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十話 融和の町 アイントラハト

不定期更新ですがよろしくお願いします。もし、良かったら感想評価、ブクマ等よろしくお願いします。


今回は一人称視点です。


「お母さん、もう少しで町に着くって!」


「そう、皆さんの迷惑になるから座ろうね」


「はーい」


 二年前にクラウト家は新しい領法を発表した。その領法の最後に出身や信仰する宗教、種族による差別を禁じると書かれており、最初は獣人の奴隷を増やすための罠という声もあったがそれは杞憂に終わった。


 差別した者やそれを組した者は厳しく処罰されていた。更に獣人だけの村の建設許可や職業の斡旋などはこれまでの王国の貴族ではあり得ない行動だった。


「ここに来てからはみんな、優しいね」


「そうだね、これも領主様のおかげだよ」


 私達、親子は故郷を離れて、身体一つでクラウト領に来た。最初はファステン様が統治されているフライハルトに着いたが王国以外から来た亜人は本領のアイントラハトでしか住民登録が出来ないと言われた。私と娘は故郷を出てからは少しの食料を分け合って移動してきたからもう食料は無かった。


 やはり、獣人には厳しいと思っていたが二枚のカードを渡してきた。領地運営の食堂で三食と本領までの移動はこのカードがあればタダらしい。こうして、私達は困ることなくアイントラハトの近くまで来ていた。


「見てみて、畑にお水が一杯だよ~」


「本当ね、何を作っているのかな?」


「あれはシグレ様の村でオコメとゲンマイというのを作ってるんだよ。領法を制定された直後に宮廷貴族から妨害で小麦が入って来なくなってねぇ。兵糧とかを放出して一年間しか持たないからどうしようかと考えていたらシグレ様が趣味で作っていたオコメが代わりになると分かって、大規模に栽培を始めたのよ」


「お姉さん、凄い詳しいね!」


「私は考えていた側だからね、あの時は大変だったのよ」


 考えていた側? あぁ、赤い髪にエルフさえ自信を無くすと言われている美貌。なんで今まで気づかなかったのかな。私は娘を引っ張り、許しを得る為に頭を地面につけた。


「やめて! やめて! 今日はお忍びなの、これ以上問題を起こしたらヴァ―ル君に外出禁止令をだされるから早く頭を上げて!」


 この方は現クラウト伯爵夫人のローゼ様である。誰も差別をされないと法律で決まっているが不敬罪で首を落されても文句は言えない。しかし、ローゼ様は凄い慌てて、私達に頭を上げるように言っていて、頭を上げたら安堵の表情でだった。


「ようこそ、融和の町アイントラハトへ! 悔いの無い人生を送ってね!」


「はい、ありがとうござます!」


 ローゼ様はそう言って馬車を降りたがすぐに騎士様に囲まれて、連行されていた。何か嫌だー嫌だ―みたいな声が聞こえたが聞こえなかったことにした。


「本日はどのようなご用件ですか?」


「住民登録をしたいのですが」


「かしこまりました。他の町でカードを支給されていませんか?」


「私と娘の分で二枚です」


「ありがとうございます、手続きをいたしますのであちらでお待ちください」


 普人種が獣人に対して、こんなにも丁寧なんて今までありえなかった。役場と言われてるこの場所はいろいろな受付がある。働いている人もお客さんもいろんな種族がいるし、なんと言っても笑顔である。

 年甲斐もなく、周りを見渡していたらいつの間にかに娘が消えていた。


「フォン!? どこ行ったの!?」


「お母さん~!」


 呼ばれて振り向くと娘は騎士様に肩車をされて、こちらに手を振っていた。


「良かったね、お母さんが見つかって」


「ありがとう、おじちゃん!」


「俺はまだ、おじさんと呼ばれる年ではないんだがな。……アハハ」


「ご迷惑をおかけして、すみません」


「いえいえ、私の仕事ですから! ですが、我々も最大限の警備をしていますが危険はすぐ傍にあります。出来るだけ、お子様からは目を離されないようにしてください」


「はい、そうします」


 私は騎士様と話していたら死んだ夫を思い出してしまった。夫は猟師をしていて村の子供を助ける為に魔物に挑んで死んでしまった。騎士様はどことなく、夫に似ているような気がした。


「受付番号十二番の方~」


「はい! 今、行きます! ありがとうございました」


 もう少し話していたかったけど呼ばれたら行くしかない。騎士様も自分の仕事に戻らなきゃいけないだろうから丁度、良かったかもしれない。


「では、説明をしていきます。先ずはようこそ、融和の町アイントラハトへ! このアイントラハト町役場は町の行政を担っている場所です。


 そちらの資料にも書いてありますがクラウト領では婚姻届や死亡届などを必ず提出して頂きます。記入方法などは随時、職員がお教えします。


 領法や法律、地図などが書いてある手帳がこちらです。領法と法律の所はよく読んでいてください。勘違いされている方が時々、いらっしゃるのですがクラウト領は亜人を保護しているわけではありません。犯罪を行えば、他の方々と同じように裁きますし、他領で罪を犯していれば、逮捕してその領地まで送ります」


 そういう人も居るんだ。クラウト領は普人種が支配している土地なのに亜人種が好き勝手出来るわけでは無いのは分かるだろうに。


「では、文字は記入できるようなのでこちらに説明を聞いたことを証明する為にこちらにお名前をお願い致します」


「わかりました。なんで、名前を書くんでしょうか?」


「簡単に言えば、犯罪を犯したときに聞いてなかったなど言う方も少なからずいらっしゃるのでその言い訳をさせないことと私達が説明したことを証明する為に記入して頂いています」


 そういうことか。貴族様もいろんなことを考えなきゃいけないからたいへんなんだなぁ。


「では、職業の斡旋を希望されていましたがどのような職業がよろしいですか?」

「娘がまだ、小さいので出来れば昼間の職が良いですね」


「そしたら、第一警備隊の食堂の勤務がありますね。時間は朝の八時から十五時までで賄いつきです。お給料は一時間あたり九百ジークです。どうですか?」


 お給料も良いし、警備隊の食堂なら問題なく働けるかな? けど、この子のお昼ご飯をどうしようかな。


「娘のお昼を作らなきゃいけないので短い時間のはありませんか?」


「そうですか。ですが、娘さんの年齢なら初等部に通えるので問題なく、働けると思いますが?」


「初等部とはなんですか?」


「初等部は娘さんと同じくらいの年齢の子供達が集まって、無償で国語や算数などの基本的な知識や魔法の扱い方などを学ぶ場所です。例えるなら王都にある貴族学校と同じですね。今は自由参加ですが校舎や教師が揃ったら一定の年齢になると入学しければならなくなる予定です」


 凄い。学校なんて私が一生働いても入学金すらも払えないと思っていたけど簡単に入学出来るなんて、驚きが隠せない。お母さんが元奴隷で商会で働いてから読み書きや計算を教えてくれたけど、普通ならそんなチャンスはない。


「じゃあ、食堂の希望したいです」


「分かりました、応募しますね。では、本日からお住まいになる家の紹介しますね」


「家まで貸してくれんですか?」


「はい、三ヶ月は無償ですが四か月から料金が発生します。正直、クラウト領がここまでのことが出来るかというと技術向上の為にドワーフ達が好き勝手、家を建ててしまったので空きがあることシグレ様の新しい魔法具のおかげでもあります。


 最後になりましたがこれがフィーレカードです。これが身分証明にもなりますし、お給料もこちらに振り込まれます。


 では、説明は以上となります。悔い無き人生を!」


「ありがとうございます!」


 私達は教えてもらった地図を頼りに新しい家と向かった。最初こそは不安だらけだったけどもう、不安はなかった。雨期に入る少し前に新しい家族が増えました。


クラウト領から来た親子の視点でした。

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