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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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不安と幸福(2)



「あ、そうそう。先週の土曜日は中学の時の友だちとも行列のできるラーメン屋さんに行ったんですよ」

「行列好きなんだね」

「それだけ美味しいってことですもん。あ、でも土曜日に若菜に怒られたんです」

「え、なんで?」

「今から花束を買いに行くから来てって連絡が来たんですけど中学の友だちと遊ぶ予定だって言ったでしょって言ったら私と中学の友だちとどっちが大事なのって」

「ごめんね……」

「いえいえ、良いんですけど、いや、良くはないかな。どっちも大事だよって答えてその代わりに日曜日に買いに行こうよって言ったんですけど結城くんと買いにいくから良いって言われちゃって。で、日曜日は予定通りケーキ屋さんに行ったんです。その時昨日はごめんねって言ったらお母さんが喜んでくれたって土曜日のことを教えてくれたんです。若菜ったら滅多に先輩の話してくれないんですけど先輩も一緒だったんですよね。先輩がお母さんに花束のプレゼントをしたから結城くんと若菜も贈ることにしたってその時聞きました。なんで花束を買うんだろうってわからないままだったので。聞こうとしたら怒って電話を切られてしまったんですよね。若菜って電話の終わり方唐突ですよね。急にお母さんが呼んでるーバイバイって言って切っちゃったり。ふふ、面白いから良いんですけど。で、先輩のお母さんの誕生日だったのって聞いたら違うって、なんでもない日のプレゼントだって聞いて凄いなって思いました。私母の日と誕生日以外に花束プレゼントしたことなんてないです。先輩って凄く優しいですね!!」

「そんなことないよ」

「いえいえ、私も見習わなきゃなって思いました!!で、若菜のお母さんも結城くんのお母さんも羨ましそうだから2人も渡すことにしたって。メッセージまで添えてあげたって。でもそれってお母さんいつもありがとうって書くものだと思ってましたけどお願いを書くんですね。先輩のお家は贈り物に添えるメッセージカードにお願い事を書くのが慣習なんですか?」

「そんなおかしな一家だと思わないで」

「あ、やっぱりそうですよね。いえ、本気で思ったわけじゃないです」

「坂下さんは思いそうだよ」

「ちょっとだけです。ちょっぴり本気でした。それを花束と一緒に渡したらすごく喜んでくれたって言ってましたよ。でもアクセサリーは買ってもらえることになったけどバッグは駄目だったからその場でメッセージカードにバッグ買ってって書いてお父さんに渡したんだそうです。買ってもらえると良いねって。……ってあれ?この話先輩知ってました?」

「え、ううん。知らなかったよ。なんで?」

「今まで若菜から先輩の話聞いてなかったので最近あまり会ってないのかなって思っていたんですけど土曜日の話を聞いて話してくれないだけでよく会っててやりとりも頻繁にしてるのかなって」

「んー会うには会うけど特に話題にするようなことはないからね」


 会うたびに椿の話をしているんだから椿に言えるわけないと、心の中だけで思う。


「そうなんですねー。それにしてもなんでもない日にプレゼントなんてやっぱり素敵ですね。お母さんすごく喜んだんでしょうね」

「あーそうだね。母さんは頭の中お花畑みたいなものだから花もらえただけで喜ぶんだよ」

「お花畑……ですか?すごく可愛らしいお母さんなんですね」

「ただのば……」

「ば?」

「……バリバリ天然なんだよね」

「ああ、天然さんなんですね」

「坂下さんも天然だよね」

「え!?」

「え?」

「私は天然じゃないですよ。どっちかっていうとしっかりしてる方です」


 なんと。椿は自分の天然さを自覚してない天然だった。


「確かにしっかりしてるけどだいぶ変わってる」

「それは自覚してますけど天然とは違います。あ、でもこれを言い続けてると天然は自分で天然だと思ってないとか言われちゃうんですよね」

「他の人からも言われてるんだね」

「んー……まあ、でも良いです。私は認めないですけどね」

「頑なだね」

「ふふふ。あ、それからおばあちゃんにも3人で花束をプレゼントしたって聞きました。今日花束を受け取ったおばあちゃんから電話が来た話をしてくれたんです。明るくて元気いっぱいなおばあちゃんみたいですね」

「まあ、そうだね」

「で、その時におばあちゃんは日本に慣れてるのに興奮すると早口の英語になるって聞いたんです。通りで若菜の英語の発音がネイティブで凄いわけだって初めて知りました」

「昔からそうだからね」

「先輩も英語ペラペラなんですね」

「んーまあそうだね」

「凄いですねー!!」

「そんなに凄くないよ、普通普通」

「そういうものなんですか」

「うん。おばあちゃんがそうだからなのか父さんと若菜の母親もやたらと話に英単語が混じってたり、驚く時とか英語になる時もたまーにあるよ」

「へー!!なんだか不思議な感じですね」

「母さんは英語全然理解できないから小さい頃昴と2人で母さんがいる前で英語で会話したこともあったよ。小さい頃の昴は俺の言うことを素直に聞いてたから英会話の勉強だって言ってね。そしたら母さんが俺たちが優秀なのは嬉しいけどなに言ってるのかわからないって騒ぎ出すんだよ」

「駄目じゃないですか、意地悪しちゃ」

「良いの良いの」


 いや、待てよ。俺のイメージダウンを自らしてしまったか?そう思ったけど椿はくすくすと笑っている。


「楽しそうで良いですね」

「煩いだけだよ」

「そんなことないですよ。賑やかで毎日楽しそうです。うちはごく普通の家なので」

「そう?」


 椿のお母さんは若菜との約束通り椿に話していないみたいだ。俺が話してしまっても良いけど未来のお義母さんからよろしく頼まれたとかお父さんの仕事を調べたとか言ったらさすがに引かれそうな気がするから言わないことにしよう。


「兄弟もいないし親戚も離れた所に住んでますし3人家族で平凡ですよ。お父さんは不規則な仕事で結構忙しくてお母さんはパートがない時は色々1人で出掛けちゃって、作品に夢中になって電車乗り遅れたから夜ご飯よろしくって頼まれることもたくさんあったり。兄弟がいたら、いつもお母さんには困っちゃうなーとか話しながら楽しくご飯作ったりするんだろうなーって」

「いつも家族がいるからそんなこと思わないんだろうなー。寂しい?」

「いえ、そんなことはないですけどね。でも家族がたくさんいたら賑やかで楽しいんだろうなって羨ましくなります」

「そっかー」


 うちは多すぎだと思うけど椿は賑やかなのが良いみたいだ。


「あ、だけどこの前も話したみたいに自然がある所でのんびりしてるのも好きですよ。植物の香りとかすごく落ち着きますし」

「1人でそういう所にいるのが良いの?誰かがいたら嫌?」

「え、そんなことないですよ。1人で十分楽しんじゃえますけど、誰かと一緒ならもっと楽しいと思います。けどなかなか私みたいな人はいないです。中学の時おばあちゃんみたいって言われて少し落ち込んだのであんまりそういうことに人を誘えないんですよね」

「そうなんだ。俺は良いと思うけど」


 そう思って目を瞑りながら椿とここよりもっと広い公園の緑道でベンチで並んで話しているのを想像してみた。椿の隣で同じ景色を同じ時に見て椿がどう思うかを聞いて……。うん、すごく楽しそうだ。そう思って隣の椿を見ると目を開けたまま口元に笑みを浮かべている。椿も想像してるのかな。その時ふと、風が吹いた。風で葉がそよいでふんわりとみどりの匂いがした。11月で冷たい風のはずなのにやけに温かく感じた。ほっとするような感じ。

 椿といるといつも話に夢中になって止まることなく話し続けていたけどこうやって話していなくてもすごく心地良い。隣にいるだけですごく安心する。


「……あ!!」


 そう思っていると椿が突然声をあげた。


「どうしたの?」

「私ぼーっとしてました!!」

「え、うん」

「ごめんなさい……誰かと一緒にいる時にボケッとしないようにしようと思ってるのにいつも気付いたらやってるんです」

「ええ、そうなの?俺は良いけど」

「退屈じゃなかったですか?どれくらい経ちました?……って!!もうこんな時間ですよ!!部活大丈夫ですか!?」

「んーさすがに怒られそうな気がする」

「ひえー……ごめんなさい……そもそも私が来るの遅かったから」

「平気平気」

「せ、先輩……」

「ん?」

「いや、ん、じゃなくて手……」

「……まずい、ごめん」


 気付かないうちに俺の手が椿の頭を撫でていた。いや、でも1撫でしただけだ。これはセーフだと思う。


「い、いえ!!じゃ、じゃあ私帰ります!!」


 そう言って椿は走って行ってしまった。呆然とその後ろ姿を見ていた。


「隼人!!もう、いつまで経っても来ないと思って……どうしたの?」

「うん、椿が好きなんだ」

「それはわかってるよ。だからちゃんと説明してよね、こんなに時間がかかってる理由」

「今日は特別だから」

「なにその特例。そういうのって自分で決めちゃ駄目だから……」




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