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十一話 アイゼンの秘密

不定期更新ですがよろしくお願いします。もし、良かったら感想評価、ブクマ等よろしくお願いします。

「少しはこっちにも相談して欲しかったぞ」


「すみません。どこで情報が洩れるかが分からなかったので先行してしまいました」


 聖歴三千二百年の春の一月にクラウト領は新領法を制定し、布告した。それは王国内外にはもちろんだが各国に衝撃を与えた。


 宮廷貴族からも説明を求められたが領法は領主が決めることであり、部外者に説明することは無いと突っぱねた。


「食物の輸送を止められているんだろう?」


「食料は溜め込んでいたので一年は持ちますし、打開策は見つけました」


 宮廷貴族達はクラウト領を締め上げる為に食料の流通を止めた。普通ならあり得ないが教会の働きかけもあったのだろう、どの商会も食料の輸入することが出来なかった。


「打開策か? 教えてくれ」


「はい、渡界人のシグレは覚えていますか? あいつの故郷の穀物が手に入ったんですがそれを栽培したいと言ったので村を一つ任せたら栽培に成功したんです。その穀物が小麦の三倍以上の収穫量が見込めたのでそれで食いつなげると思います。


 まぁ、全ての貴族が中央に従っているわけでは無いので問題はありません」


 シグレ水路の功績で時雨はご褒美として、白米を手に入れていた。米を持って来ていた商人が苗も持って来ていたので時雨が買取り、栽培を始めた。その際に村を任せられていて、補佐には謹慎していたニヒルがついて時雨は村長となった。


 いつの間にかに水田の規模は拡大し、五つの米村と二つのドワーフ村を治める大村長となっていた。因みに米粉で作ったパンがクラウト領で密かな人気を呼んでいた。


「お前も大胆なことをしたな。ローゼもヴァ―ル君に敵対するのであれば、容赦なく殺しますと今さっき、言われたぞ」


「本当に申し訳ございません。後で言っときます」


「気にするな。ここに来てからは良い顔をするようになったわ」


 最近、ローゼの行動が良い意味でも悪い意味でも活発になっており、よくフライハルトやハルモ二などに視察に出て行く。そして、トラブルを起こして、解決してから帰って来る時が多く、次に問題を起こしたら外出禁止令を出すとヴァ―ルは言っていた。


「いろいろと小細工をしているようだな」


「耳が早いですね。ボチボチと新兵器や魔法具の開発が上手くいきましてね、訓練をしている途中です。警備隊も騎兵隊を導入して、活動範囲を広げました」


 警備隊は町や村の近隣しか警備が出来ておらず、街道などの警備を軍が担当していた。しかし、国境の警戒もしなければならない軍にとっては大きな負担になっていた。


 そこで歩兵隊のみで編成していた警備隊に街道警備用の騎兵隊を導入した。このおかげで軍と警備隊の色分けがはっきりすることとなった。


「後は奴隷を大量に手に入れたのも役場と学校の職員の為ですね。やはり、学力がある奴隷は高くなるので自前で教育した方が安上がりですね」


「しかし、役場を全ての町と村に役場を置こうとしているのか?」


「それは住民の管理の為ですね。住民の数などを把握していたら税なら中抜きなどがすぐに分かりますし、徴集ではあそこの村は何人まで徴集することが出来ると分かるようになり、迅速な行動が出来るようになります」


「確かに一理あるが費用が嵩張るのではないのか?」


「今は余裕があるのですよ。一番は賭博場は領政の管理下に置いたことですね、毎月なかなかの資金が入るようになりました。後は町医者を集めて、病院を作ったのですがそれもなかなかですよ」


「その笑みは怖いぞ。その知恵は俺の領地でも使えそうだから参考にする」


 改定した法律の中には領政以外の賭博場の禁止と風俗店の許可制があった。布告から一か月後に違法賭博場の検挙が始まった。大本の主催者も捕まり、今は領政が運営する賭博場しか残っていなかった。しかし、そこから捻出されている資金は莫大であり、クラウト領を支えていた。風俗店に関しては衛生面を考えてのことである。


 クラウト領は多くの医師や薬師が居る。それを統一する組織は無く、治療料などがバラバラであったが領政が主体となり、組合を作ったことで料金は統一された。また、クラウト産の薬には公印は押されており、偽薬や怪しい薬など判別できるという利点もあった。


「商会ギルドからは妨害されなかったのか?」


「すぐに承認してくれました。なんだが、反対派の殆どが違法賭博に関わっていたので逮捕されています」


「お前、腹黒いな。アイゼンのそういう所を引継ぐなよ」


 確かに関わっていた商会ギルド幹部も居たが全てが黒とは限らない。ヴァ―ルにも貴族らしい腹黒さが備わっていた。


「そういえば、お聞きしたいことがあるのですが?」


「珍しいな。言ってみろ」


「私の祖父は現メーア公爵リューグナー・シャッテン=メーアですね。巧妙に情報操作されていましたがグートには隠しきれなかったようです。母に聞きましたが頑なに話そうとしませんでした。


 齢七十を超えても引退しないと思っていましたが後継者が居ないから引退出来ないんですね」


 静寂が部屋を支配している。ヴァ―ルは執務室に何も記録が無い金庫を見つけた。クルークやヴァイン、アルディートに金庫について聞いたが誰も知らなかった。そこで捕まっていた金庫破りに開けさせたら差出人不明の手紙が出てきた。


 一貫して、過去のことは水に流して戻ってきてくれと書いてあった。そこでグートに調査を頼んだらすぐに判明した。手紙に透かし彫りされていたメーア公爵家の紋章があった。


「あぁ、その通りだ。お前もアイゼンが貴族だったことは知っているな。あいつはメーア家のやり方が気に食わないから家を飛び出して、冒険者になった。アイゼンが冒険者をしている間に平民と駆け落ちをした三男坊を謀殺した。それも優秀な次男がいたからだった。


 しかし、その次男も流行り病で死んでしまって後継者が居なくなってしまった。そこで長男であるアイゼンを家に戻したかったが既にクラウト家の養子になり、貴族となっていた。それからの交渉でアイゼンの次男をメーア家の養子にするということで話が纏まった」


「待ってください、私とラッヘンはそんなことは聞いていません」


「そうだろうな。これはアイゼンにとっては隠したいことであったからな。メーア家が他の貴族と違う所は?」


「貴族中で唯一王位継承権があることです」


「その通りだ。そして、お前にも王家の血が流れている。今まで騒がれていないのはアイゼンが社交界に出る前に家を出たことで顔を知っている人間が僅かであったからだ。もし、今の王家が気に食わない奴はお前を担いで王家転覆を狙うだろうな」


 恐ろしい話である。自分の祖父がリューグナーとは分かったがまさか、直系の血筋とは考えて居なかった。確かに現在は聖教会により弱体化している王家であるが反旗を翻したら全ての王国貴族が敵になるだろう。


「このことは忘れるか胸の中にしまっておけ」


「わかりました」


 ヴァ―ルはアイゼンの秘密を知ってしまった。そして、アングリッフとの会談を夜遅くまで続いた。

 


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