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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
27/136

予想外の人から



 テスト期間2日目、俺は朝練がない日は早くもなく遅くもなくそれなりの時間に学校に来る。今日も数人パラパラといる教室に入りクラスメイトに挨拶をした。そんな時名前を呼ばれて教室の入り口に目を向けると1人の女子生徒がいた。


「あれ?相澤?どうしたの?部活のこと?」


 彼女は女子バスケ部の部長。ちなみに中学も同じで女子の中ではわりとよく話す方だ。接点が多いものだから。


「ううん、部活のことじゃなくて」

「そうなの?」


 相澤はそう言って少し戸惑いの表情を見せてくる。いつもはずかずかと教室に入って部活の連絡事項を告げてスタスタと去っていく結構男勝りなところがあるのになんなんだと思いながらこっちから入り口まで歩いていった。


「えっと、今日のテストが終わったあと時間ある?」

「え?昴と会うけど」

「そっかそっか。結城くん元気?」

「普通だよ」

「そっか」

「……え、なに?」


 いつもの相澤らしくない様子にこっちが戸惑う。いつもは用件をスパッと言うのになんだこの歯切れの悪さは。


「あのさ、結城くんと会う前に少しで良いから時間もらえないかな?話したいことがあるんだ」

「話?今話して良いよ」

「あ、あとでが良いの」

「そうなの?昴に会うの帰ってからだし良いけど」

「そしたら帰りに1号館の裏に来てくれる?」

「わかった」

「えっと、じゃあまたあとで」

「うん」


 相澤はそう言うと風のように素早く自分の教室へ走っていった。

 なんだろう、今の。部活のことじゃないならなんだ?と考えながら自分の席に戻る。ふと、思い付く。そうだ、俺が告白される時、たいてい相澤が呼び出してくる。手紙を預かって渡してくることもある。今日もそんな感じかな。ということは帰りに行ったら相澤ではなく別の女子がいるということか?でもいつもと言い方が違うし……新しい呼び出し方か?ドッキリみたいな。

 そう考えながらクラスメイトと話しているとSHRが始まりそれが終わるとテストが始まった。







 今日の分のテストが終わった。結果はいつも通りだ。ほぼ満点を取ってくる学年1位の誰かの次になるように調整済み。さて、帰ろうと思った時今朝のことを思い出す。しまった、忘れるところだった。まずいまずいと思いながら鞄を持って校舎裏へと向かう。

 校舎裏に行くと相澤がいた。はて、代理告白ということだろうか。どれだけ恥ずかしがりな女子なんだ、とそこで顔を赤く染めて俯く椿を思い出して鼓動が早くなる。椿は可愛いな。早く会いたい。


「急にごめんね。結城くん大丈夫だった?」

「え?ああ、なにも言ってないけど大丈夫。先に帰ってても俺の親と話してるだろうし」


 危ない。椿のことを考えていると他のことに意識がいかなくなってしまう。椿のことじゃなければ同時にいくつものことができるのに。


「えっと、それで?」

「うん……あの、佐々木のことが好きです」

「……」

「佐々木?」

「うん?誰が?」

「え?えっと……私が」

「え?」

「え?」


 えええ?代理告白じゃないの?俺の頭は疑問符でいっぱいになった。目の前の相澤も首を傾げる。


「代理じゃないの?」

「え!?ち、違う!!私が佐々木のこと好きなの!!」


 そんな馬鹿な。


「だっていつから?今まで俺に告白してくる子たちの仲介してたのに」

「う……それはそうなんだけど……。でも中学の時から……いつの間にか好きになってて……でも同じバスケ部だし女子の中ではよく話す方だからみんな私に頼ってきて……本当は私も佐々木のこと……」


 えええ、なにやってんの。好きな男に告白する女の子の手助けしてたなんて。どんだけお人好しなんだ。

 まずい、衝撃的すぎて普段どう返してるのか忘れてしまった。仕方ないと思ってとにかく謝ることにした。


「ごめん」

「うん、わかってる。好きな子ができたんでしょ」

「……え?」


 なんで知ってるんだ。お前はエスパーなのか。


「そんなのみんなわかるよ。休み時間に堂々と渡り廊下で話してるんだから」

「そ、そっか」


 考えてみればそうか。椿しか見えてなかったけど─あと邪魔者も─人通りもあるところで話してたら目立つだろう。まったく考えてなかった。


「それに木下に聞いたよ。すごく大切に想ってるみたいだね」

「誠司め……」


 椿のことをペラペラと人に話してるんじゃない。


「付き合わないの?」

「いや、まだそんなんじゃないから」

「そうなの?すごく良い感じに見えるよ」

「え、本当!?」

「ほんとほんと」


 良い感じに見えるのか、そうか。椿もやっぱりそろそろ好きになってくれたのかな。そう思ってると相澤がクスリと笑った。


「え、なに?」

「ううん、やっぱり変わったなって」

「……そう?」


 変わり様は昴たちに散々言われて自覚もしてるけど学校での俺はいつもと変わらないと思うけど。


「変わったよ、笑顔で楽しそう」

「笑ってたと思うけど」

「笑ってたけどなんか違う。今の方が本当に楽しくて笑ってるみたい。それに部活でも積極的に後輩指導してるし」

「いや、それは誠司に言われたからで」

「それも聞いたよ。でも今まで一歩引いてたのにおせっかいなくらい丁寧に練習付き合ってるから」

「え、おせっかいだった?」

「ううん。みんな喜んでる。今までも優しかったけどもっと見てくれるようになったって。女バスの私にまで喜んで報告してくれる子いるよ」

「そ、そうなの?」

「坂下さん、だっけ?その子のおかげなんでしょ。そんな気がする」

「う、うん……まあね」


 そこまで言われるとわかりやすいみたいでなんだかむず痒い。と、そこで誠司と話したことを思い出す。修羅場……暴力女集団……。俺は急に大変なことになったと焦り始めた。


「あいつらも知ってるのか?」

「え?あいつらって?」

「ほら、あの試合によく来る」

「ああ、あの子たちね?知ってるけどどうしたの?」

「修羅場だ!!椿が危ない!!」

「え?あ、ふふ、そういうこと?本当に大切にしてるんだ。大丈夫よ」

「そんなわけないだろ」

「大丈夫だって。泣いちゃった子もいたけどみんな佐々木が楽しそうだから諦めるって」

「知らないところでそんな密会が……」

「ふふ、女子たちってすごいでしょ。佐々木が知らないところでざわついてもう収束済みよ。みんなの決着のつもりで私が告白することにしたんだ」

「振られるために?どこまで自己犠牲してるんだよ」

「ううん、私だけ最後まで諦めきれなかっただけかも。ずっと見てきたのに、自分の気持ちを隠してみんなの手助けまでしてたのにって。試しに聞くけど浮気相手に考えてくれる?」

「え!?そんなこと言うの、相澤って」

「冗談だよ。これからも友達でいてくれる?女子の中では結構仲良いと思ってるんだ」

「う、うん。それは良いけど」


 良いんだろうか。俺は自分が酷い男な気がしてきた。こんなに自分のことを好いてくれていた人が近くにいたのにまったく気に止めずにいた。だからって浮気相手なんて。本命と付き合ってすらいないのに浮気とはなんだと思わずにいられないけど。


「気にしないで。気付いてる?佐々木がそんな風に喋るの木下だけじゃないの。私にも時々お前とかあいつらがーとか言うのよ。そっちが素なんでしょ?気を許してくれてるのかなってちょっと嬉しかった。みんないつも丁寧に話す佐々木が他の男子たちと違って良いって言うけどね」

「え、そうだった?」

「うん。でも特訓中なんでしょ?」

「誠司のやつ、どんだけペラペラ喋ってるんだ」

「木下も苦労してるから人に話したいのよ。苦労ってのは佐々木のことね」

「苦労かけてるつもりはないけど」

「苦労かけてる方は自覚ないのよ。困るわね」

「……本当に俺のこと好きなの?」

「うん。中学の時1人で備品の整理してたら通りかかった佐々木が手伝ってくれたり、練習についていけなくて悩んでたら相談乗ってくれてスパッと解決してくれたり。周りと距離を置きたいみたいなのに困ってる人を見たら助けずにはいられなくなっちゃうところ好きだよ。木下が昔の結城くんに似ていたなら私は若菜ちゃんに似てたから少し素を見せてくれたのかな」

「さっき言われるまで気付かなかった。若菜には全然似てないよ。なんでだろ。イライラしてる時に丁度いたからかな」

「ふふ。なんでもいっか。坂下さんのために特訓してるって聞いたよ。きっと佐々木が好きになった女の子ならどんな佐々木でも良いと思うだろうけど頑張って。私もたまに口調が乱れてたら注意してあげるね」

「え、相澤まで?」

「うん、悪い?」

「い、いや?」

「佐々木に付き合ってるの家族と木下だけなんでしょ?坂下さんに年が近い同性の私から1つアドバイスしてあげる。女の子って大人の素敵な男性が好きって人もいるけど坂下さんって良い意味で素朴な感じだから、自分と近いところで並んで歩いていけるって人が好きそう」

「え、そんなことわかるの?」

「女の勘だけどね。だから変に背伸びしすぎなくても良いんじゃない?」

「確かにこの前話してたら親近感が湧いたって喜んでくれた」

「ほら、だから坂下さんのためにって頑張るのは全然良いことだけどそのままの佐々木でも、良いとこがあるんだからあんまり手の届かない完璧人間になっても坂下さんには遠く感じちゃうんじゃないかな」

「わかった。覚えておくよ。ありがとう」

「どういたしまして。最後にもう1つだけ良い?」

「なに?」

「私佐々木のこと好きになれて良かった。片思いだったけど好きになって毎日楽しかった。ありがとう」

「え、お礼言われること?っていうか泣いてる?」

「ごめん、こういうの嫌いだよね。はい、泣いてないよ。辛いこともたくさんあったけど幸せなこともたくさんあったからそれだけは言おうって決めてたんだ。これからは友達として仲良くしてね。じゃあ明日テスト最終日頑張ろうね。バイバイ」

「え、相澤!?」


 俺がなにか言う前に相澤は女バス1の脚力で走っていってしまった。



 俺はなぜかモヤモヤした気持ちを感じながら家に帰った。すると思っていた通り昴が来ていた。玄関で母さんに迎えられリビングに入ると昴は昼ご飯を食べていた。


「隼人くんおかえりー遅かったね」

「ん、ただいま。まあちょっとあって」

「ふーん。あ、美香さん、それでね」

「うんうん、それでどうしたのー?」


 母さんの笑い声を聞きながら俺はリビングから出て2階に上がり着替えをしてから戻って昼ご飯を食べる。




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