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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
10/136

穏やかな気持ち



 土曜日当日になった。椿はまだ来ていないようだ。


「隼人ー今日はなにがメインかわかってる?」

「椿に会うことに決まってるだろ」

「決まってないよ。試合だよ、練習試合」


 試合が始まる10分前俺はベンチに座って椿が来るのを今か今かと待っているところだ。それを誠司が邪魔してきた。


「試合なんてどうでもいい」

「駄目駄目!!ほら、軽くミーティングするよ。みんなも来てー」


 座る俺を囲むようにしてチームメイトが集まり軽いミーティングを始めた。仕方ないなと思いながら試合のことを考えることにした。

 試合が始まると自然に集中していた。試合開始直後俺が先制点を決めると歓声が上がる。ふとその歓声の元に目を向ける。


「いた!!」


 可愛い椿がその集団の近くに座っていた。でも横顔しか見えなくて隣の昴となにか話しているようだ。昴め、羨ましい……。


「佐々木どっか怪我した?」

「え?なんで?してないよ」

「だって今いたって」

「あ、あーなんでもない」


 そう笑って答えながらチームメイトとハイタッチする。そいつが走ってくとそばに誠司が駆け寄ってくる。


「あの子が坂下さんね」

「そうそう。可愛いだろ。あ、駄目だぞ」

「だから彼女いるって……。へえ、清楚系が好きなんだ」

「そういうわけじゃない。椿だからだ」

「ふーん。それにしても隼人ってそこまで目良くないって言ってたよね。この距離から見えるの?」

「椿なら見える」

「絶対おかしいよ、隼人の目」

「昔幼馴染みが従妹のことが好きだって言うから眼科に連れていったけどなんともなかった。俺のもおかしくないはずだ」

「なにそれ……」

「まあ実際あれくらいなら見える。そんなに悪いわけじゃないんだ。一番後ろの席から黒板見えるし」

「え、じゃあ去年授業で何回か、黒板が見えづらくて目を凝らして授業を聞いていたら頭が痛くなったので保健室に行ってきますって言ってたのは?」

「嘘に決まってるだろ」

「なんて酷い!!みんな隼人は真面目だなーって言ってたのに!!」

「良いだろ、別に誰にも迷惑かけてないんだから」

「印象詐欺だよ」

「あ、ほら部長がサボってるから点入れられたぞ」

「もー!!隼人もこの試合勝たないと坂下さんにかっこ悪いって思われるからちゃんとして!!」

「そんなことにはならない。ちゃんと勝つからなっ!!ほらよ!!」

「ん!!怖いくらい正確なパスだね!!」



 直後誠司がシュートを決めるとその後も相手を突き放して10点差で俺たちの勝利で試合が終わった。

 試合が終わるとさっさと支度をしている俺に誠司が声をかけてきた。


「すぐミーティングしようと思ってたけど無理だってわかってるから10分で戻ってきてね」

「お前は馬鹿か。10分で戻ってこれるわけないだろ」

「だってどうせあんまり話せないんでしょ?」

「10分は粘れるだろ。戻ってくるのはそうだな……せめて20分」

「10分でよろしく。それじゃみんなー上あがってミーティングするよー」


 若菜を振り切れば20分……いや、ゆっくりお話ししたかったんですーとか言われたらそのままその辺りに座って話したりってこともあるかもしれない。ミーティングは参加不可だ。

 俺はスキップでもしそうな気持ちで体育館の裏口にたどり着いた。そして少しだけ待つと若菜の煩い声が聞こえてきた。

 俺はこの前の昴の言葉を思い出す。ゆっくり、丁寧に……。視界に椿の姿が映った。昴や誠司に話す時はあんなに興奮していたし椿のことを考えるとそわそわして仕方なかったのにどういうことだろう。自然に囲まれた場所で感じるような静かで心地よい、そよ風に吹かれている気がした。……ちなみに実際には無風。俺は昴が言うようなことにはならず、むしろいつもよりも冷静だった。


「隼人くん、お疲れさま!!」

「ありがとう」


 昴の少し上ずった声に一言返した。お前が緊張してどうする。


「なんでわざわざ呼び出されなきゃなんないのよ。私も暇じゃないの」

「そう言うなって。たまには良いだろ」


 若菜の言葉に一瞬イラッとしたがやり過ごす。しまった。丁寧な言葉遣い……。

 そしてあの日以来2度目、椿の目に俺が映る。それがとても凄いことのような気がした。


「あの時の子だよね。応援来てくれてありがとう」

「い、いえ!!あの、私お礼を言いたくて!!」


 ほら、見ろ。誰が覚えてないだって?覚えてるどころか俺にお礼を言いたくて探し回ったと……はて、お礼ってなんだ?


「……お礼?」

「はい、荷物運ぶの手伝ってくださってありがとうございました!!」

「え、お礼を言われるほどのことじゃないよ」


 律儀で可愛いな。だけどその純粋さに少し気後れした。


「そんなことないです。重かったですし」

「たいしたことないよ。鍛えてるしね」


 俺はそう言って半袖から見える腕を曲げて見せる。いや、待て俺。天然につられて不思議なやり取りをしていやしないだろうか。俺は何故か恥ずかしくなって仕切り直そうとしたが椿のキラキラと輝く瞳に圧倒される。椿の瞳に映るのはすごく嬉しい。だけどその純粋な瞳には俺はどんな風に映ってるんだろうか。少しは良いように映っているのだろうか。


「……椿、ケーキ屋さん!!」

「わ、若菜!?」


 今まで黙っていた若菜が急に叫び椿の手を引いて誰にもなにも言わせず走っていってしまった。俺としたことが呆然として反応が遅れた。


「え、えっと……隼人くん?」

「昴」

「え?」

「使命、わかって「わかってるよ!!じゃあまた後でね!!」」


 なぜか慌てて昴も走っていった。それにしても椿はやっぱり可愛い。そして純粋でその瞳はとても澄んでいた。椿の瞳に映る俺はかっこいい俺でいたい、そう思った。

 椿の姿が見えなくなるまでその後ろ姿を見つめ、見えなくなると今さら鼓動が早くなった。

 なんなんだ、俺は。どういう身体をしてるんだ。椿の前だとあんなに穏やかにいられたのに。自分で自分がわからない。




「あれ?まだ10分どころか7、8分しか経ってないよ?」


 考えながらチームメイトがいる所まで行くと誠司が言ってきた。


「誠司……」

「ど、どうした?」

「椿が可愛かった」

「はいはい。じゃあミーティングするよー」


 ミーティングは所々しか頭に入ってこなかった。その後の試合は全然使えなかったと誠司に言われてとりあえず殴っておいた。椿と話せた余韻に浸ったまま家に帰ると母さんがいつもより楽しそうに玄関へ走ってきた。


「隼人おかえりなさい。昴が来てるのよ。メッセージとかやりとりはするけど直接会うのは久しぶりだから私も琉依さんも嬉しくて」

「そう、昴が」

「早く降りてきて隼人も一緒に喋ろー」

「わかったわかった」


 母さんにせかされて階段を上ると自分の部屋に入る。

 今日のことだよな。昴に言われた通り偶然も装ったし口も悪くなかったし言うことなかったと思うけど。やっぱり若菜が駄目だったか?ああ、今さら若菜にムカついてきた。たった2、3分でも椿と話せて幸せな時間だったけどもっと話していたかった。余韻に浸ってると感覚が麻痺するみたいだ。家に帰るといつもの日常に戻ってイライラピリピリしてきた。

 そう思いながらリビングに行くとなぜかすごく楽しそうな昴が母さんと父さんと椅子に座っていた。


「隼人くーんおかえりー」

「なんなんだ、機嫌良いな」

「ふふー後でね」

「なーに?ここで話してくれれば良いじゃない」

「まだ秘密だよ」

「そうなのー?」

「隼人、おかえり」

「ただいま、父さん」


 気持ちが悪いと思いながら昴の隣に座る。


「ねえ昴、一昨日隼人が琉依さんの靴を履いていっちゃったでしょー。その夜はシャツのボタンがずれててねー珍しかったのよ」

「そうなんだ。珍しいねー」


 ニヤニヤするな。お前さっきの緊張感や慌てようはなんだったんだよ。


「私が直してあげたのよ」

「えー隼人くんが黙って直されてたの?」

「すごい嫌がるのー」

「だよねー」

「わがままよね」

「ねー」


 なんだこのフワッとした会話は。


「昴、この前渡した教本どう?」

「うん、わかりやすいよ」

「昴ももう琉依さんみたいに上手になったんじゃなーい?」

「琉依さんほどのプログラマーはそうそういないよ。僕はまだまだ」

「そうなのー?」

「そんなことないよ。すぐ僕なんて追い抜くよ。期待してるからね」

「えへへーありがとう」


 こうやって身代わりを育成してるんだ。そうとも知らずに可哀想な昴。本人が楽しそうだからなにも言わないけど。

 俺は黙ってご飯を掻き込んだ。早く昴の話を聞かなくては。



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