表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
18/136

綺麗な心



「カミーリアは今日も可愛かった」

『……うん、良かったね』

「おい、もっと嬉しそうに言え」

『口調』

「……嬉しそうに言ってよ」

『で、今日はどうしたの?』

「それが放課後に2人きりで話したんだ」

『え、そうなんだ。良かったね』

「だからもっと喜んでくれても良いだ……良いでしょ」

『だって2日に1回のペースで連絡してきて毎回同じことしか言わないじゃない』

「いつも可愛いんだから仕方ない……よ」

『はいはい』

「で、放課後話したんだけど、どうにも若菜に関わることを話そうとすると普段の少し口調が柔らかい版になるだけで変えられないんだ。主人と仲良くするやつに容赦なく吠えまくる忠犬、とか」

『ああ、そう……。あ、でも坂下さん昨日廊下で会った時隼人くんと若菜は喧嘩するほど仲が良いっていうのみたいで見ていて面白いって言ってたよ』

「え、そうなのか?じゃあ無理に直さなくても良くないか?」

『いや、それ抑えてるからでしょ。普段通り言い合ってたら引くレベルだから』

「駄目か。どうにもうっかりするんだよな。それにからかうとすぐ真っ赤になるからからかいたくなるんだよ」

『隼人くん、知ってる?小学生の男子が好きな女の子をいじめたくなるのと変わらないよ』

「そうか?」

『そうだよ』

「でもわかりやすく反応してくれるともっと言いたくなるんだよな。どんどん赤くなって、触れたら熱いかな?」

『触っちゃ駄目だからね。変態で捕まるから』

「大袈裟な。触るくらいで変態言うなよ」

『気持ちがやましいからアウトだよ』

「きっと椿なら頬っぺたに手を当てても、熱ありそうに見えますかーなんて言いそうだ」

『いや、もう話しかけるな、この変態って言うと思うよ』

「そんな馬鹿な」

『試しにやってみようとか思わないでね』

「わかった、わかった。俺だって危ない橋は渡らない。ただでさえ今日肩が触れるくらいに座ったら引かれたんだから」

『もうやってた!!訴えられても援護しないからね』

「いや、俺もカミーリアがカミーリアらしく真っ赤になってるのを見てしまったと思ったんだから不可抗力だ。自然にやっちゃったものは仕方ない」

『そんな言い訳通用しないから』

「まあ、引かれたくないからもう気を付けることにした。……指でつんって触るのも駄目か?」

『絶対駄目』

「そういうもんかー」

『そういうものだよ!!』





 というやりとりを経て水曜日。俺は中庭のベンチで水を飲みながら椿を待っていた。歩いて来た椿に手を振る。


「隼人の馬鹿ー!!」

「おっと、危ないよ……」


 会って早々殴りかかろうとするし馬鹿しか悪口が出ないなんてやっぱり若菜は頭が悪い。


「先輩、若菜はちょっと今拗ねてるんです」

「そうなの?」


 大変だ。若菜の話なんて心底どうでも良いが椿が困った顔をしているから助けてあげなければ。


「はい。さっき社会の授業だったんです。若菜はいつも先生を怒らせてばっかりでいつもは先生も許してくれるんですけど今日は堪忍袋の緒が切れたって言って放課後は若菜のために補習授業だって」

「そんなことしなくても私頭良いもん」

「そうだね、テストの成績良いよね」

「だから行かない!!」

「駄目だよ。せっかく先生が時間作ってくれるって言ってくれたんだから。先生の授業わかりやすいし羨ましいなー。あ、私も一緒に補習受けようかな」

「え、ほんとー?」

「うん!!私補習授業なんて初めてだよ。なんだかドキドキするね」

「椿は優等生だから!!私は何回もあるよ!!」

「そうなんだーすごいね!!」


 待て待て待て!!椿可愛い!!なんだこのフワッとした会話は!!椿が可愛い!!母さんたちの会話はうざったくなるのに椿が話してると癒される!!

 いや、癒されてる場合ではない。でもいったいなにからツッコミしたら良いのやら。俺の頭もフワッとしてしまっている。


「えっと、とにかく坂下さんは行かなくて良いんじゃない?言われたの若菜なんでしょ?」

「やっぱり駄目ですかね」


 う……。がっかりした表情で笑う椿が可愛すぎて駄目と言えない。


「んーと、ほら先生って谷本先生でし「あれ?何で知ってるんですか?」俺も谷本先生の授業受けてるんだ。去年からなにかと話すことが多くてこの前若菜に困ってるっていうのも聞いたよ」

「へーそうなんですか!!」


 この前もそうだったけど椿は興味があることに反応が良い。でもこれでは話が進まない。もっとゆっくり話せる時なら全然大歓迎なのにもったいない。


「谷本先生の授業って俺でも退屈しちゃうよ。若菜に付き合ってくれる必要ないよ」

「え?」

「ん?」


 なんでここできょとんとされるんだろう。口の悪いことはなかったと思うけど。そう思っていると椿はクスッと笑う。


「先輩って退屈だなーって思うんですね」


 しまった、これも今までのイメージに合わないのか。やってしまったと思ったけど椿はまだニコニコと笑ってる。引かれたわけではないのか?


「あ、別にだからなにってことはないんですけど、えっと、親近感が湧くというか。先輩ってすごく真面目そうなのでギャップです」

「え、そうなの?」


 俺の場合これはギャップといえるのかどうかはわからないが良い印象だったんだから良いだろう。


「真面目じゃないよ」

「そうだそうだ!!隼人は真面目じゃない!!嘘つきだ!!」


 椿が補習に付き合うと言ったからか若菜がいつも通り騒ぎだした。まったく、ずっと拗ねてれば良かったのに。


「もう、若菜はまたそんなこと言って。あ、そうでした。私も谷本先生の授業は退屈だなって思う時もありますけどすごく魅力的な授業だなって思います。先生って私たちが理解しやすくなるようにすごく工夫して授業してくれてるんです。教科書や参考書に載ってないことまで話してくれて、だから長くなってみんな眠くなったり退屈だなってなっちゃったりするんですよね」

「へーそれは知らなかった」

「先生の話教科書に載ってなくて、テストに出るわけではないんですけどその時代の様子がわかってすごく面白いんです。本屋さんに行ってみても参考書に載ってなくて結局先生に直接もっと詳しく話をしてもらったり」

「坂下さんがすごい真面目すぎる」

「え、そうですか?でも興味があるものだけですよ」

「誰も気に止めないところに興味持つね」

「ふふふ、そんなこと言ったら谷本先生がショック受けちゃいます」

「でもこの前の映画のだってそこまで人が気にしないところまで深く読み取ってたし」

「なんだか気になったらとことん気になっちゃうんですよね。周りが見えなくなるので若菜にもよく怒られてます」

「きー!!今も怒ってるよ!!」

「え、どうして?」

「長いって!!早めに来てたけどもう1分もないから遅刻!!」

「え、本当だ!!大変!!それじゃあ先輩、また今度!!」

「うん、またね」



 俺は椿を誤解してたかもしれない。谷本先生に気を使ってお世辞を言っているだけだと思ってたのに聞いてみれば椿は心から先生の授業を楽しんでいるようだ。しかもその授業の話に興味を持って本屋にまで調べ、そのうえ先生に聞きに行くとはそんな優等生が本当にいるとは思わなかった。昴に言ったら嫌味に聞こえると言ってきそうだが俺は本当に良い意味ですごいと思ってる。

 椿の心は現実の人でも架空のキャラクターでもその人がなにを考えてそうしてるのかその人の良い所を自然に見つけられるとても純粋で綺麗な心だ。裏も表もなさそうで……。椿の前だけじゃ駄目だという昴の言葉を思い出す。昴に言われたからじゃなく本心からそう思うと決意を新たにした。

 帰ってすぐに昴に電話をかけた。



「昴、俺は裏表ないかっこいい男になろうと思うよ」

『は?だから前からそうしなって言ってるじゃん。……って……思うよ?』

「俺自身がそう思ったんだよ。カミーリアに見合う男になるにはカミーリアみたいに裏表のない清廉潔白さが必要だって気付いたんだ」

『なんか改心してる!?また進化した!?隼人くんいったいどこ行くつもり?』

「まずは昴、知ってることは正直に話してね」

『自然なのは自然で怖い……』

「カミーリアは俺のことを真面目だって言ってた。でも俺はいつもからかってたから真面目な印象は少し違和感があるんだよ。なにか話したよね、昴」

『あれ、なんでだろ。口調は優しくなってるはずなのに今までと威圧感は変わらない気が……』

「余計なことを喋ってないか確認するから3秒以内に全部言ってね。3、2」

『あんまり変わってない!!えっと!!隼人くんと出会う前に話してただけだよ!!』

「なにを?」

『えっと、えっと、テスト勉強を3人でするってなった時にね、坂下さんに普段はどうしてるのって聞かれたんだ。だから普通に幼馴染みが頭良くて教えるのも上手いから練習問題作ってくれるんだよって答えてて。それでついこの前坂下さんに、あの時言ってたのって先輩のことだったんだね、練習問題作って教えてくれるなんてすごく真面目で優しいんだねって言われたんだ。だからじゃないかな、真面目な印象』

「どうしてそれをすぐ言わなかったの?」

『だって隼人くんめちゃくちゃ浮かれそうだったし。言わずに坂下さんに嫌われそう、引かれそうって思わせてた方が大人しくしてるかな、なんて……えへへ』

「ふーん」

『ねえねえ、そっちの方が逆に怖い。なんか電話で話してるだけなのに寒気がしてきたんだけど』

「まあ、良い報告だったから咎めないよ」

『うんうん。それで、それ坂下さんがいない時の若菜にもできたら完璧だね』

「難しいだろうね」

『え、改心するんじゃないの?清廉潔白は?』

「ムカつくものをムカつかないようにはできないよ。俺なりの清廉潔白を目指すんだよ」

『そ、それはそうだね。……もしかしてもっといつもみたいにガーって言いたいのを我慢してるとさっきみたいになってる?』

「さっきみたい?」

『すごい寒気がしたよ。お化け屋敷とか恐怖体験してるみたいな。威圧感で同じ現象起こすなんて隼人くんヤバいよ』

「そうかな?でも理性を総動員してる感じはする」

『そんなに我慢が必要なの、それ』

「でもカミーリアのためなら頑張る。最大の敵は若菜と優菜さんだね」

『あー、そうだね。すぐファイトしちゃうもんね。ゴング鳴っちゃって。なんか今日穏やかに話してるなって思ったらいきなり戦い始めちゃうし』

「戦い……そうだね。特訓が必要だね。ちょっと考えるよ。じゃあ昴、またね」

『あ、えっと、うん。頑張って……』




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ