入学式の日①
ゼロ番ちゃんはもう少し出てきません申し訳ない。
今週は忙しいのですが時間を見つけて書いていたらある程度の分量になったので投稿します。
少し普通の日常チックになってしまいますがお付き合いよろしくお願いします
太陽の光がカーテンの隙間から漏れてくる。その眩しさに顔を逸らすが目覚まし時計の鬼の追撃をくらい目を強制的に覚ませられる。俺は朝が苦手だ。誰かに起こしてもらうか、今のように無慈悲な二弾攻撃を食らわなければ恐らく起きないだろう。嫌いな理由は眠くてだるいから。でも、目が覚めたなら今度は暖かな春の光に包まれ幸福を感じる。「始めるまではめんどくさいけど、始めてしまえば楽しい。」なんてことを誰もが感じたことがあるのではと俺は考える。そんなことを考えながら寝室から一階のリビングに向かう。テーブルには何も置かれていない。しいて言えば昨日の夜、お茶を飲んだ後にコップをそのまま放置したのでそのコップが残っているぐらいだ。キッチンには洗い物が放置されそろそろ洗わねばとめんどくさがりに考えさせるほどの状況だった。電子レンジの横にある棚から食パンを取り出しレンジに二枚放り込む。するとレンジは自動でパンの枚数にあった設定を選びパンを焼き始めた。その間に冷蔵庫からハムとマヨネーズ取りテーブルにセットする。そのあと、パンが焼き終わるまでの時間を利用して目玉焼きを作り始める。途中に降りかけた塩コショウがいい香りを部屋に充満させ早く食べたいとお腹とのどが鳴る。目玉焼きが丁度完成する頃にパンの方も焼きあがったパンにはマヨネーズを掛けその上からハムを乗せる。これで食べ物の準備は終わり。つづいて飲み物。こちらは普通にインスタントコーヒーだ。味の良し悪しはわからないがこれが朝の定番目メニューだ。
朝食を食べ終えるとまずは歯磨き、次に制服に着替え、カバンの中身を確認する。忘れ物がないか確認すると家の戸締りをして駅に向かう。毎朝の電車は、通勤ラッシュと重なりかなりの人が乗り降りする。毎日同じ電車の同じ場所に陣を敷いて高校最寄りの駅まで時間をつぶして待つ。主に携帯端末に届くメールやニュースの確認などを行っている。
高校の最寄り駅に着くと入ってくる人の波に流されないように速めにホームへ出る。ここからは歩いてすぐだ。
駅を出ると同じ制服を着た人が多くいた。今日から始まる高校生活に胸を躍らせながら高校の正門をくぐる。そこには、多くの同級生とクラス分けの張り紙。そして、大きな桜の木。満開の桜が新入生を迎え、抱きかかえるように桜が舞い落ちる。
「今日から高校生か・・・」
まだ実感が湧いていないようにつぶやく俺。友達ができるか不安がっていたが同じ高校に親友と幼馴染がいるのでひとまず安心だろう。
まずやるべきはクラス分けの確認だ。クラスが分からないと何処に行けばいいのか分からないからである。クラス分けの張り紙の周りに集まりクラスを確認している高校生たちがクラス分けの結果を見て騒いでいる。その高校生たちの壁をかき分けて張り紙の前まで進む。
張り紙には、クラスと担任の先生、これから一年間同じクラスで過ごす仲間たちの名前がずらっと書かれていた。自分の名前を探す。クラスは、7組。同じクラスには親友の名前と幼馴染の名前が書かれていた。ホッとし張り紙前の集団から抜け出す。周囲の人が減り視界が広くなる。すると人の壁の中に入れないでいる女の子がいた。困るように周りを見渡している。俺は女の子に近づき話しかけた。
「えっと、大丈夫?困っているなら何か手伝おうか?」
女の子は、「びくっ」と反応してからゆっくりとこちらを見上げる。この女の子は、身長が低く必然的にこちらを見上げる。まだ怖がっているようだ。体を縮こませて震えている。
「大丈夫、怖くないよ。俺は何もしないから。困っているなら教えてほしいな。じゃないとどうしていいか分からないから。」
俺は精一杯優しく語りかける。女の子は少し落ちついたのか体の震えが治まっていた。女の子は少し怯えながらもゆっくりと話し出した。
「ク、クラスの確認をしたい。でも、見えなくて。」
女の子の声はだんだん震えるようになっていって泣きそうになっていた。
「なんだったら俺が見てこようか?そうすればすぐに分かると思うぞ。」
女の子はこっちを見て絶体絶命の危機に希望をつかんだような顔を向けていた。
「神様・・・」
女の子は誰にも聞こえないぐらいの声でそう呟いた。
「えっ?ごめん、なんていったか聞き取れなかった。もう一回言ってもらってもいいかな?」
女の子は「ハッ」とするとすぐに答えた。
「んんー。そうだ!クラスを見てきてもらってもいいですか?」
何やら考える素振りを見せたが思い出したようにそう答えた。今までの弱く震えていた声ではなく。はっきりと言葉を話した。おそらく極度の人見知りだが仲のいい人や話すことに慣れた人には普通に話すことができるのだろう。
「分かった。それじゃあ見てくるけど名前を教えてもらってもいいかな?名前が分からないと探せないからさ。」
名前も知らない女の子のクラスを探すことはできない。探すには職員室まで本人を連れていくしかないだろう。
黙ってしまう女の子。深呼吸の音が聞こえてくるのでがんばって自己紹介をしようとしているのだろう。
「わ、私の名前は、優菜です。鈴木 優にゃ。」
・・・。
沈黙が訪れる。噛んだのか?いや、そんなことよりこの状況をどうにかしなくては。女の子は恥ずかしそうに制服のスカートの裾を握っている。顔は下を向いていて見られないが、耳が真っ赤になっていることから恥ずかしがっていることが確信に変わる。何とか自分の自己紹介にもっていって空気をかえる。
「俺の名前は、久沓 弘成。えっと、呼び方は好きに読んでね。中学では「弘」とか「つく」とか呼ばれていたよ。それじゃあ張り紙見てくるからここで待ってて。」
そう伝えまた、俺は人の壁の中に入り込んでいく。先ほどに比べると人が少なくなっていて案外簡単に張り紙前まで行くことが出来た。みんな、クラスを確認して教室に向ったのだろう。「鈴木、鈴木、鈴木。」心の中でそう呟きながら「鈴木 優菜」と書かれているクラスを確認する。意外とすぐに見つけることが出来た。一組から順に見ていくと鈴木さんの名前は一組の張り紙に書いてあった。この結果をもって鈴木さんの所へ向かう。人の壁を抜けると鈴木さんはまた不安そうな表情をしていたがこっちを見ると目を輝かせて走ってきた。
「どうでしたか?ありましたか?」
そう聞いてくる鈴木さん。さっきとは違う印象を受けた。暗く、人見知りな子だと思っていたが人見知りなのは変わらないが明るい感じの元気な子だと感じた。
「鈴木さんは、一組だったよ。クラス、分かってよかったね。」
そう教えてあげると鈴木さんは、
「ありがとっ。」
満面の笑顔でお礼を言った。その笑顔はこの子の手伝いをしてよかったと心から思わせるような表情だった。そのあと、鈴木さんはまたスカートの裾を握ってこちらの顔を窺ってくる。
「あのっ!久沓君は何組だった?」
少し期待をするような顔で尋ねてくる。
「俺は7組だったよ。クラス違ったね。」
「そうですか。でも、クラスが違っても遊びに行ってもいいですか?私、知り合いがいないので・・・」
とても残念。というのが声音から感じられる。しかし、遊びに行ってもいいかという問いに弘成が
「前全構わないよ。こちらこそこれからよろしく。」
と答えると口には出さないが嬉しそうに笑うと「もうすぐ、入学式が始まるから・・・その、またねっ」と言って走って行ってしまった。
張り紙前にいた人たちのほとんどが移動を終え、先ほどまで聞こえていた笑い声や話し声がなくなっていた。俺もそろそろ移動を始めようとして腕時計に眼を向ける。入学式は九時から開始する予定になっているが現在の時刻は八時四十三分。普通ならもう教室で待機しているはずの時間だ。
「やっべ、早くいかなきゃ。」
そう思って走り出そうとする。教室まで五分かかるとしても今からなら間に合うはずだ。誰にも邪魔されなければ・・・。
「おーい、はるー!おはようっ!」
来たか。校門の方から聞き馴染んだ声が聞こえてくる。子供の頃からよく一緒に遊んでいる幼馴染。佐藤 雫だ。彼女はいつも時間にルーズで時間ギリギリに登校してくる。一時期、一緒に登校していた時は時間に余裕をもって来れていたはずだがある日、時間が合わなくて別々で登校した日以来やっぱり朝の眠気には勝てなくなってしまったようだ。彼女は学級委員をやるような性格で自分から立候補して仕事を受けたのに「朝の手伝いがつらいー」と嘆いていた。自業自得だ。時間が合わなかった日も学級委員の仕事だったらしい。一週間ほど一緒に行っていたので早起きは、三日坊主ならぬ五日坊主だった。
「おはよー。今日もギリギリだな。もう少し早く来れるようにしたら?」
出会いがしら、もっと早く来れるように努力しろと提案するも彼女はそんなことはお構いなしらしい。
「そんなことよりさー、さっき一緒にいた小さくてかわいい子は誰かなー?新入早々ナンパとかあんたやばいんじゃないの?」
雫は、ずっと見ていたような口ぶりで俺にからかうようなふざけた顔で、口に手を当てて、笑わないように気を付けながら茶化してくる。
「なっ!お前、いつからいた?今来たところじゃないのか?てか、ナンパじゃなくて人助けな。困ってそうだったから助けただけだ。」
そう答えると
「で、そのあとに、また会おうとか口説いてたんでしょ?」
びっくりして目を見開く。「こいつ、どこまで見てたんだ?てか、なんで話していた内容を知ってるんだ?こわっ!!」と心の中で叫ぶ。いや、確かにまた会おう的な話はしたけどあれって俺からじゃないからセーフだよね?
「いや、『確かにまた会おうね。』みたいな話はしたけど俺からじゃなくて女の子の方からお願いされたからナンパとかじゃ無くね?」
必死の弁明。これで納得してくれるとは思っていないけどとりあえず言い訳を並べてみる。しかし、このままじゃ一生、いじりが終わらないような気がする。何とか話を変えなくては。
「えっと、誠司はどこにいるかしってる?」
俺の親友、勉強ができて相談にも乗ってくれるいいやつだ。おそらくもう教室に行っているだろう。
「知らない。」
雫のそっけない返事が返ってくる。もう少し返事に内容が含まれていたら話題を膨らませられそうなのに。何かないか・・・。そうだ!雫も女の子だ。何か褒めれば少しは会話が成立する筈。
「あー、雫の制服姿、似合ってるよ。」
これでどうだ!
「本当?」
下を向いて聞き返してくる。
「本当だ!」
何度でも言ってやる。この状況を何とかするために。
「本当に、本当?」
上目使いでほんのり頬をピンクに染めまた聞き返してくる。
「本当に、本当だ!」
確かに、この状況を何とかするために捻りだした答えだが嘘は言っていない。普段は恥ずかしくて言えないが雫は余裕で美人の部類に入るだろう。健康的で引き締まったウエストや細く綺麗な足、髪はボブで緩やかなカーブを描いて肩にかかる。
「ふーん。どうしよっかなー」
腕を上に伸ばすと髪の隙間からうなじが顔を出す。目を引かれそうになるが今は我慢だ。変に気づかれたらさっきまでよりひどい状況になるだろう。そして、腕を上に伸ばすことによって制服が引っ張られ胸の膨らみの主張が強まる。
「しょうがないなぁ。私のことが大好きな弘成にはご褒美を上げよう。」
そう言うとこちらに雫が近づいてくる。いつもはいきなり殴ってきたりするので準備できてるがゆっくり近づいてくるのは想定外でパニックに陥る。
「えっ?えっ?何?」
ジリジリと近づいてくる雫に押され少し後ずさる。
雫の小さな手が俺の後頭部に触れる。雫の体温が手から感じられる。触れると今度は雫の顔が近づいてくる。のどが鳴る。雫の鼻が俺の鼻に触れそうになり、雫の息使いが肌で感じられるようになる。このまま、キスでもするのかと身構えた時、大きな声が聞こえてきた。
「こらっ!!そこの二人!もう入学式が始まってますよ!すぐにこちらに来なさい。」
校舎の二階から女性の先生が叫んでいた。顔が怖くないので起こっているようには見えない。しかし、もう入学式が始まっているという発言に二人とも「ハッ」として時計をみる。
「やっば!おい雫、体育館に行くぞ」
そう伝えて全力で走り始めるが
「あっ。私、まだクラス確認してない。」
雫の言葉でつまずきそうになる。こいつ、俺の会話なんか盗み聞きしてないでクラスぐらい確認しとけや。
しかし、雫のクラスはすでに確認済みなので素早くそのことを伝え走りだす。
「俺と同じ七組だ。急ぐぞ!」
自分のクラスを聞いた雫は、
「私の名前も確認してたんだ。」
雫は、小さな声で自分にだけ言いきかせるようにつぶやいた。
「なんか言ったか?」
「何でもなーい」
弘成は走っていて気づかなかったが雫は満足そうな顔をしていた。先に走り出した弘成を追いかけるように走り出す。
二人は入学式の前、遅刻したことを怒られに女の先生のところまで走るのだった。
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