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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
25/136

僕のヒーローだ─昴視点─


 僕は小学2年生になった。相変わらず僕の周りは賑やかで楽しい。でも僕は平凡な子供なままで、僕は最近やけに平凡が嫌だった。テストで全教科で100点満点をとるクラスメイトの男の子や、徒競走でもマラソンでもいつも1番になれる男の子が羨ましい。僕も人より優れてることが欲しい。僕は今学校の帰りに通り道にある公園のブランコに座っている。


「昴か?」

「え?あ、隼人くん!!」

「久しぶりだな」

「うん、久しぶりだねー」


 隼人くんは僕に気付くと公園に入って僕の隣のブランコに座った。


「最近バスケ忙しいみたいだね」

「試合近いからなー」

「そっかー」


 隼人くんと会うのはだいぶ久しぶりだ。小学校に入ってバスケのクラブチームに入った隼人くんは毎日のように練習をしていた。隼人くんの横顔を見ながら思う。昔から落ち着いていてたけど久しぶりに会った隼人くんは前よりももっと大人びて見える。そういえば僕の周りで一番抜きん出てすごいのは隼人くんじゃないか。隼人くんは昔から誰よりもかっこよくて頭が良くてスポーツもできるから。


「どうかしたのか?」

「え?なんで?」

「いや、なにもないなら良い」

「ううん、ちょっとね」

「どうした?」


 隼人くんは頭が良いから僕の悩みを解決してくれるだろうな、と思って僕は隼人くんに話すことにした。


「あのね、僕も人より優れたものが欲しいんだ」

「優れたもの?」

「うん。この前のテストで全教科で100点をとった子がいてね。あと、徒競走でもマラソンでもいつも一番になれる子がいるんだ。今まではみんな同じくらい出来ていたのに抜きん出てくる人がいて羨ましいなって」

「ふーん」


 どう思ってるんだろう。隼人くんは昔からなんでも1番だから僕の気持ちはわからないのかな、と少し寂しくなる。僕と隼人くんは性格もできることも全然違うのに隼人くんはずっと僕と仲良くしてくれる。僕がわからないこともいつもわかりやすく教えてくれてすごく優しい。


「昴ってそんなに勉強できなかったわけじゃないよな?走るのだって遅いわけじゃないだろ?」

「え、うん。そうだね。でも普通だよ。全部80点とか70点とかだけなんだ。走るのだって学年で10番に入るくらいかな」

「なんだ、やっぱりそうだ」

「なに?」

「周りにすごいやつがいるからって人は人、自分は自分だろ。普通でなにが悪いんだ?なんでもそつなくこなすってのも才能だよ」

「そっかー」


 なるほど。そういうものかー。やっぱり隼人くんは言うことが大人だな。僕普通で良いや。じゃあ解決したから隼人くんの家に行って一緒にゲームでもしようかな。そう思って隼人くんに声をかけようとしたらなんでかすごく悩んでいるようだ。珍しいな、隼人くんはいつもなんでもすぐに答えてくれて悩むことなんてないのに。


「隼人くん?」

「ああ、悪い。少し考えてた。もし昴がこうなりたいって目標ができたら一生懸命努力してもっと上を目指せば良いんじゃないか?」

「え?」


 さっきの悩みの話だと気付くのに少し時間がかかった。もう解決したんだけど。そう思ったけど隼人くんは続けて言ってくれた。


「それから昴はよく気が利いて優しいところが人より優れていてすごいところだと思う」


 なにも言わない僕に怪訝な顔をする隼人くんを見て思った。僕がまだ悩んでると思って普段めったに考え込まないのに真剣に考えてくれるなんて優しいのは隼人くんの方だよ。やっぱり隼人くんはかっこいいな。ヒーローみたいだ。そうだ、隼人くんは僕にとってヒーローだ。僕が知らないことをなんでも知っててかっこよくて僕と全然違う天才なのにそれを鼻にかけることもしないし……しないかな、若菜にはしてるかな。まあ、良いや。そういう飾らないところも隼人くんのかっこいいところだし。とにかく隼人くんは僕にとって優しくてかっこいいヒーローだ。


「隼人くん、ありがとう」

「元気出たか?」

「元気ないように見えた?」

「まあな」

「えへへ。隼人くんのおかげで元気いっぱいだよ」

「そっか。なら良い」






 それから1ヶ月くらい経ったある日。その日は授業で学校の近くの森林公園に来て植物観察をしていた。


「ねえ、昴」

「どうしたの若菜」


 同じクラスの若菜と一緒にスケッチをしていると若菜がそわそわして呼びかけてきた。


「この前美香さんがシロツメクサの冠の作り方を教えてくれたの。一緒に作ろー」

「え、授業は?」

「てきとーで良いでしょ」

「もう……。いっか、僕もだいたい描けたし」

「じゃーこれをこうしてねー」


 若菜に教えてもらいながら冠を作っていく。我ながら良い出来映えかな、と思って若菜をちらりと見るとすごく真剣な顔をして作っていた。

 出会った頃と変わらず可愛らしい若菜。同じ幼稚園に通ってからも思ったけど小学生になってからも若菜には少し不思議なところがある。若菜というか周りが、というのかも。若菜はいつも1人でいる。僕がそばに行かないといつも1人で他の子はそれを遠巻きに見てるだけ。仲良くなったお友達に聞いてみたら若菜はわがままだしすぐ怒るし可愛い子ぶってるから仲良くしたくないんだそうだ。僕はよくわからなかった。そういうのって良くないんじゃないかなって言ってみたら「別に嫌ってるわけじゃない、そんなに言うなら昴が仲良くしてやれば良い」って言われた。言われなくても仲良くするけど、と思った。若菜にそのことを言ったら「別にお友達なんていらない。やりたいことをやりたいって言ってなにが悪いの?合わないのに無理に仲良くする必要なんてないもん」と返ってきた。それが強がりなのかなんなのか僕にはわからなかった。隼人くんならわかるかもしれないけど隼人くんは若菜が良いって言ってるんだから良いんだよと取り合ってくれない。優菜さんは「いじめられてるなら助けてあげたいんだけどそういうわけじゃないの」と、美香さんは「周りの子たちもどうにか若菜と仲良くしようとしてくれてるんだけどね、若菜がきついこと言うから上手くいかないみたいなのよー。昴が仲良しになってくれて良かったわ」と言うだけだ。それなら僕が若菜のそばにいれば良いだけなのかな、と思うことにした。でもいつか僕にとっての隼人くんみたいに若菜にも一番の友達ができたら良いなと思ってる。


「んーやっぱり1人だと美香さんがやってくれたみたいに上手くできなーい」

「そう?上手に出来てると思うよ」

「本当?」

「本当だよ」


 僕がそう言うと若菜は花が咲くように笑ってくれた。初めて会った時一目惚れした僕だけど今は若菜の全部が好きだ。なにかに一生懸命取り組む真剣な顔も今みたいに僕が褒めた時に見せる嬉しそうな笑顔も、僕と隼人くんが遊んでいると乗り込んできて怒ってくるちょっと怖い顔も、隼人くんに負かされて大声を出して泣く顔も全部。素直ではっきりして見ていて清々しいし、なによりどんな時も愛しいと思う。ちなみに愛しいという言葉は琉依さんが教えてくれた。


「あのね、昴ー」

「なに?」

「美香さんはこの冠の作り方を琉依さんに教えてあげたんだって。それでね、琉依さんがね、作った冠を美香さんの頭に乗せてあげてね、僕だけのプリンセスになってくれますかって言ったんだってー」

「す、すごいね」


 それってプロポーズっていうのだよね?僕聞いちゃって良かったのかな。なんか僕が恥ずかしいんだけど。


「もっとすごーいってならないのー?」

「いやいや、思ってるよ」

「そう?でも琉依さんって本当にかっこいいねー。隼人と大違い」

「隼人くんもかっこいいけど」

「昴の目は節穴ね。琉依さんと隼人なんて月とスッポンよ」

「えーそんなことないよ」


 隼人くんたちのおかげで僕はだいぶ語彙力が身に付いた。


「とにかく、琉依さんはかっこいいの」

「うん。それは僕だって思うよ」

「あーあ、美香さんが羨ましいなー。私も琉依さんみたいな人と結婚したいなー」

「え!?」

「なーに?」

「なんでもない!!」


 僕の恋心は一方通行だ。若菜は僕が好きだけどそれは僕になついてるというような感じでラブではない、と思う。それでも若菜のそばにはずっとこれからも僕がいるし、ライクがラブに変わるのは時間の問題だと思ってる。でもどうなんだ?若菜は今琉依さんみたいな人と結婚したいと言った。つまり琉依さんみたいな人が現れたらその人と結婚したいということなのか。これは大問題だ。僕が琉依さんみたいになろう。そうすれば万事解決。


「昴、大丈夫?お熱?」

「平気だよ」


 若菜は自分をお姫様だと信じてる。いや、それだけだと語弊がある。僕も若菜は本物のお姫様だと思ってる。だからロマンティックなプロポーズに憧れたんだろう。それなら僕だってやるんだ。琉依さんみたいにかっこいい大人になって若菜と付き合って、そしてその後はロマンティックなプロポーズをして結婚だ。これで決まり。そうだ、これは目標だよね。1ヶ月前に隼人くんと話したことを思い出す。あれから何度も思い返して隼人くんかっこいいな、優しいなと考えていた。隼人くんに知らせにいこう。僕に目標が出来たよって。隼人くんなんて言ってくれるかな。頑張れよって言ってくれるかな。

 僕はそわそわしながらその時を待っていた。隼人くんが練習から帰ってこないと話ができないから僕は夜ご飯を食べながら時計とにらめっこをしていた。


「昴?さっきから時間ばっかり気にしてどうしたの?」

「え?な、なんでもないよ」


 一番に隼人くんに教えたかった僕は口が滑らないように注意していた。そしてご飯を食べ終わってテレビを見ていると隼人くんが帰ってきそうな時間を少し過ぎていた。いけない、早く行こう。


「お母さん、隼人くんのとこ行ってくるね!!」

「え!?この時間から?もう遅いから明日にしたら?」

「明日も隼人くんが帰ってくるのはこのくらいだよ」

「あ、それもそうね。でも暗いわよ?1人で大丈夫?」

「平気だよ!!行ってきます!!」


 そう言って僕は隼人くんの家に駆け込んだ。


「隼人くん!!」

「お前どうした?急にこっち来るって言うから彩華さん驚いて母さんに連絡してくれたぞ」

「ご、ごめんなさい」

「良いのよー。彩華さんに無事についたわよって連絡しておくわね」

「美香さん、ありがとう」


 リビングでご飯を食べ終えたみたいで隼人くんと美香さんと琉依さんが揃っていた。琉依さんがお水を注いでくれてそれを隼人くんが僕に手渡してくれた。


「なんか急ぎの用事でもあったのか?」

「うん!!あのね!!僕目標ができたんだよ!!若菜がね、琉依さんみたいな人と結婚したいって言ったからね、僕、琉依さんみたいにかっこいい大人になって若菜とお付き合いするんだ!!」

「あ?」


 僕が興奮しながら言うと隼人くんは眉間にシワを寄せて首を傾げる。その後ろで美香さんと琉依さんが可愛い、昴も若菜も可愛いと口々に言ってる。


「なんの話?」

「え?」


 今度は僕が首を傾げる番だった。そしてこの状況が理解できた。そうだ、隼人くんは勉強はできるけど普段なにをしてどんなことがあったのかとかそういうのはあんまり覚えてないんだった。だからってたった1ヶ月前に話したことなのにもう忘れちゃったんだ。僕にとってはすごく大切な思い出なのに。そう思うとなぜか笑いが込み上げてきた。


「ふふふ」

「おい、どうした?」

「ふふ、だって1ヶ月前に自分が言ったこと覚えてないんだもん。言ってくれたでしょ?僕に目標ができたら一生懸命努力したら良いって。だから目標ができたから一番に知らせに来たのに。ふふ、なんて言ってくれるかなって楽しみにしてたのに、もう拍子抜けだよ、あはは」


 ケラケラと笑い出す僕を見て一生懸命思い出そうとしてくれる隼人くんはやっぱり僕のヒーローだ。あの日飾らない隼人くんの自然な言葉と僕のために一生懸命考えてくれたことが僕にとっては重要なことだ。覚えていないのは残念だけどそれだけ隼人くんにとってあの日のことはとるにたらない日常だったんだろう。仕方ないから僕がこの先ずっと覚えていようと心に決めた。


「あ、思い出した!!公園で話したやつだな!!でもそんな話したか?校長の話が長いって話しかしてなかったような」

「それ話したの半年前!!逆になんでそっちは覚えてるの!?もー!!良いよ!!」

「そ、そうか?」


 今度ゆっくり教えてあげよう、と思っていると琉依さんが駆け寄ってきて僕の頭をなぜか撫でてくれた。


「琉依さん?」

「昴、目標ができたらそれに向かってなにをしたら良いと思うかな?」

「んー」


 そっか、目標を決めるだけじゃ駄目じゃないか。でもどうしたら良いんだろう。琉依さんはジェントルマンだからすごく優しい。琉依さんみたいになるにはジェントルマンをしないといけないとは思う。はて、美香さんたちが言うジェントルマンというのはいったいどういうことを指してるのだろう。椅子を引いてあげることか、車に乗る時ドアを開けてあげることか、みんなで天体観測をする時に女の人は身体を冷やしちゃいけないと毛布をかけてあげることか、僕がぐるぐると考えていると琉依さんがヒントをくれた。


「僕はどんなイメージ?」

「んージェントルマン」

「うんうん、他には?」

「他には?えーと、隼人くんみたいに頭が良い」

「そうそう、どういうところが頭が良いと思う?」

「えー?あ、愛しいとか可憐とか隼人くんが教えてくれない言葉を教えてくれるとこ」

「ん、ずれちゃったか……。そうだね、あとは僕のお仕事も頭を使うんだよ」

「プログラマーだっけ?」

「そうそう!!」

「でも琉依さんプログラミングは難しいから教えるのは難しいって前に言ってたよ」

「大丈夫!!今の昴ならできるよ。目標があるんだもんね。どんなに大変でも努力できるよね」

「え、うん。頑張る」

「やった」

「昴頑張ってね。昴なら絶対できるわ。若菜も待ってるわよ」

「そうだね、僕頑張るよ。若菜とお付き合いできるように」

「大丈夫か?なんか父さん企んでない?」

「ないよ。なんにもね」

「……。昴、とりあえず、応援してる」

「隼人くん!!ありがとう!!」





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