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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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焦った結果



 12月に入っても椿は相変わらずで会うと顔を真っ赤に染めて嬉しそうにしてくれるけど全然目を合わせてくれなくなってしまった。そう、目が合わないんだ。いくらなんでも一瞬くらい目が合うだろうと思うだろうが全く合わない。最悪なのは完全に下を向いてしまう時だ。顔も見えなくて耳が赤いのがわかるだけだ。

 しかも放課後も全く会えなくなってしまった。毎回会えるわけじゃなかったからいつからというのはわからないけど。でもいくらなんでもこれはおかしくないか。そう思って昴に聞いてみる。


「いや、ちょっと待って」


 話し始める前に部屋のドアを開けて誰もいないことを確かめてまたベッドに座る。


「なんで会えないんだろう。もしかして、いや、そんなことは……」

「避けられてるかもね」

「やっぱり?」


 もしかしてそうじゃないか、と思っていたことを昴ははっきりと口にする。


「でもでも、椿を見たら絶対昴だってわかるよ。絶対椿が俺のことを好きだって。絶対意識してるって状況から自覚まで変わってるよ」

「それはまあ、若菜も……とりあえず好きって自覚したんだとして避けられてるんじゃないかな」

「そんな馬鹿な。好きって自覚したならなんで避けるんだよ」

「知らないよ。僕に坂下さんの気持ちがわかるわけないでしょ」

「そりゃそうだよ。わかったらムカつくし」

「もう……でしょ。わからないけど戸惑ってるとかじゃない?初恋なんだから」

「あれ?なんで初恋って知ってるの?」


 俺は椿に過去男はいないと確信してるけど昴はそうとは限らないと言っていなかったっけ。


「ああ、だって聞いたし」

「え、そうなの!?」

「うん、怪しまれないようにそれとなくね」

「どうやって?」

「教えないよ。さりげなさすぎて坂下さんも意識してないだろうからね」

「え、どういうこと?」


 昴、お前はスパイだったのか。


「諜報活動得意だから」

「そ、そっか」

「とにかく様子見するしかないんじゃないの?」

「でもこのままじゃ……」

「慌てないでそっと今まで通り接してみるとか」

「そっか……」





 でも俺はその慌てないができなかった。椿にできるだけ今まで通りに話しかけてみる。するとそれまで通り嬉しそうに話に乗ってくれる。なのに突然ハッとしてごめんなさいと言って走っていってしまう。

 そしてまた次の機会でも普通に話していたと思ったらハッとして時間なので行きますねと走り去っていく。

 椿の中でなにがどうなってるのかさっぱりわからない。それで焦った俺はついにはっきりさせようと思った。冬休みに入る前最後の通常授業の日、渡り廊下で会った椿に挨拶する。俺の鬼気迫る雰囲気を感じ取ったのか若菜がいつも以上に警戒姿勢で椿をつれていこうとする。


「待って!!」

「きゃあ!!」


 顔をあげもしない椿に俺は思わず叫んで左腕を掴む。それでも顔を見せない椿をじっと見つめる。


「なにするのよ!!」


 そう言って若菜が俺の腕を掴んで離そうとする。俺は椿の気持ちを知りたい。話をしないといけないんだ。そう思って若菜を睨む。若菜も俺を睨んでくる。と、その時。


「せ、先輩……どうしたんですか?」


 そう小さい声で問いかけた椿は目を合わせてはくれないけど顔はあげてくれて、血が昇っていた頭が冷静になった。これで話ができる。俺は手を離していつもの調子でゆっくり話す。


「腕、ごめんね。痛くなかった?」

「あ、えっと、大丈夫です……」

「良かった。あのさ、25日なんだけど、部活が午前中だけだから良かったらい「そうそう!!椿は25日私とクリスマスパーティーするんだ!!楽しみだね!!」」

「え、え?」


 俺の言葉を遮って若菜が早口で一気に喋る。


「ってことだからもう行かないと授業始まっちゃうよ!!」

「あ!!ちょっと!?」


 慌てる椿の微かに見えた横顔が真っ青になっているのを見ながら呆然としていた。

 ただ、間違えたということだけが理解できた。



 そのあと自分がどうしていたのかわからなかった。とにかくなにも考えられず自分の部屋のベッドに横になっていた。








 

「隼人くん、隼人くん、隼人くん!!」

「……ああ、昴か?どうしたの?」


 肩を揺らされて気付いたら目の前に昴がいた。


「美香さんがご飯に呼んでも返事くれないし様子が変だって連絡くれたから」

「母さんなんて呼びに来たかな……」

「呼びに来たよ、もう……」


 昴はため息をついていつもの椅子に座った。俺は起き上がって項垂れる。


「どうしたの?……なにがあったかは若菜に聞いてるけど」

「間違えた」

「間違えたって?」

「椿の前では余裕のある落ち着いた感じでいたかったのに焦って声をあらげて腕を強く握りしめてた。逃げられちゃうと思ったのかも、全然加減してなかったから相当痛かったと思う。嫌われた……絶対嫌われた」


 大丈夫と答えた椿の心境を思うと罪悪感でいっぱいになった。


「そもそも触っちゃいけなかったのに。無理やり触ったから怖がらせたかも。もう駄目だ」


 頭を抱える俺に昴の手が触れる。


「落ち着いて。嫌われたかなんてわからないよ」

「わかるよ。俺の握力どれだけあるか知ってる?そこらの男子と比べられないくらい強いんだよ」


 そう言って俺は自分の手を握りしめる。


「どうしよう、折れてたりしてないかな……」

「平気だよ。保健室ですぐに冷やしたって若菜が言ってた」

「そっか……」

「坂下さんも普通にしてたよ。大丈夫」

「それは腕がでしょ。もう俺のことは嫌いになったんだ」

「だからまだわからないでしょ……。とにかくもうすぐ冬休みなんだから頭を冷やしてゆっくりしなよ」

「できない」

「……ちょっと待ってて」


 そう言って昴は部屋から出ていきしばらくしてから戻ってきた。


「とりあえずクリスマスに坂下さんが若菜の家に来るんだから会いにいって話してみたら?」

「無理だよ。もう顔も見たくないって思ってるよ」

「じゃあ作戦その2だよ。そのクリスマスパーティーに優菜さんと美香さんも行くから隼人くんのこと嫌いになったか聞いてもらおう」

「駄目だよ。俺の話なんて聞きたくないかもしれない」

「ちょっと!!どんだけうじうじしてるのよ!!シャキッとしなさい!!作戦考えてあげてるのよー!!」


 その大声に驚いて顔をあげると優菜さんがドアの前で仁王立ちしていた。


「だって……」

「だってじゃない!!この私が動くんだから失敗しないわけないでしょ!!」

「心配なのは母さん……」

「ええー!?なんで私ー?大丈夫!!ちゃんと考えてるからー!!」


 そう言って涙を流しながら手を握ってくる。


「大丈夫!!隼人の手は優しくて人を安心させられる魔法の手なのよー」

「なんなの、それ……」



 結局若菜以外のみんながうちに集まっていたようで廊下と階段で話を聞いていたらしい。介入しないんじゃなかったのか、と不思議に思うけどそれとこれとは話が違うらしい。いったいどういうことだと思った。そして母さんはお粥を作ってみたらしい。風邪じゃないんだけど、と思いながら口に運ぶ直前、思いとどまる。これは和食じゃないか?母さんは和食が下手くそだ。俺の動きが止まったのを見て彩華さんが言う。


「味付けは私がやったから大丈夫よ」

「なんだ、良かった……」


 一度も風邪をひいた記憶がないから懐かしいはずはないけどほっとするような味がした。




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