七話 黒髪の奴隷
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「ギャーグ殿から領政に復帰する条件を記入された文書が届けられました」
「これは面白いな」
分家筆頭のギャーグの使者が伝えた条件は三つ。現在、支配してる町と農村の自治権の要求。自分の娘をヴァ―ルの正妻として迎えること。最後に人質として、ローゼをギャーグの屋敷に送ること。
「殺すか、アイツら」
「そうですな。余程、戦争がしたいようですな」
「我々の出番ですな」
ライオンのような鬣を持つ獣人が諜報部の実行部隊を率いてるシュロスである。クラウト領の諜報部の長は派手で変わり者が多いのだろうか。
シュロスはアルディートを経由して、連絡を取り昨日の夜には手勢を率いて合流した。
「シュロス達は明朝、現警備隊長を暗殺し、警備隊の家族の解放。俺とアルディートは確認後、ギャーグが占領している町の門を吹き飛ばし占領。ギャーグは殺すなよ。以上、簡単な話だ」
「ヴァ―ル様のお力を疑う訳でないですが鉄製の門を破壊することが出来るのですか?」
「なんなら、そこの門を壊してやろうか?」
クラウト領主館がある町の門を指さして笑うと質問したアルディートでは無く、ヴァインが慌てて、止めに入った。
「では、行こうか」
ヴァ―ルは騎兵二千と率いて、ギャーグが居る町へと移動を始めた。攻城戦を行うにはあり得ない部隊編成であったが考えた結果の編成であった。
――翌朝
戦況が変化していた。シュロス隊は警備隊の解放に成功したが警備隊は尊敬していた隊長達が殺された恨みが強く、人質になっていた家族が解放されていると聞くとそのまま、屋敷に突入しギャーグの手勢を皆殺しにして、ギャーグ一家とその他の首謀者を捕まえた。
「残念だった、ギャーグ」
「これまで通り税を運び、今まで以上の忠誠をちっかぁ…」
広場で多くの兵や平民の目の前でギャーグは命乞いをしていたが途中でヴァ―ルに心臓と突き刺されて、死んだ。
「さて、お前らも言いたいことはあるか?」
元々、ヴァ―ルと分家とは血の繋がりが無い。ヴァ―ルから数えて三代前の当主が引退しようにも直系の男子は戦争で死に分家にも才のある男子が居らず、アングリッフに相談していた。丁度、王国はドラゴンスレイヤーとなったアイゼンを貴族にしようとする動きがあった為、それを利用して当時の領主はアイゼンを養子とし、後継者とした。
元からメーア家の嫡男であったアイゼンは血筋や統治能力に問題は無く、武力もドラゴンを討伐できるほどの兵である。ディアマント公爵の後盾もあり、どの分家も反対することも出来なかった。
「ファステンか。警備隊の家族を守ったこと、感謝している。また、情報をこちらに流してくれたのも把握している。
これからはこの町の代官として、忠誠と尽くせ」
「ヴァ―ル様、私は他の者達を止めることは出来ませんでした。代官の役割を引き受ける訳にはいきません」
「俺だけの意見では無い、警備隊員からの嘆願や内政面を考慮しての判断だ。勝手に死ぬことは許さない」
ファステンは深々と頭を下げた。首謀者の男子は年齢を関係無しに処刑、夫人や令嬢は奴隷商に売ることになった。中にはヴァ―ル側についた家臣の親類も居たが奴隷となった者の売買を禁じた。
「報告します。キラ・ドルフ様のご子息ヴィラ様がヴァ―ル様に会いたいとお出でになっております」
「ほぅ」
キラ・ドルフは分家の中でもギャーグに次ぐ力があった。しかし、訪ねて来たのは側室との間に出来た息子のヴィラである。正妻が息子を産んでから離れに住まわせて、飼い殺しにされていた。
「何しに来た?」
「命乞いをしたく、現れました」
「話してみろ」
兵に連れられてきたヴィラは木箱を持ち、最敬礼を取った。顔色は恐れも無く、感情は殆ど見受けられなかった。
「父上、いえ、反逆者であるキラはヴァ―ル様とギャーグが争った後に介入し、勝ち残った方を討取り、実権を握ろうとしていました。私はこの地を治めるのは正当な後継者たヴァ―ル様が相応しいと考え、キラと嫡男を討取りましたこの箱に二人の首が入っております」
兵に木箱を開けると二つの首が入っており、確認をさせたら間違えはなかった。
「お前は俺が相応しいというが他意はないのか?」
「他意は無いと言えば、嘘になります。私の母は私を生んだ後は離れに監禁されておりました。正妻が男子を産むと私も離れに移されました。
昨日、分家でも中立を保っていた連中が離れに現れ、母を犯しました。キラは領内でも美しいと言われていた母を奴らに渡すことで自分の勢力に引き込みました。
母は耐えきれずに自殺をしました。私は母の死体を見た後に酒に薬を仕込み、深く眠ったところを殺しました。他の分家には逃げれましたがまずはヴァ―ル様に町を返却しなければと思い、ここまであらわれました」
ヴィラの母はラティと幼馴染であり、出来れば助けて欲しいと言われており決断に迷っていたが死んでしまったらもう意味が無い。
しかし、今まで無表情であったが母を失ったと話した時の表情は自分に似ているようながした。
「あの町はそのまま、お前が統治しろ。だが、監視役を数人は送る」
「ハッ、ありがとうございます」
「母を犯した奴らを殺したいか?」
「もちろんであります」
「ハイデ、騎馬隊千を預ける。こいつと一緒に分家共を討伐してこい!」
「了解」
ハイデとヴァラは騎馬隊で残りの分家の討伐にむかった。その間にクルークはギャーグの屋敷を捜索し、他の領地や国と内通していないか書類を探していたところ地下で多数の奴隷が見つかった。
「どうした?」
外では声をかけてこないシオンが珍しく、話しかけてきた。
「あの黒髪の子、|渡界人《とかいじん》だよ。保護してあげて」
「わかった。理由は後で聞かせくれ」
攫ってこられた人々は解放し、もとから奴隷だった者をクラウト領が引き取ることとなった。黒髪だけはヴァ―ルが引き取り、珍しいと兵達の中で噂になった。