四話 兄弟喧嘩
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戦闘で地面は抉れ、木々はなぎ倒されていた。ラッヘンはその巨体から思えないほどの速度で攻撃を繰り出していたがヴァ―ルは全てを回避し、反撃していた。
「懐かしいな。お前と最後に手合わせしたのは随分と前だったな」
今は兄弟の仲は冷え込んでいたが昔は仲の良い兄弟であった。それこそ、どちらが領主に選ばれようと支え合うとクラウト領初代領主の石碑に誓った。だが、ヴァ―ルが後継者に選ばれるとお互いに距離がとるようになっていた。
ヴァ―ルにはクルークが、ラッヘンはフルトが教育役になったがそれから更に兄弟の関係は悪化した。フルトはラッヘンこそが領主にふさわしいと言い続け、同時に聖教会を排除しようとしている王国南部の領主達は間違っていると洗脳していた。まだ、幼かったラッヘンはフルトの言うことを信じてしまった。
フルトとその仲間が流したヴァ―ルの根拠のない噂はすぐに広まり、ヴァ―ルが否定せず無視したため、事実として認識されるようになり、それからはストゥーピド、愚か者と呼ばれるようになった。
「本当にすまなかった。座学や武術のことで精一杯になって、フルトを止めることが出来なかった。お前がこうなってしまったのは家族である俺と父上の責任だ。だから、俺はこの手でお前を殺す」
「オれをコロスことはお前ごときではデキない」
魔力が安定してきたのか、言葉が流暢になってきた。ラッヘンの言う通り、普通の人間が魔人の類に勝てるのは冒険者の最上位にいる化物か何かしらの特別な力を持っている者だろう。
「殺されることを光栄に思って、死んでイケェェ」
ラッヘンは必殺の一撃を繰り出すがヴァ―ルは回避しようともせず、剣を収めた。周囲の王国兵もついにヴァ―ルが諦めたのだと思い、助けるために飛び出す兵も居た。
「フンッ」
息を吐くような音と一緒にヴァ―ルはラッヘンに対抗するのように拳を繰り出した。二人の拳が交わると衝撃で飛び出していた兵も吹き飛んでいき、地面にはクレーターが出来た。
そして、ラッヘンの太い腕がブチブチと嫌な音をだして、千切れた。
「何故だ!? 人間であるお前に負ける訳がない!」
「そうだな、普通は勝てない。だがな、俺も今のお前と同じ化物なんだよ」
可視が出来るほどの魔力を身体に身に纏っているヴァ―ルはラッヘン以上に禍々しい姿であった。
「何だ、その魔力は!? 闇魔法の適正はお前にはなかったはずだ!」
「俺の適正は火と土。この闇の魔法は借り物だよ」
「借り物? もしや、お前はぁぁぁ!? 天は、人は、何故、お前ばかり優遇するのだ!?」
「その通り、俺は契約者だ」
ラッヘンの攻撃は苛烈さを増していくがヴァ―ルも攻撃を躱すのではなく、いなしていく。そのことで更にラッヘンの気は逆撫でされた。
「何故、当たらない!?」
「経験と鍛錬の差だ、ラッヘン。俺は領軍で訓練をしていたがお前はフルトの屋敷で太鼓持ち達と意味のない騎士ごっこをしていたのだろう」
「ッ! ウルサイ、黙れぇぇぇ!」
今度は剣でヴァ―ルに右足を切り落とされたが器用に片足で立ち、戦意が衰えてはいなかった。しかし、腕と足の断面からは魔力が流れていた。
「お前も苦しいだろう? もう終わりにしよう」
「貴様もここにいる全員も殺してやる」
ヴァ―ルは刀身に莫大な魔力を籠めた。魔力は纏うだけでなく、刀身を中心に渦を巻いていた。
一瞬で二人の間は詰まり、交差した。ラッヘンの残っていた片腕と首が落ち、身体は後を追うように倒れた。ヴァ―ルは術式と魔力の原点である心臓に剣を突き立て、魔法で燃やした。
「さらば、弟よ。石碑に誓った通り、俺はこの身を領地の為、領民の為に使おう、、、」
ヴァ―ルは燃える弟の身体に縋り、泣いた。王国軍やアイゼンも近づくが普段、涙を見せない男が人目を憚らずに泣いていた。
「ヴァ―ルッ!」
突如、ヴァ―ルは吹き飛ばされ、顔を上げると胸に矢が突き刺さっているアイゼンの姿があった。
「父上!」
崩れ落ちるアイゼンに駆け寄り、ヴァ―ルは声をかけ続ける。
「気を確かに、すぐに治癒魔法が使える者が来ます!」
「結局、お前とラッヘンには親父らしいことをしてこなかった。近くにディアマント公爵はおいでか?」
「ここに居る」
「王国領地統治法に従い、嫡男であるヴァ―ル・ラーデン=クラウトに領主権を移譲する」
「しかと、ディアマント公爵アングリッフが聞き届けた」
アイゼンはアングリッフの言葉を聞くと目を閉じた。
「誰だぁぁ! 父上を殺した奴は!」
ヴァ―ルの叫びは猛獣の雄叫びに聞こえた。その手には剣が握られていた。すぐにニヒツが縄に縛られたフルトをヴァ―ルの前に連れてきた。
「やはりお前か」
「まさか、あの不徳者が自分の命を投げ出してまで息子の命を救うとはな。予想外であった」
ヴァ―ルは怒りのままにフルトを蹴り上げ、そのまま、ニヒツを殴り飛ばした。あまりの出来事に周囲は啞然となり、すぐにクルークが羽交い締めにした。
「ニヒル、貴様はこういう時の為にラッヘンの下に潜入していたんだろうがッ!?」
「申し訳ございません」
吹き飛ばされたニヒルはヴァ―ル達が産まれる前から怪しい動きをしていたフルトがラッヘンの教育係に任命されると同時にフルトの監視役として、ラッヘンの剣術指南役に任命された。
「簡単に死ねると思うなよ」
死体の処理や捕虜の見分を終え、帝国の再侵入に備えの一部の領軍を除き、各領地へと戻っていった。
「フルトは死んだか」
「しかし、アイゼンとラッヘンは死亡しました。フルト殿の犠牲も無駄ではありません」
「そうだな」
「私達はこれで失礼いたします」
「うむ」






