五話 赤の嵐が訪れる時
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「フルトは何も話さないか?」
「はい。既にあらゆる拷問にかけましたが一切、口を割りませんでした」
帝国侵入から一か月が経ち、いろいろな情報を手に入れることが出来た。今回の帝国貴族の暴走は裏で連邦が糸を引いていた。
「東部貴族も侮れないな、連邦の主力を単独で押し返すなんて」
「東部領軍も精強ですが偶然、最上位級の冒険者が居たらしくその者が戦列に加わったことで優位に戦況を運ぶことが出来たらしいのです」
連邦は王国に隣接している帝国貴族を煽り、王国に侵攻させた。また、連邦も帝国の侵攻に合わせて王国東部に侵攻し、支配する算段であったが偶々、居合わせた冒険者と帝国の早期撤退により計画は崩れた。
この戦いで連邦は主力軍に過大な損害と多額の賠償金を王国に払うこととなり、当分は色々な面で制限を受けることとなった。
王国全体では戦勝ムードに包まれているが南部ではディアマント公爵と並んで英雄と呼ばれていたアイゼンが死亡し、重い空気が町を支配していた。
「父上とラッヘンの葬式も終わり、新しく俺がクラウト領を継いだが三か月後には国王陛下への謁見にフルト及びコメート家の処罰を決めなきゃならん」
「コメート家についてはフルトの親類であるヴァインの責任を求める声もありますが大抵が分家の方々からです」
「無能共め。ヴァインまで居なくなったら誰がこの領地の経済を回すんだ」
フルトとヴァインは祖父が同じであるが立場は大きく違う。フルトの父親は正妻の子であるがヴァインの父親は使用人との間に出来た子供であった。
そのこともあってか、貴族学校でヴァインは年上ながらフルトから陰湿な虐めを受けていた。卒業後はフルトはメーア公爵家に仕えたがヴァインは就職先が見つからず、冒険者として活動していたら領地を継いだばかりのアイゼンに拾われて、クラウト家に仕えることとなり、数字に強いということで領地の財務を任されていた。
「コメート家には制裁はないが関与した疑いのある人物は尋問しろ」
「かしこまりました。先ほど、ローゼ様からお手紙が届きました」
「ありがとう、下がってくれ」
クルークは手紙を渡すときに何か含みのある笑顔であった。ヴァ―ルは葬式後のことを思い出していた。
―― 一か月前
アイゼンとラッヘンの葬式には国王の使者や周辺の貴族、冒険者など多くの人が訪れていた。母親のラティは夫と息子を失ったことで棺桶に縋りついて泣いていた。
ラッヘンは戦死したことになっており、真実を知る者はクラウト領軍とディアマント領軍であるが死亡原因は箝口令がしかれていた。
「君は泣かないのね?」
「申し訳ありませんが今は貴女に付き合っている余裕はありません」
葬式が終わり、ラティを寝室まで送った後に自室で休んでいるとアングリッフと一緒に来ていたローゼが訪ねていた。
ラッヘンが死に分家達が若いヴァ―ルの正妻の座に娘をつけようと暗躍しようとしていたがアングリッフが牽制し、思い通りにならなかった。
「お父様は私と君の結婚話を進めるみたいよ。もちろん、私も賛成しているわ」
「あなた方は何を考えているのですか? クラウト領を支えていた英雄は死に、ストゥーピドと呼ばれていた長男が領地を継ぐことになってしまった。既に幾つかの商会はクラウト領に見切りをつけて、領内での契約を破棄してます。
ここで自分と貴女が結婚してしまうとこれまで以上の宮廷貴族からの妨害工作などが行われることは明白なのに悪手と思わないのですが?」
アングリッフという英雄が現れてからは若干の嫌がらせもあったがアイゼンが西部に領地を持つことになると宮廷貴族達は二人の影響力を恐れて、西部貴族に対して圧力や妨害工作を始めた。
最初こそは大きな混乱もあったがアングリッフの指示で混乱は収まり、西部での支配力と強めていた。
「初めて会った時もそんなことを言ってたし、私よりも小さいのに考えることはお父様と同じだわ。
本当、そういう所は可愛くないわ。小さい頃から馬鹿なふりをして、信用出来る人間を選別し、民に交じり意見を集め、それを父親に伝えて領政に反映していく。
けど、家族や友人が困っていると時間や疲労を考えずに行動していく。先日の防衛戦でも自分の手で弟を殺しているのその亡骸に縋り、人目を気にせずに泣く。
私から見たら本当に君は危うく、脆い存在だ」
「うるさいッ!」
ローゼを外に追い出そうするが逆にベットまで投げ飛ばされてしまった。ベットから降りようするが身体が一ミリも動かなかった。
「俺に何をした!?」
「私は何もしてないわ」
食べ物は全て、クラウト家の使用人が用意した物で信用出来る者ばかりである。公爵令嬢だといっても厨房に入れる訳がない。だが、今は領内も不安定な時期でこれまで通りに信用できるのだろうかヴァ―ルは不安になっていた。
「今は君が考えていることは分かるわ。けど、違うわ。協力者はここよ」
ローゼはヴァ―ルの胸を人差し指で二回、叩いた。最初は思いつかなったが自分の体にはもう一人の住人が居ることを思い出した。
「……シオンか」
「そうだよ。あの日から心は一瞬、北の大地のように寒くなったと思ったら西の火山のように燃え盛っていた。だけど、全て悲しみで溢れていた。
君の悲しみを癒させるのはローゼが一番、向いてるって思って協力してもらったんだ」
胸から光球が出てきて、すぐに人型となった。殆どの時間を過ごしているシオンはヴァ―ルの覚えていない感情や恥ずかしい記憶を鮮明に覚えていると前に話していた。
「シオン、俺は大丈夫だ。それと今回、ローゼ様を頼ると思い立った思考は捨ててください」
「なにそれ!? しーちゃんから聞いたけど、誕生日会が初対面じゃないんでしょ?」
ローゼは動けないヴァ―ルのマウントポジションを取ってしまった。
「なんであんたは服を脱ぎ始めてるんだ?」
「呼び方はローゼかお姉ちゃんで呼んでね」
「質問に答えろよ、、、」
体に戻ってしまったシオンに呼びかけるが反応は無く、やはりローゼは人の話を聞かない。もう既にローゼは何も身に纏っていなかった。
赤い髪はローゼの性格を表すようにまっすぐで艶やかであり、瞳だけで視線を逸らすことすら許さない雰囲気が醸し出している。それに加えて、肌は自分の手で触ってしまうと汚れると考えてしまうほど白く、胸と腰はまるで男の願望を実現したように美しく妖艶であった。
「やっぱり、男の子だね」
「何をする気だ?」
「何って、ナニでしょ」
ランプの灯はすぐに消えたが部屋の住人が寝付いたのは明け方に近かった。
――翌朝
ヴァ―ルの横にはよく眠るローゼと一部が赤色に染まっているシーツが昨夜のことが現実であったと実感させられる。
「ヴァ―ル、良かったね」
「何が良かったねだ。初恋とはいえ、幼い頃の淡い思いで済むはずだったのにお前は、、、ハァ」
ローゼは覚えていないがヴァ―ルは母親に連れられて、ディアマント領に三か月ほど滞在していたことがある。その時に少し年上の女の子に恋をした。その女の子こそ幼い頃のローゼである。
ヴァ―ルは公爵令嬢と分かると身分の違いを理由に想いを告げずにクラウト領に戻ってきた。アイゼンからローゼが婚約者と伝えられた日は胸の中に渦巻く、感情に困惑してねむれなかったことを覚えていた。
「へぇー 初恋の相手が私か、ふふふ。懐かしい夢を見て思い出したんだけど『貴女の為にこの花を持ってまいりました』と言って、真っ赤なバラをくれた男の子がいたんだよ」
「そんなの男は知らん!」
ヴァ―ルはたまらず、顔をそむけた。今は昔の自分に伝えられるならお前の恋の相手は肉食獣と変わらない女になるから絶対に止めとけと猛烈に言いたかった。
「どう、気分は楽になった?」
「何か大切なものを失った気分だ。まぁ、少しは楽になった」
「なら良かったよ」
「俺はアングリッフ様に殺されるな」
「それなら大丈夫だよ。今日付で王国全土に私と君の婚約を発表してるから」
確かに領地を継いだ時に自分とローゼの婚約を取り決めている書類はあったがどちらかの家に問題が発生したら一度、見直しをするのが一般的であるが何故かディアマント領主家はこちらの了承もなく、強引に周知の事実としてしまった。
風呂に入り、食堂に行くとアングリッフの姿があった。
「よう、ヴァ―ル。敢えて言おう。ゆうべはおたのしみでしたね」
「――――オハヨウゴザイマス」
少し遅い朝飯を食べて、その後はアングリッフを始めとした西部貴族との契約などの確認などしていたが最後にアングリッフと会談した。
「私共からは以上でございます」
「俺から最後にこの書類にサインをもらいたい」
書類は国に提出する婚姻届であった。夫の欄は空白であるが妻の欄にはローゼの名前に見届け人はアングリッフとラティの名が書いてある。
「拒否権は?」
「娘を傷物にしたのにか?」
いつの間に現れたのか、アングリッフの手にはいつもの剣が握られていた。ヴァ―ルは自分の名前を記入し、血判を押した。
「これは俺が提出しておくがこれから娘を頼むぞ、婿殿」
「ヨロシクオネガイシマス」
見送る為に外に出るとローゼも居て、ヴァ―ルを見つけると近づいてきてキスをしてきた。周りからは嫉妬が九割と羨ましさが一割の視線が集まっていた。
「手紙を書くから返事をちゃんと書いてね」
「善処します」
「ローゼ、出発するぞ」
また、勝手にキスをすると去っていった。ヴァ―ルは顔を赤くしながら屋敷へと戻り、その後ろをついてくるクルークとアルディートは何かを含んだ笑みを浮かべていた。
「しかし、うちとディアマント領で活動している行商人は三日おきに往復しているが何だか毎日ように来ているような気がする」
最初は二枚、次は三枚と増えていき今は毎回五枚ほどの手紙が来ている。嬉しいんだが手紙を書かないヴァ―ルにとっては少し、返事は苦行であった。
後、結婚は墓場と結婚している兵はいうが自分の結婚生活はどうなるんだろうと考えていた。