何年経とうが誰にも言うな
あのあと部活で誠司と話して閃いた案を昴に言うため、家に帰った俺は話途中の母さんの話を急いでるからと遮って部屋に入った。
『はいはーい。今日のことなら若菜に聞いてるよー』
昴に電話をかけるといきなりそう話し出した。
「そうか、俺もあいつが邪魔で文句を言いたかったんだ」
『若菜にいったいなんなんだって、土曜日のことも隼人くんの仕組んだことだったのかって詰め寄られたよ。はぐらかすのに苦労したよー。なんで隼人くんが接触してくるのかわからなくて混乱してるみたい。いつか乗り込んでくるかもね』
「そうか。じゃあ煽ることになるだろう」
『なに?怖いんだけど……』
「昴、3組の時間割りを入手して移動教室がある教科をリサーチしてこい」
『え、え?なにそれ?恐ろしいことが起きそうな予感がするんだけど』
「良いか?今日は偶然出会えた。けど今まであんなに探したのにこの確率は割に合わない。校内で接触できるのは渡り廊下だ。間違いない。全部渡り廊下で会ってるんだからこれは運命だ。偶然がなかなか起きないなら自分から偶然を起こさないといけないよな。そういうことだ。わかるな?」
『え!?もしかして待ち伏せしようとしてる!?っていうかそれ運命でも偶然でもなんでもないよ!!ストーカーだよ!!』
「そんなことないだろ。バレなきゃ良いんだよ」
『なんなの?この前は嘘つくのは嫌、装うのは嫌って言ってたのに!!』
「毎回毎回若菜に邪魔されてみろ。全然満足に話せないじゃないか。それならどうにかしてでも会う回数を多くするしかないだろうが」
『だからってこれじゃ犯罪だよ。協力するとは言ったけど犯罪に加担するとは言ってないよ!!』
「なに言ってるんだ。なにもないのに待ち伏せするってわけじゃないんだぞ。前後の授業で移動教室のタイミングがあれば入れ違いで偶然会えるだろ。通るってわかってれば待ってれば良いし、もしあんまりそういうタイミングがなければ近くに自販機があるだろう。あそこに飲み物を買いにいく用事で行けば良い。移動教室が毎日あるとか俺がなにかの事情でクラスメイトに捕まって行けないとかもあるだろうしなにも毎日ってわけじゃないんだぞ。これがストーカーと言えるか?言えないだろう。でも一応俺と昴と誠司だけの中に止めておけよ。今後何年経とうが誰にも言うな。はぐらかすんだぞ」
『自分でも思ってるでしょ、それ!!言えないけどね!!っていうかやらないし!!』
「いや、昴ならできる」
『できるできないの問題じゃないよ!!』
「昴、ミッションだ」
『それで素直に言うこと聞いてたの小学生の時までだから!!』
「チッ」
『舌打ちしない!!本当になんで坂下さんの前では暴走しないの!?』
「困ったな……。昴だけが頼りなんだけど。こんな俺でも慕ってくれる昴にいつも感謝してるし一番信頼してる。昴はどんな俺でも理解して受け入れてくれるって信じてたんだけど……」
『そうだった。隼人くんにとって二度とない運命の出会いだもんね。出来ることはなんでもやってみないとね!!』
「よし、言ったな。頼んだぞ」
『しまった……。いつも通り乗せられてしまった……』
「自分の言ったことに責任を持つんだ。昔からよく言ってるよな」
『うん……。やってみる。絶対僕がやったって言わないでね』
「言うわけないだろ。昴は本当に良くできたやつだな。偉いぞ」
『幼稚園とか小学生の時はそれで僕がどれだけ喜んだか……』
「あてはあるか?」
『うん、まあ。3組に友達がいるから聞いてみるね。でもすぐ返事来るかな……1時間くらい待ってて』
「わかった」
そう言って電話を切って上機嫌で風呂に入ったりテスト勉強をしたりしていると携帯が鳴って画像が送られてきた。それにざっと目を通すと電話をかけた。
「さすが昴だな」
『うん……』
「どうした?」
『当然だけどなんで?って聞かれたから家族に頼まれて若菜の素行調査みたいな感じって答えたらそこまでするほど小西さんのことが好きなの?束縛も酷くなると嫌われるから気を付けてって言われたよ。隼人くんのせいで僕が危ない人認定だよ。危ない人は隼人くんなのに……』
「そうかそうか。それは可哀想に。大丈夫だ。あいつも昴が好きなんだからお互い様だ」
『そういう問題じゃないよ』
「で、昴。この選択の授業はなにか知ってるな?」
『うん。若菜も坂下さんも美術だよ』
「そうか。それで移動教室は月曜の5限と選択の火曜日3限とあとは?」
『あとは水曜日の2限と金曜日の4限だって』
「やっぱり毎日あるわけじゃないか」
『そうだね。……本当にやるの?』
「今日は偶然だったから月曜は自販の日だな。でも火曜日と金曜日は自然に会える。水曜日も自販だな」
『それ自然に会えるの2日だけじゃない。思ったんだけど自販機っておかしいよ。校内にも近くにあるじゃない。中庭にある自販機って甘いジュースとかカフェオレとか水しかないよね。隼人くんカフェオレも駄目でしょ?水しかなくない?若菜がおかしいって気付くよ』
「ごまかす」
『無茶だと思うけどなー。どうせやるんだろうけど』
「大丈夫大丈夫。助かった。ありがとう」
『はーい。じゃあまたね』
「ああ」
よし、さっそく明日だ。
そして火曜日、2限が情報の授業だから終わってからクラスメイトに用事があると言って先に教室に帰ってもらい、時間をずらして教室を出ると階段を降りて角を曲がる。
「よし」
思った通り椿に会えた。思わず小さくガッツポーズをしてしまった。今日は心の準備もばっちりだし最初から普通に話せる。
「坂下さん、こんにちは」
「あれ?佐々木先輩偶然ですね。こんにちは」
一瞬驚いて見せた椿はすぐに笑って言ってくれた。
「なんで!!」
「若菜?どうしたの?」
「どういうつもりなの!?」
若菜が詰め寄ってきたが予想通りだ。問題ない。
「どういうつもりって?前の授業が情報だったんだよ。偶然だね」
「むー!!」
「坂下さん」
「あ、はい」
「坂下さんの好きなことってなに?」
「はい?趣味ってことですか?えっと……DVD観たり本読んだり、カフェ巡りとかも好きですよ」
「そっか。映画派じゃなくてDVD派なんだ?」
「映画館で観るのも好きですけど家でリラックスしてDVDを見る方が好きです」
「坂下さんはテレビに近付きすぎてお母さんに怒られてそうだね」
「え!?なんでわかったんですか!?って、昔はよく怒られてましたけど今はそんなことしませんよ!!」
「怒られてたんだ」
「あ!!からかったんですね、笑わないでください!!」
「ふふ、そんな気がしたんだ」
「もう!!恥ずかしいです……」
ひぃ……。赤くなった顔を必死に仰ぐ椿が可愛すぎる。椿の趣味はDVD観賞、読書、カフェ巡り。映画は映画館ではなくDVD派。椿に聞きたいこと1と5はクリアだ。2の好きな食べ物を聞こうとしたら若菜が奇声をあげてきた。
「もーダメダメ!!椿行こう!!」
「え、でも……」
時間切れか。仕方ないな。
「引き止めちゃってごめんね」
「い、いえ……」
「じゃあまたね」
「ま、また……」
俺が手を振ると恥ずかしそうに手を振り返してくれた。
家に帰ってから椿に聞きたいことリストを更新した。
好きなDVDと本のジャンルとどんな場所にカフェ巡りをするのか。明日は先にこれを聞こう。今日の話を受けてという感じがする。それで帰りにレンタルDVDショップに借りに行こう。




