を輝かせるのは若菜のことを話す時、昔から俺の父さんに教えてもらってるプログラミングをしてる時、そしてゲームをしてる時だ。会ったばかりの時もゲームで昴の心を掴んだと言っても過言ではない。


「これで機嫌直せよ」

「おわっ!!と……なに?機嫌?」


 軽く投げて渡したゲームを取り損なりそうになった昴が怪訝な顔でこちらを見てくる。


「だから……怒ってただろ」

「え?怒ってる?僕が?誰に?」

「ったく、昴が俺に怒ってただろ」

「えー怒ってないけど?」

「怒ってた」

「いつ?」

「ほら、この前の電話」

「……あー、あれ?別に怒ってないよ。ってかあれ本当に隼人くんだったんだ。電話だったから違う人と会話してたかもって思ってたんだ」

「なに言ってんだよ。本人に決まってるだろ」

「だって今も普通だし。本当に別人だったんだもん」

「本当なんだって。今も探してるんだよ。昴が手伝ってくれないから」

「本当なんだ……。だから手伝わないとは言ってないでしょ」

「言っただろ」

「難しいから期待しないでって言ったでしょ」

「……じゃあ怒ってないのか?」

「怒ってないって。あんなことで怒ってたら隼人くんと付き合っていけないよ」

「そっか。なら良い。じゃあそのゲームは返してもらうな」

「え、いやいや!!これそういうこと!?返さないよ!!」

「なんだよ。怒ってなかったなら意味ないだろ」

「あげたもの返してもらおうとしないで!!どうせやらないでしょ」

「あればやるさ」

「どうせすぐクリアしちゃってすぐ飽きたってなっちゃうんだから。ゲームも僕にやりこんでもらえたほうが喜ぶよ!!」

「昴……お前の優しさはついに人や動物だけでなくゲームにまで及んだか。なにを目指してるんだ?」

「もう!!例え話だよ!!そうだ、これ2人でもできるんだ。ご飯まで一緒にやろうよ」

「仕方ないな」

「……えへへ」

「気持ち悪いな。なんで笑ってるんだよ」

「酷いな。昔のことを思い出したんだよ。昔と逆だなって」

「なんの話だ?」

「もう、どうせまた覚えてないとか事実歪めて覚えてるかどっちかだから言わない」

「あ?お前、ヒーロー話はことあるごとに言ってくるくせに」

「あれはずっと覚えていてほしいからだよ。僕がどれだけ隼人くんに憧れてるかってことをね」

「ふーん」

「あ、隼人くん喜んでる?」

「馬鹿」

「素直じゃないねー。はい、これでオッケーだよ。持って持って」


 コントローラーを持たされた俺は彩華さんが呼びにくるまで昴とゲームをして過ごした。


 






 そして夏休みが終わり、3年が引退し俺は副部長になった。部長にするぞという脅しはもう効かない、と顧問に宣言し俺はお姫様探しを始めることができた。だが休み時間、昼休み、部活の前、この前の渡り廊下や中庭、昇降口、いろんな場所を探したが全然見つからない。ところで新学期早々夏休み中の部活の応援に使った横断幕やらポールについた応援旗やらを片付けてるのはなぜなんだ。夏休み中にやれよ。狭い道で避けるのに苦労するし目の前でガシャンと落とされたりしたら手伝わないといけない気になるだろうが。


「手伝っていただきありがとうございました!!」

「いえいえ」


 俺は爽やかに笑ってそいつらを見送りながら思う。こんなことするために部活をサボってるわけじゃないのに。

 もうこの際授業をサボって1年の教室を1つ1つ見て回ろうか。そう考え始めていたある日の昼休み、女たちがたむろってると聞いたことがある2号館の屋上に行ってみることにした。屋上の階段を上がりドアを開けてみて驚いた。辺り一面女だらけだ。これは男が入っていけない場所だ。でも念のため彼女がいないか確認してから出ていこうと一歩進んだ。


「隼人先輩ですかー?」

「嘘ー!!なんでこんなところにー!?」


 なんなんだ、この騒ぎは。俺はモテる男に入らないそこそこの部類で、騒がれるほどではないはずなのに。一気に女たちに囲まれた俺は顔をひきつらせた。


「こんな所にどうしたんですか?」

「誰か探してるの?」

「わー、近くで見ても本当に綺麗ね」

「隼人くんってハーフなんだって?アメリカ?フランス?」


 こんな所にいるのは母さんや優菜さんや若菜みたいにわいわいがやがや煩いやつらだけだ。彼女はもっと静かな、そう、森の中に小人と一緒に……いや、待て俺。それはさすがに引っ張られ過ぎてるな、これじゃヤバいやつだ。冷静になれ。そうだ、図書室にいそうだよな。放課後は図書室に行こう。

 俺はそう決めて踵を返すと屋上を後にした。それにしても馴れ馴れしく名前で呼ぶなよな。せめて名字にしろよ。それから俺はハーフじゃなくてクォーターだと否定した方が良かっただろうか。いや、どっちでも良いか。とにかく早く放課後になってくれないかな。

 そして放課後、SHRが終わってから図書館に行こうと急ぎ足で向かう。すると聞き慣れた声がどこからか聞こえてきた。


「早く掃除して早く帰ろう!!今日はシェイクが30%引きの日だから寄ってこうね!!」


 なんなんだ、あいつはいつも食い物の話ばっかりだな、最近は解除になったが昴と若菜が高校に上がるまでは電車で行かないといけない場所には俺が保護者としてついていくのが義務付けられていた。やれ、テレビでやってた行列のできる人気洋食店に連れていけだの、餃子フェアがやってるから早く起きて支度しろだの、食い物ばっかりだ。そう呆れていたが続いて聞こえてきた声に衝撃が走った。


「そ、それはお得だね。でも若菜、前向いて歩かないと「きゃー!!」わー!!大丈夫!?」


 バッと声の聞こえる方に顔を向ける。やっぱりだ。見つけた。生い茂った草が邪魔でよく見えないが探し求めていたあのお姫様がそこにはいた。

 あの時と同じように慌ただしく、しゃがみこむ若菜の元に駆け寄ってなにか話してる。少し離れているせいでなにを話しているのかは聞こえなかったが、困った顔がすぐにホッとした顔に変わり、笑顔になった。そして2人立ち上がると渡り廊下を並んで歩き去っていった。

 それをただ見つめながら俺の心臓は今までにないほど早くなっていた。


「あ、佐々木!!こんなところにいた!!今日は最初に軽くミーティングするって言ったでしょ。教室にいないと思ったらこんな所に。行くよ、部長命令だよ!!……あれ、偉そうなこと言うなって怒鳴らないの?まあ、それなら今がチャンスだ。行くよー」


 俺はこの前に引き続いて初めての感覚に呆然としながら木内に腕を引かれていた。

 彼女は運命の女性だ。そう確信した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ