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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
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合宿



 早く8月にならないかな。椿が4年間過ごした場所……なんてドキドキする響きなんだろう。俺の知らない椿が大学でどんな友達とどんな授業を聞いてどんな風に過ごしていたんだろう。学部は?椿はいろんなことに興味を持ってたからどんな学部でも不思議じゃない。俺と同じ文学部かな。あ、歴史も熱心に勉強してたし歴史学とか専攻してたかもしれない。サークルには入ってたかな。バイトに忙しかったらしてないかな。どうだろう、入ってたとしたら椿は運動はあんまり得意じゃなかったから文化系のサークルかな。サークルの飲み会とかあったのかな。椿は酔うとどうなるんだろう。可愛いだろうな。何を飲むんだろう。カクテルとか?意外と日本酒とか?酔っちゃったみたいって言って寄りかかってきたりして……。あー椿酔わせたい。


「またニヤニヤしてるー」

「気持ち悪いー」

「隼人くん!!行くよー!!えい!!」


 飛んできた物体を顔に当たる前で掴む。


「誰かな?今気持ち悪いって言ったのは?」

「和哉!!」

「ちげーよ!!琢磨だよ!!」

「声からして琢磨だね」

「なんでわかるんだよ。絶対今椿のこと考えてただろ、他のこと考えてたならわかるだろうけど」

「気配を感じたんだよ。それから椿じゃなくて椿ちゃん、でしょ。何回言ったらわかるの?痛……」

「お、亮ナイス!!」

「隼人くん大丈夫ー?」

「俊也は危ないから離れてなね」


 俊也たち低学年の子たちに声をかけてから投げつけられた2つの枕を握りしめる。

 俺は今バスケクラブの合宿に来ている。一泊二日の合宿で1日目の練習を終えご飯を食べて大浴場に入りあとは寝るだけと、子供たちプラス俺の大部屋で椿の母校かもしれない大学に行くことを考えているところだった。だけどよく言えばわんぱくといえる悪ガキ集団に邪魔をされた。いつもなら椿のことになると集中していつものように周りに構ってられないけどこいつらが大人しくしてるはずがないというのはわかっていたから俺は9割椿のことを考え1割こいつらのしかけてくるいたずらに備えていた。案の定枕が飛んできた。


「小さい子たちもいるんだから危ないことしちゃ駄目だよ」

「へーん!!合宿といえば枕投げ!!」

「そういうのって修学旅行とかじゃないの?」

「なんでも良いんだよ!!とにかくほら!!俊也たちも一緒にやれば良いだろ」

「枕投げやりたーい!!」

「えー……悠もやりたいの?」

「僕もー!!」

「ほら、隼人くんみんなもそう言ってるしやろうよー!!」

「仕方ないな……。でも手加減しなよ。危ないと思ったら止めるからね」


 みんながやりたいと騒ぎ出すから顔に当てちゃ駄目とか物に当てて壊ささないようにとか注意して枕投げを始めた。3、4、5年生を半分に分けて1、2年生は5人全員俺と同じチームにした。

 言うまでもなく俺のチームが優勢で、相手チームで残ったのは5年の和哉と琢磨と4年の亮。こいつらが一番煩い。1、2年はまだ素直で可愛い良い子たちなのにこの3人を中心に他の子もどんどん悪に染まってる感じがする。6年生がどこにいるのかと言うとコーチとミーティング中で不在だ。


「あ、そういえば俺の姉ちゃんの友達が椿って名前なんだってさ」

「そんな安っぽい挑発には乗らないよ、亮」

「俺の同級生に坂下って名字のやつがいるんだよ。親戚にいるんじゃないかなー」

「今すぐその子に聞きな」


 枕を投げながら亮と和哉が言ってくるけどそれでペースは崩されない。


「この前隼人くんが言ってた大学俺の伯父さんの知り合いが教授やってるって母さんに聞いたんだ」

「大学教授は駄目ー!!」

「ただい……痛いっ」

「あ、みんなおかえりなさーい」

「ただいま。みんなで何してたの?」

「「枕投げー!!」」

「そっかー。今の隼人くんが?こっちに飛ばしてくるなんてらしくないね」

「……隼人くんどしたの?」

「なんかねーわからないけど琢磨くんが喋ったら布団に倒れこんじゃったのー」

「おーい、隼人くん大丈夫ー?」

「大学の教授は駄目……不倫は駄目……騙されちゃ駄目……」

「よくわからないけど琢磨、和哉、亮、隼人くんいじめちゃ駄目だよ」

「はーい」

「はーい」

「はーい」


 ああ、どうか椿が若菜とか友達にそそのかされて大学教授に騙されませんように。



 布団に入って大学のサイトをまた開いて今度は教授のことを調べた。中には興味深い論文を書いてる人がいて持ってきていたタブレットでさらっと読んでみたりしたけど駄目だ、この論文は素晴らしいけど椿に相応しいのは俺だけなんだから、と考えているうちにいつの間にか眠っていた。


 朝、手伝いに来ている琢磨のお母さんに声をかける。


「あの、琢磨の伯父さんの知り合いで大学教授してるって聞いたんですけどなんて人ですか?」

「貝塚さんって人よ。あら、隼人くんクマできてるわよ。琢磨たちがいたずらして眠れなかったんじゃない?」


 なんだ、貝塚さんという人は女性の助教授だ。椿は付き合ってなさそうだな。良かった良かったと思っているとお母さんたちに囲まれる。


「あらやだ、本当。ごめんねいつもうちの和哉が」

「亮にもいつも言い聞かせてるんだけど。ここマッサージすると良いわよ」

「あの……えっと……」

「あら亮くんのお母さんったらいくらイケメンでも触っちゃ駄目よ」

「わかってるわよー」

「コンシーラー女性ものだけど効果あるかしら?使う?ほらほらこうして」

「あ、えっと、大丈夫ですから」


 お母さんたちは強い。逆ナンしてくる女の子たちとは違う圧がある。すごい構ってくる。逆ナンしてくる女の子たちは遊ぼうと誘ってくるけどお母さんたちはお母さん心で一人暮らしの俺を心配したり堂々とイケメンは目の保養だーとか言ってくる。お母さんになるとみんな佳代子さんみたいに強くなるのかな。椿もお母さんになったら……椿はお母さんになっても旦那の俺のことだけを見ててくれないと。他の若い男も見ないでいつまでもずっと俺だけを見ててほしい。

 それにきっとお母さんたちの旦那さんもそう思ってるに決まってる。


「心配してくださってありがとうございます。けどお父さんたちも仕事で疲れているのに手伝いに来てくださってますし、俺のことは良いので労ってあげてください」

「まあまあ!!本当に隼人くんはイケメンなのに優しいわ!!」

「頭も良くてスポーツもできてその上優しいなんて本当に素敵だわー」

「琢磨にも見習ってほしいわー。無理だと思うけど」

「母さーん!!向こうで幼虫見つけたんだー!!」

「ぎゃー!!琢磨ー!!あんたいい加減にしなさいよー!!」


 相変わらず騒がしい親子だなと思いながらおいかけっこを始めてしまった幼虫を手にした琢磨くんとお母さんを眺める。


 

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