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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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距離を縮める日々


 そして水曜日。俺は自販機で水を買って中庭で少し時間を潰していた。しばらくすると椿が来た。


「あれ?坂下さん」

「こんにちは、佐々木先輩。飲み物を買いにですか?」

「そうなんだよ」

「校舎にあるでしょ!!なんでこっちまで来るの!?」


 なんと。すぐに気付くとは俺の更生のおかげだな。だがしかし考えてある。


「向こうすごく並んでたんだ。だからこっちまで」

「そうだったんですか。昨日までは涼しくなってたのにまた暑くなってきましたもんね。みんな買ってるんですね」

「そうだね。そうそう、昨日DVDが好きって言ってたよね?どんなのが好きなの?」

「んーいろいろ観ますよ。恋愛映画もミステリーもサスペンスもSFも。あ、この前は新作のSF映画を観ました。すごく評判良かったので楽しみにしてて面白かったです!!」


 好きなことを話しているからか興奮して楽しそうに話す椿になんて映画?と聞いてタイトルを聞いた。


「あとはホラー映画なんかもたまに観ますよ」

「怖くないの?」

「怖いもの見たさで。ふふ、でも結局所々目を瞑ってしまうんですけどね」

「可愛いね」

「え、かわ、可愛い?」


 しまった。キョトンとする椿に焦る。調子に乗って引かれたか?


「この前みたいにからかってるんですね!!可愛くないですから!!」

「えーそんなことないけどな」

「やめてください!!」


 椿は天然だった。からかわれたと思って顔を真っ赤にして反論してくる椿がただただ可愛い。もっと言いたくなったが背中に軽いパンチが入る。


「え!?若菜駄目でしょ!!」


 馬鹿若菜め。そんなへなちょこパンチで俺がダメージを食らうか。普段なら倍以上の力でやり返すところだが椿がいるからできない。


「駄目じゃないもん!!」

「駄目だよ!!先輩大丈夫ですか!?」

「平気平気。若菜は昔からこうやって遊んでほしいってせがんでくるから」

「そうなんですか?仲良しですね」

「なんなの!?こんなの隼人じゃない!!気持ち悪い!!」

「どうしたの若菜、そんなこと言って。先輩は優しいでしょ。遊んでほしいなら叩かないで遊んでって言わないと」

「ち、がーう!!どうなってるのー!?」

「あ、坂下さん。そろそろ時間だよ」

「ほ、本当ですね。じゃあえっと……」

「またね」

「あ、はい。また……」


 手を振り合ってお互い次の授業の教室へと歩いていった。





 そして俺は部活帰り椿に聞いたタイトルのDVDを借りてきた。


「隼人お帰りなさい。あら?」

「ただいま。……なに?」

「DVD借りてくるなんて珍しいわねー」

「ん、まあね」


 別にDVDくらい借りるだろ、と思うが昴が置いていくDVDを観るくらいで自分で借りに行くなんて1度か2度程度だ。母さんが不思議に思うのも仕方ない。適当にはぐらかした。今週は帰りが遅くなるから観るのは土日だな。








 そして金曜日は今までと違って俺が1号館の方から、椿が2号館から歩き鉢合わせた。


「坂下さん、こんにちは」

「こんにちは、佐々木先輩」

「また来たのね!!このストーカー!!」

「酷いな。偶然だよ」

「そんな嘘が通じるわけないでしょ!!」


 俺は自然に優しい感じで若菜をあしらうのが上手いと思う。どうだ、昴、すごいだろ。


「坂下さんって食べ物はなにが好き?」

「え、いきなりですね。食べ物ですか?えーと、オムライスとかですかね。子どもっぽいですか?」

「そんなことないよ。可愛い」

「え!?可愛い!?」


 天然の椿は可愛いと言ってもからかわれてるだけだと思うから、可愛いと思った時に可愛いと言ってもあたふたするだけだとわかった。このあたふた慌てる様子がまた可愛い。


「この前椿は私と2人で2時間待ちの洋食屋さんに行ったんだよねー。隼人行列嫌いでしょー。隼人とは美味しい人気のお店に入れないけど私となら行きたい放題だよー」


 若菜が椿の手を両手で掴んで左右に振ってそう言う。そうやって俺にボロを出させようとしても無駄だ。


「坂下さんのためだったら2時間待ちでも4時間待ちでも並ぶよ。若菜と昴と並ぶと喋りっぱなしで疲れるから嫌いなの。保護者になってる気分だよ」

「いーや、保護者ポジションは昴だから。わーわー煩い隼人を宥めてる昴が一番大人だから」

「きーきー煩いのは若菜だよね」

「きー!!授業遅れる!!椿行こう!!」

「え、うん!!先輩、失礼します」

「バイバイ」


 ……どうだろう。言い過ぎただろうか。いや、でもいつもはあの何万倍も言い合いするからだいぶ抑えたんだけど。それに口調はやんわりしてたし大丈夫……なはず。これで椿に引かれてたらどうしてくれるんだ、あのチビザル。キーキーうるせえんだよ。






 土曜日の部活の後、夜ご飯を食べてから借りてきたDVDを観ることにした。

 だけどそこでふと思う。俺は映画や小説の類いで感動したりしたことがない。へー、といくつか観ると同じようなストーリーで同じような展開をして終わりはだいたいこんな感じとパターンがわかってきて興味がどんどんなくなってしまった。今では昴が置いていって観てと強制してきたものを観たり、クラスメイトから勧められた映画を試しに映画館に観に行ったりするくらいだ。

 このDVDを観て面白いと感じなかったら椿になんて感想を伝えれば良いんだろう。いや、観るとは言っていないから言わなきゃ良いのか。でも出来れば面白かったと伝えてこういうところが良かったと話を共有してみたい。もし面白くなかったと正直に話してしまったら感受性の低いつまらない男だと思われてしまう。どうしよう。いや、待て俺。まずは観てから考えよう。



 結局その映画はとても素晴らしかった。映像がすごく綺麗だったしストーリーはありがちなものだったけどキャラクターが個性的で面白かった。

 これで椿と話が盛り上がるはずだと良い気分になった。だけどなぜだろう。例え評判の良かった作品だといっても俺がこんなにすごいと思うなんて。椿の興奮した話し振りを思い出す。そうか、椿が面白いと言ったからだ。昴がいたら、そんな馬鹿なと言ってくるだろうが間違いない。椿が面白いと思うものは俺にとっても面白いに違いない。そう確信するともっと椿が面白いと感じるものを知りたいと思った。

 そして次は昴に電話して若菜の様子を聞いてみた。


『なんかね、やっぱり混乱してるみたい。なんで隼人くんが坂下さんに近付くのかもわからないし、変なこと言ってて気持ち悪い、意味がわからないって』

「あいつは予想外の出来事への対応力が相変わらず鈍いな……ね」

『いや、いきなり絵本取り上げて放り投げられたりアルを壁に叩きつけられたり、そんなことばっかりされたらショックでパニックになるでしょ』

「こういう時のために鍛えてやってたっていうのに困ったやつ……ガキ……」

『もっと悪くなってるから……。違うでしょ。ただムカついて苛めてただけでしょ』

「そういう時もあったか?」

『9割そういう時だよ』

「そうかー」

『で、とにかく隼人くんのせいで椿に怒られたからアイスを食べに行って機嫌直してもらったんだって。っていっても坂下さんは別に怒ってたわけではないんだけど』

「今日はまた涼しくなってただ……でしょ。そんな日にアイスなんて食べるのか……食べるの?」

『アイスなんていつ食べても良いでしょ』

「そうか?」

『うん。それでね、明日は坂下さんの家に招待してもらったんだって。やっぱり坂下さんは自分が大好きなんだって喜んでたよ』

「そーか。初めて友達の家に遊びに行けるのがそんなに嬉しいか。良かった良かった」

『馬鹿にしてるのわかるよ』

「わかるか?」

『当たり前でしょ』


 と、そんなやりとりをして日曜日も部活をして週末はそうして過ぎていった。

 

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