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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
22/136

厄介な親たち


「隼人ー!!」


ドンドンドン


「はーやーとー!!起きろー!!」


 今日も部活が休み。昴は友達と遊びに行くそうだからゆっくり昼過ぎまで寝よう、そう決めていたのに強制的に目を覚まされた。



ドンドンドン



 煩いな、とドアを叩く音を聞く。これは無視するには煩すぎで二度寝も出来そうにない。

 俺はイライラを抑えながら起きるとドアを開けた。


「優菜さん、何の用なんだよ」

「どうしたの?でしょ」

「……どうしたの?」

「あら、素敵な笑顔ね。良いわよ。さ、出掛けるから早く支度しなさい」

「……どこ行くのかな?」

「買い物よ、買い物」

「い「嫌じゃない、絶対行くの」……着替えるから待ってて」

「早くしてね」

「わかったよ」


 軽やかな足取りで階段を降りていく優菜さんを眺めてからドアを音を立てて閉める。


「いったいなんなんだ。なんだってこんな時間に起こされないといけないんだ……。買い物だって?優菜さんの買い物に付き合ったりしたら夜まで帰ってこれないじゃないか……。そもそも明日からテストなんだけど」


 俺は着替えると父さんを味方につけて断固拒否しようとリビングに行った。


「あれ?父さんは?」

「隼人ーおはよう。琉依さんはサッカー観戦に行ったわよー」

「……まさか」

「そう、浩一さんと一輝さんも一緒によ。隼人は私と優菜と彩華さんとアウトレットに行こうねー」

「無理無理。俺も今から父さんたち追いかけるよ」

「あ?荷物持ちが必要なのよ。やってくれるよね?」

「やだ」

「困ったー。たくさん買いたいものがあるんだけど。椿ちゃんと買い物に行く時荷物を持ってあげたら喜ぶと思うなー。予行練習だと思ったら?」

「優菜さん昨日の帰りにはもう決めてたね?」

「さあ?どうでしょう」

「明日からテストなんだけど」

「どうせいつもと変わらないでしょ」

「こうなったら昴を「昴ならもう出掛けてるわよ」……みんな早くない?」

「早いってもう11時よー。さあさあ、隼人ー。ご飯食べて早く行こう。もうすぐ彩華さんが車で迎えに来てくれるのよー」

「……」


 もう、なんだってこんなことに……。俺は納得いかないまま黙ってご飯を食べ始めた。ご飯を食べ終えた頃彩華さんが来て、俺は無理矢理車の助手席に乗せられた。

 母さんたちの買い物に付き合うのは非常に疲れる。それに1人で付き合わされるなんて、絶対持たない。





「隼人ー!!なにぼーとしてんのよーこっち来なさいよ!!」

「はいはーい」

「隼人ーこっちとこっちどっちが良いと思うー?」

「どっちでも良いんじゃない?」

「どっちが良いと思うー?」

「じゃあこっち」

「どうしてー?」

「……なんとなく」

「駄目ー!!もう一度やり直しね。どっちが良いの?」


 もう、面倒だな。このやりとりを何度も繰り返し俺の両手は紙袋でいっぱいになった。


「重い……。どれか1つくらい自分で持てば?」

「嫌ー。鍛えてんでしょ」

「……昴か」


 昴のやつ、あのあと優菜さんに余計なことを言ったな。覚えてろよ……。


「そろそろ休憩にしましょうか。あ、そこのカフェが良いんじゃない?隼人も休みたいでしょ」

「彩華さんが持ってくれればな……」

「ごめんね、優菜が駄目だって」

「嫌がらせだ……」


 そして入ったカフェで俺はコーヒーを飲みながらいつものように母さんたちのゆったりのんびりした話を聞いていた。


「ちょっと隼人聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」

「まったく、隼人は今まで彼女がいたくせにまともに付き合ってないんだからもっと女の子の気持ちを考えなさい。そんな調子で椿ちゃんに聞いてる聞いてるーなんて言ってごらんなさい。嫌われるわよ」

「優菜さんたちと違って椿の話は楽しいから何時間でも聞いてられるよ。毎日朝からずっと話していたいよ」

「何時間でも聞けるってよ」

「毎日だってー」

「ずっと話していたいですって」


 内緒話をするみたいに顔を寄せ合ってにやにやして話す3人に呆れる。


「なにがそんなに楽しいの……」

「全部が楽しいのよー」

「そうそう。あの毎日会いたいのって元カノを毎日会ってなにするんだって一刀両断だった隼人がね。ちょっとは恋する女の子の気持ちがわかったんじゃない?」

「あい……あの子たちが本当に俺のことが好きだったとは限らないんじゃない?」

「さあねー。でも付き合いたい理由なんて人それぞれよ。隼人みたいに見た目かっこいい人を彼氏にしたいだけかもしれないし良い人風に装ってる隼人に騙されて素敵だなって恋に落ちちゃったり。でも恋に落ちちゃった子はみんなその人に好きになってほしくてがむしゃらになっちゃうんだから」

「そうよねー。それに好きになってもらったあともずっと好きでいてほしくて頑張り続けないといけないんだから」

「そうそう。メイクだってごまかしてるわけじゃないの。いつまでもその人に綺麗って思ってほしいからするの。そりゃあスッピンだって毎日見せてるけどメイクして綺麗にしてるところを見て何度でも好きって思ってほしいんだから。年をごまかしてるわけじゃないんだからね」

「そうよねー。メイクは女の子を綺麗にするものだもの。特に優菜は元美容部員さんだものね」

「若菜が生まれるまでだけどね。でも百貨店で働いてるといろんな人がいたわー。そうそう、覚えてる?」

「いつの間にか自分たちの話になってるし話変わってるしそもそもごまかしてるって口に出して言ってないし……」

「口に出さなくても隼人の考えてることなんてお見通しよ、美香も優菜も私も、というかみんなね」

「……」


 まったく、恐ろしい親たちだな……なんて変換したら丁寧になるんだ?


「別に恐ろしくないわよ、親だから。でも隼人が椿ちゃんに恋してこんなに変わるだなんて誰も予想できなかったわ」

「……」


 な、まだなにも喋ってないのに会話が成立してる。彩華さんすごい。


「別に今までの隼人を知ってればこのくらい当然よ」

「彩華さーん、さっきから1人で喋ってどうしたのー?」

「な、私は隼人の考えてることを予想してるだけで……」

「彩華さんおもしろーい」

「1人芝居してるのかと思ったわ」

「もう、そんなわけないでしょう!!」


 俺は思わず吹き出してしまった。


「もーちょっと、隼人まで笑わなくても良いでしょ」

「ごめんごめん」


 しっかり者で頼りになる彩華さんが年下でいつまでも女子高生みたいなノリの母さんと優菜さんと仲良くしてるのはこういうところもあるからだ。今まで何度もこういう光景を見てきたのに彩華さんが母さんたちと話が合うのが不思議だった。でも今思うと彩華さんもしっかりしてるだけじゃなくて、それを母さんたちが面白がっても本気で怒るんじゃなくて一緒になって楽しむところがある。そういうところが3人がずっと仲良くやっていける理由なんだろう。なんで今まで考え付かなかったんだろう。彩華さんは姉御肌だから母さんと優菜さんをほっとけないのかと思っていた。

 なんとなく俺がそれを言うと3人から大ブーイングを受けた。


「彩華さーん、私たちのことほっとけないから仲良くしてくれてたのー?」

「ほっとけないからどうにかしなきゃって思うけど2人の人懐っこいところとか無邪気なところが可愛くて好きだからよ」

「えへへー可愛いって、優菜ー」

「ふふふー。私も彩華さんのたまにおっちょこちょいなとこ好き」

「おっちょこちょいじゃないわよ」

「9割しっかりしてるけど1割おっちょこちょいよ」

「でもでも優菜。一輝さんは彩華さんの8割ツンってして2割デレるところが可愛いって言ってたわよねー」

「言ってた言ってた。この1割私たちの感覚とずれてるのがまた惚けよね」

「本当にねー」

「ちょっとー!!そんな話いつしてるのー!?」

「「教えてあげなーい」」


 そしてごちゃごちゃしたまま次は雑貨を買うという母さんたちに付き合い、帰り道の母さんたちが好きな店で夜ご飯を食べて帰った。

 あと少しで家につくという時、運転してる彩華さんに声をかけられた。


「なに?」

「椿ちゃんのおかげで今まで気付かなかったことに気付けるようになったのかもね」

「……確かにそうかも」

「ふふ、良い傾向ね」

「昴と同じこと言ってる」

「あ、本当に?けどそう思うわよ。椿ちゃんが綺麗な心でいろんなものを見てるのを知って隼人も影響を受けてるのね。若菜が椿ちゃんと仲良くなった時もね、私たちみんな若菜が私たち家族って小さな世界じゃなくてもっと広い世界に目を向けることができるようになったみたいで嬉しく思ったのよ。でもそれだけじゃなかったみたいね。若菜だけじゃなく隼人の見る世界も変えちゃったみたい」

「本当ねー椿ちゃんすごいわー」

「すごいよね。扱い難い2人を手懐けるなんて」

「もう、優菜はそんなこと言って。昨日はジュースで乾杯だってテンション上げて喜んでたのに」

「あー!!彩華さんの裏切り者ー!!」

「ふふー。さっきのお返しよー」

「わー彩華さんやるー!!」

「なんで美香がそんな喜ぶのよー」

「なんとなくー!!」

「もーなにそれー」


 母さんたちの話はあいかわらず面倒だと思うけど少しだけ付き合っても良いかなという気持ちがした。



 車を彩華さんの家に停めて買ったものをそれぞれの家に置くと母さんはこのまま彩華さんと優菜さんの家でお茶してから帰るというので俺は1人で母さんが買ったものを持って自分の家に帰った。まだ話すのか、と思ったが言わなかった。多分バレてると思う。

 精神的な疲れと腕の痛みでヘトヘトになって家に着くと玄関に3人分の靴があった。サッカー観戦のあとそのまま3人で飲んでるんだなと思いながらリビングに行く。


「隼人、おかえり」

「おかえり」

「おかえりー」

「ただいま。俺もの「隼人はお茶」もちろんわかってるよ。いつもそう言うから飲んだことないでしょ」


 俺が冗談でグラスに手を伸ばそうとすると浩一さんがすっとグラスを持ち上げた。


「はい、お茶」

「ん、ありがとう」


 そして父さんがお茶を持ってきてくれて受けとる。


「楽しかったー?」

「疲れたよ」

「お母さんは楽しいってメッセージくれたよ」

「そりゃあ彩華さんたちは楽しかったでしょうよ」


 俺がそっけない返事をしても一輝さんはニコニコしながら彩華さんが送ったらしいメッセージを見せてくる。 


「大変だったね。1人で荷物持ちなんて」

「大変だったよ。っていうかそう思うなら浩一さんが来てくれれば良かったのに」

「ごめん、ママが駄目だって」

「また優菜さんだよ……」

「でも隼人鍛えてるんでしょ?」

「一輝さんもそれ言わなくて良いでしょ」

「えへへー。やってー」

「やらないよ」


 一輝さんが腕を曲げて催促してくるのをイライラしながら拒否する。本当に昴は余計なことをしてくれたな……。

 一輝さんはこのいじりを天然でやってるから厄介なんだ。優菜さんみたいに邪念がなくて。と、優菜さんのことを考えると浩一さんは本当に騙されて結婚したんだったかなと思えてきた。この前は椿にああ言ったけど親たちのなれそめとか恋愛話なんて聞いてられるかとちゃんと聞いてなかった。


「浩一さんは優菜さんに騙されて結婚したんだよね」

「……ゴホッゴホッ」

「水持ってくる?」


 まずい、俺が急に変なことを聞くから浩一さんがむせてしまい父さんがすぐに持ってきた水を一気に飲んだ。


「ど、どうしたの急に」

「ちょっと思っただけ。おじいちゃんの家に来た時優菜さん猫被ってたんでしょ」

「うん、そうだったね」

「それで二回目に会った時に優菜さんからプロポーズされたんだから騙されたまま結婚したんでしょ?」

「ええ……。合ってるけど全然違う」

「違うの?」

「それはおかしな思い込みをしてたね」

「そうかも?」

「別に騙されて結婚したわけじゃないよ。でもママたちは知らないことはあるね」

「だからって騙されて結婚したとは思わないでしょー」

「隼人だからね」


 一輝さんと父さんはクスクスと笑い浩一さんは複雑そうな顔をしていた。


「優菜さんたちが知らないことってなに?」

「うん、実はママの実家に招待される前にお義父さんからママのことを聞いてたんだよ」

「聞いてたっていうか父さんは縁談のつもりだったんだよね」

「え、そうなの?」

「んーそんなにきっちりしたのじゃないけどね。お義父さんに娘がいつまでも破天荒で困ってるからもらってくれないかなって言われたんだ。その時写真を見せてくれたんだよ。その写真は少し前の成人式で振り袖を着てるのに美香ちゃんと一緒に公園で楽しそうに遊んでるところでね」

「うわー母さんもなにやってるの……」

「可愛かったんだよ、美香」

「あ、そう」

「ママも可愛かった……というか綺麗だった。20才のはずなのにうんと大人びてて、それなのにやってることは小学生みたいで」

「うそー。じゃあ浩一さん一目惚れしてたの?」

「一目惚れ……まあそうかもしれないけどお義父さんには断ったんだよ」

「え、なんで?」

「それはそうでしょ。年も離れすぎてるし見た目も俺はよく怖いって言われるし剣道やってるから身体も大きいし、ママみたいに美人で若い人となんて無理だって」

「ふーん……そういうもの?」

「そうなんだよ。それでお義父さんには年が離れすぎてますしお嬢さんにはもっと似合う人がいますよって断ったんだけどお義父さんもそれならせめて一目直接会ってから考えてくれないかって食い下がってきて。子供っぽいのが駄目なら一応人がいるとそれなりに品よく振る舞えるから見てくれって頼まれてね」

「おじいちゃんどうしてそんなに必死だったの?そんな無茶苦茶なこと言うなんてらしくないね」

「優菜昔から運命だって突っ走ってたからね。トラブルも多かったんだよ」

「優菜ちゃん綺麗だもんね」

「で、厄介なのは別れたらもうその人のことどうでも良くなっちゃうところでね。僕も実家出て美香と同棲してたし家に来る厄介な男の人たちに父さん1人で対応するのに疲れちゃってたんだよ。もういい加減落ち着いてくれないかって困ってる時に浩一さんと親しくなって優菜の相手に良いんじゃないかって思ったんだよ」

「家まで来るってヤバ……」

「本人は気にしてないけど周りはヒヤヒヤしてたよ」

「それで会ってどうしたの?」

「すごくおしとやかで20才とは思えなかったよ。同僚とかみんなで行ったんだけど全員にお酒注いでくれたりそばでニコニコしながら話を聞いてくれたり」

「騙された?」

「だから騙されてないって。本当は写真で見たように無邪気な子だってわかってたんだから」

「それもそっか」

「で、次の日お義父さんに聞かれたんだけどやっぱりお嬢さんにはもっと相応しいひとがいますって断ったんだ。でも数日後にやっぱりもう一度会ってほしいって頼まれて。会っても変わらないと思ったんだけど行ったらママが手作りの親子丼を出してくれてね」

「出た、親子丼」

「美味しいですねって言ったら結婚してくださいって言われてびっくりしたよ」

「え、そこで?」

「うん。お義父さんもお義母さんも驚いてたよ」

「優菜が一目見て浩一さんは運命の人だってビビビッて来たからプロポーズしてくるって僕と美香に宣言してたんだけどまさかそこで言うとはって驚いたよ。お父さんも優菜にどうしてももう一度会いたいって頼まれたから会わせてみることにしたものの浩一さんが断ってるから無理だと思ってたんだけどまさかその場で快諾するから驚いて。それならなんで断ったりしたんだって文句言ってたよ」

「思わずだったんだよね。でも勢いに押されてじゃないよ。あの時はまだ親子丼も上手く作れなかったからね、手に絆創膏をたくさん付けてるのを見て一生懸命作ってくれたんだ、なぜかこんな自分に……って思ったらすぐ返事をしちゃってたんだよね」

「ひゅーひゅー」

「一輝くん音出てないよ」

「雰囲気だよー」

「ふーん……」

「あれ?興味なかった?」

「いや、結局優菜さんにプロポーズされて元々良いって思ってたから承諾したってことだよね」

「まあ簡単に言えばそうだね」

「でもあとからやめることもできたでしょ?どうしてそのまま結婚したの?優菜さんの破天荒なとこも勝ち気なとこも二重人格なとこも好ましいと思ったってこと?」

「えっと……そうだね。ふふ」

「なに?」

「ううん。でもママの良いところはもっとたくさんあるんだよ。例えばなんにでも全力で一生懸命なところとか、自分が綺麗なことを最大限活かしてるけどだからって人を見た目で判断しないところ、誰とでもすぐ仲良くできるところ、それにもちろん友達、美香ちゃん思いなところも」

「ふーん……そうかな?」

「隼人にとっては昔から口うるさいだけかもしれないけどママにはたくさん良いところがあるんだよ」

「ねえねえ、優菜と浩一さんのなれそめに興味を持ったなら僕と美香の話も聞きたいでしょ?聞きたいよね」

「聞かないよ。砂糖みたいに甘いだけでしょ」

「じゃあ僕とお母さんの話はー?「それも遠慮するよ」お母さんはツンデレでねー初めて会ったのは大学のキャンパス」

「一輝さん!!遠慮するってば!!」

「ちぇー」

「3人とも酔ってるね?」

「そんなことないよ。隼人が興味を持ってくれて嬉しいんだ。だから美香の」

「だから良いってば」


 絶対酔ってる。いつもは母さんたちがペラペラと喋ってるから父さんたちはあまり喋らないけど父さんたちだけになると普通に喋る。お酒が入ると余計に。いつもは絡まれて面倒だと思うところだけどもう少し付き合うことにしてみた。


「どうして優菜さんに言わないの?」

「え?んー別に言ってもへーで終わると思うよ」

「そうかな?」

「美香ちゃんなら喜びそうだけどね」

「でも優菜は知ってるかもしれないよ」

「そうなの?」

「浩一さんが言わないだけで母さんから聞いてるかもっていうだけだよ。浩一さんが優菜に言わないのは父さんに優菜には黙っておいてって言われたからでもあるんだ。絶対私の運命に首を突っ込まないでって怒られるからって」

「今度こそ本当に絶交されるかもしれないって気にしちゃって。言ったら倒れるまで剣道付き合ってもらうからなってお義父さんが」

「おじいちゃん……」

「厳格な父さんも娘には強く出れないから。一応父さんの言う通り優菜には言わないであげてるけど母さんは父さんの焦り様を面白がって話してるかもね」

「でもなにも言ってこないからこっちも言わないし。隠し事とまでは言えないかもしれないけどお互いに実はっていうのがあるのも良くない?」

「わかるよ、それ。僕も美香には内緒だけど「それ言わなくて良いから!!」へ?どうして?」


 焦った。あの書斎のことはさすがにこの2人には言ってないだろう。酔った勢いで恥を晒す父さんなんて見たくない。


「じゃー僕ね。僕もお母さんに秘密にしてることがあるんだ。実はお母さんと付き合ってる時にね」

「一輝さんまさか浮気!?」

「ぶーぶー。そんなわけないでしょー」

「良かった……」

「普段彩さんって呼んでたけど友達の前では彩ちゃんって呼んでたんだー」


 ドキー!!危ない、自分に重なって心臓が飛び出るかと思った。いや、落ち着け俺。そんなに動揺することじゃないじゃないか。


「一輝くんらしい。可愛いね」

「けど本人の前では呼べないよ。うっかり1回だけ呼んでみたら恥ずかしがって3日口利いてくれなかったんだ」

「そ、それは彩華さんらしいね」

「ところで隼人はどうして今びっくりしてたの?」

「し、してないよ!!」

「あーわかったー。椿ちゃんの前では名字で呼んでるんだよ」

「おーさすが一輝くん。さすがに付き合ってもいないのに名前呼び捨てにはしないよね」

「平気平気。そんなのみんなそうだって」

「名前呼び捨てにするだけじゃないよ。カミーリアって可愛い呼び方だってあ……るん……しまった……」

「カ……」

「ミー……」

「リア……」


 わざわざ区切らなくて良いのに父さん、浩一さん、一輝さんの順で復唱していた。まずいぞ、墓穴を掘った。これ以上余計なことを言わないように退散しよう。


「じゃあ明日からテストだから本当に休まないと、そうだよ、明日テストだっていうのに買い物だなんてあー疲れた疲れた。じゃ、おやすみ」

「待って待って隼人ー」


 席を立とうとした俺の肩を一輝さんがひき止める。3人とも鏡を見た方が良い。悪い顔をしてる。


「カミーリアとは?琉依くん」

「英語だね。僕でもパッと浮かばなかったけどこれはそう、椿だね」

「いやーさすが隼人は頭が良いねー。英語で言ったら気付かないかもー」

「馬鹿にしないで!!」

「してないよ」

「わざとらしく父さんに振ったくせに。浩一さんだってわかってたのに」

「ごめん。酔ったかな?」

「いやー面白いねー。むしろ言ってみたら?面白い人だと思われて距離縮まるかも」

「そんな距離の縮まり方したくない!!父さん俯いて笑わなくても良いでしょ!!」

「いや、美香がカミーリアちゃん確かに可愛い響きねって」

「携帯見てた!?っていうか言ったの!?しかもはや!!」

「優菜が面白いって、彩華さんも隼人可愛いって」

「またからかわれるネタが増えた……」

「まあまあ、みんな本人には言わないから」

「そうだよー。みんな好きな子に隠し事の1つや2つあるものだよ」

「そう、全部さらけ出すのが良いってわけじゃないこともあるよ」

「父さんに言われると妙に納得」

「だからどうして?」


 これ以上話してるとまたネタを提供するだけになってしまう。それに何回も思ってるが明日からテストなんだぞ。いくら毎回結果が決まってると言ってもみんな普段と変わらなすぎる。


「もう寝るよ」

「あー逃げるの?」

「そうじゃないよ、おやすみ」


 俺はそう言って退散した。明日から3日間がテスト期間。午前中に終わり部活もないから椿に会えない。この期間をどう乗りきるのかがテストより何倍も難しい問題だ。とにかく3日目の部活まで気が紛れるように昴に話し相手になってもらおう。いつもと変わらないけど。そして俺は3本目のDVDを観てから眠った。






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