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一話 導きの花

不定期更新ですがよろしくお願いします。もし、良かったら感想評価、ブクマ等よろしくお願いします。


「若! 今日も座学から逃げましたね! エーデルが若に嫌われているのかと泣いておりました」


「ダンスなんて、必要ないだろ。俺はダンスより乗馬や剣術の方がいいんだ」


 ここはペルデレ王国のクラウト伯爵領。そして、服を着崩している少年がラーデン伯爵嫡男、ヴァ―ル・ラーデン=クラウトであった。自分が必要だと思うことは熱心にするのだがそれ以外だと誰にも見つからずに逃げ出していた。


 また、普段から貴族らしくない態度や行動、服装をしている為、家臣からは愚か者の意味があるストゥーピドと呼ばれていた。


「じゃ、俺は森に行ってくる」


「まだ、話は終わっておりませんぞ。待ってくだされ、若ーーーー!」


 ヴァ―ルは勢いよく、屋敷を飛び出して行った。後ろでは教育係のクルーク・ハルトが年には似合わない大声を出していた。待てと言われて止まるくらいならストゥーピドとは言われないだろう。


 屋敷を飛び出したヴァ―ルは森の近くで悪友たちと合流した。いつものなら川で魚釣りや乗馬などをしているが訳があって、最近は森に入っていた。


「よし、揃ってるな。今日も安全第一で探して行こう!」


「「「おう!」」」


 今日も五時間くらい探索したが目的の物は見つからず、明日に持ち越された。各自、探索中に集めた山の幸を家族に持ち帰った。


「日にちもそんなに無い。早く、見つけないとな」


「また、平民と戯れていたのですか? 兄上がその様ではクラウト領は不安ですな」


「ラッヘンか。後継者は父上が決めたことだ。後継者となりたいなら功績を作り、父上に力を示せ」


「ストゥーピドの分際で」


 ラッヘンはヴァ―ルの弟である。また、文武両道で知られており、後継者にしようとする家臣も居た。本人も兄よりも自分が領地を継いだほうが良いと考えていた。


 しかし、民のことを税を生み出す道具のように考えていおり、だからこそ、民と触れ合い、愛することが出来るヴァ―ルが後継者に選ばれていた。


「周りの連中の言葉に絆されず、自分の意志で行動してくれば、良いんだがな」


 ペルデレ王国も王族の元に統一されているが川や鉱山の利権、跡目争いなどで国内での争いは絶えない。

 また、最近は聖教会の政治干渉が強まっており、国内でも恭順派と排斥派に分かれていた。それも現国王がロンペレ帝国との戦争で第一王子を失ってから聖教会にのめり込んでしまっているのが原因であった。


 宮廷貴族も国王に教会を遠ざけることを進言せず、教会と組んで甘い汁を吸っていた。ロンペレ帝国との最前線にある領地は常に戦争という恐怖と隣り合わせており、安全地帯で曖昧で無理な指示を出す、王族や宮廷貴族達に不満を募らせていた。


「さて、晩飯と爺の小言を聞きに家に帰るとするか」


 夜も遅くなり、ヴァ―ルは自分の家へと帰って行った。家には鬼のようにキレているクルークが説教する為に玄関で待ち受けていることはこれまでの経験で分かった。


「若、ダンスも王国貴族には必要なことです。嫌がらずに受けてください」


「分かった。次からはめんどくさいが受けるようにする」


「ご理解頂けれるなら幸いです。後、最近は何故、森に行かれているのですか?」


「それは関係のないことだ。今、父上はどこにいらっしゃる?」


 ヴァ―ルの予想通りに玄関には険しい表情をしたクルークが居た。もう少しで成人の儀がある為、ダンスも必要だとクルークは言うがロンペレ帝国との国境を接しているこの領地には美より武の方が優先されるとヴァ―ルは考えていた。


「当主様はすでに食事を終えて、書斎の方にいらっしゃいます。書斎に行かれますか? それとも、お食事を取られますか?」


「先に父上の書斎に向かう。食事はその後に取る」


「畏まりました。では、後でお食事をお持ちします」


 屋敷の二階にある書斎へと向かうと音楽が聞こえてきた。昔、現れた異世界人の技術で色々なものが作られた。その一つがレコードというもので音楽を流すことが出来る道具らしい。本当ならば、電気で動くらしいが魔力で動かせるようになっていた。


「失礼します、父上。相談があり、参りました」


「入れ」


 右目の近くに深い傷がある男がヴァ―ルの父親のアイゼンであった。成人してすぐに家を飛び出して、冒険者となる。それから五年で龍を倒して、ドラゴンスレイヤーとなる。その二年後にロンペレ帝国との戦争で大将首を上げて、貴族へと任命される。


 政治などに興味は無く、手探り状態での領地運営していたが領内の森で魔法回復薬に使われる薬草(クラウト)の群生地帯が見つかり、その収入により経済は安定した。それからは身分を問わない起用で優秀な人材を集めて、数年で国内でも裕福な領地となった。


 その後もロンペレ帝国の侵攻を大小合わせて七回を防ぎ、伯爵に上り詰めた男である。


「お前が相談なんて、珍しい。で、相談はなんだ?」


「兵を貸して頂きたいのです」


「兵とは物騒だな、簡潔にいうと無理だ。お前の遊びに大切な兵を割く、余裕も時間もない」


「目的を聞かずに判断されてもいいのですか?」


「お前はこの領内で俺が知らないことがあると思うのか。最近、お前たちが森を探索している理由はルーフェンの母親の為だろ?」


 ヴァ―ルは驚きを隠しきりなかった。ヴァ―ル達が森に入っていたのは悪友の一人であるルーフェンの母親が不治の病にかかり、余命が僅かであった。そこでルーフェンは死者を天界まで導くと言われている天使の名を持つ花を探していた。


 最初はルーフェン一人で探していたが異変に気付いたヴァ―ルが協力も申し出て、悪友全員で探すこととなった。


「導きの花アズラエルか。森から採取されたと報告は来ているが情報が古すぎて、頼りにならないがお前のことだ、情報にあった場所は調べ尽くしたんだろう。しかし、見つからなかった。ルーフェンの母親の命も限界に近づいて来ていて、多くの人手が必要となって、俺に兵を貸してくれと頼みに来たというところだろ」


「はい、その通りです」


 全てが的中していた。子供では体力や行動できる範囲も限られている。いつもなら自分たちで出来る範囲で頑張り、大人たちの手を借りないと仲間で決めていた。だが、ルーフェンの必死さや見つからずに泣く仲間の姿を見て、自分たちのルールを破り、アイゼンに助けを求めた。


「お前の友を思う心や優しさは本物と分かっているが兵は出せん」


「分かりました。お時間を頂き、ありがとうございます」


 ヴァ―ルは礼を言うとすぐに部屋を出た。アイゼンは部屋を出た息子の後ろ姿は家を飛び出した過去の自分に似ているように感じた。


「アルディート、そこに居るんだろう。明日の訓練はどうなっている?」


「お気付きでしたか。明日は森の近くで新兵の偵察訓練でもしようかと考えております」


「白々しいな、お前も。まぁ良い、ついでに撤退中に本隊と逸れたことを想定して、薬草及び町で取引が出来る植物の採取の訓練も同時に行え」


「アイゼン様も十分に白々しいですぞ。では、私は準備があるので失礼いたします」


 一部の家臣からは愚か者と呼ばれて、実の弟には後継者となる為にその命を狙われる。しかし、弟が命の危険に晒させたら身を挺して守るだろう。


「俺も貴族になることが嫌で家を飛び出したが冒険者になって、自由に生きていけると考えていたが結局は貴族になってしまった。ヴァ―ルは賢く、民の扱い方も知っているがあいつ自身が貴族にはなりたそうにしてない。だが、ラッヘンは周りから悪い影響を受けている。特にフルート・コメートだ。フルートはラッヘンを操り人形にしたいようだ。それが個人的な欲の為か、それともあの糞親父の謀略か。まだ、判断はつかないな」


 アイゼンの昔の名前はアイゼン・シャッテン=メーアだ。メーア家はペルデレ王国で公爵の座におり、王族を除く、貴族では唯一王位継承権を持つ家門であった。その為、国内で強大な権力を有して、王国の表裏を支配していた。


 嫡男として、教育を受けていたアイゼンであったが祖父や父が容赦なく自分に都合の悪いものを消していた。挙句の果てには三男が平民と駆け落ちをしたら面汚しといい、三男もその恋人も事故を装って殺害した。


 そんな家族に嫌気がさしたアイゼンは家から逃走して、冒険者となった。時が経ち、貴族になったときは資金と数名の部下を送ってきた。後は昔の許嫁も送り付けてきた。助かりはしたが同時に監視の役割も担っていたのだろう。


 家族を暗殺や謀略から守る為にも、領地を発展させなければならない。また、ロンペレ帝国の侵攻の予兆もある。まぁ、今まで通りに跳ね返すだけだ。


 アイゼンは仕事を終えると明かりを消して、眠りについた。


――翌朝


「今日は見つかるまで探索だ!」


「「おう!」」


 早朝からヴァ―ル達は集まり、森へと入って行った。また、別の方向からはアルディート率いる精鋭部隊が同じ森に入った。本当ならば、新兵達を探索に出しそうとしていたが丁度、国境警備から戻ってきたアルディート麾下の部隊が戻ってきており、休日を返上して、森の探索へと来ていた。


 これもまた、ヴァ―ルの人望であった。ロンペレ帝国との戦闘が起こり、怪我した兵が居れば、時間をかけて家に訪問し、労いの言葉や必要な物を聞き、クルークを通して、アイゼンに伝えていた。そうした、ヴァ―ルの気遣いが兵達の中で伝わり、忠誠を誓う者も少なくなかった。


「どうだ?」


「全然、見つからない」


 もう既に日は傾いていた。昼食を取ることも忘れて、探し続けていたがどのメンバーも見つけられていなかった。やはり、森の中では動物の声が絶えず、聞こえていたがその中に何の動物分からない、不自然な鳴き声が聞こえていた。


「東南、滝つぼの近く?」


「どうしたんですか? ヴァ―ル様?」


「滝つぼの近くに行こう」


「了解!」


 変な鳴き声はクラウト領軍で使われている暗号であった。動物の声を真似ているがある一定のリズムを刻むことで言葉に変換させることが出来る。


 本当ならば、最初に部隊名と名前を前に付けるのだがそれが無かったがアイゼンが部隊を手配してくれたのだろう。


 すぐにヴァ―ル達は森の東南にある滝つぼへと移動した。全員で探しているとルーフェンの叫び声が聞こえた。


「ヴァ―ル様ー! あった、あったよ!」


 ルーフェンの手には探していた花が握れていた。しかし、ここも探していたがその時は見つからなかった。


「良かったな! さて、帰るぞ!」


 全員が森の出口に向かった。ヴァ―ルが後ろを振り向くと体格の良い人型の動物が慌てて、隠れていた。心で感謝を言いつつ、ヴァ―ルも森を出た。


 それから三日後、ルーフェンの母親は天界へと召された。ルーフェンは母親に立派な男になり、家族とヴァ―ルを守り続けると誓った。母親もその誓いを聞き、息子の成長に安心したのか笑顔で逝った。


「貴方の息子は立派ですね。泥にまみれても母親の死後を心配して、あるかも分からない花を探し続けるなんて」


「はい。少し前までは大人しい子でしたがヴァ―ル様の友人となってからは積極的に外に出て、今日は森で猪を仕留めたとか、川で泳ぎ方を教えて貰ったとか、沢山話してくれました。私はあの子の話を聞いてるだけで幸せでしたし、成長していく姿は忘れられません」


「今、貴方の魂は本当に幸福と喜びで満ちています。では、参りましょうか」


「はい、アズラエル様」


 夜の空に満月が輝く中、蒼い光が天に昇っていった。少年の母を思う心は天に届き、奇跡を起こしたのであった。


「父上、部隊を派遣して頂き、ありがとうございます。ルーフェンも心より感謝しておりました」


「部隊? 俺はそんなこと指示していない。それより、ロンペレ帝国の動きが活発化している。近いうちにお前の成人儀を執り行い、次の戦いには参加しろ」


「ハッ、かしこまりました。日々の努力を怠らないようにいたします」


 クラウト領に戦乱の足音が一歩一歩、近づいてくるのであった。



――???


「準備は出来ているか?」


「はい、あの者は我が術中に嵌っています」


「決行の時は近い、貴様も用心を忘れるな」


「ハッ」


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