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十三話 少女の決意

 不定期更新ですがよろしくお願いします。もし、良かったら感想評価、ブクマ等もよろしくおも願いします。


 銃の進化の過程があまりにも無理があったと思い、書き直しました。大まかな流れは変わっておりません。

 

 ヴァ―ルとアルディート、時雨の三人がブルカ―ン山脈で訓練中の試験中隊の視察に来ており、厳重な警備が敷かれていた。


「これがお前が言っていたクロスボウか?」


「はい、私もこの世界で生きていくことを決めました。自分の身を守るには力が必要です。これもその一つです」


 二か月前に時雨の村は冒険者を装った盗賊に襲われてしまった。盗賊は実際に村の依頼を受けて、侵入。村人が寝静まった夜に火を放ち、男達を殺した。女たちを弄び、奴隷にして売り飛ばそうとした時に逃げ出した一人の村人からの情報で駆け付けた領軍と警備隊に殆どが殺された。


 被害は村の男性の六割と村に派遣されていた警備隊員が死亡していた。村も焼けてしまい、他の村と統合することとなった。


 時雨も現場に駆け付けたが警備隊が死体の処理を始めていた。時雨はその光景を見て、泣くことしか出来なかった。


 ヴァ―ルはギルドに正規の冒険者であったのかを問い合わせたがギルドからの回答は無かった。そして、盗賊の遺品からはギルドカードは見つからず、身元も判明しなかった。 


 時雨はヴァ―ルからの沙汰を待ったがこれ以上に励めとしか言われなかった。その後、クラウト領に助けてもらった恩を返す為、何より自分に命を預けてくれている村人達を守る為に己の知識を全て使い、武力を作り始めた。


「お前は極力、自分の知識を使いたくなかったのではないのか?」


「最初はそのつもりでした。ですが、村長としての立場を全うする為にも私はもう迷いません。


 これから私が造る武器が多くの人の命を奪うと思います。だけど、知らない人達の命よりも身近にいるクラウト領の皆さんを守ることほうが優先します。私は自分の知識を全部、使って守ります」


 時雨は村長になってからは一人称が僕から私に変わった。最初はクラウト家の来客扱いであったがバーンやニヒルと出会い、更に村長としての役割をこなしていくうちに成長し、逞しい女性となっていた。


「ノブリス・オブリージュか。王国貴族が一番最初に習うことであるが実際に行動しているものは少ないな。そうか、この言葉は異世界から来たものであったな」


「はい。前の世界では一般人だったので言葉だけ知っていましたが村長に任命して頂いて、ノブリス・オブリージュの重さを実感しました」


「そんなに背負うことはない、お前が失敗したら必ず助けてやる。だが、忘れるな。お前の肩には千人の命とこれから生まれてくる命が乗っていることを」


 ヴァ―ルはそういうとクロスボウの訓練の方に向き直った。時雨は自分よりも若いヴァ―ルの肩には一体、どのくらいの人の命が乗っているのだろうかと考えてしまった。


 渡界人の知識を得る為にこの世界では戦争すら起きたことがあるらしい。だが、時雨が農業系の知識は教えるが武器関係の知識は教えたくないと言ったら別にかまわないとヴァ―ルは言い、更に農業の知識もいらないと付け加えた。


 その後も異世界の知識については何も触れず、時雨が力を貸したのは水路造りと米作りのみであった。


「どうですか? クロスボウは?」


「発射音以外は音がせず、持ち運びは簡単そうだが飛距離と威力、連射性が低いと思うが?」


「クロスボウのヴァ―ル様がおっしゃる通り、長所は静穏性と携帯性の良さであり、短所は威力と飛距離、連射性です。威力は魔法具の使われない小さな魔石に爆発の魔法を鏃に付与することで威力を高めます。射程が弓矢を劣るので撃つ前に嬲り殺されると思いますが新しいタイプの盾を開発中なのでそれが出来てしまえば問題は無いと考えられるます。


 連射性に関してですが矢を短くして、弾倉を作り連射出来るようにしようかとも考えましたがこれ以上射程が短くなるのは避けたいので戦術でカバーしたいと考えております」


 時雨は出来るだけの短所を改善していたが連射性だけはどうにもならないのでクロスボウの運用方法と一緒に戦術を提案していた。


「一月に作れる数は?」


「ドワーフ達で一日百丁作れますので材料と資金があれば、月に三千丁作れます」


「それは凄いですね。報告書によれば、訓練も短期間で済むのも良いですね。しかし、飛距離が短いと攻城戦には向きませんね」


「それは弓兵の出番ですね。人にも兵器にも向き不向きがあるのでそこを補うのが指揮官の役目ではないでしょうか?」


「確かにそうですね。これは一本取られましたわ。アッハッハッ」


「シグレはクラーターに運用方法の説明をしてくれ。おい、嫌そうな顔をするな」


 時雨は村長になる前にクラーターから求婚されていた。今までしていた女遊びも止めて、クラーターは時雨と真剣に向き合おうとしていたが今まで行動から遊びと思われており、会うたびに花束を渡してくるので時雨は少し迷惑していた。


「お仕事なら頑張りますよぉ」


「素が出ておりますぞ、時雨殿。まぁ、我が甥としては初恋ではないかと私は考えております」


「何か、おっしゃりましたか?」


「いいえ、何も」


 一人の少女の決意で歴史の歯車は回転を速めて、回りだす。


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