それなんて無理ゲー? 〜わたしの周りは無理な恋愛だらけ〜
コンセプト:体質に翻弄される女子を描く。
文字数:3000弱
執筆時間:5時間(途中で大幅に改変したため思ったよりかかった)
「カエデサン、ボクト、ツキアッテ、クダサイ!」
「無理だあああああああああああああああっ⁉︎」
そう叫びながら、わたしーー柳葉楓はセネガル人留学生から逃げた。
夕暮れの放課後。
人気のない体育館裏。
雰囲気をぶち壊す絶叫。
とっても残念なことに、わたしにとっては日常茶飯事だった。
★★★★★★★★★★
「あはははっ、それで即逃げて来たわけ⁉︎」
「笑い事じゃないよ、まったく」
通学路から1本入った路地裏の喫茶店。
わたしは無事にセネガル人を振り切り、友達の大鳥雅とコーヒーを飲んでいるところだ。
つまり、向かい側でテーブルをバンバン叩いて爆笑しているのが雅。
親身とはいえない雅の態度だけれど、それはまあいつものことだった。
「てか楓あんた、モテすぎじゃない? 今月の告白何回目よ?」
「3回目……」
付き合いが長いから、本当のことを言った。
雅の言うとおり。
わたしはよく告白される。
女子高生という立場上、それはステイタスなことかもしれない。
だけれど……
「1回目が幼稚園児で、2回目が校長先生で、今回がセネガル人と」
「それ言わないでよ。嫌になるから……」
わたしを取り巻く恋愛事情は常に、悪い意味でドラマチックだった。
2ヶ月前に告白してきたのはマザコンで有名な男子生徒。
3ヶ月前にプロポーズしてきたのはスキャンダルまみれの芸能人。
4ヶ月前、実の弟に愛を囁かれて大いに戸惑ったこともある。
人生のどのタイミングを切り取ってみても、似たようなもの。
「はぁぁぁぁ…………普通の恋愛がしたい」
わたしの、切実な願いだった。
贅沢は言うつもりはない。
ありきたりでいい。
ベッタベタでいい。
健全な恋愛のサンプルとして保健体育の教科書に載りそうな、ごく普通の恋愛が……。
「じゃあいっそのこと、こっちから告白しちゃえば?」
「え?」
「だーかーらー。向こうからヘンなのが寄ってくるんだったら、こっちから捕まえに行けばいいじゃん」
「嫌だよ。そんながっついてはしたない」
「じゃあこのまんま灰色の高校生活を送ってもいいんだー」
「そ、それは……」
それを言われると、キツい。
しばらくその説得は続いたが、そのうちにだんだんいいアイデアに思えてきた。
そして20分後には
「わかった……やってみる」
わたしはやる気になって頷いていた。
どっちが先に告白したとか、どっちがほれたとか、些細な問題だ。
とにかく普通そうな人に声をかけて、普通の彼氏をゲットしよう。
じゃあ早速学校の男子たちに目をつけてーー
「ねーねー、君たちカワウィねー。お兄さんと遊んで行かない?」
「無理だああああああああああああああっ⁉︎」
こんな時まで引き寄せてしまうか、わたし。
★★★★★★★★★★
というわけで次の週から。
わたしは普通そうな男子に片っ端から告白していった。
まずは同じクラスで、成績がいいミキヤくん。
「す、好きです、付き合ってください!」
「え、マジ⁉︎ 楓さんが俺を?」
「う、うん。ちょっと恥ずかしいんだけれど……」
「でも……嬉しいよ」
「じゃ、じゃあ返事は……」
「ああ、ちょっと待って。一応ママに相談するからーー」
わたしは全力で逃げた。
マザコンに告白した記憶なんて残したくなかった。
次。
3年で、大人の魅力あふれるタクミ先輩。
「す、好きです、付き合ってください!」
「告白なんて始めてだよ。照れるね」
「で、でもわたし先輩のこと本当に好きでっ!」
「嬉しいな。今まで生きてきた中で1番嬉しい」
「本当ですか? じゃ、じゃあ……」
「本当さ。34年生きてきた中で1番嬉しーー」
わたしは必死に逃げた。
16回も進級に失敗している人はナシです。
次。
趣向を変えて、後輩。
あどけなさが残る1年生のシュウヤくん。
「す、好きです、付き合ってください!」
「え⁉︎ せんぱいが俺のことをーー?」
「そうよ。ダメ?」
「ダメじゃないっすけど……ちなみにどんなところが好きか聞いてもいいですか?」
「子犬っぽいところ、かな」
「え、なんでバレたの⁉︎ 俺、満月を見ると身体が犬にーー」
わたしは保健所に一報入れながら逃げた。
知らないよそんな特殊体質。
次。
学年が同じで生徒会の書記をしているケイスケくん。
「す、好きです、付き合ってください!」
「ありがとっす。ちょっと待ってくださいね。ケータイ、ケータイっと……」
「あ、あの……もしかしてお母さんに相談とか?」
「母に? どうして?」
「いやぁ。実はちょっと前告白した相手がマザコンでね……」
「安心してよ。僕はこんなことで親に相談しないさ」
「そ、そうなんですか。ほっ……」
「あー、もしもし。司教様ですか? 実は男女交際に関して相談が……」
わたしはそれはもう逃げた。
変な宗教が絡んでいる匂いがしたから。
次!
そしてもう1回……
もう1人……
次こそ……
普通を……
★★★★★★★★★★
こうしてわたしは、怒涛の告白をウィークを終えた。
結果は全敗。
この学校に普通の男子はいないということがわかった。
しかも最悪なことに、わたしが片っ端から告白をしていくものだから……
「うわ、ビッチが来た……」
「男に飢えてるんだって、きも」
「リアルにゲスの極み乙女だな」
わたしが教室に入ると、クラスがこんな感じでざわざわする。
今ではセネガル人留学生より扱いづらい人間として学校中で浮いていた。
そんな感じで、お昼休みも1人。
便所飯は衛生的に無理だから、お昼はぼっちで体育館裏へ。
今日はあいにくの雨だから庇の下に避難する。
完全に孤立してしまうと、急に虚しさが襲ってきた。
普通、普通! と言い張り続けていた自分が恥ずかしい。
思えば、人から好かれていたわたしはとても幸福だったんだろう。
でもわたしは相手に普通であることを求めすぎて……
結局、わたし自身が普通じゃなくなった。
この扱いは当然の罰。
でも……
「やっぱり……悲しい、よぅ……」
心が、痛い。
苦しい。
時間を撒き戻せるなら。
過去の自分に言いたい。
普通じゃなくてもいいじゃない。
自分を好きでいてくれる以上に。
大事なことなんて……ない。
と。
足元を濡らす雨が、止んだ。
いや、違う。
誰かがわたしの前に立っている。
「…………ディオマンシ・ンバイくん」
制服の学ランが全然似合っていない身長2メートル超のセネガル人。
彼がわたしに傘を差し出し、濡れないように守ってくれている。
そのままンバイくんは無言でしたが、安心させるように微笑みかけてきた。
ムリ、だったのに……。
じわぁ……と目に熱いものがこみ上げてきた。
好きな食べ物はタロイモとヤギ。
100メートル走の記録10秒53。
特技は、ヤリと炎を使った雨乞い。
爆発し続ける遺伝子要素。
わたしの求めていた『普通の恋愛相手』とはかけ離れてる。
でもきっと……
こんな風に側に寄り添ってくれることが。
何も言わずに気持ちを分かち合えることが。
わたしの本当に求めていた恋なのかもしれない。
「どうしてわたしに優しくしてくれるの?」
「カエデサンノコトガ、スキダカラ」
「……あ、ありがとう」
「ソレニネ……」
「それに?」
日本語に慣れていない低く、たどたどしい声。
でもそれを耳元で聞いた瞬間、心音が急に大きくなる。
顔が熱くて仕方ないのに。
恥ずかしくて死にそうなのに。
ンバイくんから目が離せない。
とろけるような、言葉の続きをーー
「ボクノママガ、カエデサント、ケッコンシロッテ、イッタカラ」
わたしは逃げた。
国籍はともかく、マザコンが入るのは絶対ムリだ。
Love is over (おしまい)
反省点:もっとしっかりプロットを練っておけば、途中で大幅改変とはならず2時間くらいで書き上げられた。