僕らの準備
油を作って、あれから3年ほどたった。
いっさい外に出ず、休みなしの長い年をかけて、僕は趣味程度の楽しみにしようとしていた実験で、たくさんの役立ちそうなものを作った。
他に変化があるとしたら、この三年間でネメとヤムさんは念話のLVを大幅に上げていたくらいだろうか。僕が伝える、という意思表示が無いと伝わらないけども、はっきりと僕の考えを分かるようになったらしい。
それから、実験の過程で幾つかLVが上がったところがあることか。
それから、ネメとヤムさんは三年たって、16歳と24歳になった。そして僕は一切身体は大きくならなかった。悲しいな。
あと何かあったかな?
...ああそうだ、少し前に家屋の中にいても分かるくらい騒々しくなったぐらいかな。違和感感じて外見たら、武装して集落の外に向かってたから。
まあそんなことはどうでもいい。最近はそれも聞こえなくなったから、落ち着いたんだろうし。
でだけども、僕が頑張って作ったもの以外にも集落でもう作れれているのが幾つかあった。
それが、アイオン紙、デレナ洗剤、グルンのローブ、レイコピオンの毒槍、ジャッカロープの角槍の五つ。
これらはこんなもの。
アイオン紙は、丈夫で長持ちする紙。魔力を込めると、少しの間防水になったりと有用性の高いと思う紙。魔力を吸わせて、アイオンに水を吸収させるとか。僕の鑑定のレベルが足りないのかどうかは知らないけども、アイオンは水の吸収が早いらしい。
でも、生憎と作り方は良く知らない。ネメの家族が作ってるらしいけど、一部だけにしか教えない秘密らしいので聞けなかった。
ただ分かったのは、アイオンの魔力を良く通す性質を利用したらしいということだけ。
デレナ洗剤は、服を洗うときや、身体を洗うときに使うらしい。生活魔法のクリーンがあるから使ったことはないけど。
こちらに関しては、ネメの家族が入ってる集団の管理下の生産物じゃならしいから、製造方法はおろか、欠片たりとも知らない。
グルンのローブは、グルンの毛皮をなめして作ったフード付きのローブ。大婆が作り方知ってたのを教えて貰った。工程は記録したけど、自分で作ろうとは思えない。
レイコピオンの毒槍は、さっきまでの集団だとかそういうの関係無しで集落のみんなが作り方を知ってるらしい。むしろ置いてない家は無いとか。
レイコピオンという魔物の尻尾の針には、神経毒があるらしい。魔力を流せば、流した魔力に毒の効果がつく。そしたら、刺せば毒が回るとか。そんな器官が尻尾の針の中にある。その器官とアイオンを結びつけることによって、後は魔力を流せばレイコピオンの毒針と同じ効果を望め、内側から肉を抉るという武器。
はっきり言って、怖い。これが各家庭にあると言うんだから恐ろしいことだ。
最後、ジャッカロープの角槍は、木の持ち手にジャッカロープの角を取り付けた品。レイコピオンの毒槍のような、追加の効果は無いけど、あっちよりも貫通性が高い槍。あっちが刺さらなかったらこっちを試すっていうだけ。狩りで営む家庭には置いてあるくらいだとか。
続いて、僕が頑張って作ったのがこれら。
簡単なのは、投石機、ゲル製の袋、ゲル製のロープ、ソンタートルの鼈甲の盾、ストーンアームのモーニングスターの以上。
投石機は、ヤムさんが薪用にって言ってくれた枝を使って作った。寒いから、二人もこないし暇だったんだよ。
剣で形を整えて、それを組み立てて手で握れる大きさの石を飛ばすだけ。そのまま大きくしたら使えるかもだけど、これはただの玩具だ。
ゲル製の袋は、ゲルの身体を少しずつ冷やした物。少しずつ冷やす事により、なんかいい感じに丈夫で柔らかくなったものを袋状にしたもの。理屈は分からない。とっくに氷はとけてるけど、何でだろう。
ゲルの身体に穴をあけただけの袋だけど、外の熱を無視するらしい。破けば布としても扱える。
ゲル製のロープは、ゲルを平らにしてから、一本の棒になるように捻ったものを凍らせたもの。袋同様、なぜか氷はとけたはずなのにロープの形状を守ってる。それどころか、捻った後が消えて堅くて良くしなるロープになった。
ソンタートルの鼈甲の盾は、ソンタートルの鼈甲を加工して腕にはめる小盾サイズと両手で持つ大盾サイズの二つに分かれている。用途によって違う使い方ができる。
ヤムさんに上げたことがあるけど、精々小盾しかつけなかった。なんでも、速度が落ちるのが嫌だとか。長所を消してたんだから当然か。
ストーンアームのモーニングスターは、あれの身体をそのまま使ったモーニングスター。簡単に言うと、ストーンアームの肩あたりに穴を開けて、ゲル製のロープをくくりつけただけ。純粋に危ない。硬いしね。
それから、実験結果。表立って使っていいのか疑問に残るものたち。
一つ目は、マタンゴの胞子から作った、様々な効果の煙や液状の薬。
液体は矢に漬けて撃つとかで使うと思う。煙は、何か密封できるものにいれて、それが割れると中に入ってる煙が出てくるようになってる。
投石機が大きいなら、それで飛ばすのもいいのかもしれない。まあ、投げて使うのかな。
ちなみにこの煙は、液状薬を蒸発させるとできる。
二つ目は、グルンの骨や爪をできるだけ尖らせてさっきのゲルの袋に詰めた物。
実験の途中で知った、ゲルに少量でも魔力を流すと、内側に魔力が貯まり、性質上、魔力を逃がそうとする働きを利用した。具体的に言うと、逃げれないと暴れる魔力が、内側から逃げようとして爆発する。その衝撃で骨と爪が遠くに飛ぶ。
有り難いことに、内側から魔力が暴れないと爆発しないから、魔力を込めて直ぐには爆発はしないので、間違って誤爆はないと思う。
たぶん、本来はこの魔力を何らかによって利用してると思うんだけど。本当のところはどうだろうね。
三つ目は、ポイズンブルートからつくった即効性の毒液。マタンゴを使った毒より強くて効果の効きが早い。あちらと比べて欠点は、多様性が無いこと。威力はこっちの方が多少高い程度の違いだけど。
いろいろ作ってはみたけども、大婆に幾つか報告でみしようかな。
誰かに攻められたら、防衛に使えるだろう。あの人はしっかりしてる。間違った使い方はそう易々としないだろう。
ミシミシ
呑気にそんな事を考えていたら、外から木が割れるような音が聞こえた。集落の端っこにあるのがこの家だから、音は多分集落の外から。
居間についた小窓。正直、覗いたことも無いから外をしっかり見れるか微妙だけど、何か見えれば万々歳。
小窓から見た外は、十数人の...魔族、だろうか。とりあえず、人間でもコボルトでも無い奴らが、彼らの身長を超える柵を壊そうと躍起になっていた。
「gagioto...」
外に出れば何かしら分かるかもしれないから。身を守るために、グルンのローブと、短めの鉄剣と鼈甲の小盾、それから砕いた骨なんかをいれた袋を持つ。
準備は、一応できた。フードをかぶって、外にでる。
外にでると、物見櫓に登っていたコボルトが大きな声で叫んでいた。
「オークだ、オークが来たぞ!準備をしろ、武器を取れ!」
「敵は少ない!我々がほんの少し時間を稼げば、他のみんなが直ぐに来るだろう!」
バキバキ
誰かが外で何かを壊したみたいだ。さっき見た魔族や、叫び声で、オーク達が木の柵を壊したのが容易に分かる。
僕も、音の方へ向かおう。何か、できるかも。
「うおぉぉぉ!」
「誰があいつ等なんかに!」
そこでは、もう既に戦闘が始まっていた。
三人のコボルト達の槍による攻撃と、二体のオークの棍棒による叩き潰しの攻防。奇襲の方が得意なコボルトと、がっしりとした、もともと白兵戦に向いたオーク達にとって人数差は不利ではなかった。
近くの建物に体をを隠しながら、改めてオークの姿形を見る。
勿論、体型は違うが、共通して筋肉の塊とも言えるようながっしりとしている。
黄色よりの肌に、天に向かった二本の牙は雄々しく鋭い。猪頭の巨漢はギラギラと目を光らせている。
手に持った棍棒は、巨漢にふさわしい凶悪なもの。しかも、棍棒にはいっそう大きな棘が埋め込まれている。
多少余裕があるのか、偶に周囲を確認している。
後ろから殴ればいけるか?音を消して...いや、魔法を飛ばした方がいいかな?
今はまだ、気付かれてないだろう。
こそこそと隠れながら、二体のオークの後ろをとった。
慣れれば、魔法名のみで魔法の発動はできる!
「gagiafooru」
気づくのが遅かったのか、僕の放った火魔法LV2ファイアボール、つまり火球が一体のオークの背中に直撃した。
「おぉおお!?」
「挟まれたのか!」
僕の魔法に驚き振り向いたオークに、好機と見たのか、一人のコボルトが手に持った槍を突き刺した!
突き刺した槍はオークの右腕を深く抉り、やがて神経毒で動きを弱らせることになるだろう。一体のオークが武器を持ちにくくなるだろうが、完全に数が減ったわけではない。
背中合わせになって、こっちとコボルトを警戒する二体は隙を見せない。
コボルト含めて四人でオークを取り囲むが、このままだと変化がない。
先に動いたのはコボルトだった。手負いのオークに攻撃をしかけるが、両手で棍棒を持って槍をはじき返した。
その流れを消すまいと、他のコボルトも槍を構える。僕も魔法で攻撃しよう。
「uloorafooru」
水魔法LV2ウォーターボール、今度は水の球がオークに向かって飛ぶ。僕自身は非力だし、強くはないけども、詰め寄って剣で斬りかかる。
僕の後に、最後のコボルトがその槍を突き刺しに動く。内訳は、手負いに三、一人だけ違うのに向かった。彼は良い囮になってくれるだろう。自分を放棄して助けには来ないだろうし。
「う、あぁぁ...」
___
経験値24獲得
LV18からLV19
SP26
攻撃能力32
オークに変身可能
___
一人の槍を防げたのまでは良かったが、次に飛んでくる水の球、剣、槍まではかわせず、その身に喰らった。水球は頭にあたり、剣は背中に刺さり、槍は頭に突き刺さる。
経験値が入った、ということは死んだのだろう。いや、これで死んでないのならそれは化け物なのだが。
「ちくしょう!」
振り返れば、ただ一人囮となったコボルトの槍を防ぎ、そのまま棍棒をこちらに投げ捨ててきた。
「どわぁ!」
「あぶねぇな!」
なんとか避けることはできたが、その間に一番近くにいたコボルト、囮となった彼の頭を両手で掴みかかっていた。
「た、たすけてくれ!」
「うがぁぁぁ!」
オークは、大きく叫びながらその頭部を握りつぶし、刹那、血をまき散らしながら残された体は力を失くして地に落ちた。
「なんてことを!」
惨たらしい死に際に、激昂したコボルトがオークのその猪頭に槍を穿った。
___
経験値24を獲得
LV20からLV21
LV21からLV22
速度能力20
MP53
___
やっと終わった戦闘に、安堵する間もなくその場を後にする。少し、休憩がしたい。それに、人間だと誤認されるのもまずいかもしれない。
肩をふるわせ、下を向くコボルト達とは離れる。
ヤム視点
目の前のオークの心臓に槍を一突きさせ、絶命させる。偵察部隊だろう彼らは、もう全滅しただろうか?
「ヤムさん、ロウは大丈夫かな?」
戦いが終わったのを確認した後、周りを見ながらネメが近付いてくる。
「ああ、きっと大丈夫だろう。私程は無くてもあいつは多少戦える」
ネメは心配そうに眉を下げる。家にいるとは思うが、もしかしたら飛び出したかもしれない。安全な事だけを祈るのみだ。
ここは危ないから、ネメに早く帰れと伝えると、彼女は素直に家に帰っていった。
「ヤム、大丈夫か?」
「問題無い。クム、お前は大丈夫か?」
「無論だ」
ネメを帰らせた辺りで左目に布を巻いている、赤い毛並みのコボルトが声をかけてきた。私よりも大柄の隻眼の猟師、クムだ。
「ったく、くだらねぇ話しだ。オークの屑野郎共め」
お互いの安否を確認するとすぐに口の悪い言葉。いつもとまるで変わらない様子に、今回ばかりは同感できた。
「クムもオークと戦ったのか?」
「おう。他の奴らとの話しもあわせると二カ所だ」
「ここでもあったぞ」
「知ってる。これで三カ所だ」
苛立ちの止まらないというクムの様子に、順調に倒せたのだろう。もし、犠牲者が出ていたら、この男は歯を食いしばるだろう。行動は少ないのに正義感だけはあって、嫌な事があると歯を食いしばるのは昔から変わらない。
「襲撃が起きたんだ。集落内の不穏分子は取り除かねぇといけねぇ。ヤム、お前そういう奴、見てないだろうな?」
「ここしばらく私は見ていないぞ」
「そうか、ならいい」
...いや、まてよ。他から見たらロウは相当怪しいな。もし、今日外に出ていたとすると、オークの襲撃の日に見た怪しい奴になってしまう。それだけは伝えるべきか?
伝えて良いのだろうか?だが、大婆からは口止めされている。そこを上手いこと伝えられるか?
「すまない」
「いや、良い。伝える事がないというのは居ないのに少し近い気がするんだ」
「隠れてるかもしれんだろうが」
クムは、それは考えてないと言ってから、キリっと顔を変えた。
「俺はてめぇに言いてぇ事がある。だがそれは生き残ってからだ。お互い、命は大切にしようや」
「ああ。私だってやりたいことはある。こんな若いのに死んでたまるか」
それでこそ、と言ってからクムは此処を離れた。私も何時までも休んでられん。まだオークが隠れてるかもしれない。巡回にでも行こう。
対オーク用に、そろそろ本格的な防衛準備をしたほうがいいかもしれんな。
オークは、我々コボルトと戦い方が違う。
オークは、1対1の戦いを好む、何とも心清き者達だ。些か誇りが強いのは問題だが。
一般兵による1対1の小競り合いが終わると、それぞれの首領同士が1対1で戦う。
コボルトと違い、体が丈夫で大きいからなんだろうか?良く、そんな茶番のような戦いができるもんだ。
コボルトでは真似しようにも分が悪すぎる。嗅覚による索敵と、速さを生かした狩人、それがコボルトだ。
此方は手を出していない。あっちが攻撃を繰り返すだけだ。なら、此方から攻めるか?奴らに本物の奇襲を見せてやれるだろう。
「なあヤム。ちょっといいか?」
「ん?...ああ、ドゥか。構わないぞ」
後ろから小さく声をかけてきた、目の窪んだ皮肉屋を連想させるコボルトのドゥ。我が集落で、攻撃的な魔法を使える一握りの中の一人だ。
「すまんな。ところで、フードを目深に被った子供を知らないか?」
「...そいつがどうしたんだ?」
ドゥは珍しい物や真新しい物に目がない、いわゆる収集癖の強いコボルトだ。恐らく、そっち関連の話だろう。呑気なやつだ。
「いやなに、今まで見たことが無かったから怪しいというのも有るんだが、短い鉄剣を持っていてな。鉄剣など全く見ないのに、珍しいと思っただけよ」
「意外だな。お前が収集癖関係なく自立的に動くとは」
心外だと、やや目を細めながらドゥは頬をさすった。ドゥの癖で良くやるのは分かる仕草なんだが、私はこれの意味は知らなかった。
「集落も危険になったからな。ところで、お前はオークをどう思った?」
どう思ったか...。
決死の覚悟、とでも言えばいいか?恐れているという感じ、では何を恐れている?焦っている感じもするが、となると何に焦っているんだ?
「なんというか...追いつめられている感じ、だろうか」
「なるほど。参考にしよう」
「ドゥはどう思ったんだ?」
「別に何も感じていない。何か感じた奴はいたのか気になっただけよ」
...何というか、気の抜ける奴だ。魔法の使い手としては優秀なんだが、これはいかほど。
「まあ知らぬのならいい。しかし、もしその事について知ったら教えよ。いいな?」
「構わんが、その高圧的な態度を変えろ」
即答で一言、無理と言い切りながら、ドゥも駆け足で此処を去った。
さて、私もそろそろ巡回に行こうか。
あの会話、最期にならない事を願おう。
ロウ視点
もう、大分離れたかな。
僕みたいな人を見たっていう噂も直ぐにでるだろう。襲撃と同時に、怪しい奴を見たとなれば尚更だ。
チラチラ後ろを確認しながら前を進んでいると、何かにぶつかった。
そいつはヤムさんよりも大きいように見えた。そのうえ威圧感も凄い。腰に携えた弓は小さくて扱いやすそうだけど、背中の槍は大きくて太い。左目に布を巻き付けているから、隻眼なのかな?
僕はローブで体全体を覆っているから、顔をしっかり見ないと怪しいだけだ。だから声かけられたんだろう。
謝って早くここから去りたいけど、喋れないしキューブを使うわけにはいかない。
逃げるが勝ち。
片手で謝っておいて、横から通り抜ける。別段妨害もされず、スルリと抜けることができた。
「おいガキ。お前は誰だ?」
と思ったけど、直ぐに首根っこを捕まれてそう言われた。
非常にまずい。僕を人間だと誤解されるのも非常にまずいけど、怪しい事と人間に見える事とかを合わせられて言い掛かりをつけられるのはもっとまずい。
「...」
喋れないから、伝えるとしたら身振り手振りか魔法。でも自分のことを曝すのは愚の骨頂。でも文字は読めない人の方が多いって言われたしな。嘘をつくにしても、早急に都合良く出るわけ無い。
「俺は怒ってねぇ。ただ、お前は誰かを聞いている。誰が親で、何処に住んでいて、何をしていたか。ほら、難しい事じゃねぇだろ」
怒っていないとは言うが、それでも苛ついてるのはよくわかる程、語感が強い。下手なことを言ってバレルと、誰か来るまで監禁なり処刑なりをされるかもしれない。
「痛い目に合いたくなきゃ、さっさと言え。いいなガキ?」
腰の弓を左手で触りながら、後ろの槍の柄に右手を伸ばしている。場合によって、弓か槍のどちらかを選んで切り替えるんだろうか?だとしたら凄い切り替えの早さだ。
僕が後ろに下がれば弓で射抜かれ、僕が近づいたら、あいつは下がりながら槍で攻撃するんだろう。
「...」
「三秒経っても反応が無いなら敵と見なすからな」
赤毛は体勢を変えないで、少し後ろに下がりながら僕を睨む。
逆に手を伸ばして近づき、攻撃を止めるように身振り手振りで、伝わらないかな?
「...止めろ、って意味なら、話せるだろ?なぁ」
口の部分に指で罰印をやれば気づいてもらえるかな?でも、そうしたら人間に見える肌を晒すかもしれないし。
...ヤムさんか、ネメが居てくれたら嬉しいんだけど。
...顔の前で罰印作ったら、何かあるっていうこと位は分かってくれるかな?
「あ゛あ゛?何が言いてぇ?」
あ、ダメだこれ。本当にどうしよう。魔法で文字作った方が伝わる気がしてきた。
「魔法!?クソっ!嵌めたな!」
水魔法で文字を作っていた僕に、驚いたのか、咄嗟に突き刺した槍が僕のお腹を突き刺した。
二つの口から赤を垂らして、それでも死人だからか、僕は地面に突っ立てられた。
「...」
「な!?こいつ、気持ち悪りぃな!」
声を荒げて大声で言うからか、何処からともなくわらわら集まる野次馬達。僕もコボルトと一緒にいるのが長くなったからか、中には先程共闘したコボルトを見つける位になってた。
あの後、一緒に共闘してくれたコボルトと、ヤムさんとネメの説得により僕は何とか助かった。けど、大婆に言われた通り隠れる事も出来なくなったのも事実。さてどうなるか。
「ロウ、どうして勝手に外に出た」
集落の外から大きな物音が聞こえて、それが気になったから。
「だからと言って...」
一人死んだよ。
「!...」
どうしてこうなったの?
「...大婆に聞いてくれ。この道を真っ直ぐ行けばつく」
顔を伏せながら、ヤムさんは指を指した。だから、顔を伏せるヤムさんをおいて大婆の下を目指す。
教えられた道を真っ直ぐに進んでいて思ったけど、警戒中なのがよくわかる、武装したコボルトが何十人もいた。
あの時に公衆の面前に留まったけど、まだ此方には情報が来てないかもしれないから一応は隠れて歩く。
見つからなかったら何も変わらない。
一際大きい、他の家と比べて、大体半分くらい大きい家がでてきた。他と違うし、ヤムさんに言われたとおり真っ直ぐ来た。多分、これが大婆の家なんだろう。
扉を叩いてから入る。奥の方にはゴソゴソという音が良く聞こえる。
念話は相手に聞かせようと思うと伝わる。だったら此処から伝えようと思えば伝わったりするんだろうか。
大婆、ロウ。今いる?
『今行こう』
家の奥からなっていたゴソゴソという音は消え、かわりに返信と足音がこっちに向かってきた。
『ロウ、お前が外に出ている事は何も言わん。用件を言いなさい。手短に頼むよ』
なんで集落をオークが攻めてるの?大丈夫なの?
『少し前にオークから宣戦布告の通達があった。理由は分からないがな。しかし問題はない。我らの若手は優秀であるし、儂だって戦える』
そうなんだ。なんて急な奴らだ。でも、若手が優秀らしいし、案外被害は少ないかな。
『ロウ、これは儂等の問題だ。お前はしゃしゃりでるな』
嫌だね。どうせヤムさんは戦うんでしょ?眺めているだけなのは、きっと寂しい。
『...従属か、逃走か、戦闘。奴らが求めたのはその三択だった。我ら魔族に非戦闘員など存在しない。戦うことは、はなから決まっていること』
僕もこの集落の住人。使える使えない別に戦うのは僕が勝手に決めた。
趣味で作った幾つか。見計らったようだけど、今使わないなら無駄だ。教えて、組み込もう。