喧嘩。
温さんと旦那さんのその後です。
何でこういう事になったのかしら??
戸惑いと憂いは彼の腕の中で。「部屋に上がる?」と言ったらこくんと頷いて彼は部屋に入ってきた。
何故だか「お茶でも」と出そうとしたら、急に腕を掴まれ、後ろから彼の腕にすっぽり収まる感じで腕の中に囲い、ソファで寛ぎ始めた。
「の、喉渇かない??」
「特に」
「御菓子食べない?」
「いらない」
この調子で、たまに息を耳元に掛けて来たりちょっかいを出して来たり、本当に質悪いわ。男性経験がないわけじゃないのに、すっかり彼のペースだ。悔しい。むかつく。先制攻撃に出ることにする。
「…」
じいっと見つめて、胸元を強調するように腕を組む。
先ほどお手洗いに立ったときにいい香りの綺麗な色のルージュを唇に滑らしたので、この勢いでキスしてよと迫る。絶対にさせてやらないけど。と、今まで我慢させて最後に美味しい思いをさせれば、彼だって私にもっと興味が沸くかもと思い、迫ろうとした瞬間、
「ごめん、お風呂入りたい」
「!?」
この流れで!?何で?良い匂いするでしょ?貴方の腕にぎゅっとされてるのに?
「温、一緒に入る?」
「何言ってるのよ!」
クスクス口元だけの笑みで笑われた。悔しい。一緒になんぞ入ってやる物か!!と彼がシャツを貸して欲しいと言うのだが、これしかないとさり気なく部屋にあったメンズ物のシャツを渡す。
彼がシャワーに当たっている音が聞こえて、何だかドギマギしてしまう。
これは「その気」に私からさせるつもりの作戦なの!?とどこまで裏を読んだらいいか分からない彼の策略がむかつく。普通逆でしょ?女が翻弄するモンじゃないのっ?と不満が口に出て、クッションに八つ当たりしてしまう。
「温、出たよ」
「あ、そう…」
彼から私のシャンプーの香りがして、少しよろめく。髪と体から出る湯気がこんなに色っぽいの??私が普段使ってるものと同じ香り、と悶々としてしまうのだが、煙草の香りがふわっとした。
「このシャツ、誰の??」
明らかに嫌そうな顔をしながら聞くので、「父のだけど」と言うと、「本当に?」と不敵な笑みをさせて、顔を近づける。
ち、近い!!ドキドキ心臓の音が聞かれないといいなぁと思うのだが、腰に手を回し、「悪い子だね」とニコッと珍しく爽やかな笑顔で武装してきた。ズンズンと進むので後ろに後退した。
「温、俺の事好きでしょ?」
「…好きじゃない!!」
カーッと図星をつかれ、つい真逆な事を言ってしまう自分。恥ずかしそうに顔を向けると、ふわーっとシャンプーのいい香りが近づいた。
「嫌いだったら逃げろよ」
強引に壁際に追いやると、彼の顔が物凄い近い。
え?と油断した瞬間、彼の口が近づき、私たちは初めてのキスをした。
「あ…」
「ん?」
嫌だ、恥ずかしい!と逃げようとしてると、壁際に両手をついて、間の腕に私がすっぽり収まってしまう。
「好きだよ」
そう言うと、またキスをした。これは、何かの罰ゲーム?何度もされてくうちにトロンとしたいい気分になってしまう。
「わ…」
私も、と言おうとすると、彼が離れて、「帰るわ」と急に退いて来たので、
「な、ななななな何で??」
「気分じゃないから」
「じゃあ、何でキスしたのよ!!」
そう問い詰めて、背が低いなりに首もとのシャツの襟を握ると、
「キスしたかったし、好きだけど、温はもっと危機感を持つべきだと思う。今までこの部屋に何人の男が着て、お前の誘いに乗ったの?そんな部屋でキス以上は嫌だ」
「…本当?」
甘えた声に自然となってしまう、自分の女のずるさに少し嫌気が差した。焼きもち?それとも、ただの支配欲?よく分からない。
「私だってね、私だって、好きでこうなった訳じゃないわよ…」
ぎゅうっと襟元を握っていた手を離す。
「気付いたら、本音で語り合える相手なんか居なかった。だから、悔しいの!あんたが私を振り回すのが。好きなんだもの、あんたが。ずるくて全然言う事聞かなくて、勝手…ばっか…。」
涙が出てきた。この人、私の事本当に好きなの?何でこんなに羞恥心煽るの??
「出てってよ!!」
ヒステリックにクッションを投げたら、躱しながら「分かったよ」と部屋を出て行った。
「はぁ…」
私、こんなにヒステリックだったっけ?
子供だったっけ?女だったっけ?
我が儘だったかな??
今までいい気になってた。
少しだけ可愛いのと甘え上手が売りだった。スタイルが良くて騙して振り回して、本当の私を受け入れてくれる男なんて居ないのよ。
でも、あんたは言う事なんか聞いてくれない!いつもと違う男!!
トントンと靴を鳴らして履く音がした後、
これは、初めての喧嘩だと、物凄い後悔してしまう。
まだ続きます。旦那様、怖い(((((^^)/