十五話 始まりは突然に
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ギリギリ間に合った。
夏の二月十三日それは突如、起きてしまった。秋の一月にビネンメーア家とハープギーリヒ家が不当な理由で攻めてくるという噂がクラウト領内で広まり、領境を警備している兵達も緊張していた。
ハープギーリヒ領との国境を巡回していた小隊に無数の矢が降り注いだ。小隊長がすぐさま、撤退を指示したおかげで被害は一人が肩に矢を受けただけに止まった。
「これは明確な我が領に対する攻撃である。我々、クラウト家は自領を守る為にハープギーリヒ領への攻撃を開始する」
ヴァ―ルは報復を決定。手勢三千を率いて、ハープギーリヒ領に進軍した。その後、クラウト領軍は一心不乱にハープギーリヒ男爵が住む街キュステを目指していた。
――十日後
「どのくらいだ?」
「後、三日で到着します」
クラウト領を出立してから十日が経ち、途中の町や村は全て無視をしてキュステの付近まで来ていたが敵軍とは出会わずに侵入出来ていた。
「獣人の身体能力には驚かされるな。軍馬の速度に徒歩で追従し、その膨大な体力は普人にはないものだ」
「お褒めに頂き、ありがとうございます。私は先行する気でしたがヴァ―ル様の騎乗されている馬に追いつかれるとは思いませんでした」
「あぁ、この馬は父の置き土産でな。俺以外を乗せたがろうとしないからな、誰かにもやるわけにはいかないんだよ」
アイゼンの愛馬は三匹居た。三匹ともクラウト家以外の人間を乗せたがろうとはせずに牧場で走り回っていた。今回はその一匹のシュバルツという黒馬が予定してた馬の退けて、ヴァ―ルの馬となった。
「しかし、敵の索敵網はガバガバですな」
「そういうな。うちは警備隊も人数は多いし、軍との連携も取れている」
領地の治安は軍が担っているところが多い。クラウト領ではそうであったが前領主のアイゼンが軍から警備隊を組織し、独立させた。その為、物資や訓練場も別に存在していた。
「残りの日数は八十日か」
「そうですね。我らの食糧も一週間分ですね。それにしても諜報部は仕事が早いですな」
「予想以上だったな」
クラウト領軍はアイントラハトからキュステまでは一か月掛かる距離があるがそれを半分以下の日時で移動していた。装備や食料を最低限にして、負担を減らしたから出来ることである。また、進軍ルート上にある自領の村には炊き出しをして、食事をとれるようにした。ハープギーリヒ領の村には村を荒らさないことやクラウト領への編入を約束したらクラウト領の村と同じように炊き出しをしていた。
そのおかげで速度を保つことが可能となり、ここまでの進軍を支えていた。
「警戒は厳重にな」
「ハッ」
――三日後
「クラウト領主ヴァ―ル・ラーデン=クラウトである。三十分後に開城すれば、寛大な処置があると約束しよう」
キュロスの城門についたヴァ―ルは拡声魔法で降伏を促していた。侵入している諜報員からハープギーリヒ男爵が居ることは判明していた。
「私はクラウト領軍に対して、攻撃を支持していない。この度の進軍は誤解で始まったことであり、不当なものである。すぐに退却すれば追撃をせずにしておこう」
「ハープギーリヒ男爵は事実とは異なることを申している。ハープギーリヒ領の関所には攻撃を指示している命令書があった。
これは計画された攻撃である。貴殿が偽りを申すなら我々は手段を選ばない」
交渉は決裂し戦闘が始まった。しかし、クラウト領軍は防御態勢を崩さず、その場で強固な守りを続けていた。
「矢の次は魔法が来るぞ! 物理防御隊から魔法防御隊に順次切り替われ! ヴァ―ル様の詠唱まで持ちこたえろ」
「「おう」」
クラウト領軍は三千の部隊を物理防御隊と魔法防御隊の二つに分けていた。本当ならば魔法隊が担当するの速度を重視した為に今回は参戦していない。また、獣人は魔力が少なく、防御魔法が使えない。
前から魔法隊の長時間運用するための魔法具を開発していたが難航していた。しかし、時雨の使い捨てというアドバイスで閃いた学者が使い捨ての魔法具を完成させた。
鉱山から排出される規格外の魔石に目的にあった付与魔法をかけることで誰でも魔法を使えるようにした。その為、魔力が少ない獣人でも使い捨て魔法具を使うことで長時間、魔法が使えるようになっていたのである。
「我に加護を与えし、闇と破壊を司る神よ
我が力となり、我が道を阻む敵を打ち砕き給え
そして、破壊の先には無が待つ。
ニヒリティ・ウェイブ 」
ヴァ―ルの突き出した手から放たれたこの世の闇を体現してような漆黒の玉はゆっくりと門に近づき、触れた。
それは一瞬であった。けたたましい轟音と龍の羽ばたきを間近で受けているような風圧が両方に襲い掛かってきた。獣人もその場に踏み止まろうとするが何人かは吹き飛ばされていた。
土煙が舞っていたがハープギーリヒ側が魔法を使い、土煙を晴らしたが驚きの光景が現れた。
城門を含めた城壁が半分以上が無くなり、曇っていた空は青空が見えていた。そして、男爵が住んでいると思われる屋敷まで見えるようになっていた。
道の中央には逃げ遅れたのか、ハープギーリヒ男爵が情けなく転がっていた。
「第一、二、三大隊は町の制圧と男爵の家族の確保しろ! 第四大隊は飛ばされた連中を拾ってこい! 第五大隊は城外で援軍の警戒」
二時間後、クラウト領軍はキュロスを制圧した。ハープギーリヒ領軍以外では死者は出ておらず、かろうじて民間人への被害は擦り傷などで収まった。
ヴァ―ルは道に転がっていたハープギーリヒ男爵を回収し再度、交渉をしていた。
「私を殺すとビネンメーア伯爵様が黙っていないぞ!」
「それは関係ないの無い話だ。この話をけるならお前と家族は死ぬだけだ」
「貴方!」
「お前は黙れ! 要求はなんだ?」
「俺が指定した養子を迎えること。お前と家族は命は助けてやるが幽閉する」
ハープギーリヒ男爵とっては苦情の選択である。抗って死ぬか生きる為に残り人生を監視されながら生きるかを選ばなければならない。
愛妻家であるハープギーリヒ男爵の弱みにつけこんだ。脅しである。
「必ず、妻と娘も命は助けてくれるか?」
「山奥になるが衣食住と教育は保証しよう」
「わかった。要求を呑もう」
こうして、男爵家は乗っ取られて、ハープギーリヒ領はクラウト領の支配下に置かれることとなった。
――二週間前
「よく、来てくれた。アルディート、ファイゲ」
「ハッ、お呼びとあればどこでも参上いたします」
「さ、参上します」
「まぁ、座ってくれ」
夜遅くにヴァ―ルの屋敷に来たのはアルディートと三男のファイゲである。ファイゲはアルディートの息子では珍しく、成人になったが家で本の虫になっていた。
「今日はファイゲに頼みたいんだ」
「わっ私にヴァ―ル様が頼みごとですか?」
「そうだ。お前は代官試験に合格していただろう?」
「はい」
ファイゲは兄たちから強制的に代官試験を受けさせられて、初の満点で合格していた。その為、代官の道があったが本が読みたいと断った。
「ファイゲにはハープギーリヒ家の養子になって、キュロスを治めて欲しい」
「いろいろと疑問があるのですが父様はよろしいのですか?」
「お前がよければ、かまわない」
ヴァ―ルは断れると思っていたがファイゲは前向きに検討していた。
「それなら、私は養子になります」
「いいのか? 俺が言うのは可笑しいが領主は大変だぞ?」
「はい! キュロスといえば港です! クラウト領でも王国の本は手に入りますがなかなか、他国の本は手に入りません。キュロスなら港を通じて珍しい本も沢山あるはずです!
後はクラウト領の統治方法は手順が明確に決まっております。ヴァ―ル様のことですから優秀な職員もつけてくださると思っていますから」
やはり、アルディートの子供であった。長男は忠義に厚く、アルディートの血を引いて攻守において安定した作戦を取る。次男は長男とは打って変わり、勝つためには手段を選ばない男である。模擬戦では戦術で対立し、喧嘩していた。そして、この三男も自分の趣味を満足させる為には手段を選ばないようだ。
「では、よろしく頼む」
「はい!」




