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本日3回目のログイン。
早速役所で手続きをして、お店でラピスに変装してから近所に近々お店を開くことの挨拶廻りをする。手土産にポーション持っていったけど、皆いい人ばかりでほっとしました。まじないもそのうち売ると言ったら凄く喜んでくれていた。
1時間くらいで終わってしまったので、次はラピスの格好のままギルドへ向かった。
「すいません、これでセインという人と連絡をとりたいのですが」
「あ、はーい!ではこちらに移動をお願いします!」
カウンターのお姉さんに話しかけたら、壁側に並んでいた小部屋まで連れて行かれた。等間隔に四角い箱だけが壁に取り付けられている。その1つに案内された。
「では説明しますねー!こちらにそのカードを入れて、こちらに手のひらを置くと繋がりますのでお話しください。終わりましたら手のひらを退けると切れます。通話は周りには聞こえなくなるのでご安心ください。こちらは自由にお使いできますので次回からお好きにご利用くださいね!」
そしてお姉さんはカウンターへと戻っていった。
言われた通りカードを差し入れて手を置く。
リン……リン……リン……。
『はい、セインです!師匠ですか!?』
「あ、うん、そうだよ。部屋の用意が出来たから連絡したの」
『本当ですか!?ありがとうございます!どこに行けばいいですか?すぐに行けます!』
「そ、そう?じゃあバザーの入口で待ち合わせにしようか?」
『わかりました!すぐ向かいます!』
するとガチャリと音がしてそれっきり何も聞こえなくなってしまった。これ、終了でいいんだよね?とりあえず手を離してギルドを出る。
ギルドから5分くらい歩くとバザーにつく。すると既にセイン君が荷物を持って待っていた。
あぁ、キラキラの瞳が眩しい。
そんなに期待されると緊張するなぁ。
「おまたせ、早速行こうか」
「お願いします!」
ここは特に人、というかプレイヤーが多いので早く離れたかった。この格好といい、NPCとの待ち合わせといい悪目立ちするのは分かっていたのでさっさと移動する。
ついてくる人は流石にいなかったけど、ほとんどの人から振り向かれて気まずかった。
「ここが……師匠のお店ですか……!」
「そう。入るよ?」
お店側の入口から入る。開けるとベル代わりに置いたモンスター植物がケタケタ笑う。うん、思っていたより控えめでそこまで気にならないな。いい感じ。
薄暗いランプは不規則にゆらゆら揺れ、オブジェとして置いた怪しい薬品やら道具が不気味に照らされる。
何度見ても魔女のすみかって感じだよね。
「ど、どうかな?」
「……………………」
お店に入り固まってしまったセイン君。
やっぱりちょっとやりすぎたかなぁ。よくよく考えるとルーマさんやルートさんのお店って、明るいお薬屋さんって感じだったもんね。
え?これ、ちょっとやっちゃった?
「セ、セイン君?大丈夫……」
「流石です!師匠!」
「へ?」
ガバッと顔をこちらに向け、何時も以上にキラキラした瞳で興奮するセイン君。
「あー!師匠の弟子にしてもらえて本当良かった!想像以上です!」
「そ、そう?気に入って貰えたなら良かった、かな?」
「いや、本当にわかっていらっしゃる。魔女の姿から店まで僕の理想を体現してくれてます!あー!師匠に出会えて良かった!」
セイン君……もしかしてちょっとだけ残念な子?
いや、受け入れてもらえてここは安心するところでしょ。
「あ、そう言えばまだセイン君にはローブ取ったところ見せて無かったよね……ふう……ラピスは商人名で、本当はハナって言います。よろしくね」
「……あ、あんたがラピスさん?嘘だろ」
「え?セイン君?」
「何でしわしわの婆さんが出てこないんだぁぁぁ!」
「え?ご、ごめんなさい?」
おかしいな。
帽子をとって顔を見せた瞬間セイン君のキラキラお目々がヤサグレたよ?
「あぁ……完璧だと思った中身がまさかこんなんだったなんて……」
こんなんって、おい。
おそらく君よりは年上のはずだよ?思ったより若かったからって少しは敬おうね?
「あー……ハナっていったか?」
「え?あ、うん。っていうかセイン君、だよね?今一瞬のうちに入れ替わったりしてないよね?」
「当たり前だろ?何馬鹿なこと言ってんだ?オレこっから動いてねーじゃん。馬鹿なの?」
お、オレ?
馬鹿って2回言ったよ?
え?これ本当誰?
「んな目で見んじゃねーよ。あー……理想の師匠と出会えたと思ったのに」
ちょっとムッとしてしまう。
「あ、そう?じゃ弟子になるの辞めるの?」
今から辞めさせられるのかなんてわからないけど、ここまで言われちゃぁね。
「…………弟子になる。ローブ着てりゃぁ完璧なんだよ!その声に騙された」
なんか勝手に打ちひしがれてるけれども。私も素顔見せないで弟子にしたのもあるし、何とも言えないな。
「じゃ、しっかり働いて貰うからよろしくね」
「……ああ。ヨロシクオネガイシマス」
「なんかムカつくから普通に話して」
「そうか?こっちもその方がありがたいけどよ。んじゃ、よろしくな、ハナ」
くっ……呼び捨てかい。
ま、いいか。
「じゃ、部屋に案内するから。こっち」
それからセイン君にはさっくり部屋とクランハウスを案内して、ホームに連れてきた。
そこでラピスに変装していることやクランの事、正体を伏せる事等を教えていった。
セイン君はラピスの格好している時は師匠と呼ぶことにしたらしい。普段はハナと呼び捨てだ。
ま、いいけどさ。
とりあえずセイン君の弟子レベルを5まで上げなきゃお店で手伝えないからまずはポーションの作り方を教える。
どうやらNPCにはレシピなんて無いらしいのでメモして覚えなければいけないらしい。そしたらノートなんかが無いので、まずは雑貨を買いに行った。ついでにお店の設定もやってなかったのでやっておいた。終わると看板が入り口上部に設置され、クローズの札がかかった。これはお店のメニューをいじる事によってオープンに変わる。
とりあえずどのくらい人が来るかわからないし私もお店だけに居られないから、お店が開くのはゲーム内時間で9時~12時の3時間。品物がなくなったら閉店、開店は不定期、買い取りは石英だけ、という事にした。
この旨をカウンターに注意書きとして個数制限の文章と一緒に貼っておく。
今はログインの関係で不定期だけど、セイン君が店番出来るようになったら定期的に開けるられるもんね。
魔女レベル3はお店の売上が100000ギル超えること、レベル4は弟子レベルを5に上げること。で、レベル5が弟子に店番をさせる事になるのだ。
セイン君にはしっかりコツを伝えつつポーションの作り方を教えた。これで後はひたすら訓練あるのみ、ですね。
セイン君にはポーションの練習をしてもらって、私は商品を作る為ホームに戻る。作り溜めないと、と考えてログイン時間内出来るだけ沢山のお薬作りをした。
次の日
今回はお店を開く予定なのでそれまでは商品作りとまじないのレベルあげかな?
「おはよう、セイン君。どう?ポーション作りは」
「あ、ハナか。うーん、やっと作れるようにはなったけど、質が悪すぎんな」
「ま、これからだね」
NPCにもスキルがあるのだが、プレイヤーとはちょっと違うもののようだ。なんというか、アシスト効果が少ないのだ。ポーションだって、プレイヤーなら指示通り作れば完成はするのだが、セイン君は同じような工程で作っても最初は失敗していた。昨日ログアウト前に見に来た時はまだ作れて無かったから、ゲーム内時間で3日半かかってやっと作れるようになったってとこかな?
弟子レベル2がポーション作成で、レベル3がランクE、レベル4がランクD、レベル5がランクCを作れる事なんだよね。
材料も師匠もちだし、衣食住も師匠が保証しなければならない。
よく考えるとこれ出費が多すぎない?と思ったが、材料は作ってるし、着るものとかは自分で持ってきてもらった。お店の制服みたいのは後で作るとして、住むところも揃えた。初期費用はかかるが、これは一時的な出費だからまぁいいとする。
問題は食なんだよね。これは大量に作って冷蔵庫に入れとけばいいかな?そこから勝手にとっていって貰えばいいし。後は材料入れといて自分で調理してもらおう。部屋に簡易キッチンつけたしね。
よし、お金たまったら畑と妖精さんを増やそう。
妖精さんはあと3人増やせる。1人は山をお願いするとして、2人は畑かな。
という事で、今回もせっせと商品作り。セイン君には練習頑張るように言ってホームへと戻る。先にちょこっと畑に顔を出しミーアやキララ、まっちゃと戯れつつ畑のお世話。最近あんまりかまってやれてなかったので癒やされた。
そして商品作り。
でも昨日も作ったし、何回か店を開くくらいは在庫を確保出来ている。
なので今回は新商品を作ろうと思います。
といってもネタ商品ね。あんな見た目のお店なのに置いてあるのは普通の薬ばかりってちょっと物足りないよね。
だからザ・魔女って薬を作りたいと思います。
まずは瓶から。
道具師の免許皆伝をとったので瓶のフォルムも変えられるはず。えーと、設計図を開いて瓶を選択。
ん?なんだこれ?
この前ハンマーを作った時には無かったアイコンが画面右上に出ている。押してみるとガラス工のアーツが使える、というものだった。なるほど、これを使うことでより詳細な変更がきくようになるのか。
ええと?ん?なにこれ凄い!
ほほー、これいじるとこうなって、こうなる?
うーん、じゃ、ここをこうして……。
たっぷり悩んで出来た設計図をレシピに追加する。
うん、満足。
まず、内容量をそのままにガラスの薄さを変え石英1個から2本しか作れなかったものを、5個作れるように変更した。どんだけ無駄な厚さだったんだ。そして瓶というか三角フラスコのような形にした。側面には月のマークを入れておく。魔女のイメージって夜っぽいからね。三日月を描いてみたよ。あとはわざとちょこっと歪ませている。……わざとといっても補正を切ったフリーハンドで書いたままの形で十分歪だったのだけど。
あとついでに普通の瓶も厚さを変えて形は同じでも、1個の石英から6本瓶が作れるように設計図を作ってみた。こちらも側面には三日月マーク。でもこっちはちっちゃくね。
うふふ。
後は練習あるのみ。
と、集中してひたすら瓶を作っていたら、気づくと開店時間近くになっていた。慌てて変装してお店へ急ぐ。
なんとフラスコも瓶も問題なくrankAまで作れるようになっていた。どんだけ集中してやっていたんだ……。