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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
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本社へ異動



「佐々木、ちょっと」

「あ、はい」


 ある日の仕事中、俺は部長に呼ばれて席を立つ。休憩所に行ってドアを閉めて椅子に座る部長の前の椅子に座る。


「4月1日付けで本社へ異動してもらう」

「え……本社……異動?」

「そうだ」


 本社に異動?俺が?なんと、これは内示というものらしい。俺はすぐに状況を把握した。


「お前本社で働いて海外出張もしてみたいって言ってただろ。本社のやつらも入社前からお前に来てほしいって言ってたんだけど支社で経験積んでからと思ったからな。まだまだここでやっても良いと思うんだが上から早く佐々木をあげろって言われてるんだ。お前なら本社でも十分やっていけるだろうから頑張れ」

「ありがとうございます。あ、でもまだ大森くんたちが……」

「佐々木の後任は津田になるから津田に引き継ぎしてくれ。大森も水口も佐々木のおかげで上手くやっていけてるからこっちのことはなにも考えないでお前は自分のやりたいことを考えろ。本社も大変だぞ、ここのことなんてすぐ忘れるだろうな。けどお前は真面目すぎるところがあるからたまには肩の力抜くんだぞ。そうだ、本社の屋上は景色が良い。タバコ吸いながら夜景見るとすげー気持ち良いんだよ。ああ、今は禁煙になってるんだった。でも景色だけでも綺麗なんだぞ、夜景とか」

「私タバコ吸いませんけどね。でもそんなに綺麗なんですか」

「ああ。で、内示のことだが津田には話して良い。明日から引き継ぎしてくれ」

「はい」

「それから4月から佐々木の上司になる人に話してあるから来月会いに行ってくると良い」

「承知しました。部長、お世話になりました。まだ早いですけど」

「こっちこそ佐々木が来てくれたおかげでここのやつらも少しは真面目に仕事してくれるようになったし下も育ってる。ありがとう」


 俺はお辞儀をして休憩室を出た。

 本社勤務か。入社3年目で本社に行けるなんて考えてなかった。まだ先のことだと思ってた。けどせっかく機会をもらえたんだから頑張ろう。



 俺は翌日から津田さんに引き継ぎを始め、そして部長から伝えて良いと言われた辞令が出てから上原さんたちや取引先へ挨拶をして3月になり本社に挨拶に来た。

 自社の高層ビルの受付を通って営業部へ行く。なんだかみんな蛇とか作ってないし無駄話してないしうちとはえらい違いだ。いや、これが多分普通だ。広いフロアに入ってくる時にドアの前にいてくれた平岡さんという総務の女性が奥に座っている部長を紹介してくれた。


「4月1日よりこちらに配属になります、佐々木です。よろしくお願い致します」

「朝倉です。いやー待ってたよ。佐伯がなかなか手放してくれなくてね。あ、佐伯は部下だったんだ」

「はい、佐伯部長からお話伺っております」

「まあ葉山よりはできるやつだったんだけどいつのまにかサボってタバコ吸いにいっちゃってね。あ、今は分煙化が進んでて屋上で吸えないんだけど営業部のやつらの息抜き場なんだよ。いないと思ったらそこだってみんな知ってるから迎えにこられたりするんだけど良い眺めだから佐々木くんも行くと良いよ。ああ、平岡さん、時間あったら佐々木くんに案内してあげて。4月初日からバリバリ働いてもらうから。あ、その前にここで任せる仕事を説明するよ」


 なんだかすごく喋る人だなと思いながら朝倉部長に言われるまま別の会議室へ行く。そしてパンフレットを見せてもらう。


「全部英語で書いてあるんだけど佐々木くんはスラスラ読めるよね」

「はい。……すごいですね」

「今力を入れてるのはIT分野でね、メーカーは日本の企業なんだけど顧客は海外が多くて、基本的にはメールと電話でやり取りしてほしいんだけど夏頃には直接行ってほしいと思ってる。まあ、その時になったらまた言うよ」


 続いてある企業の名前を言われて首を傾げる。


「申し訳ございません。耳にした覚えはあるのですが」

「良いの良いの。そういうのはこれから覚えれば良いんだから。アメリカの企業でね。そこの社長が佐々木くんのことを知ってるらしくて、今後正式に取引したいと思ってるんだ」

「な、なんで私のことを?」

「ほら、採用面接の時教えてくれたでしょ。スーツブランドやっているお父さんの友達の付き添いでいろんな経験をしたって。そのパーティーに出席しててね、この社長。まだ大学生だけど堂々としていて話も簡潔だけどユーモアもあって、面白い人だと思ったらしいよ。うちの社長がたまたまパーティーの席で聞いて採用面接で聞いたことのある話だなって。なんて偶然、ビジネスのチャンスだって。というわけで佐々木くんにはどんどんうちの会社のさらなる成長に大きく貢献してほしい」

「なんだか上手い話ですね。……誰か関わってないですよね。それこそ関さんとか神崎社長とか」

「ああ、知り合いなのは知ってるけど別にそこで評価したりはしないよ。大丈夫。でもこういうのは縁だからコネクションは大事なんだよ。チャンスがあったらすぐ掴まなきゃ」

「そうなんですね」

「そうだよ。タイミングも重要だよ。すぐ飛び付くことが良い時もあるしタイミングを見計らって今だって思ったら逃さないようにすることもある。押しも引きも重要だって言うでしょ。仕事でもプライベートでも」

「プライベートも……?えっと、確かにそうですね」

「ま、後悔しないように時には頭を使うことも必要だよ」

「え?あ、はい」

「でね、佐々木くんの周りの人に助けてもらうのを当たり前だと思わず感謝する謙虚さがあるのに自分の意見もしっかりあってやりたいことも堂々と言えるところがすごいと思ったんだ。採用が決まってから神崎社長とか繋がりを聞いたけどそれで評価がどうこうっていうのはないよ。これまでの2年間支社でどう働いてきたかは聞いて評価はしているけど。是非本社でも佐々木くんらしく活躍してほしい」

「はい、頑張ります。よろしくお願い致します」




 家に帰ると宅配BOXに荷物が届いていた。頻繁に送られてくるけど今日の荷物は長財布だ。昨日親父から連絡があった。宅配BOXから取り出して部屋に入る。中身より高い財布を持つなんて1円も入れてなくても持つのが怖いから嫌だとか押し問答を続けた結果、当初提示された物より安い長財布を本社勤務祝いだからと押しきられて送られた。その財布を包みから取り出して写真を撮って親父に送った。


『財布届いたよ』


 朝倉部長に言われたことを思い出す。別に謙虚なわけでもないんだけどああも褒められるとさすがに親父にも素直に感謝しようという気になる。無理やり押し付けられた形なんだけど。さて、親父を舞い上がらせずに感謝を伝えるにはどうしたら良いだろう。考えている間に返信が来た。


『異動おめでとう。隼人の頑張りが認められて嬉しいよ。身体に気を付けてこれからも頑張るんだよ』

『ありがとう』


 なんだかんだで親父は母さんのことがなければまとも……多少まともな父親だ。竜二さんと翔太くんのことを、仲良しにしてあげて優しくて良い子で嬉しいよーと電話で言ってこようともとりあえず……。


『僕も隼人のことが大好きだよ!!』


 なんで昔から母さんも親父もありがとうが大好きだと変換されてしまうんだろう。1回頭の中がどうなってるのか見てみたい。いや、やっぱり良いや。


 携帯をテーブルに置く。再来週からいよいよ本社勤務だ。あのあと他の人にも挨拶したり案内してもらってここで働くんだなと実感できた。

 けどその前に今週末こっちもいよいよというかようやくおばあちゃんとおじいちゃんがアメリカへ旅立つ。騒がしくなるんだろうな。空港でギャーギャー騒がないでほしいけど無理そうだな。あ、そうだ良い考えを思い付いた。そう思って昴に電話をかける。


「昴昴、明後日なんだけど耳栓をしていくっていうのはどうだろ」

『そんな意地悪しないでよ』


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