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菊池展開2

 タローが逃げた。茶色の化け物は部室のドアをすり抜けた。どうやら化け物は妖怪の類だったらしい。

 長峰先輩がドアを壊れんばかりに開けて、飛び出した。私達もそれに続いた。


 そして部室は誰もいなくなる。


「タローさんめ。逃げ足が速い」

 長峰先輩は廊下を颯爽と駆け抜ける。タローは早すぎて見失った。けれども、先輩は足を止めない。

 今、知ったが長峰先輩は走るのが結構速い。私でさえ追いつくのに精一杯だ。


「先輩。これ、なんかおもしろっそうっすね。あはは」

 こんなことをいえるくらいなので千代田は結構平気だ。なんでだよお前バリバリの文化系だろうが。


「というかっ」

 私は声を上げるが、あ、だめだ。もうしんどい。いや、耐えるんだ私。ここで負けたら全てが破綻……はしないだろうけれども、この状況を笑って見過ごすわけにはいかない。

「タローさんって一体……雪だるま、じゃない、んですか」

 質問しようとしても息が切れてしまう。さすがにきつい。

 雪だるまを追いかける、というと自分の頭がおかしいような気がする。気にしないようにしよう。みんなの頭の方がおかしい。

「去年は白かったのよ」

 息が切れてない、長峰先輩は超人。

「すげええよな。これ、なあ、菊池」

 千代田も息切れてないが。文芸部、アクティブすぎる。ここは甲子園を目指す野球部か何かか。

「何で、平気な、んだよ、ぐはっ、これがあああ」

 素直にバテた私に対して千代田は「なんで息切れてるんだよ。お前」

 その千代田の不思議そうな顔が余計にイラついた。

 そこに、長峰先輩はふふっと笑いながら、答えた。


「――ここでは最大限の力を出せるのよ。さあ、二人とも窓の方を見ましょう」

 そういわれて、何も考えずに見ると。


 空が無かった。というか外が一枚板の平面だった。


「ここはタローさんの異空間なの。ほら、おかしいでしょ。廊下を全速力で走っていて、注意する教師はおろか、生徒の姿さえ見当たらない。ここは特別なフィールドなのよ」

 異とつければ全ての格好が付くだけではないということを先輩は知るべきだ。むしろ恐怖でしかない。太平洋が盛り上がって日本列島を飲み込んだとしてもおかしくないきがする。気だけであって実現性はないと思われる。予想でしかないけれど。

 長峰先輩は着ているブレザーのうちポケットから、二丁の拳銃を取りだした。

「って、犯罪」銃刀法違反ですよ、先輩。

「拳銃じゃないわ、モデルガンよ、中からは水が出ます」

 そういってにっこり笑った先輩。あ、よかったほっとした。


「――本来はね」

 先輩は腕を前方に伸ばし、引き金を引いた。

 銃口から出たのは水ではなく、真っ赤な炎。音を聞かせる暇も無く一直線に伸びていった。

「火が出ます」

「だめじゃあああああああ」

「部長権限で許可されました。とりあえず何でもしていいのよ」

 長峰先輩がにっこりする。威嚇にしか見えないのは場面が問題だからだ。文芸部が大変だ。


「って、あれ、進藤先輩と桜田先輩は」

 二人の姿が何故か無かった。すると、背後から

「居るよーー。ここにねーー」

 桜田先輩の優しいお声がした。振り向くと先輩が大きな紙飛行機に乗って浮遊していた。

 

 浮遊って、できるんでしたっけ。紙飛行機で。

「鳥人間みたいっすねーー。かっこいいっす」

 何で千代田はこんなに寛容なんだ。

「なんか力がみなぎってる感じがするというか……菊池はねーの」

「ねえーよ」

 そんなので先輩が空飛ぶ少女になったら困るんだよ。


 千代田は何故かしょげた顔をしたかと思うと、進藤先輩いけてますね。と言っていた。

 え、進藤先輩って。私は驚愕した。


 進藤先輩が風を切り裂いて、え、風に乗ってる。超常現象、オカルト研究部の領域だよ先輩。もはや文芸部でも軽音でもなかった。

「長峰、今日はタローは俺がもらう」

 進藤先輩はギター片手にそういった。

「俺にはこのエレキがある……誰よりも早くタローを見つけられる」

 そういって先輩はギターの弦をはじいた。途端にギターの先端から透明なひもが出た。そしてそれは勢いよく飛んで行ったかと思うと遠くで何かを捕まえたようで紐はぴんと張った。

「捕まえた。じゃ先に行っとく」

 進藤先輩はそれを手にすると、引っ張られて飛んでいった。

「ワンダー……ランドかっ」

 声がかすれる。力を振り絞り、なんとか振り絞った懇親のツッコミを千代田が賛同してくれた。

「だよな。あれ、アンプ付いてないのに音出てるもんな」

 疑問が斜め上だった。お前の突っ込みどころって私には理解不能なんだけど。といいたかったが声が出なかった。


 ついに、私は足をくじいた。バテた体は力尽きた。

 長峰先輩と千代田は先へ行き、私は置いてかれた。ああ、これが文芸部。


 ――じゃないだろ。


 落ち着け私。この展開に流されてどうする。私は凡人だ、凡人ゆえに日常を愛すべきであって、故にこの非日常は受け入れてはいけないわけでって。別に御託を並べたいわけじゃなくて。


 ともかく、ありえない。ありえないことがありえない。

 

 絶望の果てにたどり着いたのは冷たい廊下だけだった。このひんやりだけが何よりの心の支えだった。どうか暴走する先輩助けて下さい、千代田はほっといてもいいので。


 そんな時だった。背中に嫌な重みが乗った。子供のようなものが乗った感覚がした。分かるような気がしたけれど想像したくもなかった。残酷な現実は私の背中に乗っかっていった。

 おっさんの声がした。

「見つけたんの」

 タローさんだった。

「どっから出てきた化け物のおおおおお」

 進藤先輩捕まえたんじゃなかったのか。

「お前だけ別行動んの」

「廊下のお守り役ですか」

 じっとしていたい。というか化け物は私の上から退く気がないようだ。タローは口を開けた。ぽかーんとして、のっとりとした口調で言った。


「――お前、んのを守れ。守りきったら褒美をやるんの」

 

 化け物はとんでもない事を言い出した。

 んのって自分のことを言っているらしい。つまり、私がタローを守れと。


 意味がわからない。

「やる価値は無いと思うが」

 私は背中のタローを引っぺがして、とりあえず起き上がった。そして、両手で抱きかかえてみた。間近で見るとぬいぐるみのように見えた。意外とかわいい。「んのーー」声が無ければ。

 すると、タローは「でも、もう追っ手がきてるんの」といい、向こうを指差した。

 先輩たちがこっちに向かっていた。先頭は長峰先輩。背後には三人がいた。

 

 私は安心した。よかった。これでやっと解放される。

「あ、先輩。化け物捕まえました」

「逃げなきゃ殺されるんの」

 んなわけあるか。私はタローの言葉を信じていなかった。けれども、何かがおかしかった。長峰先輩は無言でこっちに向かいながら銃口を向けてきた。


 あれ?

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