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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
120/136

スカートのこと


 金曜日は椿と少しでも長くいるために椿の最寄り駅のこの前候補にあげていた中華料理の店に行くことにした。また遠慮する椿に短い時間だしぎりぎりまで一緒にいたいと電話で伝えるとすごくかみかみでありがとうございますと言われた。

 そして金曜日、朝から急いで仕事をしていたのにこれで終わりだと思った瞬間に急な仕事が入ってしまって結局20時になってしまった。


「遅くなってごめんね」

「いえいえ!!お疲れですよね。すみません」

「なんで坂下さんが謝るの」

「あ……それはその……」

「ん?」

「先輩に会いたいですけど無理してほしくなくて」

「なんと……」


 勇気を出して言ってくれたのか椿はまだ一滴も飲んでないのに顔が真っ赤になった。


「え?」

「なんでもないよ。俺も会いたかったから良いんだよ」

「そ、そうなんですか」


 そしてビールで乾杯をして話をしていると椿があ、と言う、


「どうしたの?」

「あの、先輩は今でもお母さんになんでもない日のプレゼントしてますか?」

「え!?」


 なんで椿からその話題が?覚えてるの?


「あ、もうしてないですかね。高校生の時ですもんね」

「え、あ……ううん、してるよ。たまにね。煩いから」

「ふふ、またそんな意地悪な言い方して。えっと、私この前その話を思い出して母親に花束を送ったんです。そしたらどういう風の吹き回しなのかって悪いことしてないでしょうねって言われました」

「そうなんだ。お母さん喜んでるんだよ」

「そうなんですかね」


 そう言って笑う椿に俺は気にしてない風に話を続けた。だけど内心ではぐるぐると考える。椿は本当になんでもないようにしてもう他の話題に移ってる。……ただの俺との話を偶然思い出して懐かしくなったみたいだ。そこに辛さはなくてただ、そんな話を俺としたなーと懐かしくなっただけらしい。こういうこともあるのか。覚えていても覚えてなくてもどちらでも良いと思っていたけど思い出してくれたなら俺はなにも気にしないでその話を楽しもうと思った。


「そういえば前も言ってましたよね。英語がわからないお母さんの前で結城くんと英語でお話してたって。お母さん可哀想です」

「良いんだよ。母さんは天然馬鹿なんだから」

「もう、まだそんな意地悪言ってるんですね」

「え?なんで?」

「先輩言ってたじゃないですか。お母さんは頭の中がお花畑で天然馬鹿だから話が通じなくて困るって」

「うそ、そんなこと言ってた?」

「言ってましたよ。仲良しなんだなって思ってました」


 ……ごまかしきれなくて思ってるまま言ったことはあった気がする。椿は可笑しそうに笑ってる。楽しいみたいで俺も嬉しくなった。

 そんな金曜日を過ごし、そのあとも毎日電話とメッセージのやり取りを続ける。仕事が忙しくてなかなか時間がとれないけど。そんなある日の夜中、昴から電話がきた。


「どうした?」

『若菜と話しててね、思い付いたことがあるんだって』

『椿のためだから一生懸命思い出したの!!椿のためだから!!』

「わかったよ。なに?」

『隼人くんメール送ったんだけどタブレットで見れる?』

「え?ちょっと待って」


 そう言ってタブレットでメールを開き送られてきた写真を見る。


「スカートの写真?」

『雑誌の切り抜きなんだって』

「雑誌の切り抜き?」

『若菜可愛いなって思った洋服とかアクセサリーを切り抜いてノートに貼ってたんだよ、ずっと昔から』

「なんとマメな。若菜のくせに」

『なによー!!私いっぱい勉強してるんだからー!!』

『若菜落ち着いて。喧嘩するために電話かけたわけじゃないでしょ』

『なんでわざわざ喧嘩するために電話しなきゃなんないのよー!!隼人の声なんて聞きたくないのに!!』

「俺だってお前の金切り声なんて聞きたくないよ」

『きー!!』

「もう2人とも!!坂下さんのことを話すために電話してるんだよ!!」

「そうだよ若菜、早くしろ」

『むむむ……』

『あのね、隼人くん。その写真どっちが見覚えある?』

「白地にピンクの花柄」

『ほら、やっぱり隼人くんに聞いて覚えてた通りだよ』

『うぬぬ……なんでー!?』

「なんでって?」

『高校生の時、坂下さんよく雑誌を持ってきてどっちが良いと思うって若菜に聞いてきてたんだって。それで若菜が坂下さんに似合うって言ったのは2つめの黒地に小さな花柄のロングスカートなんだって』

「うん?」

『1つめのフレアスカートは私が好きって言ったの!!椿に似合うのはそっちだって言ったのに!!どーして!?』

『どうしてだろ?』

「うーん……なんでだろう」


 確かにロングスカートの方が椿に似合っていたかもしれない。おしゃれも椿のこともよくわかってる若菜のアドバイスを聞いたのになぜわざわざ違う方を選んだろうか。


『僕の推測なんだけどね、隼人くんの身近にいる女の子って若菜でしょ。だから隼人くんにとって若菜が着てる服が見慣れてるから良いんじゃないかと思ったとか』

「えー……嫌だ」

『まあまあ。けど坂下さんはそう思ったんじゃないかなって話』

「なんでわざわざ自分の好みなんて言ったんだよ。椿にはこれが似合うってだけで良かっただろ」

『むー!!わかんないよ!!』

「そうだよ隼人くん。まさか自分の好きだって言った方をチョイスするとは思わないでしょ」

『そうだそうだ!!』

『けどそれを考えて隼人くんが言ってた服装を考えてみると若菜の選びそうな服ばかりなんだよ。まあ、デート向きといえばそうだし普段スカートはかないから若菜しか参考にしようがなかったと言われたらそれまでなんだけど』

『でもそれが椿の悩みとなんの関係があるのー?』

『直接はないかもしれないけどなにかヒントになるかなって。それから月下美人の花言葉も。若菜がそんな人いないって』

『そんな人がいたら知ってるもん!!椿私に隠し事しないもん!!』

「なに言ってんだ。悩んでることを知らなかったじゃないか」

『むむ!!なんで教えてくれないのー?』


 結局若菜は椿から悩みを聞き出すことはできなかったらしい。何に悩んでるのというストレートな質問にカレーにしようかビーフシチューにしようか悩んでるけどそれがどうしたのと華麗に流されてしまい何度も同じように質問してもそんなのばかりになってしまうみたいだ。天然なのか言いたくないのかどっちなのかはわからない。


『とにかく何人も告白されてたけど1人も好きになったことはないし付き合ったこともないんだって』

「そっか」

『なんでそんな余裕そうなの!?ムカつく!!』

「まさかそんな男がいるのかと思ったけど今は椿は俺だけだなってわかる。椿の知識はドラマ映画ネット情報しかないんだよ。ドラマでこんな人がいたんですって。そんなことするのはドラマだけだよって」

『イチャイチャするな!!付き合ってないくせに!!』

「これはイチャイチャっていうのかなー?」

『隼人くんイチャイチャしてると思ってるでしょ』

「いやーまだだよ。付き合ったらイチャイチャするんだから」

『きー!!椿に変なことしちゃ駄目!!』

「大丈夫、椿も喜ぶから」

『駄目だもん!!』

「言ってろ。こっちはいつでも会えるすぐ近くにいるけどお前と椿は半日かかる距離にいるんだから邪魔できないでしょ」

『すぐ会える距離にいるくせに直接会えてない!!』

「う……」

『私だったら今会いたいよーって電話したら椿すぐ来てくれるもん!!』

「お前じゃないからそんなことできない」

『ふん!!いつでも会いたいって思うのが普通!!』

「俺だって会いたいけどまだそういうんじゃないの!!」

『そんなこと言ってる間に他の男に盗られるかもね!!』

「そんなわけないだろ!!」

『どうだろー椿職場の人と2人で食事行ったって言ってたよ』

「どいつだよ!!堀内ってやつか!?三輪ってやつか!?」

『なんで隼人くん坂下さんの職場の人知ってるの……』

「間宮さんに椿の周りにいる男の話は聞いてるんだよ」

『すごいね。あ、ちなみに若菜が聞いたのは普通に平日に一緒にランチに行っただけだよ。普通にあるでしょ』

「俺は行かないよ」

『椿は行くの!!』

「う……仕方ない。同僚との親交を深めてるだけだもんね。深めなくて良いと思うけど椿はきっと楽しいだろうし……」

『隼人くん……』

「うん、俺は心が広いから大丈夫」

『狭いから!!狭すぎー!!』

『と、とりあえず3人とも仕事あるしそろそろ寝よっか。ね?』


 そうして電話を切って考える。俺の見慣れてる若菜を真似して着てくれていたのか。今は椿らしい格好で会ってくれてるのは逐一若菜に聞くのが手間だから?それともなにか理由があるのかな。俺はこれまでに聞いたヒントとかを紙に書いて整理しながら夜通し考える。





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