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プロローグ


 私はまだ、幼かった。


 幸成15年。藤沢市は鎌倉市に宣戦布告した。ただ、それだけだ。


 5年前に行われた地方分権政策によって各自治体が強いチカラを持つこととなった。そしてもう一つ、変わったことに自治体間の利害調整に武力が取り得る手段が示されたのだ。


 それだけのことが、私の全てを狂わせた。


 藤沢市は、自前の自治防衛組織(ぐんじそしき)「藤沢市防衛隊」を使い手始めに鎌倉市の飛び地……鎌倉市津を手始めに侵攻。津に駐屯していた鎌倉市の自治防衛組織「鎌倉市自治防衛隊」の第1旅団津分遣隊所属隊員10名を拘束。そのまま潤沢な人員と資金を使い、東に進み侵攻した。

 鎌倉市側は地形を生かし、腰越5丁目にて強固な防御を築き上げたが、その北側と南側……西鎌倉方面と腰越3丁目方面で防衛線が押し下げられ、結果として、二面防御を強いられた。

 比較的防御がしにくい西鎌倉方面は藤沢市の一気攻勢で湘南モノレール西鎌倉駅及び片瀬山駅といった交通拠点を喪失。結果として西鎌倉一帯は藤沢市に占領された。これを受けて鎌倉幕僚府は西鎌倉方面最終防衛ラインを県道304号線に沿った「304防衛ライン」を策定させ、劣勢となりつつも市街地死守を命じた。

 腰越3丁目方面では3丁目が全面的に占領されるも、最終防衛ラインを神戸川に設定。「神戸防衛ライン」と呼称し徹底的な防御により膠着状態を生ませた。

 結果として突き出るような形となった腰越5丁目は絶対防衛陣地と指定され、側面からやや攻め込まれつつも陣地を維持した。


 私はその頃、18歳だった。腰越3丁目に住んでいた私の家族は鎌倉市民であることを望んだ。その為宣戦布告当初の避難で鎌倉市へと逃れた。


 帰れると信じていた。私達の家に。この戦争が終わればきっと。そんな希望を持って避難した。


 そして、その戦争は3ヶ月間続いた。

 終戦間際、甚大な被害を受けつつも「304防衛ライン」の死守が行われた。腰越3丁目方面は藤沢市最後の攻勢で投入された装甲車により「神戸防衛ライン」を食い破られ混戦状態となった。そんな混乱状態の中でも「本龍寺-満福寺-小動山浄泉寺防衛ライン」、略称「本満小ライン」の維持に努めた。

 南部ばかりでの戦闘が目立つが、北部はどうなっていたかというと地形上の問題や戦力分散による各個撃破の可能性を恐れた藤沢市が投入を行わなかった。ただし、例外として手広への戦力投入が行われたが、鎌倉市自治防衛隊が精鋭部隊として臨時に編成した「鎌倉武士団」が一個増強中隊程度の規模にもかかわらず手広で1個旅団の藤沢市防衛隊に対して大暴れした結果、戦力投入を断念したのだ。


 その様な終戦間際の攻防が功を成した成したのか終戦交渉では県道304号線を基調にした交渉条件として持ち込まれた。県道304号線といえば、腰越3丁目の西を走る道だ。それが発表された時、私は仄かな希望を覚えた。が。


《鎌倉市は藤沢市に湘南モノレール西鎌倉駅、西鎌倉。津西、飛び地の津、腰越3丁目。以上の領域を引き渡します……賠償金に関しましては……》


 テレビの中の市長は酷くのっぺらぼうに、原稿を読み上げるのを、私は避難先となった大船のマンションで見てしまった(・・・・・・)

 そう、確かに。市長は確かに腰越3丁目と言った。


「あぁ、私は帰れないのか」


 受け入れ難い事実をストンと受け入れてしまった。その結果として自然と溢れた言葉と共に、ギュッと握りしめていた右手が震え、目元が熱くなる。


 私は泣いているのか。


 私は藤沢市が憎いのか。


 私は鎌倉市が信じられないのか。


 私は弱い私を認められないのか。


 私は安易な希望を持ってしまった私を許せないのか。


 全ての感情をごちゃまぜにし、泣いた。静かに、力強く。


 ただ1人(・・・・)で。

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