入学式の日②
入学式が始まっているというのに校門近くで話をしていた二人。弘成と雫は、その状況を発見し、呼び出した女性の教師のもとにいた。
「あなた達は、新入生ね?クラスと名前を教えてもらえるかしら?」
先生は、いきなり話し始めずに自己紹介から始めるようだ。俺としても先生の事やこの学校のことをまだよく知らないので好都合であった。
「えっと、七組の久沓 弘成です。」
「私も七組で、佐藤 雫って言います。」
俺たちは無難に聞かれた通りにクラスと名前だけ答えた。先生は、クラスを聞くと一瞬ピクリと反応し動かなくなった。七組に何かあるのかは知らないがこの先生にかかわりがあることは確かだろう。
「そう、七組ね・・・。私は、萌乃 雪。七組の担任よ。これから一年間よろしくね。」
そう、この萌乃先生は俺達の担任教師であった。入学して、いや入学する前から担任に眼をつけられたらしい。これはまずい。初日から遅刻、しかもその理由が女の子とイチャついていたと思われているだろう。
「はい、よろしくお願いします。ところで、入学式って始まっているのですが俺たちは参加しないいのですか?」
「あーそれ。もう入学式始まってるのか。早くいかないとまずいんじゃないの?」
雫は、どうも自分も遅刻しているということに気づいていないらしい。言動が完全に外野からの視点になっている。
「雫さん。どこみてるんですか?」
雫は説教を始められたからまだ一度も先生と向き合って話いない。これも先生の心境を悪くしている原因の一つである。雫はずっと体育館で行われている入学式を見ていた。
「体育館ですけど・・・。そうだ!先生、トイレに行ってきてもいいですか?さっきからずっと我慢していたんです。」
雫がお腹を触りながら先生に訴えかける。
「いいですよ。急いでいって来なさい。」
「はーい。ありがとございます。」
雫は階段の方へ走っていく。おかしい。トイレは、先生のすぐ後ろにあるのにどうしてそっちに行った?
「あのー、先生。」
「なんですか?あなたもトイレですか?」
「違います!俺たちは入学式にいつ向かうんですか?」
入学式を行っている体育館の方を見る。まだ、高校生になったという実感は湧かないが入学式という高校最初の行事にはやはり惹かれるものがある。雫も入学式が気になっていたのだろうか。ずっと体育館の方を見てたし。そんなの事を考え体育館の入り口を見ると高校の教師が番人のように立っていた。そして、そこに走っていく女の子が目の隅に映った。その女の子は、肩にかかるくらいの髪の・・長さで・・・。大きめの膨らみ。間違いない。雫だ!
どうしてあんな所にいるのか、答えは簡単だ。あいつは面倒事が大嫌い。怒られるのも好きではないだろう。となると、逃げた・・・信じらんねえ!俺を身代わりにしおった。
逃げた雫は、番人をしている教師の所へたどり着くと教師たちに何やら身振り手振りで何かを説明している様だ。番人教師たちは何やらうなずくと扉を開けた。
「な、なにっ!!」
なぜ、あいつはそんなに簡単に中に入れるのか?
体育館の中に入るとゆっくりと音をたてないように閉められえる扉の間からこちらへメッセージを手と口パク、表情から雫が言わんとしていることが分かった気がする。手は親指を立て、口は、「お・さ・き。」と嘲笑交じりにしている。あいつ、完全に逃げやがったな・・・。
「雫さん、遅いわね」
「そうですね・・・」
しゃあなし、俺だけ説教食らうか・・・。もうすべてを諦める。さらば、高校の入学式。まあ、そこまでしていきたかった行事ではないがね。
ため息が漏れそうになるのをが何しながら先生のありがたい話を聞く。内容としては、初日から遅刻したこと。そして、その理由についてだ。やはり、先生は誤解している。俺と雫が校門前でイチャイチャしているように見えたらしい。
「あんな場所でキスなんて駄目ですよ!お付き合いするのはいいですけど時と場所を考え節度ある健全なお付き合いをしてください。」
先生は勘違いをしているが俺達の事を考えてくれているらしい。
「あのー、俺達の事を真剣に考えてくれているのは分かるんですけど。」
「そうです。私は、あなた達の事を考えていっているんです。」
「そのことなんですが、俺達、付き合ってませんよ。雫は、幼馴染で、さっきは雫の悪ふざけだったと思います。」
「ふぇ?あんなに顔を近づけて、キ、キスしようとしてたのに!?」
先生はまだ信じられないでいるようだ。
「はい。あんな雫は初めてでしたが、雫が俺をからかってきただけです。」
「そそ、そうでしたか、私は、てっきりあんな場所でキスしていて遅れたとばかり・・・。なら、お付き合いの件についてはおしまいね。・・・だとしても、遅刻をするのはいけませんよ。いいですか?遅刻を繰り返すと中学と違って留年してしまうんですからね。」
「はい、気を付けます。」
「それじゃあ入学式に行きましょう。実は、私も入学式に参加しなければいけなかったので、私も遅刻なんですがね。」
「先生・・・。」
「はっ!!何でもないの!早くいきましょう!もう始まっているんですから!」
そう言うと先生は早歩きで体育館に行ってしまった。
この人(先生)、ドジっ子か?いや、天然?とりあえず俺も体育館に行かなくては。
誰もいない廊下や教室に二人の走る音が響く。先生の説教が長くて入学式のプログラムにある呼名に遅れてしまいそうになっているのだ。呼名では、担任の先生が担当の生徒たち全員の名前を呼ぶものだ。当然、七組担任の雪先生も呼名を行わなくてはいけないし。弘成も呼名されるのでそれに間に合わなくては欠席扱いになってしまうのだ。
「ハアハア、七組担当の萌乃です。七組の生徒を探していて遅れました。入れてもらってもいいですか?
」
「おお、雪先生ですか。一年担当の先生方が探してましたよ。どうぞ、入ってください。呼名が始まっているので静かにお願いします。」
門番の先生に雪先生が事情を話すと門番の先生は中の様子を少し教えてから扉を開ける。この門番の先生、怖い顔と空気をしているけど結構普通なんだな。それとも雪先生みたいに小さい子限定なのか。
「おいそこの一年。お前も早く入れ。先生が行ってしまうぞ。」
「は、はい。すいません、ありがとうございます。」
俺の勘違いだった。すいません。ある特殊な思考の持ちかと思った。あれだ、ロ○コン。
心の中で門番の先生に謝ると先に入っていった先生の後を追いかけて体育館に入る。中には、入学生とその保護者がズラッと座っていた。入学生の方では呼ばれた人が立ち上がっていって。。一クラス分言い終わるとそのクラスの入学生が全員座る。これを繰り返していてた。今、呼名を行っているのは六組で俺と先生はギリギリセーフだ。おれは、自分の座るはずだった席がある列の一番端に座った。この状況で中心らへんにある俺の席に向かうには保護者から完全に注目されないといけないのだ。途中で入ってきている時点で十分目立っているがこれ以上目立つのは流石にいやだった。目立とうとすれば十分目立てるのだが・・・。
六組の呼名が終わった。次からは俺達七組の呼名だ。先生は汗を浮かべながらもしっかりと呼名を行っていく。雫の呼名の時に返事が返ってきた事で若干驚いていたが、それ以外は特に問題なく七組の呼名が終わった。次の八組も問題なく終了した様だった。
呼名が終わると校長の話を聞いて入学式が終了した。入学式の後はクラスに分かれて自己紹介を行う。俺と雫、誠司も自己紹介を行った。
「私は、佐藤 雫。好きなことは、んー。色々!何か楽しい事とかあったら教えてください。よろしくお願いします。」
雫の自己紹介はなんだか適当な感じだが、人を引き付ける力があるような気がするな。特にクラスの男子がコソコソと話し合っているのが見える。
「俺は、黒岩 誠司。好きなことは、友達と遊ぶことかな?これから一年間よろしくね。」
誠司の自己紹介は、雫と違ってとても丁寧なものだった。クラスの男子も女子もいい印象を受けたようだ。一部の女子たちが何やら話している様子が分かる。
「俺は、久沓 弘成。好きなことは、読書とかです。一年間よろしくお願いします。」
最後に俺。なぜこの順番になったのだ!?人の前で話すのが得意な二人の後は流石に緊張した。
そのあとも順調に自己紹介が進み、最後に先生の自己紹介になった。
「私の名前は、萌乃 雪。萌乃先生とでも雪先生でも好きなように呼んでください。好きな事は、テレビ鑑賞です。これから一年間あなた達の担任として頑張ります。何か相談事とかあったら教えてください。一年間よろしくお願いします。」
先生の自己紹介、というか挨拶が終わった。先生は配布物を配り今日やるべきことを終了させ入学式初日の学校が終わった。が、この学校ではこの後、部活動の紹介がある。下校時刻は三時過ぎに設定されているのでまだ下校できない。しょうがないので雫と誠司に「一緒に部活動みに行かないか?」と誘った。二人は二つ返事で「いいね!」「いこうか」と答えてくれた。どの部活に入るか決めてないし。そもそも、いまのところ入る気がないので適当にぶらぶらすることにした。体育館では、室内運動系の紹介がされていてグラウンドでは外部活の紹介がされていた。各教室では文化系の紹介がされていた。雫は女子バスケット部に興味を持ち、誠司はサッカー部に興味を持っていた。俺は、運動系の部活に興味は湧かなかったが工学部と家庭部に少し興味をひかれた。まぁ、入らんけど・・・。
そして、四時。三時には下校してよかったが三人が別々の部活に興味を持ったのでずいぶんと時間がたってしまった。春とはいえ暗くなるのはまだ早い。外は少しずつ暗くなり始めている。雫と誠司と最寄駅まで一緒に来た。そこから少し違う道になる。
「雫を家まで送ってから帰るよ」
俺は、誠司にそう伝えると
「分かった。ヒロがいれば安心だな。気をつけて帰れよ。また、明日学校で」
「おう!明日な」
誠司が少しずつとうざかっていく。
「雫、行こうぜ」
「分かった。」
雫は、少し下を向きながら歩く。もう、周りは暗くなっていて雫の様子は分からない。
「いつもありがとう。家まで送ってくれて。」
「ん?ああ、気にすんなよ。女の子一人に暗い道を歩かせるわけにはいかないだろう。でも、明るくなったら一人で帰れよ?」
「分かってるわよ!バーカ!」
「なんだとーこいつー」
二人でじゃれあいながら雫の家へ向かう。恋人同士のイチャつきではなく気の許せる二人ならではのじゃれつきだった。
弘成は、雫を雫の家まで送り届け、自分の家までまた歩き出す。弘成の家は海の近くにあり、そこに一人で住んでいる。両親や兄弟はいるがみんな研究所で生活している。おれは、みんな研究員とか開発者とかの家庭に生まれたのだ。だが、特に生活に困ることはない。仕送りも十分にあるしね。俺も将来研究所とか行くのかな?
弘成は、海辺の道を歩いていた。この道は両サイドには桜の木が等間隔に生えている。今は、入学シーズン、つまり春!満開の桜が月の光に照らされ幻想的に感じさせられる。桜の木から降ってくる桜は、桜の雨といってもいいかもしれない。浜辺から聞こえてくる波の音が心地いい。
「やっと、見つけた。」
「え?」
横から突然声を掛けられる。振り向くと、そこには全身ずぶ濡れで濡れた黒い髪に桜の花びらを付けた少女が立っていた。月と桜の雨を背景に話しかけてきた少女はまるで天使だった。月光に照らされた肌は磁器のように白く、春風になびかせる黒髪は、白い肌と対象でお互いの色を引き立たせている。身長は小さく、容姿はかわいいと言う感想が出てくるが、天使の様に神聖な空気を纏う少女は可愛いなんて一言ではいい表せないものがあった。
「んっ!?」
「君は・・・。あっ!」
少女は何やらビックリした様な顔をすると何処かへ飛んで行ってしまった。そう、飛んで行ったのである。あの少女は、「本当に天使だったのではないか?」
そんなことを考えながら空を見上げて自分の家へ帰るのだった。
今週中に出せてよかったです。( ´Д`)=3 フゥ
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