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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
21/136

戦闘と事情聴取

 昴がメッセージを返して5分も経たないうちに玄関のドアがバタンと音を立てて廊下をどたばたと走る音がしたかと思えばリビングのドアが勢いよく開いた。


「隼人!!」


 鬼のような形相をした若菜が息を切らして俺を睨んできた。

 俺は味噌汁を飲み干してから立ち上がると若菜の目の前に立ち30センチ上から見下げてにこりと笑う。


「どうしたの?」

「ちがーう!!隼人じゃなーい!!」

「大変だ。俺が隼人以外のなにに見えるの?その目はお飾りかな?」

「ぎゃー!!気持ち悪い!!なんなのよその気持ち悪い喋り方は!!」

「嫌だな、普通だよ」


 そう言って頭を押さえつけようとした俺の右手を若菜は払いのけた。


「どういうつもり!?どうして椿に近付くの!?なんの目的!?許さないんだから!!」

「俺が椿に近付くのに若菜の許可が必要?好きだから話しに行ってるだけだよ」

「す……駄目!!椿は私のだもん!!」

「椿は若菜のじゃないよ。困ったね。初めて出来た友達だからって椿をものみたいに言うなんて、それじゃあ椿に嫌われちゃうよ?」

「むー!!椿は隼人のことなんて嫌いだよ!!」

「そうかな?嫌われてるとは思わないけど。友達なのに椿の気持ちがわからない?少なくても良い印象は持ってると思うけど」

「バラしてやる!!隼人が本当は最低最悪の極悪男だって!!」

「言ってみれば?だけど椿は実際に話す俺を見てくれると思うよ」

「ひー!!昴!!」

「……ここで僕参戦するの?」


 頭を抱えだした若菜は昴を呼び昴はひきつる顔で御免だと訴えてくる。数秒経ち、沈黙を破ったのは彩華さんだ。


「えっと?どういうこと?」


 それはそうだ。いきなり始まった喧嘩、俺と若菜の喧嘩は日常茶飯事だけど問題は内容。彩華さんは困惑の表情を隠さず俺たちに問う。


「母さん、こ「彩華さん聞いて!!」」

「隼人が私の椿にちょっかいだしてくる!!」

「だから若菜のじゃないよ」

「それにこの話し方気持ち悪い!!椿の前で良い人のふりしてるし椿いないのにこの調子でわけわからない!!好き!?意味わからない!!椿が危ない!?そうだよ、椿に酷いことしないで!!知ってるんだからね!!隼人が女の子に酷いことしてるって!!椿に意地悪しちゃ駄目!!」

「椿にはしないよ」

「信用ならない!!彩華さんこいつどうにかして!!」

「う、うん……?好き……隼人が……」

「……隼人に好きな人ができたの?」

「……お父さん!!隼人に好きな人ができたって!?」


 彩華さんと一輝さんは無言で顔を見合わせると絶叫した。


「「えーーーーー!?」」


 くると予想していた俺は耳を塞いでいた。


「え!?隼人に好きな人ができたの!?しかも相手は椿ちゃん!?なんで!?どういうこと!?あ、待って、みんなに連絡しないと、あー……なんでこんな日に美香と琉依さんはデートなのよ。もう仕方ないわね、連絡だけして、優菜と浩一さんは、あら、すぐ来るって。ちょっと中断して」


 ずっと1人で喋って最後だけ俺たちに声をかけた。こんなにも動揺した彩華さんを見るのは初めてだ。若菜がイライラしたまま昴の飲んでいた水を一気に飲み干した。

 すぐに玄関が騒がしくなって優菜さんと浩一さんが駆け込んできた。


「ママー!!」


 味方が来たと思ったのか若菜が優菜さんに抱きついた。


「隼人……本物?」


 優菜さんは若菜の頭を撫でるとすぐに退かして俺の顔に触れてきた。俺はすぐにその手を叩き落とした。


「心外だな。甥が本物か偽物かもわからないの?」

「……本物みたいだわ」

「隼人、本当?椿ちゃんのこと」

「本当だよ。本当に椿のことが好きなんだよ」


 さっきの彩華さんと一輝さんと同じように彩華さんと浩一さんも顔を見合わせた。もう家で絶叫は済んだんだろう。2人して頷くとなぜか嬉しそうに笑った。


「ささ、座って話しましょうよ。ね、隼人も若菜も」

「それよりママどうにかして!!隼人が椿に酷いことしようとしてる!!もうしてる!!」

「はいはい、良いから座りなさい」


 優菜さんは若菜を強引に椅子に座らせると自分も座り浩一さんも隣に座る。

 なんともバランスの悪いことに、俺と昴の2人の正面に一輝さん、彩華さん、若菜、優菜さん、浩一さんが座った。


「あ、待って、美香たち今日は電車でデートしてるから電話もできないの。だから私が逐一メッセージ送ってくから」


 そう言って優菜さんは携帯を見せてくる。なんて面倒なことを、と思うがまだ平気な俺は口にしなかった。


「それで?どうして隼人が椿ちゃんのことを知ってたの?若菜に友達ができたって言った時も全然興味なさそうにしてたじゃない」

「ママ!!そんなの良いから隼人をどうにかして!!」

「もう煩いわね。ママたちが聞きたいの」

「もー!!」

「ごめんね、若菜。でも、私たちもこんなこと初めてでテンション上がっちゃて」

「むー!!もう知らないもん!!」


 そう言って若菜はリビングを出ていった。ふう、清々した。


「あら、行っちゃった……」

「どうせチョコでもやけ食いしてるわよ。ほっといて良いって。それより隼人、早く早く」

「なんでこうなってるのかな、昴」

「不思議だね。若菜とのファイトは予想してたけど戦線離脱して親たちの事情聴取なんて……」


 不思議だ。親たちに知られたら厄介なことになると思ってたがこんなことになるとは……。優菜さんにも彩華さんにも急かされ、一輝さんと浩一さんも興味津々という顔をされ俺は仕方ないと思いながら白状することにした。


「若菜の友達だって知らずに会ったんだよ。夏休みの初めに学校で」

「それでそれで?」

「それで?それだけだよ」

「馬鹿隼人。一目惚れしたの?なんで会ったの?どんなシチュエーションで会ったの?」

「え、なんでそこまで赤裸々に話さないといけないの?」

「良いから話しなさいよ、命令よ」

「なん「隼人くん、訓練でしょ」……そうだった」


 なんだそれは偉そうに、いい年して恋の話に夢中になって本当に女子高生みたいだな、年を考えて化粧で誤魔化してる顔を鏡で見てみろ、と言いたかったが我慢した。


「部活の休憩時間に外にいたら椿が渡り廊下を歩いてきたんだよ。大きな段ボールを運んでるところで、俺は椿の赤くなった顔を見て童話のお姫様だと思って呆然としてて持ってたボールが椿の近くに転がっていくのに気付いて駆け寄った」

「「「「お姫様?」」」」


 お姫様?お姫様って言った?確かに言った。あの隼人が。そうくちぐちに言ってくる親たちに俺は面倒になることを言ったと思った。椿がお姫様なのは違いないがもっと端的に話そうと思った。


「あ、ちなみに隼人くんは坂下さんにリンゴを持たせてその愛らしい顔をじっと見つめて堪能してからあの真っ赤な唇にキスしたいって僕に言ってきたよ」

「昴!!余計なことを!!」


 余計に助長していくだろうと昴を叱咤するが昴は涼しい顔をしている。


「だってみんなに隼人くんの変わりようを知ってもらおうと思って」

「お「え、なに?」……なんでもない」


 駄目だ、決意したのにたびたび口調が乱れる。落ち着け、俺。


「ま、待って、昴。もう一回、衝撃的すぎて文字打てなかったわ」

「うん。リンゴを持たせてその愛らしい顔をじっと見つめて堪能してからあの真っ赤な唇にキスしたいって僕に言ってきたよ」

「ぷっ。本当に!?」

「隼人が?」

「そんなに笑わなくても……」

「だってあの隼人がなんだもん」


 4人とも楽しそうに笑っているけど俺はちっとも楽しくない。


「こっちは真面目なのに」


 そう言うとまた笑いだして優菜さんは必死に携帯に文字を打ち込んでいた。


「そ、それで駆け寄ってどうしたの?」

「で、ボールを拾ってもらって、段ボールを職員室に持っていくって言うから手伝ったんだよ。慌てて追いかけてくる椿は可愛かった。段ボールを返した時にふらついたから腰に手を当てて支えたら全身真っ赤にして可愛かった」


 あの時のことはいつでも思い出せる。いや、椿に関わることはなんでも忘れない。全部が大切な思い出なんだ。と、ここでまたしても自分が親たちを助長させることを言ってしまったと気付いてハッとする。

 4人とも今度はにやけてお互い目配せなんかして全然面白くなかった。


「そ、それで部活が終わったあとに名前を聞いてないって気付いて昴に電話して知ってるかって聞いたんだよ」

「探せって無茶言ってきたんだよ。黒髪で肌が白い女の子なんてたくさんいるのにさ。しかも無理だよって言ったら役に立たないって言ってくるし本当に酷いんだから」

「怒ってないって言ってたじゃないか」

「でも気にはしたっていったでしょ」

「だからごめんって」

「もう良いよ。えっと、それで夏休みと新学期が始まってからもずっと坂下さんを探してたんだよ。それである日若菜と一緒にいるとこを偶然見つけたらしくてね、僕の家に知ってるじゃないかって怒鳴りにきたんだ」

「え?もしかしてあの日?」

「そうだよ。で、僕がなんのことって聞いたら運命のお姫様のことだって、優菜さんみたいなこと言ってくるからびっくりしたよ。僕は隼人くんの好きな人が坂下さんだったなんて若菜に知られたら大変なことになるから協力できないって言ったんだけど坂下さんのことなんでも話せって脅してきて話したら話したでそんなに知ってるのはムカつくからもう話さなくて良いって言ってきたりで本当に面倒だったんだよ」

「あの日教えてくれれば良かったのに」

「言ったら母さん今日みたいにみんなに拡散するでしょ。そしたら若菜に知られちゃうと思ったんだよ」

「若菜に知られるだけじゃなくてこうやって面倒なことになるっていうのもわかってたし」

「あら、意地悪ね。こっちは隼人に春が来たって嬉しいだけなのに」

「面白がってるだけでしょ。それで数日経ってから思いついて昴に練習試合にさりげなく誘えって言って」

「あれ?それは言って良かったの?」

「え?あ、まずい……」

「なにがまずいのよ?」

「若菜のついでみたいに誘って、若菜に詰められても坂下さんと隼人くんが知り合いだったなんて知らなかったって言ってるんだ」

「なるほどねー。裏工作したってわけね。面白いじゃない。恋はそういうのあるわよー」

「でも昴協力できないって言ってたのにまた脅されて?」

「いや、最初はできないって言ったんだけど隼人くんが人に相談したって言うんだよ。自分が考えないことを聞いて参考になったって。今まで自分がこうだと思ったらなかなか動かなかったのに人の意見を素直に受け入れるなんてって驚いたよ。それに今まで悩み1つなかったのに坂下さんに会いたいのに会えなくてどうしたら良いのかわからなくて戸惑ってるって言ってきて、そんなこと隼人くんの口から聞くなんて初めてだったし一度引き合わせて若菜が嫌がって仕方ないなら協力しなくて良いけど客観的に見て僕がどう思うのか聞きたいって神妙な顔をして言ってくるからそこまで言うならって思ったんだよ。隼人くん僕が誘った結果を待つ間いろんなミスをたくさんやらかしてね、学校でも部活でも」

「それって琉依兄の靴はいってたって日?」

「……そうだよ。優菜さんまで知ってたの……って今さらか」

「それならシャツのボタンかけ間違えの日でもあるわねって美香が」

「……そうだね」

「それで当日会ってどうだったの?」

「うん、それが隼人くんがすごく優しくて見たことない顔で笑っててまた驚いたよ。僕思ったんだ。坂下さんは隼人くんが唯一自分を抑えずに隼人くんの優しいところを惜しみなく注いで純粋に受け入れて素直に反応を返してくれる人なんじゃないかって。隼人くんが隼人くんらしくいられる場所が坂下さんの隣なんじゃないかなって。だから協力しようと思ったんだよ。でもちょっと後悔してる。2日に1回ペースで惚けてくるんだもん。けど坂下さんにかっこいいって思われたいからって丁寧に喋るようにしたり坂下さんの好きなDVDに興味持ったり良い変化だよ」

「DVD珍しいと思ったって美香が。早く教えてくれれば良かったのにーって」

「だからさっき言っただ「言ったでしょ」……言ったでしょ」

「ふふ、それでその口調だったの。若菜が気持ち悪いって言ってた……」

「若菜がネックだからね。若菜の前でうっかりしないように頑張ってるんだよ。今坂下さんの中では隼人くんは物腰柔らかな優しくて真面目な好青年だから。隼人くんは坂下さんに見合うかっこいい男にならないとって一生懸命なんだよ。坂下さんの前だけじゃなくて普段からそうしないとって」

「あら、良い心がけ」

「……まずい予感がする」

「まずくないわよ。私たちも協力してあげる。ねえ」

「そうね。若菜には悪いけど私も隼人がそんなに椿ちゃんのことが好きなんだったら応援するわ」


 面倒なことになったと俺は項垂れる。一輝さんも浩一さんも頑張ってと言ってくれたけど浩一さんは苦笑いして別の意味の頑張れも含まれていると思った。

 俺はもう精神的に疲れてしまった。


「だいたい子供の恋愛に首突っ込みすぎ……普通の家はこんなことしないよ」

「他所は他所。うちはうちよ」

「……もう帰る」

「あ、そうなのー?じゃあねー」


 ん?なんだかやけに、すんなり帰すんだな。優菜さんの言葉に疑問を持ちながらも俺は部屋に荷物を取りに行くと家に帰った。


 家に帰ったら昨日観たのとは別の映画を観よう。金曜日に椿が教えてくれた映画を3本借りていた。そのうち1本を昨日帰ってすぐに観ていた。思った通り椿が好きだと言う映画は俺にとっても魅力的だった。椿がどんなところに注目するのかと考えながら観るのも面白かったし純粋に映画にも引き込まれた。

 そう考えながら家の玄関のドアを開ける。


「隼人ー!!」

「……帰ってたの?あ、そっか、鍵……」


 さすがに誰も家にいない時は鍵はかけているのだから誰もいないと思ってたら鍵を取り出さないといけなかったのに、と矛盾したことを思う。まずい、精神的疲労が残ってる。早くDVDを観なければ。


「琉依さんも待ってるから早く降りてきてねー」

「は?嫌だよ、疲れてるんだから」

「そんなこと言わないでー。このままリビングでも良いのよー」


 後ろに回って背中を押そうとする母さんをかわして、わかったと言いながら階段を上った。もう、まだ尋問が続くのか。うんざりした気持ちで着替えて1階に降りてリビングに入った。


「あら、今日はスエットなのね……」


 イライラ


「隼人、おかえり。早くDVD観たいだろうけどもう少し付き合って」


 イライラ


「わかってんならそっとしておいてくれよ……」

「え?」

「ん?」

「……良いよ、話すよ」


 この2人もご協力姿勢だな、と理解した。俺はおとなしく尋問に付き合うことにした。


「もう、驚いちゃったわー。早く教えてくれれば良かったのにー」

「だから「わかったわよー」……はあ」

「でも嬉しい。椿ちゃんは本当に良い子だし」

「会ったことないんでしょ?」

「でも若菜から話はたくさん聞いてるものー。ねえ、隼人は椿ちゃんのどんなところが好きなの?一目惚れだから顔?椿ちゃん可愛いものねー」

「なにもそれだけじゃないよ。椿は心がすごく純粋で綺麗なんだ。人の良いところを見つけるのが上手くて、いろんなことに興味を持ってて毎日がキラキラと輝いているんだ。だから椿が興味を持ってるものを俺も見てみたくなるんだよ。自分の話だけじゃなくて俺の話もその綺麗な心を映してるみたいなキラキラした瞳で聞いてくれるから話すのが楽しくなって、椿はすぐ興味を持つから話がそれたりするけどそれも楽しくて」


 しまった。椿の良いところは顔は当たり前だけど他にもたくさんあるんだとつい語ってしまった。


「そう、楽しいのね……」

「え!?なんで母さん泣いてるの!?」


 慌ててテーブルに乗ってるティッシュボックスを滑らせて母さんの目の前に持っていった。


「ありがとう……うわーん……」

「わわっ、なんでもっと泣くの?」

「美香は嬉しいんだよ」

「なんで?」

「隼人が楽しいって思ってるからだよ。なにかをしたいって思うのが嬉しいんだ、美香も僕も」

「……なにそれ?」

「ふふ、わからなくて良いのー。嬉しいのー」

「……ふーん」


 母さんは泣きながら笑ってる。やっぱり器用なのか不器用なのかわからない。いや、不器用なのは事実だ。


「もう良い?聞きたいのそれだけなら行くよ?」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさーい」

「おやすみ」



 もう、いったいなんなんだと思いながらささっと風呂に入ってDVDを観た。

 そして椿と感想を話すのを想像しながら眠りについた。





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