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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
39/136

立ち止まる俺に進むきっかけをくれたのは 


 結局クリスマスは部活のあと昴と電車に乗って家から離れた場所に行き適当に過ごして帰った。家に帰ったら優菜さんだけ来ていて母さんと父さんとリビングで話す。


「で、どうだったの……?」

「椿ちゃんすごく良い子だったー!!」


 俺が神妙に聞くと母さんはいつも通り答えてきた。


「そもそも若菜が隼人の事情なんて知るかって非協力的でね、帰る直前に捕まえたのよ」

「若菜のおばさんなのーって挨拶したの」

「うん?」

「だって隼人の名前聞きたくないかもしれないって言うからー」

「そしたら椿ちゃん、若菜の母親の兄弟が他にいたのか父親の親戚なのかってわからなくなっちゃってね」

「なんでそんなまどろっこしい言い方……」

「だから隼人のためだったのー」

「結局すんなり隼人の母親って言い直したんだけどそれが椿ちゃんのツボにハマったみたいで。聞いてた通り可愛らしいお母さんですねって笑ってくれてね」

「そのままもうちょっと時間あるー?って聞いてね、一緒にお茶したのよ」

「ちょっと他愛ない話したあとに隼人のことを聞いたらすごく優しい先輩ですよって」

「それだけ?」

「うん。だって普通に良い子だったからさ、普通に話すのに夢中になっちゃって。面白い子ね」

「本当ねー。ほわわーんってしてるのに気も使ってくれるし」

「美香のお茶がなくなった時に注ぎましょうかってやってくれるし、話は面白いのに聞き上手でもあるし。接客業向いてそう」

「……そう」

「あ、だからって隼人のことを忘れてたわけじゃないのよー」

「わかったよ。楽しかったなら良かったね」


 そう言って俺は席を立って自分の部屋に入った。





 そして俺は宙に浮いてるような中途半端な状態で部活に行く日々の冬休みを過ごした。冬休みの間にもう一度椿は若菜の家に来て優菜さんと母さんとお茶をしたらしい。すっかり2人は椿のことが好きになり、俺のことを考えずにただ椿と仲良くなった。


 肝心の俺と椿の関係はよくわからない。渡り廊下でなぜか若菜が時々2人きりにしてくれるようになったけど、椿がどう思ってるのかは全然わからなかった。最初に腕のことを謝ったけど不思議そうな顔で特になんにもないですよと言うだけで気を使わせてしまった。素直には喜べなかった。当然だ。椿に痛い思いをさせてしまったのは事実なんだから。そもそも俺は無理に渡り廊下で会おうとはしなくなったのに会わない方がいいのかもしれないと思ってる時の方が自然に会えるというのはどういうことだろう。普通にしてるはずなのに椿と出会う。

 俺がすっかり定着した笑顔とゆっくりした丁寧な口調で挨拶すると椿は顔を赤く染めて会えて嬉しいという表情で笑う。どういうことなんだろう。嫌われてないのか。椿はいったいなにを思ってるんだろう。そう思いながらモヤモヤした気持ちで週に1、2度の渡り廊下でのやり取りが続いた。時間は確実に進んでいるのに俺だけ取り残されているような、あの日から俺は前に進めずに立ち止まっている気がしている。


 そんな1月の下旬、教室でぼんやりしていると名前を呼ばれてハッとする。すたすたと俺の席まで来たのは相澤だった。


「ねえ、今日部活休みでしょ?ちょっと付き合ってくれない?」

「……え!?」


 相澤とはあれ以来友達として接しそれまでと同じような関係でいた。それがどうして今さら付き合うなんて話になったんだろう。


「ちょっとちょっと、用事に付き合ってよって言っただけだから」

「あ、ああ、そういうことね」

「んじゃあ、放課後迎えに来るから」


 そう言って来た時と同じくすたすたと教室から出ていった。

 そして放課後、教室にいると相澤が来て、行くわよと言ってまたすたすたと歩いてくから俺はそのあとをついていく。


 どこに行くのかと聞いても行けばわかると言われて黙ってついていくと、到着した場所は小学校だった。


「ここ、私が通ってた小学校なんだ。で、バスケのクラブチームの手伝いしてくれる人を紹介してくれって頼まれちゃって」

「え、ちょっと待ってよ、無理だよそんなの」


 歩きながら進んでいた俺はくるりと回って正門へと引き返そうとする。


「もう今日行くって伝えちゃってるのよーお願いしますー」

「そういうのって高校生ができないんじゃない?」

「そんなちゃんとしたのじゃないからさ。ちゃんとコーチは1人いて、もう1人がちょっと怪我で入院しちゃってその間だけチビたちの遊び相手になってあげる感じで良いんだって」

「チビ……」

「そうそう!!1、2年生のちびっこだからちょっと遊び感覚で大怪我しないようにだけ気を付けてくれれば良いから」


 そうハキハキとした声に振り向くと30代くらいの短髪の男性がいた。


「っていうかスポーツしてたら怪我の1つや2つするもんだからそんなに神経質にならなくて良いよ。あははは」


 そうやって笑って握手を求められて戸惑っていると勝手に手を取られて握手をさせられた。


「うん、しっかりした手だね。いつからやってるんだっけ?」

「小学1年からですけど……」

「お、じゃあ適任じゃないか。さあ、行こう。相澤も来るだろ?」

「もちろんですとも!!さ、行くよ」


 そうやって強引につれていかれた体育館に入るとすぐにわらわらと子供たちが寄ってきた。


「お兄ちゃんだれー?」

「美結ちゃんの彼氏ー?」

「違う違う。友達つれてきたんだよ。桜庭先生の代わり」

「外人ー?」

「ナイスチューミーツー」


 次から次へと口々に喋る子供たちに圧倒されていると相澤に背中をバシンと叩かれる。


「ほれ、佐々木先生挨拶して」

「いやいや、そもそもやるって言ってないし」

「見てみてよ。この子供たちの純粋な目を。裏切って良いの?」

「ええ……」


 なんて無茶苦茶な。そう思いながらとりあえずさっさと終わらせてさっさと帰ろうと思った。


「こんにちは。佐々木隼人です」

「隼人くん!!」

「隼人くんだね!!」

「こっちこっちー!!」

「えーそんなー……」


 俺はその子たちに手を引かれてゴールの下まで行く。そしてやってと言われるままシュートを打つとすごーいと感動される。ただのシュートなのに素直に感動されると困る。助けを求めようと相澤の方を見ると笑顔で手を振っているだけだ。


「ねーもう1回やってー!!」

「仕方ない。でもやるのは良いけど見てるだけじゃつまらないんじゃないの?」

「そんなことないよー?」

「そう?こういうのは?」


 そう言ってハンドリングをすると子供たちはすごいすごいと言ってきた。教えてと言われてこうしてああしてと、教えているうちに練習が終わったようだ。


「またねー!!」


 その声に手を振ったものの困った。


「どう?楽しかった?」

「どうだろ……」


 体育館を出て相澤と2人で歩く帰り道。


「楽しそうに見えたけどなー」

「そうかな。そもそも俺はあんまり楽しいとか思わないんだけど」

「でもなーんかイキイキしてる気がしたよ。後輩に教えるの上手いしこういうの向いてるんじゃないかなって思ったんだよね」

「後輩に教えるのとあんな小さい子の相手するのとは勝手が違うんだけど……」

「でも子供嫌いじゃないでしょ?」

「嫌いじゃないけどあんまり関わらないよ」

「そういうわりに面倒見良いしその子に合わせて教えてあげてたけどね。頭が良い人とかスポーツが上手い人って教えるのは下手な人多いけど佐々木は違うじゃん?自分でやるのも得意なのに人に教えるのも得意。しかも驚くほどわかりやすくて丁寧」

「んー昔から昴に教えてたからかな」

「そうだよ。人に教えるの向いてる。絶対嫌じゃないならやってみれば?少なくても私は楽しそうに見えた」

「んー……でも部活が」

「時間がある時にちょろっと来てくれるだけで良いんだって」

「そうなの?じゃあまあ良いか……」

「そうそう、何事もやってみなきゃ自分に向いてるのかも楽しいと思えるのかもわからないよ」

「そっか」

「そうそう」


 と、いくら俺に向いてると思ったからってどうして声をかけてきたんだろう、と思った。


「相澤だって教えるのも上手いしこういうの好きでしょ?なんで自分でやらないの?」

「いやー私がやっても良いんだけど塾があってさ」

「ああ、時間的に無理ってこと?」

「そうゆうこと。あとは気が紛れるんじゃないかなって」

「……え?」


 思わず立ち止まる俺に構わず相澤はゆっくり歩き続けるから慌てて追いかける。


「なんかごちゃごちゃ考えてるんでしょ」

「やっぱりエスパーなの?」

「違うわよ、木下に聞いただけ。心配してるよ、木下」

「そうなの……」

「なんで悩んでるのかわからないけどそれってそんなに重要?」

「重要?」

「うん、私が通りすがりに見た感じ明らかに坂下さんって佐々木のことが好きじゃない」

「でも傷つけて嫌われてるはずで……」

「もう、いくらなんでも付き合う前に手出すんじゃないわよ」

「……へ?」

「え?そういうことじゃない?」

「そういうことって?」

「強引に迫ってキスしたとか」

「そんなことしないよ!!」

「なんだ違うの?噂はあてにならないわね」

「なんでそんな噂が……」

「さあね。じゃあなにして嫌われたと思ってるの?」

「腕を掴んだから」

「で?」

「でってなに?」

「え、それでそのまま押し倒したとか?」

「ねえ、俺のことなんだと思ってるの」

「ごめんごめん、めっちゃ坂下さんにぞっこんだから押せ押せなのかと思ってさ」


 相澤につい最近告白されたよな。あれは嘘だったんだろうか。全然わからない。相澤がなにを考えてるのか、椿がなにを考えてるのか。


「まあ、でもさ、例えそれで佐々木のことを見る目が変わったとして今の坂下さんどうなの?明らかに好き好きオーラが隠せてないほどなんだけど」

「そう?」

「ちょっとやそっとのことじゃ無くならないくらい好きなんじゃないかな。私はそうだったよ。佐々木がいくら女の子を振ろうが泣かせようがそれでも嫌いになれなかった。佐々木の優しいところを見たら酷いと思うより好きの方が大きくなっちゃうんだよ。私は坂下さんとは別の人間だし坂下さんの友達でもなんでもないからなんにもわかんない。だけど同じ人を好きになった同士でこれだけはわかるよ。佐々木の優しいとこ知ってるから完全に嫌いになるなんてできない」


 なんでだろう。俺はそんなに出来た人間じゃないのになんでこんなに思ってくれるんだろう。どうしてそこまで言い切ってくれる人の思いにずっと気付かなかったんだろう。


「中学の時から一緒だからさ、なんとなく知ってたんだ、実は。佐々木が周りと距離を置きたい理由。人一倍優しいからだって」

「そういうんじゃないんだけど……」

「みんなに気を使ってる。平凡な私たちじゃ考えもしないしできもしない方法でみんなに気を使って自分を押さえて隠してる。やっとそうしないでいれる、本気で望む存在が出来たんでしょ?どうして引いちゃうの?またつまらない日常に戻るの?隣にいたいなら気を使ってばっかりじゃなにも変わらないよ。坂下さんは佐々木が好きなの。でも何か戸惑ってる理由があるだけ。引いちゃって良いの?坂下さんが吹っ切れた時に今度は佐々木がそっぽ向いちゃうの?信じて待ってあげたら?それともそんな勝手な女の子なんて捨てて他の子を好きになる?」

「……ならないよ。俺には椿だけなんだから」

「だったらいつまででも待っててあげなよ。坂下さんの気持ちがわからなくて不安になることもあると思う、だけど絶対2人で幸せになれると思うから」

「でもどうして相澤はそこまで……」

「なんでだろうね。あんまり佐々木にアタックする子が多すぎて世話役が板についちゃったからかな。まさか本人の世話を焼くとは思わなかったけど」

「……俺ってまた酷い男って言われるかな?振った女の子にこんなに励まされて」

「別に良いんじゃない?他人がどう思うかとか一般論なんて関係ないよ。自分たちがこうなんだから。私はこのことで佐々木が酷い男だとは思わない。これでちょっとでも私になびいちゃったりしたら逆に幻滅するかも。でも安心して。嫌いにはならないから」

「もう、なにそれ、どういうこと?なびいてないよ。俺は椿が好きだよ。この先何年経ってもずっと椿だけが俺の運命の相手だから」

「それならその運命の赤い糸がどんなに複雑になってたとしても信じてその先の坂下さんだけを見てなよ」


 相澤は両手をくねくねと動かして赤い糸を表してみせながらそう言う。俺は椿の話の構成みたいに脇道があってそのまた別の道があってやっと元の道に戻ると思ったらその途中でまたそれたり、そんな道のりを赤い糸が辿っていくイメージが頭に浮かんだ。

 なぜだかそのイメージは俺の頭にすっかり居座って、この先何度も思い浮かべるものになった。





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