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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
123/136

ネックレスに願いを



「先輩、ごちそうさまでした」

「うん」


 外に出ると椿が俺の前に来てそう言ってくれた。すみませんじゃなくて良かった。


「このあとどうする?隼人くんなにも見てないでしょ?」

「いや、良いよ。もう帰らないと時間が」


 21時に間に合わなくなっちゃうでしょ、と昴に言おうとすると椿が首をかしげて言う。


「え?先輩このあと予定あったんですか?」

「ないよ?そうじゃなくて門限があるでしょ」

「……そのことですか」


 何故か恥ずかしそうにする椿に不思議に思っていると若菜と昴がこそこそ話す。


「出たよ椿の門限……」

「僕たちだけじゃ考えもしなかったね」

「今までは今まで。これからは駄目なの。……そうだな、10分くらいなら見ても良いよ。行きたい所ある?」

「短っ!!なにもできないじゃん!!」

「そもそも坂下さん送っていくから2人は電車で帰ればいいでしょ」

「ダメダメ!!椿と一緒に帰るの!!」

「じゃああと9分以内で」

「椿!!そこのお店!!」

「え!?」


 行きたいところはあるかというのは椿に聞いたのに若菜は椿の手を引いて正面の店に走っていった。大学生の時もこの店に入ったなと思いながらすぐに俺も中に入る。


「わー!!綺麗ー!!」


 そう感嘆の声をあげる椿。手を引いて一緒に入ったのに1人で奥に行くじゃじゃ馬みたいな若菜に今がチャンスだと椿が立ち止まったすぐ隣に立つ。ネックレスに惹かれたみたいだ。


「綺麗な色だね」


 そう言うと椿は肩を震わせる。


「綺麗ですねー」


 赤い顔してなにもなかった風に装ってる椿に顔を近付けてみる。


「緑好きなの?」


 椿が見つめていたのは緑色のしずくの形をした石のシンプルなネックレスだった。パンダのストラップも緑色の服を着ていた。


「そうですね。モノトーンが好きなんですけど差し色でとか、なにか色を選ぶ時は緑が多い気がします」

「そっか。それ買うの?」

「んー……。いえ、大丈夫です。あんまりアクセサリーとか付けないですし」


 と、その時若菜が店の中だというのに大声で椿を呼ぶ。おい保護者、ちゃんとしつけをしろ。ってあれ?昴はどこにいるんだと思ったら店の外で電話をしていた。


「あ、ちょっと行ってきますね」

「うん」


 椿は若菜の元に行ってしまった。今は若菜が1番でもすぐに俺が椿の1番になるんだと思いながら笑って見送る。そして椿が見ていたネックレスを手に取る。偶然かな、物は違うだろうけど大学生の時目についたネックレスとよく似ている。アクセサリーはあまりつけないと言ってたけどこのネックレスは椿によく似合いそうだ。可愛い椿がもっと可愛くなるだろう。そう思うと見てみたいという気持ちになってくる。つけないと言ってたけどプレゼントしたらつけてくれるかな。このネックレスをあげたら椿は笑ってくれるかな。喜んでくれるかな。そうだ、これをプレゼントして来週つけて来てくれるように言ってみよう。来週椿に付き合おうって言うんだ。昔からずっと好きだって。悩んでることはまだわからないけど解決してずっとずっと一緒にいたいって。再会してすぐに願いを込めて書いた名刺は渡せなかったけど今度こそ渡そうと、俺の気持ちが伝わりますようにと願いを込めてそのネックレスを買った。


「ん、また思い込みで突っ走ってるね」

「思い込みじゃないよ」


 ネックレスを鞄にしまって店の外に出て電話を終えていた昴に俺の考えを話した。


「頭フル回転させて考える時に美香さんのことを思い出すとこがまた隼人くんらしいね」

「なに?俺はマザコンじゃないよ?」

「はいはい」

「で、さっきの話は?」

「うん、あとで話すよ」

「そう。今誰に電話してたの?」

「琉依さんだけど?隼人くん海外出張のことどうせ言い忘れるだろうなって思って。僕に忘れてたでしょ」

「それはお前が若菜とイチャつく邪魔するなって言うからだろ」

「坂下さんにいつどうやって言おうって考えてたら忘れたってとこだね」

「お前は本当にエスパーだ」

「隼人くんの考えなんてお見通しだって。だから琉依さんに教えてあげたよ。良かったね、海外出張」

「まあ、本社に異動した時に話は聞いてたからね。でもタイミングがな……。もうちょっとあとにしてくれれば……いや、いつだとしても椿と離れ離れは辛いな。いっそ椿も一緒に連れていっちゃうか」

「ただの出張でそれはないでしょ。坂下さんも今は動揺してるけどすごいって思うんじゃないかな。坂下さんメッセージで言ってたよ。シラン商事なんて大手に勤めてるなんてやっぱり優秀だねって。支社で入社してからずっと営業成績トップだったよって教えてあげたらすごいすごいって何回も言ってたよ。どう?隼人くんの良い話をしてるでしょ」

「お前それでさっきのがチャラになるとは思うなよ?」


 やっぱり?と言う昴の頭を小突いていると椿が若菜と出てきた。待たせたことに謝ろうとする椿に昴がありがとうの方が嬉しいと思うなーとさりげなく言うと椿はありがとうございますと言ってはにかんだ。昴……だからって俺の悪口を椿に話して良いわけないんだぞ。

 なにか買ったのという問いかけに見てただけですと答えたり椿と話をしながら車を停めた駐車場に行く。


「「え?」」


 椿が後部座席に乗ろうとして俺と昴の声が被る。


「どうしたの?」

「いや、なんで後ろに乗ろうとするの?」

「え?なんでって駄目だったの?」


 後ろに乗ろうとしたのも昴に聞いたのも面白くないと思いながら若菜の次の優先順位が昴だったら昴を八つ裂きにしてやると思いながら助手席のドアを開ける。


「坂下さんはこっち」

「え、あ、はい」


 なぜか慌てながら助手席に座る椿。物言いたげな昴と頬を膨らませてイラついてる若菜を車に押し込んで俺も運転席に座る。俺の後ろに昴、その隣に若菜が座った。


「ここまで車で来たの初めてなんだ。ナビで俺の家まで帰るように設定してくれる?そしたらだいたいわかるから」

「え?えっと……これですか?」


 本当に案内なしだと帰れないから椿にそう頼むと椿は右手をさまよわせる。そこで俺も左手でここだよとやろうとしたら若菜に邪魔された。左左という若菜の声の通りに手を動かす椿。俺はそっと左手を下ろす。この前みたいに手がぶつかってしまうのをやろうとしたのに。


「えっと左……」


 戸惑いながら若菜の次はこうでという言葉の通りに手を動かしていく椿。そうしているとKポップの音楽が流れてきた。若菜が携帯に入れてる音楽だ。


「そうそう、これこれ」

「若菜、先輩のお家に帰る設定を教えてよ……」


 本当に邪魔な甘ったるいチビザル厚化粧くっつき虫妖怪だ。なにが恋愛成就の女神だ。本物の女神が聞いて呆れる。そう思いながら左手で画面を戻して家に帰るボタンを押す。


「ご、ごめんなさい」

「良いよ、気にしなくて」


 しゅんと落ち込んでしまう椿。そんな気にすることないのに。本当に後ろの図々しい女とは大違いだ。


「シートベルト大丈夫?」

「大丈夫です」

「そう。……おい」


 椿がシートベルトをしたのを見ながら俺もシートベルトをしようと右手で引っ張るとまたしても邪魔された。後ろでシートベルトを押さえるという子供っぽい邪魔をしてくる若菜にイラつく。


「もー早くしてよね!!」

「お前が邪魔するからだろ」

「私じゃないもん。昴だもん。この席から届かないよ。見てわかんないの?」


 ばかなのくだらない言い訳をスルーしてシートベルトをしてから車を動かす。


「あーあ、恋愛成就の女神様なんて仰々しい異名があるくせに恋のこの字も知らないようなお子さまだな」

「きー!!ムカつく!!そんなことないもん!!昴の彼女だもん!!」

「昴もこんなお子さまと付き合ってなにが楽しいんだ?」

「もう、そんな言い方しないで。楽しいよ、面白くて」

「へへーん!!昴は私の味方だもんね!!」

「はいはい。良かったね、変わり者がいて」

「隼人なんて椿に嫌われちゃえ!!」

「え、私!?」

「椿、隼人のこと嫌いって言って!!」

「えっ!?えっと……」


 若菜が助手席をガタガタと揺らす。おい本当に止めろ、椿が困ってるだろうが。


「えっと……嫌いにはならないよ?」

「ありがとう」

「え?いえ、感謝されることでは……」


 若菜に邪魔されながら椿が好きだと言ってくれて嬉しい。そう思っていると椿が慌て出す。どうしたんだろうと信号でちょうど止まっていたから椿を見る。


「き、嫌いじゃないっていうだけですからね!!」 


 顔を真っ赤にしてそう叫ぶ椿。あまりに可愛くてまたしても衝撃を受けてると両手で真っ赤な顔を覆う椿に思わず呟く。


「「……可愛い」」

「か、可愛くないです!!」


 若菜と声が被ったこともどうでも良くなるほど可愛い椿をじっと見つめる。今すぐ抱き締めたい。昴の、なんでここでツンデレ?という声を遠くで聞きながら頭の中のライオンと格闘していると頭をパシリと叩かれる。


「はいはい、隼人くんも若菜も戻ってきてね」

「ハッ!!キュンってしたー……」

「……危なかった」


 昴に叩かれた頭を横に振っているとタイミングよく信号が青に変わったからアクセルを踏む。


「隼人のばーか」

「なんでだよ」

「なんとなく」

「殴るよ」

「きゃー暴力反対!!」


 若菜と言い合ってると椿が俺の横顔を見ながら首をかしげるのが視界の端で見える。


「坂下さん?どうしたの?」

「い、いえ……なんだか昔と違うなーと」

「あー!!ほら、猫被ってたからだよ!!」

「え?」


 昔と違うってどういうことだろう。猫は被ってないけど。でも昴の言うようによく見せようとばかりしていたかもしれない。背伸びしてたわけじゃないけど椿にはかっこいいと思われたかったから。


「そんなことないと思うけど……」

「そうなの!!これでわかったでしょー!!隼人は極悪人だって!!」

「そ、そうは思わないけど……」

「椿のわからずやー!!」

「わ、わからずやって……」

「まあまあ。じゃあ坂下さんが思ってる隼人くんはどんな感じなの?」

「え?」


 昴の問いかけに椿は答える。


「んー、優しくて笑顔が素敵で……」

「それは幻想なの!!」

「そ、そんな馬鹿な……」

「隼人は昔から意地悪で人でなしだよ!!」


 若菜の言葉にイラつきながらも止めずに話を聞く。椿は俺のことをどう思ってるんだろう。昔と違うとはどういうことだろう。もしかしたらここでなにかヒントが見つかるかもしれない。


「でも結城くんは先輩が優しいって思うでしょ?」

「まあ普段が意地悪だからたまの優しさが際立つとも言える」

「言いたい放題だな」


 そう言いつつバックミラー越しに一瞬昴に視線を送る。あくまでも俺の良いことを話してその上でなにかヒントを引き出すんだ。ミッションだぞ、とテレパシーを送る。昴にはわかるはずだ。


「でも普通にしてる時の隼人くんがどんなかって言うとねー現実主義でツッコミ気質って感じかな」

「……そうなの?」

「そうだよ。まあ僕たちの中でまともな人って全然いないからね、自然にそうなるんだよ」

「俺と昴と彩華さんくらいしかいないよ。浩一さんは浩一さんでまともじゃないし、一輝さんは天然だし。あ、そういえばまた一輝さんから今日は帰り遅くなりますって連絡がきたよ。彩華さんに教えてあげたけど」

「父さんまた間違えたの……」


 家族の話をしてみる昴に話を合わせて椿の様子を伺う。


「若菜のお父さんはどんな人?」

「浩一さんは一番真面目なんだけどずれてるっていうか。会って2回目の女性に結婚してくださいって言われて良いですよ、って本当に結婚しちゃうくらいだから」

「そ、そうなの!?」

「ママが可愛いから!!」

「それはわかるけど……すごいね」

「おじいちゃんの仕事関係で知り合いだったパパがお家に来た時この人だってビビッと来たんだってー」

「それで……。すごいね、若菜のお母さん」


 浩一さんに詳しいことを聞いたあと覚えてるうちに椿に教えようと思ってあのあと同じことを話した。これは覚えていなかったらしい。この前のなんでもない日のプレゼントの話をしたあとから少しずつ思い出しているみたいであの頃話した話題をメッセージや電話で話したりもしてる。昴は今日でなにか掴んだらしいしなにかを確かめるような感じがしたから昴に任せることにした。


「そういう人ばっかりでまともな人がいないんだよ。だから必然的に僕とか隼人くんはしっかりしなきゃってなるよね。あ、そうそう、そう言えば僕たちが小学生だった時に9人全員で動物園に行ったんだ。その時優菜さんと美香さんがアルパカに夢中になってね、可愛い可愛いってずっと言ってたんだけど琉依さんが美香の方が可愛いよって言って」

「それで美香さんはねー、きゃー琉依さん素敵!!って」

「それを見た隼人くんがアルパカと比べて可愛いって言われて嬉しいのかって僕に言ってきたからわからないって答えたんだよね」

「べ、別に比べたわけじゃないのでは……?」


 デートで行った動物園で話したことも思い出さない話らしい。昴の意図に気が付いた。昔はなにかに悩んで混乱していたのかもしれないけど少しずつ思い出せることがあるなら話を振ったらそれがきっかけになって思い出せることがあるはずだ。それでもまったく思い出さないならそれは思い出したくない本当に嫌な話だったと考えることができる。嫌な話題がわかれば椿の悩みがわかるかもしれない。機転が利く昴に合わせてひとまずうちの家族の話をすることにした。

 浩一さんが若菜におしとやかでふんわりした女の子に育ってほしかったって泣いてるんだってもう一度話したけど若菜が騒ぐのを宥めて、そういう若菜も可愛かったと思いますけどやっぱり言いたいことははっきり言って好きなようになんでもやって元気いっぱいなのが若菜の良いところですよ、きっと若菜のお父さんもこういう若菜が大好きなんですよと昔と似たことを答えて思い出す様子はなかった。

 そしてしばらく話したあと昴はそういえばさっきトリックアートミュージアムに行ったんだよと切り出した。なにかわかったらしい。昴の凄いところはさりげなく人の懐に入って話を探るところだ。学年の違う俺の噂話を聞き出したりもしてた。なにも昴が俺の幼馴染みだからって話の方から昴に寄ってくるわけじゃない。昴が広い人脈を生かして話を聞き出していたからだ。昴は探偵かスパイに向いてると思ったのは大学に入ってから。まさに敵に回したくない相手って感じだ。昴はいったい何を目指しているんだろう。まあ良いかと思いながら楽しかったらしいそのトリックアートミュージアムの話を聞く。



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