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「えっと、まずは媒体となる物を布中央に置いて……。うーん、紅茶でいっか」
適当にインベントリからカップに入った紅茶を取り出し布に置く。
「次は翡翠、輝石、海石の粉末にしたものを魔法陣の指定の場所に置く、か」
これらは採掘で取得出来るのだけど、倉庫の肥やしとなってるものがいくつかあったはずた。それを取り出して錬金術の設備を使って粉に変える。粉砕からのゴリゴリですね。
よし、これを魔法陣のここと、ここと、ここ、か。なんだか文字が書いてある部分に正確に置かなければいけないらしいけど、似たような文字で間違えそう。
「アイサ ナ メグト マム フルヌ」
最後に書いてあった通りに呪文を読む。設定的には古語らしく意味不明な単語の羅列だったが、ピカリと光り、布の上にはカップに入った紅茶のみが置かれていた。
成功?
-
紅茶?
rankF
まじないの気配がする紅茶
効能はなし
-
はい、失敗―。
そうだよね。ほぼ失敗するまじない布で始めから成功するわけないよね。
よし、練習あるのみ!
その後はひたすらまじない布を作っていった。
気づくともう夜になる時間。急いで屋台で売る商品を作ってウォルターニアに飛ぶ。
適当な場所で屋台を開き、今日もお薬販売開始。
たまに合成依頼もあったりと今日も順調にお金を稼ぐ。
む?
また視線を感じる。
ぐるりと周囲を見回すが、それらしい人影は見つからず。セイン君も……あ、いた。パチリと目が合う。
そして消える視線の気配。
やっぱり、セイン君がこの視線の正体?
どうやらこれから列に並ぶところだったらしい。と言っても2人くらいしか並んでいないけどね。
なのですぐにセイン君の番になる。
「いらっしゃい、セイン君。今日もこの間と一緒?」
「あ、はい!な、名前覚えていてくれたんですか!?」
「え?ま、まぁね」
いや、セイン君は前回名前を聞いたので頭上に表示されるから間違えることは無いんだけどね。
「ありがとうございます!僕、感激です!」
「い、いや?え、あ、そ、そう?」
「はい!」
勢いに押されて変な返事を返してしまった。
じゃなくて、聞かなきゃいけないことがあるから話しかけたんだった。
「あ、あのね、聞きたかったんだけど、最近私が屋台開いてると視線を感じる事があって……もしかして見ていたのはセイン君?」
「あっ……気づいていたんですね。すいません……ご迷惑でしたよね」
「いや、気にはなっていたけど、迷惑では無かったから気にしないで」
「すいません……ありがとうございます!」
あ、次のお客さんが来ちゃったな。とりあえずセイン君とはまた改めてお話聞こうかな。
「ごめんね、お客さん来ちゃったから後でお話聞いてもいいかな?」
「はい!勿論です!……お店終わる頃にまた来ます!」
「え?あ、ちょっと!」
またもや勢い良く人混みに消えていったセイン君。時間とか大丈夫なのかな?
「あ、いらっしゃいませ」
そして次のお客さんの対応へとうつる。ま、本人が来るって言ってるし、とっととお薬売り切っちゃおう。
「お疲れ様でした!」
「うぉっ……あ、セイン君」
「はい!」
今日の分が売り切れて屋台を片付けていると、どこからともなくセイン君がやってきて元気に挨拶をされた。
「待たせてごめんね。じゃぁ、話の出来る……どこかいいところ無いかな?」
「あ、でしたら馴染みの喫茶店があるのでそこに行きましょう!」
何となく周りの視線が痛かったので、別のところでゆっくり話したかったのだ。
そりゃ、普通にラピスの格好は目立つのに、更にNPCと何かありそうな会話してたら気になるよね。
そしてセイン君に案内されたのは裏路地の半地下になっている、良い感じの雰囲気の喫茶店。ぱっと見る限りプレイヤーは居なく、お客さんはNPCのみ。
さっと飲み物だけ注文して早速本題。
「それでセイン君は何で見ていたの?」
「えっと。じ、実は僕、昔から魔女に憧れていて……この街には魔女が居ないからラピスさんが来た時にはもう感激して、いても立ってもいられず屋台を見に行ってしまったんです!……僕の夢は魔女になる事なんです。いきなりこんな事を言うのは失礼かもしれませんが、僕を弟子にしてください!ラピスさんは僕の理想の魔女なんです!何でもします!お願いします!」
そう言ってテーブルに額が付きそうなほど頭を下げるセイン君。
な、なるほどー!
これは弟子ゲットのイベントみたいなもんだったのか。確かに魔女の称号貰ってからだったもんね、視線感じたの。
でも、そうか。
何でもするの?つまり店番もすると?
え?これって私がオッケーすれば弟子ゲット?
「……セイン君は私の弟子で本当にいいの?」
「はい!ラピスさん以外考えられません!お願いします!」
「……弟子になったら、み、店番とかもやって貰う事になると思うけど、それでもいいの?」
「勿論です!店番なんて弟子の仕事で当たり前じゃないですか!喜んでやりますよ!」
おぉぅ。
凄い勢いですね。
これだけやる気あればオッケーしちゃっていいよ……ね?
「わかりました。それじゃあセイン君を弟子とします。初めての弟子だし、魔女としても駆け出しだからわからないことも多いと思うけどよろしくね」
「本当ですか!?ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」
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セインが弟子になりました。
メニューに新しいページが追加されます。
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うん?新しいページ?
メニューを開くとそのまんまな『師弟』というページが増えていた。
開くとセイン君の弟子レベルとステータス、スキルレベル等が乗っていた。弟子レベルを上げるにはそのレベルに必要なレシピを取得させたりと決まった条件があるようだ。
さらに魔女レベルというのもあり、こちらも条件を揃えることでレベルが上がるようだ。レベルを上げると弟子が増やせたりする。良く見ると弟子に店番させるのには魔女レベル5以上無いとダメらしい。
マジか……これは頑張らないとな。
「セイン君、これで私の弟子となったわけだけど、弟子は基本的に住み込みになるんだけど、そこら辺は大丈夫?」
「はい!勿論です。このお話をしようと思っていたので既に親には言ってあります。いつからでも大丈夫です!」
準備が良すぎないかい。
なぜ弟子は住み込みか、というのはよくわからないけど、魔女レベルを上げる最初の条件が『弟子の部屋を確保し住まわせよう!(弟子とは住み込みで学ぶもの)』というものだったからだ。そしてその次の条件は『自分だけの店舗を持って開店しよう!(魔女とは薬やまじないを売るもの)』と言う事なので、以前確保していたお店をちょこっと改装してセイン君のお部屋もつけちゃえば一石二鳥でしょと思っている。
うん、早速建築屋さんに行ってこようかな。
「わかりました。じゃ、住むところが用意出来次第移ってもらうことになると思うのでよろしくね。えーっと、連絡方法はどうすればいい?」
「あ、ではこのカードをお渡しします。これを持ってギルドの受付に渡して下さい。そしたらすぐに連絡とれますので」
「わかった。じゃあギルドから連絡するね」
「連絡お待ちしてます!師匠!」
し、師匠!?
なんだかむず痒い響きだけど……良い。
なんか、良い。
よし!頑張っちゃうぞ!
今更だけどセイン君はとっても可愛らしい男の子だ。見た目13歳くらいの男の子。背は150センチくらいかな?
ふわふわしたハニーブロンドの髪の毛、榛色の大きな瞳、頬はほんのりと桃色に色づき、ぷるっとした唇はつやつやとしている。
うん、可愛い。
断じて私はショタじゃない。
いや、でも可愛い。
この子となら上手くやっていけるだろう。うん。
そして私は建築屋さんに行くためにこの店で別れた。
あ。
そういえば、本当の名前も姿も見せてない。
……まぁ、あの怪しい姿で弟子になるくらいだから大丈夫だよね?
その後は一度ホームに戻り変装を解き、念の為全財産を持って建築屋さんに向かった。そして以前作ってあったお店の設計をちょっとだけいじってセイン君の部屋を付け加えた。後はオブジェにしようと思っていた錬金術のセットのグレードを上げ、作業スペースを確保する為にカウンターの位置をずらして広げ、道具をきちんと揃える。セイン君の部屋にはベッドと机、クローゼット、照明、簡易キッチン、ユニットバスといった最低限必要なものだけ揃える。後は好きに変えてもらおう。
料金は145万ギル。
や、安くなっている、だと!?
まぁ、転移陣が無くなってるから安くなったんだけどね。1部屋増やしているのに安くなるって……高すぎだよ転移陣。
でもこのくらいなら払えちゃうんだよね。
貯金すっからかんになるけども!
……造船施設……山……………うぅっ。
その為にお店開いてお金稼ぐんだから!
これは先行投資なんだから!
……そうなると良いなぁ。
よし、作ろう。
気が変わらないうちにささっとお支払い。アイラさんにお金を払ってスノードームもどきを貰う。
そしてクランホームへ戻りお店と繋がる扉の前に立つ。
リノベーションはお店の入り口でも、こちらの扉でもどちらからでも出来るらしい。でも外で誰かに見られたら嫌なので、こちらの扉にしたのだ。
「ハナ、早くしよーぜ!」
「わくわく」
「はいはい、いくよ?」
ちょうどヤトとクオも居たのでさくっと事情を説明すると、一緒にお店を確認することになったのだ。
スノードームを扉につけると、それは扉の向こう側へと吸い込まれていきパンっとクラッカー音と紙吹雪が舞う。
どうやら無事リノベーション出来た模様。
ゆっくりと取手を捻り扉を開ける。
「「「おおー!」」」
そこには想像していた通りのお店が広がっていた。
「すげー!ってかウケる!何だこの店!」
「凄い。ラピスに良く合う」
「でしょ?ラピスの外見に合うような怪しいお店を目指したの!」
カウンターから店側へ出て、カウンター内を確認する。うん、いい感じに怪しい。
「どうかな?」
そしてラピスになって再度カウンターへ入る。
「いーよ!めちゃくちゃ似合う!」
「うん。いい」
「ハナ!そこの鍋かき混ぜてよ!」
「こんな感じ?」
「そう!ヤバいって!似合いすぎ!」
「スクショ」
「あ!クオなに撮ってるのー!……後で送って?」
「いいんかい!」
「もち」
「んじゃあたしも欲しい!」
「おけ」
なんて、じゃれあいながらお店を堪能する。
そしてお店の名前をどうするかで話し合い、最終的に『魔女の店』に決まった。いや、やっぱりシンプルが一番だよね。
開店前にご近所さんに挨拶廻りに行くことになった。といっても今回は時間ないので次回だけども。クオもお店開く時やったらしいんだけど、それをする事で宣伝にもなるし、街の店に対する印象が随分変わるらしい。後は、役所みたいなところに店を出す申請をすればお店は開けるので、すぐお店開けそうかな?
今回は時間がないのでここらへんでおしまい。
2人に別れを告げホームに戻りログアウト。