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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
23/136

大切な出会い(1)─昴視点─

ここから昴目線の過去話が4話続きます



 小さい頃の僕はごく普通の人見知りな子供で、落ち着いていたわけでも優秀なわけでもなかった。そんな僕はこの場所に来て大切なみんなに出会っていろんなことを経験して多くのことを考えて大きくなった。今ずっとそばにいた幼馴染み兼兄兼親友が運命の女性に出会って変わろうとしてる。テスト期間に入って学校が早く終わったからと言ってうちに遊びにきて珍しく真面目に勉強している、そんな彼を見ていると昔のことを思い出す。僕はちょっと休憩と言ってベッドに横になって思考を10年以上前に飛ばした。






 僕は幼稚園の時お父さんの転勤で引っ越しをした。新しい家は団地で、周りには年の近い子がたくさんいるからお友達ができるわよとお母さんに言われた。だけど人見知りな僕はただただ知らない人がたくさんいるなんて怖いと思った。引っ越しを終えたその日お母さんとお父さんに連れられて隣近所に挨拶して回った。そしてある家で3軒隣に僕と同い年の女の子がいると聞いたお母さんはそれは良いわと言ってその家にも挨拶に行くことにした。

 お母さんがインターホンを鳴らすと女性の高めな声が聞こえた。


「こんにちは。本日近くに引っ越してきた者ですがご挨拶に伺いました」

「ご丁寧にありがとうございます。少々お待ちください」


 すごく優しそうな声だ。僕と同い年の子供がいるっていうことはお母さんと同い年くらいかな……。新しい家の隣にはもう少し年上の子供がいる家だったから母さんよりずっと年上のお母さんだった。そう考えながら緊張して待っているとドアが開いて出てきたのは茶色のふわふわとした長い髪をした綺麗な人だった。


「3軒隣に越してきました結城と申します。よろしくお願いいたします」

「わざわざありがとうございます。小西です」

「実はこの子が今年5才になるのですが同い年のお子さんがいらっしゃると聞いたものですから」

「あら、奇遇ですね。若菜ーおいでー!!」


 その女性は部屋の奥に向かって叫ぶとすぐに女の子が走ってきた。その子はお母さんによく似ていてピンク色のドレスをヒラヒラさせていた。お母さんの後ろから見ていた僕は生まれて初めての感覚を味わっていた。

 若菜と呼ばれたその子は僕が前にいた幼稚園にいたどの子よりも可愛かった。お母さんのように茶色の髪をおろして透き通るように真っ白な肌に整った顔立ち。お姫様……絵本に描いてあった登場人物がそのまま出てきたような、そんな可愛い女の子。


「ママー?このひとたちだーれ?」

「これから仲良しになるのよ。挨拶しようね」

「こんにちはー」

「若菜ちゃん、この子も若菜ちゃんと同じ年なのよ。仲良くしてくれる?」

「いや!!」

「「え?」」

「こら、若菜!!」


 あ母さんとお父さんが驚いているとその女の子は僕を睨んできた。


「だってママのうしろにかくれてうじうじしてる!!なにかいいたいことがあるならはっきりいいなさいよ!!」


 そのかわいらしい声で喋る大人びた言葉に呆気にとらわれている僕たちにその女の子のお母さんが顔をしかめる。


「若菜!!あなたはまた!!ごめんなさいね、この子気が強くて!!誰に似たのかしらね、ほほほ」


 その間も僕をじっと睨んでくる女の子に、怖じ気付いていた僕はほんの少しだけ勇気を出してそっとお母さんの後ろから出る。でもやっぱり怖くてお母さんの洋服を掴みながら言った。


「えっと……お姫様みたいで可愛い……です」


 言いたいことを言ってみたらその子はびっくりしていた。


「ふ、ふん!!わかなはおひめさまだもの!!」

「本物のお姫様なの?」

「そうよ!!」


 そうだったのか、と僕が感心しているとお母さんたちは正気に戻っていた。


「あの、よろしければ上がっていきませんか?主人ももうすぐ帰ってくるので」

「あ、よろしいんですか?」

「はい、是非」


 そして家の中へと誘われて僕たちはリビングに通された。綺麗に片付けられて玄関にもリビングにもお花がたくさんあるのが印象的だった。


 テーブルにつくとお母さんが改めて挨拶をした。


「結城彩華と主人の一輝です」

「結城一輝です。よろしくお願いします」

「小西優菜です」

「それから息子の昴です」

「よ、よろしくお願いします」


 僕はさっきからずっと見てくる若菜ちゃんを気にしながら挨拶した。


「若菜、そんなに見てたら駄目でしょ」

「だってママ……」

「ごめんなさいね。戸惑ってるだけなんです。同い年の子からは遠巻きにされていてあんな風に言ってくれたのは昴くんが初めてだったので」

「そうなんですね」


 お母さんたちが話す間も若菜ちゃんは僕から視線を外さない。


「昴くん、ごめんね」


 僕はふるふると頭を振った。


「若菜ちゃんは本当に可愛いですものね」

「ありがとうございます。えっと、幼稚園はどこに?」

「あさがお幼稚園に」

「あら本当?若菜もなんですよ。それに1つ上に兄の息子がいるんです。昴くんも仲良くなれると思います……」


 若菜ちゃんのお母さんはそう言うとふふと笑った。


「どうされたんですか?」


 僕のお母さんがそう聞く。


「あ、ごめんなさい。兄の息子がなんて初めて言ってみたからなんだか不思議な感じがして。確かに甥なので兄の息子なんですけどね、私の高校時代からの親友が兄と結婚しているものですからなんていうか……」

「あら、そうなの?……あ、ごめんなさい」

「え、どうして?」

「いえ、ため口聞いてしまって」

「えー?全然気にしないですよ。彩華さんは私より年上ですよね?おいくつですか?」

「31才です」

「やっぱりです。4つ上です」

「あら、若い!!」

「ふふ。だから敬語なんてむしろやめてください」

「でもそれなら優菜さんも敬語使わないで。ママ友だから」

「あ、本当?あんまりやり過ぎるとボロが出そうでヒヤヒヤしてたの!!」


 さっきまでとは違う砕けた口調の若菜ちゃんのお母さんの言葉にお母さんとお父さんは顔を見合わせて笑う。


「そんなに笑わなくても!!」

「ごめんね。可愛くてつい、ね」

「うん」

「ねえ、一輝さんって彩華さんより年下?」

「ええ、そうよ。1つね」

「そうだと思ったー。彩華さん姉さん女房って感じだもん」

「ふふ、そう?」

「バレちゃったね」

「年下だし天然だからお馬鹿なこと言わないように喋らないでって言い聞かせてたの」

「酷いよね」

「ううん、良いと思う」

「え、優菜さんも酷い」

「年下だし一輝さん私のこと呼び捨てで良いよー彩華さんも」

「わかったわ。さっきと全然違うわね、優菜」

「あんまり女の子呼び捨てで呼ばないんだけど……」

「一輝さんそんな感じする。じゃあちゃん付けで良いよ」

「ありがとう優菜ちゃん」

「昴くんは優菜さんって呼んでみ?」

「え、えっと……優菜さん」

「そうそう。隼人も……さっき言った親友の子もそう呼ぶから。だって隼人からしたらおばさんっていうのが正解だけどおばさんなんて呼ばれたら殴りたくなるでしょ」

「ふふ、そうね」

「でしょ。でもあいつおばさんがだめならババアとか年増とか二重人格とか厚化粧とか言ってきてほんと頭にくるのよ。彩華さんたちも隼人に頭にきたら怒って良いよ。あ、すぐ会おう。今日は3人で出掛けてるけど明日は家にいるから。あ、家はね、駅の反対側なの、30分くらいで着くよ」

「そうなの」


 優菜さんは面白い人だな。ペラペラと喋る優菜さんの話をお母さんとお父さんは相づちを打ちながら聞いていた。


「あ、明日は暇だった?」

「ええ、暇よ。楽しみにしてるわ」

「良かった。親友の名前は美香で兄は琉依っていうの。美香はね、高校生の時に家に来て琉依兄に一目惚れしてすったもんだあってね、まあその辺は今度教えてあげるね。本当にやきもきしたんだから」

「ふふ、そうなの」

「でも無事に上手く行ってね、結婚してくれて良かったー。そう、美香は恐ろしく天然でね、一輝さんよりずっと天然だと思うわ。もう本当にポンコツ!!」

「ふふ、親友なんでしょ?」

「そう!!でもお馬鹿すぎるの。彩華さんも会ったらわかるよ!!」

「ますます楽しみだわ」

「うん」

「……お客さん?」

「あ、パパおかえりー」

「「お邪魔してます」」


 ここで少し顔が怖い身体の大きい男の人がリビングに入ってきた。身近にいたことのない大人で僕は少し身構えてしまった。

 若菜ちゃんが立ち上がって駆け寄る。


「パパー」

「どうしたの?」


 若菜ちゃんのお父さんは若菜ちゃんを抱き上げて優菜さんの隣に座った。


「3軒隣に越してきたんだって。挨拶に来てくれたの」

「結城彩華と主人の一輝と息子の昴です。よろしくお願いします」

「浩一です。楽にしてもらって大丈夫だよ。どうせママが無理矢理上がらせたんでしょ」

「パパ酷い!!若菜が昴くんと仲良くなるかなって上がってもらったんだよ」

「お茶も出さずにすみませんね」

「はっ!!ない!!そういえばお菓子もない!!」

「ママはお喋りしてて良いよ。若菜はパパと一緒に準備する?」

「いや!!」

「なんだー」

「パパ残念。仲直りできたと思ったのにね」

「良いよ良いよ。いつものことだから」


 そう言って若菜ちゃんのお父さんはコップ3つにお茶を、3つにアップルジュースを注いで、お菓子も持ってきてくれた。


「昴くんも食べれる?」

「うん。ありがとう」

「どういたしまして」


 若菜ちゃんのお父さんは見た目は怖そうだけど全然怖くないや。怒った時のお母さんの方が断然怖い。そう思いながら若菜ちゃんのお父さんからマシュマロをもらった。

 それを食べると若菜ちゃんがチョコレートを手にとって僕に差し出してきたから首を傾げてしまった。


「どうしたの?」

「これも」

「ありがとう」


 若菜ちゃんからもらったチョコレートも食べた。


「若菜どうしちゃったの?」

「それがね、パパ。恋の始まりよ!!」

「え!?」

「優菜ったらまだ早いわよ」


 お母さんたちがこそこそ話す中僕は次々に差し出されるマシュマロやチョコレートを食べるのに必死だった。


「若菜、ほどほどにしなさいよ。そうだ、向こうで絵本でも読んでたら?」

「あら、それは良いわね。昴も行ってきたらどう?」

「昴くん絵本読めたりしない?」

「読めるわよ」

「やったじゃない、若菜。昴くんに読んでもらったら?昴くん良い?」

「うん、良いよ」


 若菜ちゃんは立ち上がって僕の手を掴むとテレビの近くにあるソファーに僕を座らせて絵本をとりに行きすぐに戻ってきた。お姫様が出てくる絵本だ。


「これよんで」

「うん、良いよ」


 僕はソファーに座る若菜ちゃんと絵本の両端を一緒に持って読み始めた。

 しばらくしたらお母さんが呼びにきた。帰る前にまた少しだけ話して優菜さんと浩一さんにさよならをした。


「もうかえっちゃうの?」


 若菜ちゃんの言葉に引き止められる。僕ももっと一緒にいたかったから。


「若菜、明日も会えるわよ」

「ほんとー?」

「本当よ」

「じゃあまたあしたね」

「うん、また明日ね」


 妙にあっさりとした若菜ちゃんと違って僕は名残惜しかったけど手を振って家を出た。自分の家に帰る途中、お母さんとお父さんと手を繋ぎながら考えるのは若菜ちゃんのこと。ちょっと変わってるけどすごく可愛いお姫様に恋をした。初めての恋はチョコレートとマシュマロの味がした。




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