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二話 似たもの同士

不定期更新ですがよろしくお願いします。もし、良かったら感想評価、ブクマ等よろしくお願いします。


ギリギリかな


「若様、服をお着替えください!」


「めんどくさい。何故、成人儀を盛大にしなければならないのか。しかも、母上が用意している服は派手過ぎる」


 今日はヴァ―ルの成人儀であるがいつもの服装で出席しようとしたらクルークが止めた。すぐに部屋に戻らせて、準備されていた服に着替えるように言われたが派手過ぎた。


「お急ぎください!」


「わーかった」


 ぼそぼそと文句を言いつつ、服を着替え始めた。クルークは最初こそは急かしていたが今は黙って、見守っている。クルークは昔からヴァ―ルがヤンチャをすれば、逃げても馬で追いかけてきて、説教する。忙しい親の代わりに常に近くに居て、助けてくれていた。


「爺、今日からは俺も成人だ。今までも迷惑をかけていたがこれからも支えてくれ。感謝している」


「、、、ヴァ―ル様。そのお言葉だけで今までの苦労が報われます。ですが、そろそろ態度を改めてくださると私は安心出来ます」


 苦笑いするヴァ―ルは支度を終えて、部屋を出た。これからは態度も改めてくれるとクルークは信じていたがすぐに裏切られた。


 ヴァ―ルは会場の扉を蹴り破り、入場した。家臣や来賓は度肝を抜かれて、声を失っていたが一人だけは口を大きく開けて、笑っていた。


「はっはっはっ、流石は龍殺しの息子だ! こんな、入場の仕方は見たことは無い!」


「ディアマント公爵閣下、私の愚息が大変、失礼いたしました」


「よいよい、気にするではない。あのぐらいの威勢がなければ、このクラウト領を支えきれんだろう」


 ヴァ―ルは驚いた。貴族の成人儀に家族や家臣以外にも招待客が来るがそれは格下の貴族が来るのが一般的であった。しかし、アイゼンの横に座っているのはクラウト領の東にあるディアマント領の主、アングリッフ・リーズィヒ=ディアマントであった。


 二十五年前に広大なディアマント領を祖父から引き継いだアングリッフであったが当時は野盗の被害や戦争の爪痕が色濃く残っている状態で治安も経済も酷い状態であった。


 そこでアングリッフは私財を売り払い、その資金で軍を再建して、治安を劇的に向上させた。更にはロンペレ帝国に奪われていたデュシル地方を奪還し、西の英雄と言われるようになった。また、東国で剣の修業で磨かれた技術は王国で剣王とまで呼ばれており、王国最強であった。


 そんな人物が自分の成人儀に来ていると知らないかったヴァ―ルは肝が冷えていた。


「何をしているはよ、近くに来ないか」


「失礼いたしました」


 ヴァ―ルが近づくと凄まじい速度の拳が襲ってきた。その拳を間一髪のところで避けたが前髪の数本がジュッと音をたてて消えた。


「ほぅ、避けるか。俺の元に来て、剣の修行をしないか? ヴァ―ルよ?」


「申し訳ございません。私もこの領地を守るという義務がある為、お断り申し上げます」


「そうか、気持ちが変わったら言ってくれ。待っている」


「有難い言葉です」


 拳を放ったのはアングリッフであった。ヴァ―ルも殆ど勘で避けていたがもしも、当たっていれば遥か遠くに吹き飛ばされていただろう。


 クラウト領のストゥーピドは噂のような愚か者では無かった。当然、襲われても冷静に状況を判断して、対応している。アングリッフもその才能を見抜き、自分の手元で育てたいと強く思った。


「遅れているがこれからヴァ―ル・ラーデン=クラウトの成人儀を始める」


 成人儀ではある精霊が好むとされている植物で作られた王冠を作り、成人となる者に授ける儀式である。


 精霊に成人となったことの報告とこれからの先の幸福を願う為の儀式であるが貴族ではこの成人儀の豪華さや呼んだ人の数で己を豊かさを証明する機会となっていた。


 まぁ、力の誇示に興味の無いアイゼンは家族と家臣以外にはアングリッフしか招待しておらず、とても貴族の嫡男の成人儀とは思えないほど質素であった。


「では、堅苦しい儀式も終わった。皆者、今日は祝い事だ、飲みまくれ」


 アイゼンの一言で宴が始まった。土人(ドワーフ)族の家臣には居るため、酒造りも盛んであり、地酒が振舞われていた。


 主役であるヴァ―ルとアイゼン、アングリッフは別室に移動していた。部屋の中には赤髪の女性が赤ワインを片手に座っていた。


「おい、大事な話があるから酒はまだ、飲むなと言っといただろ? ローゼ?」


「美味しいお酒が出せれたなら呑むのが礼儀でしょう。お父様?」


 ローゼはアングリッフと正妻の間に生まれた長女である。容姿は母親にて、美しいが性格などは色濃く、アングリッフの血を引いていた。年々、武術の腕はアングリッフに迫っており、男子で産まれてこなかったことを惜しむ声を少なくはない。因みにヴァ―ルの三歳年上である。


「あら、可愛い子がいらっしゃるじゃない。もしかして、ヴァ―ル君? こっちに来て、一緒に飲みましょう」


 ヴァ―ルを見つけると近づき、無理やり椅子に座らせて、グラスに赤ワインを注いだ。ヴァ―ルもあまり人の言うことを聞かないほうだがこの目の前の女性は己以上に聞かないし、更に見た目から想像がつかないくらいの力があった。


「ローゼ。だから、勝手に飲むなと言っておるだろう。少しはこちらの言うことを聞け」


「お父様とアイゼン叔父様が一緒に居る時は大抵、悪巧みをしてるわ。そこにヴァ―ル君でしょ、話の内容は分かり切っていますよ」


 少しの間、沈黙が部屋を支配したがアングリッフがすぐに笑いだした。


「はっはっは。流石だな、ローゼ。やはり、領主としては女子として産まれてことを悔やむぞ」


 アングリッフの頬にナイフが掠めて、壁に突き刺さった。たらりと頬から落ちる血によって、礼服が汚れた。


「次、その事を言ったら喉を狙いますわ。お父様」


「ほぅ、儂を殺せるか?」


 急に一触即発状態になった。親子喧嘩というレベルを超えて、殺し合いまでに発展しそうな雰囲気であるがヴァ―ルは悠々とワインを飲んでいた。


「あのお言葉ですが、私の祝いの席で血生臭いごとをせず、親子喧嘩なら自領に戻られてからしてください」


「それもそうだな、すまなかった。ローゼ、今回はヴァ―ルの顔を立てて、引いてやる」

「こちらの台詞ですよ、お父様」



 なんだかんでこの親子は似た者同士なのだろう。やっと、全員が席に座り、本題を話し始めた。


「まぁ、簡単な話。ヴァ―ルの嫁を探していたらアングリッフ様が自分の娘を嫁がせると言ってくれてな。その娘さんがローゼさんということだ」


「貴族の結婚をそんな簡単に決めてもいいのですか?」


 クラウト領とディアマント領の交流は盛んで、領民達の中も良好であるが伯爵家と公爵家の婚姻となれば、周囲の反応も激しいだろう。しかも、王国で唯一の龍殺しの息子と西の英雄の娘の結婚である。周辺地域では止まらず、王国全体で何かしらの反応が起きることが予想が出来た。


「私はヴァ―ル君が旦那さんになってくれるなら嬉しいわ。年下で可愛い男子はなかなか、居ないしね」


「さっきから可愛いと申していますが、これでも年齢の割には体格も良く、周りからも恐れられる方が多いのですよ」


「あらあら、怒っちゃた? 君の容姿を見た、大体の人は怖そうな人だと言うと思うけど私は別の角度から君を見ているのよ?」


 ヴァ―ルはローゼが言う、別の角度からという言い方に違和感を覚えた。ローゼの力の要因の一つに魔力との高い融和性がある。もしかしたら、あれが見えているのかもしてない。


「もしや、ローゼ様は魔眼を宿しておられるのですか?」


「ありゃ、知ってたの?」 


 魔眼の入手条件は二つある。一つは先天性である。魔力との融和性が高い赤子に魔眼が宿るが、将来的に魔女になる確率が高い為に生まれてすぐに殺されることが多い。もう一つは魔女を殺すことである。魔女が所有している魔眼を稀に引き継ぐことが出来るが大抵の人間は狂って、死んでしまう。


「私は産まれて時からあるんだけど、他人の魔力が見えるんだ。そして、君の周りには高魔力体である妖精がうろちょろしていわ。妖精は悪い人間のところには居ないよ。魔眼を切らなきゃ、眩しすぎるわ」


「今度からは魔眼持ちは注意しなければならないですな、父上」


「そうだな。こんな近くに脅威があるとは考えていなかった」


 精霊が気に入っている者のことを契約者や寵愛を受けし者などで呼ばれており、代表的な人物は歴代の勇者や魔王が挙げられる。


「ローゼ様がお考えの通り、私は契約者です。我々が魔眼を伏せてる代わりに私のことも秘匿してください」


「ちょっと待って、私と君は結婚するのにヴァ―ル君はそんなに他人行儀なのかな?」


「誰が婚姻を認めてるのですか? ディアマント公爵家、クラウト伯爵家はこれ以上、関係性を強めると中央からなにを言われるか分かりません。そして、宮廷貴族(あの屑共)は自分達の利益しか考えず、戦争というものを理解せず、口出しをしてくる。これ以上、あの者どもに付け入る隙を与えたくはないのです」 


 ヴァ―ルは今でも思い出す。前回の防衛戦では無能な宮廷貴族が総大将となったことで防衛線は崩壊し、殿を務めた叔父は晒し首となった。更には防衛線崩壊の責任を西辺境軍の救援が遅れたという理由でなすりつけた。あの貴族は功績欲しさに防衛の要たる西辺境軍を後方にわざと下げていた。アングリッフ達が救援に駆けつけた時には総大将と側近たちは逃げ出しており、王国軍は撤退も出来ず、混乱していた。


 すぐに指揮系統を辛うじて手中に収めたアングリッフが撤退の指示を出し、殿をクラウト領軍が務めた。ヴァ―ルの叔父の部隊の百人は殿の殿という生きては帰られない役割を引き受け、死んで逝った。その部隊にはアルディートとクルークの息子達も居た。


「お前の考えは理解しているがローゼさんとの結婚は決定事項だ」


「父上、何を考えているのですか!」


「黙れ。貴様も貴族の端くれならば、家の意向に従え」


 ヴァ―ルは怒りで顔を赤く染めて、立ち上がった。


「まさか、父上が貴族のことを語ると思いもしませんでした。どうぞ、お話を進めてくだされ。私は疲れたので先に部屋に戻らせて頂きます」


 怒りのまま、部屋を出た。アイゼンは気まずそうに二人へ謝罪した。


「申し訳ございません、私の教育不足であります」


「気にするな。ヴァ―ルはフライスィヒに良く懐いていた。そして、あの悲劇をまた起こさないように最善の策を取りたいのだろう。ローゼも分かっているな」


「はい。ヴァ―ル君は今、己を偽り、信用が出来る人間を選別しています。私もあの子を支えたいと思いますわ、お父様」


「分かっているならいい。しかし、ヴァ―ルが激怒したのはアイゼン、お前が貴族を語るからだ。貴族という道から一度は逃げているのに息子には貴族であることを強要する。儂なら国王が目の前に居ても、殴っていたぞ」


 アングリッフの言葉に反論が出来ないアイゼンは黙ってしまった。冒険者や為政者としては優秀であるが父親としては今一度なアイゼンであった。


「今日の所はお開きとしよう。ヴァ―ルときちんと和解しておけ、死んでからは後悔すら出来ないぞ」


「分かっております」

 

 確かにアングリッフとローゼも似たもの親子であるが十分、アイゼンとヴァ―ルも似たもの親子である。仲直りというのが二人揃って、苦手であった。


少しの間、ヴァ―ルとアイゼンの間に気まずい雰囲気が流れることとなるのであった。


――???


「帝国軍内部に居る同志から準備完了の知らせが来た。そちらの準備は問題ないか?」


「はい、問題ございません。人形は手の平の上で踊っております。今は呪いの効果も出ており、肉親憎しと譫言とように言っております」


「上々であるな。次は本国で会おうぞ」


「ハッ。全て、赤き正常なる世界の為に」


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