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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
116/136

椿からの誘い



 新幹線を降りて改札を通ると同時に携帯が震えて電話に出る。


『隼人くん隼人くん右だよー』

「右?」


 言われるままに顔を右に向けると昴が手を振っていた。


「なんだよ、来たの?」

『うん。お迎えだよ』


 来るなんて一言も言ってなかったのに昴は電話を切ってこっちに来た。


「気絶したみたいだって話したら琉依さんも美香さんも来ようとしてたんだけど隼人くん嫌だろうなって思って」

「また筒抜けか。なんでもかんでも話すなって」

「なんか治ったみたいだから大丈夫だよとは伝えたけど本当に平気かなー。えい」

「なにすんだよ……」


 手をグーにして俺の頭を叩いてくる昴の手を払う。


「それは嫌がらせだ」

「ちゃんとお医者さんに言わないといけないんだよ?めまいがして倒れましたって」

「子供じゃないんだからわかってるって。まったく……若菜は来てないだろうな」

「若菜?仕事だけどどうして?」

「くっつき虫だろ昴の」

「ああ、それね。隼人くんのお迎えだから休みでも来ないだろうね」

「まあそりゃそうか。なにが楽しくて甘ったるいチビザル厚化粧くっつき虫妖怪の顔を見なきゃなんないんだってなるからな」

「もー若菜が怒ってるよ?また長くなったって。言いにくくないの?」

「そんなことないよ。甘ったるいチビザル厚化粧くっつき虫妖怪」

「……まあ良いけど」


 俺と昴は駅から10分ほどの病院まで歩く。


「椿に言ってないだろうね」

「事故のこととか?言ってないよ。みんなも言わないだろうけど若菜はどうだろ」

「わざわざ積極的に俺の話しないだろ」

「まーそれもそうだね。坂下さんにはなんて言ってるの?」

「今日は朝からクラブの練習試合だって」

「堂々と嘘ついたんだ」

「嘘も方便なんだよ。椿に余計な心配かけるわけにはいかないだろ。ま、でも全部解決したら話せることは話すよ」

「渡り廊下でわざと待ち伏せしてたのも言っていい?」

「それは言わないって男同士の約束だろ」

「どーしよっかな」

「お前の小さい時のあれこれ椿に話すからな」

「素直で可愛かったって?」

「あーあー昔は俺の言うことをなんでも素直に聞いて可愛かったのに」

「隼人くんの暴君っぷりを坂下さんに教えてあげよーっと」

「暴君ってなんだよ。優しいだろ。優しい強引さだろ」

「ほーらやっぱり調子に乗ってる」

「椿はぼんやりしてて危ないから俺が引っ張ってあげないと。そうだよ、昨日も可愛かったんだよ。無意識に俺の服の裾を掴んでね」


 可愛い椿の話をしていると病院について待合室で待ってると言う昴に帰っても良いからねと言って診察室に入った。そしていろんなことを聞かれたり機械に入れられたりぐったりして待合室に戻った。戻ったけど引き返す……引き返せない、どうしようと思ってると襲われた。


「隼人ー!!大丈夫なの!?」

「母さん!!病院だから静かにして!!」


 小声で怒鳴って母さんの口を塞ぐ。


「なんで来たんだよ。来ないんじゃなかったの?」

「心配だったんだよ。なんだって?」


 結局母さんと親父まで来てしまったようだ。


「なんでもないって。だから言ったでしょ。ただの疲労だよ。営業の仕事は大変なの。わかる?馬鹿な母さんにはわからないだろうけど母さんに構ってる時間なんてないの。帰ってきても遊んであげないんだからとか良い子良い子してあげないんだからとか馬鹿な母さんはわからないだろうけどそれは子離れじゃないから」

「ひどーい!!隼人なんて知らない!!」

「はいはい。俺も母さんなんて知らないよ」

「えー!?意地悪!!」

「自分で言ったんだろ……」


 そう言いながら出口から母さんを追い出した。


「美香さんも少しは子離れしてるんだけどね」

「あれで?」


 椅子に座るとちゃっかり隣に昴が座る。外では母さんが親父に宥められてる。


「はあ……面倒な母さんだから椿が嫌うんだよ」

「まだ決まってないってば」

「……母さんたち知ってるよね」

「坂下さんと再会したって?若菜がみんなに怒って報告したよ。接触したって」

「なんだよ、接触って」

「ちょっと子離れした美香さんなにも言ってこないでしょ。琉依さんが駄目だよって言ってるから」

「こういう時だけ役に立つ親父だな」

「琉依さんは美香さんのことじゃなければまともだから」

「多少ね。多少まともになるだけだよ」


 そして呼ばれるまで静かに待って会計が終わってから外に出る。


「はい、これで満足でしょ。もう帰るよ」


 まったく、なにしに来たんだか。


「本当になんにもないのかしらー……倒れちゃったのにー……」

「もう、医者が言ってるんだからなにもないんだよ。しつこい」


 頬を膨らませる母さん。椿とは大違いだ。


「早く帰るよ。ここにいたら椿を感じられない。向こうに行ったら電車で10分の距離に椿がいるんだよ。椿は俺のことが大好きだから物理的にも精神的にもすぐそばにいるんだ」


 俺がそう言うと親父と母さんは顔を見合わせてニヤニヤする。


「気持ち悪いな……なに?」

「なんでもないよ。じゃあ早く椿ちゃんの所に帰らないとね」

「帰るよ。じゃあね」


 もう用は済んだからさっさと帰る。ちょうど良い電車に上手いこと乗れて椅子に座る。単なる疲労とストレスが溜まってるんだろうと言われた。あと食生活を見直すようにと言われた。酒は飲みすぎないようにって。椿と一緒にいる時は飲みすぎないようにするから今後は問題ないだろう。家にある酒も買い足すつもりでいたけどしばらく止めよう。最近立て続けにクレーム対応したり重要なプレゼンを任されたり忙しいからだ。疲れてるんだろう。重い目を閉じてゆっくり椿のことを考える。

 夕方に戻ってきた俺はたまにはバランスを考えて和食料理を作るかとスーパーで食材を買ってから家に帰る。

 そして携帯を見ると椿からメッセージが届いていた。そうだ、今日連絡するって言ってたのに……駄目だな、俺がボケッとしてる。


『昨日はすみませんでした。若菜と結城くんとお話できました。若菜が先輩に私のことで言ってくると思います。すみません。高校生の時もたくさん迷惑をおかけしてすみませんでした』


 何度もすみませんと書いてある。謝ってほしいんじゃなくて笑ってほしいのにな。


『気にしないで。若菜と昴と話をできたみたいで良かったよ』


 そう送るとすぐに返事が来た。


『はい。2人と話せて良かったです。改めて若菜にたくさん助けてもらってたんだって思いました』


 椿が若菜のことが好きなのはわかったけどなんだか面白くない。


『妬けるなー』

『え?どういうことですか?』

『ねえ、俺も電話していい?今大丈夫?』


 若菜と電話で話すなら俺とだってして良いはず。椿の声が聞きたい。聞いてみると少し時間が開いてからメッセージが来た。


『大丈夫ですけど……』


 やった。大丈夫ならなんの問題もないだろう。俺はすぐに通話ボタンをタップしてソファーに座る。発信音が途切れた。


「もしもし」

『も、もしもし……』


 裏返った声。緊張が携帯越しに伝わってくるみたいだ。


「急にごめんね?」

『い、いえ。先輩は大丈夫だったんですか?』

「さっき解散したとこだから大丈夫」

『そうなんですね』


 電話で聞く椿の声も可愛いな。耳元で喋ってるみたいでゾクゾクする。


『改めて、先輩にはたくさん迷惑をかけてしまってすみませんでした』


 また謝られた……。椿は俺に謝ってばかりだ。謝らないといけないのはこっちなのに。


「だから迷惑だと思ってないから気にしないでってば」

『でも……』

「はい、この件に関して謝るのはもう終わり」

『え、え……』

「それより若菜には感謝してるのに俺には?」

『も、もちろん感謝してますよ!!』

「本当に?」

『本当ですよ。若菜にはたくさん助けられていて大切な親友でそれを昨日改めて思ったんですけどもちろん先輩にも感謝してます。ありがとうございます』


 結局若菜のことが大好きだとわかっただけだった。なんであんな甘ったるいチビザル厚化粧くっつき虫妖怪の方が好きなんだ。俺のライバルは若菜だ。


「……坂下さんは本当に若菜のことが好きだね」

『大好きです!!先輩も好きですもんね』

「え、俺?……別にあいつのことは好きでも嫌いでもどっちでもないんだけど……。でもまあ従妹だし、俺はあいつと違って大人だから嫌いだとは言わないよ」


 やっぱり椿は俺と若菜が喧嘩するほど仲が良い従兄弟だと思ってるのは間違いない。どうしてそうなるんだ。


『ふふ。素直じゃないですね』

「え?……そういうんじゃないんだけど」

『大丈夫です、わかってますから』


 だからー!!なんでそうなっちゃうのー?椿の中で、大好きな若菜と大好きな俺はこっち同士でも大好きであるっていう法則でもあるの?


『え、なにが?……もしもし、坂下さん聞いてる……?』


 なんだか椿が呟いてるみたいだけど聞き取れなくて思考飛ばし中だとわかったけど電話でそれはちょっと困る。可愛いけど。


『あ、あの……来週の土曜か日曜空いてますか?』

「え!?空いてる!!日曜日なら空いてるよ!!」


 いきなり現実に戻ってきたかと思ったら椿が誘ってくれた。嬉しい。


『あの、それじゃあ、良かったら日曜日私が大学生の時によく行ってた公園があるんですけど、そこに行きませんか?』

「うん!!行こう!!」


 さらに椿が行きたいところを言ってくれた。なんてミラクルなんだ。わーい、わーい。


『あの、ただここからだと少し遠いんです』


 椿とならどんなに遠い場所でも一緒に行くよ、と思っていると椿はその公園の名前を言う。あの椿が来たことがあると確信した公園だ。素晴らしい。やっぱりじゃないか。すごいな俺。


「その公園知ってるよ。花畑とか緑道とかすごく綺麗な所だよね」

『え!?なんで知ってるんですか!?ここから遠いしすごく有名ってわけじゃない所なんですけど』


 ま、まずい。椿を探してましたなんて言えない。ごまかそう。


「えっと……ちょっと行ったことがあってね」

『なにするんですか?なにもないですよ?』

「んーちょっと公園巡りがブームの時があってね」

『え、そうなんですか!?』


 ちょっと問い詰められてる感じがなんだかちょっとドキドキした。だけど公園巡りがブームという言葉に興味を示した様子の椿。目がキラキラしてるんだろうな。ちょっともったいない。直接会ってる時に話せば良かったかも。でも電話で椿の声を聞くのも捨てがたい。


「じゃあ日曜日はそこに行こう。昨日と同じ所に車停めるから。時間は11時とかどう?向こうでお昼食べよう」

『ええ?電車とかレンタカー借りて私が運転しますよ』

「なんで車あるのにわざわざ借りたり電車で行くの?」

『だって先輩に悪いと思って……』

「全然良いよ。運転好きなんだ」

『そうですか?……そう言うなら良いですけど』

「良いの良いの」


 椿が遠慮しないようになるにはどうしたら良いだろう。謙虚なところは椿の良いところなんだけど遠慮しないでなんでも言ってくれると嬉しいのに。そう思いながら昨日一緒に出掛けたけどドラマは観きれるのかとか聞いてみたり試合の結果はどうだったのかと聞かれて今日じゃないいつだかの試合結果と誰が得点を入れて誰がどう活躍したのかという話をした。関さんたちに悪知恵をもらって逆ナン対策をしたり間宮さんのゲスい話に付き合ったり俺は悪に染まってる気がするけど話せる時が来たらちゃんと本当のことを言うからねと心の中で思いながら笑いながら楽しそうに聞いてくれる椿に話をした。




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