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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
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メッセージ


「なんだこの落書きは」

「パンダうさぎですけど?大学生の時見せてあげてたじゃないですか。俺のパンダうさぎ」

「それはわかる。俺が聞いてるのはなんで名刺の裏にパンダうさぎを描いて吹き出しにIDと電話番号を書く必要があったんだってことだ」

「可愛くないですか?」

「そういう問題じゃない。こんなふざけたものをはい、どうぞなんて渡したくない」

「酷い。間宮さんが渡したくないとかどうでも良いんです。渡してもらわないと困ります」

「だいたい思い出さなくて良いって言っといて思い出してほしさ満点じゃないか、こんなの」

「違いますよ。大学生の頃の俺の話ちゃんと聞いてました?パンダうさぎは元々若菜が椿に描いたもので俺とパンダうさぎは椿にとって無関係なんです。だから俺が描いても可愛いって思うだけです」

「それだけなら別に描かなくて良いだろ。俺はこんな可愛いものを手にしたくない」

「なんてわがままな……。この方がほっこりするかもしれないですよ。癒しのパンダうさぎです。これでぐっと椿の心を掴めると思います」

「こんな名刺1枚で人の心を掴めるわけないだろ。ってことで却下だ。書き直せ。じゃなきゃ渡さん」

「えー!!酷いです!!」


 俺が心を込めて書いた名刺を間宮さんが雑に折りたたんで鞄に放り込んだ。


「これ渡して良いのか?」

「丁寧に扱ってください!!こうなったら仕方ないですから書き直しますけど!!」


 横暴だ、酷いいじめだと思いながら名刺を出してその場で書き直す。IDと電話番号だけを書いて渡す。


「これで良いですね」

「そうだな」

「願いを込めたんですけどね!!昨日!!ずっと一緒にいられますようにって!!」

「だからこんな名刺1枚で願いが叶うわけないだろ」

「そういうところが駄目なんです!!願ったって良いじゃないですか!!ちゃんと椿に心の準備が整ったらで良いって言ってくださいよ?」

「そんなん言われても何のことかさっぱりだろ。任せとけ、俺が適当に言っておいてやる」

「適当ってなんですか!?ちゃんといつまででも待つからってことが伝わらないと駄目なんですからね!!急かしちゃ駄目なんですよ!!」

「はいはい」


 信用ならない間宮さんがちゃんと椿に俺の気持ちが伝わるように渡したか気になって午後の仕事は上の空、18時を過ぎるともしかしたら椿がすぐに連絡してくれるかもと期待して仕事が手につかない。いや、待つんだ。俺は椿の心が決まるまでいつまででも待つんだから。でももしかしたら今日来るかもしれない。俺はそう思って仕事を切り上げることにした。そして20時過ぎに家に着いて鞄を置いてすぐ携帯を見る。するとメッセージを受信していて慌てて開くと送信者は間宮さんで一気に力が抜けた。


『気が向いたら連絡してって言ってたって伝えたぞ』


 なんですか気が向いたらって!!


『なんなんですかその軽い感じ!!間宮さんじゃないんですよ!!』

『このくらい軽い感じが良いんだよ。お前は重い。坂下もそんな重い愛情向けられたら引く』

『そんなこと……ありますか?』


 そんなことないと返そうと思って疑問に変えた。


『その方が連絡してみようかなって気になるもんだ。パンダうさぎよりよっぽど効果があるだろ』

『そういうものなんですか?』

『そういうもんだ』

『そうなんですか』

『ああ。じゃあな』


 そして着替えをして作りおきしてるご飯を温めていると携帯がメッセージを受信したと知らせてきて慌ててテーブルの上の携帯を見る。


『お疲れ様です。坂下です。間宮さんに聞いて連絡しました。この前は先輩に会えて嬉しかったです。もし良かったら今度食事に行きませんか?』


 椿だ、椿だ!!椿からメッセージが来た!!

 嬉しかったって書いてある。嬉しかったんだ、良かった、俺も嬉しい。食事に行きませんかだって。椿が誘ってくれた。嬉しい。俺は急いで返事をする。


『俺も会えて嬉しかったよ。そしたら明後日の金曜日は空いてる?』


 嬉しかったって伝えて良いんだよね。明後日は急すぎたかな?金曜日は飲み会があるかもしれない。駄目だったら来週にしよう。ああ、さすが間宮さん。女の子と遊んでるだけはある。がっつきすぎちゃ引かれちゃうからもっと軽い感じにしないといけないんだ。軽い感じ軽い感じ……。どうしたら良いんだろ。

 そう思っているとまた携帯が鳴る。思わず反応するけどメッセージじゃなくて電話の着信音で椿から電話かとドキドキしながら見ると親父からだった。今それどころじゃないから無視しようと思ったら一度切れてメッセージが送られてきた。


『はやとー!!はーやーとー!!』


 なんなんだ。なんなんだこの親は。馬鹿なのかと思いながら電話をかける。


『あ、隼人ー今なにしてるの?』

「椿とメッセージやり取りしてるの!!親父に構ってる場合じゃない!!」

『そうなんだ。良かったねー』

「この間にもメッセージが届いてるかもしれないから切るよ!!」

『ああ、待ってよ。隼人平日仕事休めないよね?』

「なに?帰ってこいって?無理無理」

『じゃあ土日で良いや』

「無理無理。椿と会う予定ができるかもしれないでしょ。今週はクラブがあるから来週になっちゃうけど」

『じゃあ来週の土曜か日曜空けといてよ』

「だから!!来週は椿のために空けるの!!」

『じゃあ日曜日ね』

「人の話聞いて!!」

『病院、予約しておくから』

「へ?病院?」

『うん。入院してた所。調子悪いんでしょ?』

「昴か……。たいしたことないし全然関係ないよ。ただの疲労」

『でも万が一ってことがあるから』

「もー平気だってば。何年経ってると思ってるの?」

『もーなにかあったあとじゃ遅いんだよ。検査だけ、ね?』

「絶対なんでもないよ」

『なにもなかったらそれで良いから。せっかく椿ちゃんに会えたのに病気になってたらどうするの?椿ちゃん悲しむと思うよ』

「う……じゃ、じゃあ本当になにもないことを証明するために行くよ。でも日曜に病院やってないんじゃない?」

『やってるんだって。そしたら来週の日曜日ね』

「はいはい」


 電話を切ったけど椿から返事は来てなかった。

 まったく面倒なことになった。なんて心配性な親父なんだ。でも椿に心配かけたら嫌だし……そうだ、事故に遭ったこととか聞いたら心配しちゃうだろうから言わないようにしよう。俺から言うことはまずないからみんなに口止めしなきゃ。

 ご飯を食べ、シャワーを浴びてきて携帯を見るけどまだ来てない。やっぱり金曜日は急すぎたかな。そう思いながらタブレットで新聞を読んでいるうちに時刻は23時前。どうしよう、そんなに惑わせるつもりはなかったんだけど早すぎて展開についていけなくなってるのかも。やっぱり来週にしようかと言おうかと思っているとメッセージが届いた。


『空いてます!!』


 良かった。椿からのメッセージにほっとして返事をする。


『それじゃあお店探しておくね。行きたいお店ある?』


 今度はすぐに既読がついてメッセージが届いた。


『この前は遠いところこっちに来てもらったので今度は先輩の家から近い場所にしましょう』

『気にしなくていいのに。じゃあ、坂下さんの最寄り駅にしようか。俺の所から10分かからないし』

『それなら先輩の最寄り駅でも良いと思いますけど今回は私の最寄り駅にしましょうか。ありがとうございます』

『いえいえ。じゃあ今日はもう遅いから明日また連絡するね。おやすみ』

『おやすみなさい』


 メッセージを閉じてすぐに昴に電話をかける。


『どうしたのー?』

「昴昴!!」

『なに?』

「どうしよう!!椿からメッセージ!!」

『来たんだ、良かったじゃん。で、どうしたの?』

「椿なんだよ!!」

『へ?坂下さんとやりとりしてるんでしょ?』

「そうだけど椿なんだ!!5つ来たメッセージが高校生の時話をしてた椿の感じそのままなんだよ!!」

『それはそうでしょ。基本昔から全然変わらないんだから』

「なんか知った風なのがムカつくけどまあ良い。とにかく椿と今携帯越しに繋がってると思ったら緊張してどうしようって!!」

『なにそれ……。で、まだ23時だけど止めちゃったわけ?』

「この胸の高鳴りをどうにかしなきゃ大好きとか愛してるとか結婚しようとか言いそうで!!」

『……馬鹿』

「わかってるけど!!だって本物の椿とまたこうやってやり取りできるなんて嬉しくて!!」

『わかったわかった。良かったね』

「うん。あ、例の件は?」

『んー隼人くんのことかっこいいって言ってた人はたくさんいるけどあくまでも憧れてるだけで別に彼氏はいたって人ばかりだよ。坂下さんに危害を加えようとするとは思えないね。もう少し調べてみるけど』

「ごめんね」

『ううん、早く理由わかるように頑張ろう』

「そうだね。じゃあ俺は明後日椿とご飯に行く店を探すからまたね」

『明後日ご飯行くんだ。うん、じゃあね』


 俺は椿の最寄り駅で椿の家から近くのお店を調べて3つの候補を見つける。中華料理店、和食居酒屋、イタリアンレストラン。このイタリアンレストランは結構有名な高級レストランで探したサイトにると記念日とか特別な日に利用する人が多いみたい。俺が苦手なキラキラレストランだ。椿もこういう店が苦手そうだし金持ちなのが嫌ならこの店は選ばないはず。試してるようで罪悪感を感じるけど確かめるためには仕方ない。お店を選んだ理由を聞けばなにかヒントが見つかるかもしれない。





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