桜田剣2
――進路選択。
私は別に小説家になりたいわけではない。
生物が好きだから生物選択、二年からは化学も取った。
「けれども、楽しくないの」
したいことをしているのに。楽しくないの。
そうおもったら文章を書くことも不必要に見えてきて。
無駄に見えてきて。
退部届けを提出しようと思いました。
「ダメでしょ」
あっちゃんが待ってる。
後輩たちにもまだ何も教え切れていないのに。
会計くらいはリストにすれば何とかなるけど、印刷所への連絡の取り方とかはそういうのじゃないし。
こんなことならさっさっと引継ぎをして置けばよかった。
「居鳥はどうせ、何も思わないだろうなー」
進藤居鳥は二年連続同じクラスの仲間だって思ってる。
でも、あいつは何も口にしない。いつもギター弾いてるだけで。あんまり言わない。
私の逆。無駄なことばかり言う私の正反対。
私、なんだか居鳥になりたくなってきた。
能天気で、何不自由ない人間になりたいよ。
のほほんと歩いていると。
――廊下で死にかけてる人がいた。
訂正、廊下の汚い床にねっころがってる男子生徒を見つけた。腕を顔の上に乗せていて、顔が見えない。
でも、居鳥な気がする。というか居鳥だった。
「ほとばしる青春の過ち……」
口にしてしまった。そういう行動が後々の黒歴史を作っていくんだって。
「居鳥、そんな所にいたら車に轢かれるよ」
「校舎内では車は走らない」
鼻声で言われた。あれ、もしかして泣いてる?
腕をのけると、居鳥が目から大粒の涙を溢れんばかりに。
「どうしよう、俺のせいだ」
居鳥が、泣いてる。天変地異だ。
ところてん式男子、進藤居鳥。悩みなんて何もないような男が歯を食いしばって泣いてる。
「何があったの」
「軽音部が潰れ」そこまで言って、嗚咽をこらえ切れないらしく言い切らない。うーん、要領を得ない。
「なんで、居鳥のせいなの」
「俺だけ、遊んでたから」
「いや、ギター弾いてただけだから」
文芸部でも弾いてただろうが、何が副部長だよ。私ももっと役職欲しいのにさ。
「ギター? あ、ギターどっかいった」
「動揺しすぎてて、もう居鳥じゃないよ」
鳥さんどっかにいっちゃってるよ。ただの役立たず鳥になってるよ。鳴き声はえーん。
「俺さ、もう無理だったみたいだ」
え、何が? 何を何のために諦めるの? ちゃんと説明してよ。
「――俺、文芸部辞めようかと思って」
――はい?
お、おい待て。おいおい。
「――い、居鳥が辞めたら、私が辞めにくくなるでしょうがああああああ」
――何でもいわないとダメな性分、発動。




