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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
20/136

嵐の前


 始まりは一目惚れだったけど椿と話して椿のことを知るたびに椿への想いは大きくなる一方だった。お姫様のように可愛らしいのは変わらないけど椿が俺に親近感が湧くと言ってくれたように俺も椿が特別な存在ではなく近い存在になっていた。

 そうは言っても俺と椿はまったく違う。俺と違って椿は純粋で綺麗な心を持っていて本物の清廉潔白さがある。いろんなことに興味を持ってとことん突き詰めていくところがある。その人がなにを思ってこうしてるのかをちゃんと感じてその人の良いところを見つけることができる。椿が人を嫌うことなんてあるのだろうか……映画の悪役ですら良いところを見つけてしまうんだからないのかもしれない。椿からしたらどんな悪者も良い人になってしまいそうだ。

 俺は今までなんでもできてしまうせいでいろんなことに興味を持てなかった。面倒なことばかりでうんざりする毎日を過ごしていた。だけど椿は俺がつまらないと思う毎日をとても楽しそうに過ごしている。いろんなことに興味を持つ椿にとっては毎日がキラキラと輝いているような気がする。それが俺にとっては眩しくもあり羨ましくもあった。もっと椿から見る日常を知りたいと思った。椿の興味を持つものはすごく楽しいものな気がする。実際椿が勧めてくれた映画は俺にとってもすごく面白いものだった。椿が見るもの椿が経験したものはどれも楽しくて面白くて魅力的な気がする。




 金曜日、俺はいつものように椿と渡り廊下で会った。


「むー!!また来たー!!」

「こんにちは」

「先輩!!こんにちは!!」

「坂下さん今日はテンション高いね。楽しいことあった?」

「あ、いえ……。そういうわけではないんですけど」


 またなにか楽しいことがあったのかと、それを聞けるのが嬉しいと思ったけどそうではないらしい。それならなんで嬉しそうなんだろうか。


「えっと……あの、この前DVDの話先輩にして楽しかったので他にも共通の観た映画があればと思ったので……男の人が好きな映画を調べてみたんです」

「え……?」

「椿それで今日そわそわしてたんだ!!全然私の話聞いてなかった!!」

「わ、若菜ごめん……。あの、だから調べて私が観たことある映画をピックアップしてみたんですけど少なくて……」


 例えば、といくつか映画のタイトルを挙げていく椿。つまりなんだろう。俺と話をするために調べてくれたのか?ああ、でも残念ながら椿が挙げた映画は映画館で観たもののあまり印象に残っていないものだった。


「ごめん、映画館で観たんだけどあんまり覚えてなくて」

「あ、そうなんですか?ふふ、先輩は映画館で観る派なんですね。あ、じゃなくて、男の人はアクションものが好きみたいですね。そしたら私が好きな映画なんですけど……」


 そしてまたいくつか挙げていく椿に俺はなにか込み上げてくるものがあった。


「観たことないけど観てみるよ。そしたらまた話そう」

「え、わざわざ良いんですか?」

「うん。俺がそうしたいから」

「なんだか無理やり強制しちゃったみたいですね……」

「いやいや、そんなことないよ。坂下さんが好きな映画、興味ある」

「本当ですか?」


 そう言って顔を赤くして小さく良かった、と呟く椿を抱き寄せたくなる衝動に襲われる。可愛すぎる。

 だけどそんな甘い雰囲気を初めから無いものとしていた存在が邪魔してきた。


「隼人と映画の話なんてしても楽しくないのに!!」

「え、そんなことないよ」

「もう話済んだでしょ!!行くよ!!」

「あわわ!!じゃあ先輩また話しましょうね!!」


 若菜に手を引かれて慌ただしく走っていく椿に手を振る。









「というわけで、日に日にもっと好きになっていくんだよ」

「あーそう」

「あれ無自覚なのかな?なんであんなに真っ赤にして控えめに喜ぶんだろう。すごい楽しそうに話してたと思ったら良かったって小さい声で。あ、だからカミーリアなのか。控えめな素晴らしさだもんね。でもなんであんなに可愛いのかな。俺もう少しで抱き締めるとこだったよ」

「良かったね。実際にやってたら嫌われてたよ」

「いや、きっとまた天然なこと言うに決まってる」

「抱き締められるのをどう勘違いするっていうの?」

「んー……あ、そうだ。クォーターだからハグは挨拶なんですね、みたいな」

「なるほどねー……そんなわけないでしょ」



 俺は今昴の家でテスト勉強中だ。部活はテスト前だから今日も明日の日曜日も休み。午前中からずっと昴と勉強をして、椿の話をして、勉強をして、椿の話をして、椿の話をしている。


「はあ……。カミーリアは今どうしてるかな」

「だから若菜とテスト勉強してるってば」

「なんの勉強してるかなー……」

「なんだろねー」



 それからまた1時間ほど話しながら勉強しているとドアをノックされた。そして彩華さんが夜ご飯が出来たと教えてくれたから俺たちは一旦話も勉強も中断して部屋を出た。


「今日はさばの味噌煮。隼人好きでしょ」

「うん。ありがとう」

「さば……。そうだ、隼人も釣り行かない?」

「また誘われたの?行かないよ」

「だよねー。昴も行かないよねー」

「行かないよ。父さんもそろそろ諦めて素直に行きなよ。もう慣れたでしょ」

「そうなんだけどアグレッシブで疲れちゃうんだよね」

「あら、それなら佐伯さんの今度の趣味は良いじゃない。釣りなんて吊るして待ってるだけでしょ?」

「お母さんはなんにもわかってないよー」

「そう?」

「引きがきたらもうおりゃーって動かさないといけないし網をすぐに差し出さないと逃げられちゃったり……」

「お父さんには難しそうね」

「やる方はなんでも向かないんだよねー」


 久しぶりに会った一輝さんは相変わらず。一輝さんの会社の上司の佐伯さんという人は多趣味な人で何ヶ月かの周期でハマる趣味が変わる。のんびりとしてる一輝さんは佐伯さんのアグレッシブさについていけないと言うけどこっちに引っ越してからずっと良くしてくれてる人だそうでなんだかんだ言いつつよく出掛けてる。たまに理由をつけて断ってるけど。

 ちなみにキャンプに行く時の釣り担当は浩一さんで父さんは母さんが火で火傷しないように見たり雑用係、一輝さんがなにをしてるかと言うとよくわからない。俺がついていってた時は川で遊ぶ若菜が昴と無茶しないようにただ見てる役とか、そうしてるかと思えば写真でみんなを撮りまくっていたり。この人はこの人で天然で不思議だ。でも子供っぽくはある。若菜が遊んでと言えば一緒に川に入ってくるし。

 俺と昴が苦笑いしながら話を聞いていると昴がそばに置いていた携帯を見て小さく声を上げた。


「どうしたの?」

「なんかヤバイかも……」

「なんで?」


 隣に座ってる昴が小声で喋ってくるから俺も合わせる。


「若菜から、隼人くん今どこにいるのってメッセージが……」


 来たか。遅かったな、すぐに乗り込んでくるかと思ったら、と思ってると昴がどうしようと聞いてきた。


「返り討ちだよ」

「……そう。じゃあうちにいるって返すね。戦場はうちか……」






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