八話 異界の話
作者の戦争についての主義主張があります。嫌な人はブラウザバックをお願い致します。
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「はっは、初めまして! 僕は西寺時雨と言います。大学は農業学部農業科で学んでいました! 趣味はサバイバルゲームで野山を駆け巡っていました! 以上です!」
「おっ、おう」
ヴァ―ル達が屋敷に帰ってから一日が経ち、黒髪の渡界人を呼び出したら自己紹介を始めた。
「ここがどこか、分かるか?」
「皆さんを見ていると欧州や北欧のような顔立ちですが僕のいた世界には奴隷制度は無くなっていたはずです」
時雨と名乗った少年は首をかしげて考え始めた。
「ということはここは異世界ですね! あれ、待って! そしたら、ハム吉やハリーのお世話は誰がするの!? 転移や転生はどっちでもいいけど、あの子たちも一緒が良かったのにぃぃぃぃ! 神様のバカヤロー!」
「おい! 落ち着け!」
急に叫びだした時雨を止めようとするが今度を泣き始めた。ヴァ―ルは訳が分からなくなり、控えていた兵にローゼを呼ぶように言った。
小さい子供の扱いになれているローゼならどうにかしてれると考えていた。
「呼ばれて参上」
「あいつと話したいから宥めてくれ」
「スルーですか。また、夜は泣かしてやる」
ローゼが不安なことを言い、時雨の方に行った。中央の新婚貴族は旅行に行くらしいがヴァ―ルが領政や後始末で忙しく、夜しか会わない時もあるが屋敷の使用人達はラブラブと言われていた。
「男のくせにそんなに泣くな」
「「……」」
ヴァ―ルを冷たい目で見つめている二人。時雨の瞳は潤んでおり、今にも泣きだしそうだった。
「僕、女の子です! ピチピチの二十二才の女の子ですっ!」
「失礼だよ、ヴァ―ル君」
膨らみの無い胸に中性的な顔は男子に見える。しかし、細い腕や腰と近づくと仄かに香る甘い匂いは女性を感じせるが横にいるローゼと比べると貧相であった。
「男女の区別が分からない人の話を聞いてくれる?」
「はい、ローゼさんの頼みなら!」
なんでこいつらはこんなにも仲良くっているのだろうかとヴァ―ルは考えるが話を聞けるならどうでもいいと結論を出した。
時雨はこれまでの経緯を話しているが初めてあった人間が奴隷商でそのまま、奴隷にされて後にギャーグに売られてらしい。
その間にヴァ―ル達が攻めてきた為に忘れられて、放置されていたらしい。
「どうする? 仕事をしたいなら斡旋するが?」
「大学では農業でしたが高校は工業系だったので、どちらかの仕事なら大丈夫ですよ!」
時雨は幼い頃に軍人であった祖父の影響で戦闘機や戦車、軍艦に興味を持った。調べてくいくうちにそのもの自体の仕組みに興味持ち、将来は技術者になりたいと思って工業高校に進学し、存分に学んだ。
しかし、工業系の大学に進学しようとしたが実家の農業を継がなければいけなくなり、農業大学へ進学した。
「ふむ、バーンを呼んでくれ」
バーンは農家の出身で森や畑の状態を把握し報告していた。農家は農作物で収めてる為、成長具合や不作か豊作などを確認する役割も担っていた。
「バーンです」
「入れ」
何故か、バーンの手には書類が握られており、笑顔であった。
「ヴァ―ル様、不備があった書類と河川の近くに住んでいる者達からの陳情書でございます」
「わ、わかった。そこに置いてといてくれ」
貴族として、算術や言語はならってきたが全ての教育が終了せずに領主になったので稀であるが誤字や計算間違いなどがある。並行して座学も続けているがあまり時間は取れていない。
「今日の呼び出しはこの美しい女性が関係しているのですか?」
「ギャーグの奴隷の一人だったんだがシオンから渡界人だから保護をしてと頼まれてな。前の世界では農業を習っていたらしい」
「よっよろしくお願いします!」
何故、バーンは時雨のことを女子とすぐにわかったのだろうか。あれが紳士よみたいな顔をしたローゼが肘でヴァ―ルの横腹を突いていた。
「読み書きは出来ますか?」
「はい、大陸共通語は前の屋敷に居る時にお姉さんから教えてもらいました。後、四則演算は出来ます」
「それは優秀ですね。私も有難いです」
時雨は試験をして晴れて、職員となった。ヴァ―ルが領地を継いでからは若い世代が飛躍しており、そのおかげか年配の世代も鍛錬に余念が無かった。
「お前が居た世界はどんな世界か?」
「どんな世界ですか? 住んでいた地域は平和でしたよ。ですが、世界全体を見れば戦争やテロなどは収まることはなかったですし、飢餓で死ぬ人は居ますから日本と言う国が平和なだけだったんでしょう。
僕の祖父は前に起きた戦争に参加していました。部下を故郷に返す為、自分が生き残る為に何度も何度も人を殺したと言い、そして、そんな自分が家族を持って幸せになってもいいのかと自問自答を繰り返す日々だとも言ってました。
全ての学校ではないんですが理由も無く、戦争したから国は悪だとか、軍人は悪人だとか教えるんですよ。けど、その兵隊さんたちが守ったくれたおかげで今の日本があるんだと僕は考えています。
でも、決して戦争が良い行いではないと思いますがその全てを悪と決めつけるのは駄目だとも思っています」
時雨はこれまで見せてきた雰囲気では無く、今まで以上に真剣な目で語った。ヴァ―ルはまた、帝国が攻めてきたら自分が部下を戦地へと送る立場となった。当然、兵には家族がいる。しかし、敵兵にも家族がいる。今までは攻めてきた帝国が悪い、自分達の故郷を守ることは正義と思い、戦ってきた。
「シグレは祖父のことをどう思っているんだ?」
「尊敬していますよ。時々、人殺しの孫とか言われるんですが祖父は生き残る為に戦い、終わった後も何十年も苦悩し続けています。僕は人を虐めといて、自分は何もしていませんとか言う人間の方が狂っていると思いますよ」
ヴァ―ルは分家の反乱を阻止し、首謀犯やそれに組した者達を殆ど自分の手で処断した。そして、次の反乱を防止する為という理由で直系傍流を関係無しに赤子から全てを殺し、その妻や娘を奴隷と落とした。
だが、誰もヴァ―ルを咎める者は居なかった。助けを求めた親族を自分の手で殺した家臣もいた。
正しいことをしたはずなのに吐き気がする。暗く、冷たい池に落とされた気分である。
「ヴァ―ル、お茶が冷める前に飲みなさいよ」
「あぁ、ありがとう」
お茶は冷たかった。既に一時間以上話しており、とうの昔にお茶は温かさを失っている。テーブルにカップを戻して、ふと気づくと手が暖かった。ローゼがヴァ―ルを握りしめていた。
ローゼの体温は心地良く、いつの間にかに吐き気も無くなっていた。
「シグレさんの世界にはどのような人種が居られたのですか?」
「この世界みたいにケモ耳が生えている人は居ませんでしたよ。精々、肌の色が違うくらいでした」
話が途切れたせいなのか、バーンが時雨に質問をしていた。人種はヴァ―ルを始めとした普人と呼ばれる種族や獣の特徴を持つ獣人などが存在しており大まかに分けると五種類に分けれていた。
「そしたら、差別などはなかったのですか?」
「いいえ、生まれた土地や職業などでいろんな差別が起きていましたよ」
王国では聖教国や帝国みたいにあまり差別はされていなかったが聖教会の勢力が増してからは日に日に差別されて、獣人を駆逐したと声高らかに宣言した領地もあった。
「難しくて覚えてないんですが前の世界は各国で話し合って、世界人権宣言というのがありました。拷問、奴隷制、人種差別、女性差別、無差別の虐殺などを禁止し、自由権の保証があったはずです」
「なるほど。答えれられる範囲でいいのですか、自由権の保証とは?」
「うーん、自分が信じる神様を信じたり、なりたい仕事に就いたりできる権利みたいなものだと思います。すいません、覚えてなくて」
「いいえ、ありがとうございます」
時雨がヴァ―ルに視線を戻すとローゼに手を握られて、考え込んでいた。
「…リア充爆発しろ」
「声に出ていますよ、シグレさん」
この時雨の話がヴァ―ルに影響を及ぼしていく。それが分かるのは少し、先の話である。
「俺がしたことは間違っていたのか?」
「貴族としては問題ない、行動だったよ。お父様も手紙で褒めていたわ」
「耳が早いな」
「もちろん。けど、あの子の話を聞いて、子供まで殺したことを悔やんでいるのね?」
「あぁ、あいつの祖父は軍人で殺す覚悟も殺される覚悟もあったが俺が殺したのは罪を犯していない子供だ」
「聞こえはいいかもしれないけど、貴方はクラウト領の未来の為にその手を汚したのよ」
「そうかもしれないが、他の道もあったはずだ」
「けど、あの時は処刑するしかなかったわ。いくら考えても既に終わったことよ、前を向きなさい。そして、世界が敵になってもこの私が貴方の味方よ」
「相も変わらず、自信あり過ぎだろう」
「当然よ、貴方の妻ですから!」