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「お疲れ様!」
「きゅっ!」
地に落としてからは地道にHPを削り、無事討伐する事が出来た。依頼の素材もバッチリだ。
結構時間が掛かってしまったので転移ですぐその場を離れる。倒すのは1体で十分です。
転移で飛んだのはギリアート。シローさんのところへ直行する。
「こんにちは!」
扉を叩き声をかけると直ぐに返事が返ってきた。
そしてシローさんに招かれお家にお邪魔する。
「素材取ってきましたー」
「おお!そうか……確かに受け取った。これが報酬のリールとレシピだ」
「ありがとうございます!早速作ってみます」
これでルアーを作れば準備は整う。
明日は休みだし、今日はちょっと夜ふかししても大丈夫。とことん生産しましょう。
それからなんと16時間、ぶっ続けで生産に励みました。お陰でルアーも完成。ついでに竿も新調。迷いの森で取れる惑わせの新枝というものから切り出した。これはルアーの素材と同じものをチョイス。なんとなく同じだと相性良さそうだと思って。でも実際作ってみたらよくしなるわりには丈夫で結構いい感じです。あとは使ってみて考えよう。
ルアーは同じく惑わせの新枝から切り出す。そしてそこに惑わせ花から作った蠱惑の塗料を塗り、ドロップカットのサファイアを鱗みたいになるよう埋め込んでいく。あとは針をつけて完成である。
蠱惑の塗料は作り方がわからなかったのでサティア様のところへ行って聞いてきた。そしたら本を渡され、お勉強ね、と良い笑顔で返されたので生産時間のうち4時間くらいはサファイア様の家でレシピの捜索をしていた。
1時間くらいで目的のレシピは見つかったのだが、他にも興味深いレシピがあり、気づいたら時間が経っていたのだ。
そんなこんなで釣りの準備は完了したが、外は夜だった為イベントへ向けてお薬を補充していたのだ。
ログアウトしてみると深夜2時、やりすぎてしまった……おやすみなさい。
次の日からは釣り、お薬作成と充実した生産ライフを送った。そのお陰もあって釣り師のレベルは20まで上がっていた。他にはたまにルルさんからの合成依頼を受けたり、夜はヤトとクオと一緒に塔を攻略し、なんとか黒サンタを倒して鍵も手に入れられた。
そしてついにイベント開始まであと数分。
ホームでいつものようにお菓子を食べながらおしゃべりしているところだ。
「そろそろだな!」
「どうなるだろうね?」
「楽しみ」
と、そこで急にどこからともなく鈴の音が聞こえてきた。その後目の前にはいつもの半透明なウィンドウが。
『クリスマスまであと少し!手に入れた鍵を使ってサンタクロースを助けだせ!』
そしていつものようにイベント用サーバーへ移動する旨と参加の可否を問う文面。
勿論参加でボタンをポチ。
すると目の前に赤い扉が。それをいつの間にか持っていた塔で手に入れた鍵で開ける。
そして着いた先は……。
「あれ?」
先程までいたクランホームだった。
目の前にはヤトとクオもいる。
「何だ?何か変わったか?」
「いや、特に変わった感じは……」
「イベント、始まってる」
クオはどうやらメニューを開いているようだった。同じように開くとさっきまでは無かったイベント用のページが追加されていた。
そこにはクリスマスまでのカウントダウンと、イベントトピックス、あとは専用掲示板があった。
トピックスは現在の状況が随時更新されていくようで、既に3つ程更新されていた。1つ目はイベント開始の宣言、2つ目はラビリンスの出現、3つ目はイベントクエスト聖なる卵の守護、というものだった。
ラビリンスはイベント前に手に入れた鍵で扉が開くさきにあるらしい。それぞれの鍵に見合った強さの敵が出てくるようだ。そしてラビリンスを踏破し最後のブラックサンタを倒すとサンタクロースが開放されるらしい。しかもこのブラックサンタ大規模レイドというか、人数制限無しのレイドボスのようだ。
今までには無かったタイプなのでどうなるのかちょっと心配。
でも私は恐らくイベントクエストのほうに参加になるからレイドに参加する事はないかもしれないけど。
3つ目のトピックス、イベントクエストは予想通りの防衛戦。お薬もたっぷり作ってきてある。
この日の為にニーナさんが中心となって生産職をまとめ上げ、指揮をとってくれた。勿論強要はしないし参加したい人だけだけどね。
ただ、ラビリンスの方に戦闘職の人が持って行かれそうで戦闘職の不足が不安だが。
「どうする?私とクオは予定通り砦に行くけど、ヤトはラビリンスの方がいい?」
ヤトも一緒に行動予定だったんどけど、イベント内容がここまで分割される内容だとは思ってなかったのだ。
「いや、あたしも砦に行くよ。そっちのほうが沢山の敵と戦えそうだし!」
あ、さすがヤト。
基準はどれだけ沢山戦えるかなのね。
「トップの奴らはラビリンス狙いだろうから、強い敵は独り占め出来そうだしな!」
なるほど。
心強いことこの上ないですね。
「よし!じゃ、いこっか!」
「おう!」
「おけ」
「きゅっ!」
転移陣からウォーリアに転移してそこからはひたすら走る。ウォーリアとウォルターニアの中間に砦はあるのだが、なんとなくウォーリアの方が近い気もする。
砦に着いた時には既にニーナさんが指揮をとり、防衛準備が整えられつつあった。
中心となっているのはニーナさん率いる銀の翼、そして砦建設時にいた戦乙女、眼鏡同盟、使い魔愛し隊のメンバー。それぞれ生産職は全員こちらに参加、そして戦闘用員も防衛戦の為に連れてきてくれたらしい。更にニーナさんの声掛けで他の生産系のメンバーが多いクランもいくつか名を連ねている。このイベント時の臨時連合が出来上がった瞬間である。
「あ、ハナちゃんいらっしゃい~!ルルが探してたわよ?」
「え?何か嫌な予感が……」
「あー!いたいたー!ハナちゃんちょっとこっち!」
「え?ちょっ、まっ!」
「あ、クオちゃんもね!」
「え?」
そして有無を言わさず連れ去られた先は更衣室。何故かクオも一緒に拉致られていた。
「さ、これとこれとこれ、着替えるまで出さないからね!」
そしてシャッとカーテンが閉められる。
「クオちゃんはー……」
クオも何やら渡されているが大丈夫だろうか?
とにかくこれを着なければ出られないなら一度は着なくては……。
……………………。
着替えるのはボタン一つで良いので一瞬だが、様変わりした自分の姿にジト目を向けてしまう。
「着替えれたー?おおー!やっぱり似合う!ハナちゃん何着ても似合うね!」
「ルルさん、これ恥ずかしいです!」
ルルさんに渡されたのはナース服。タイトスカートにボディラインが出るようなぴったりした白いあれ。スリットからチラリと見える足が更に恥ずかしい。
何故ナース服!?
「いやね、私も今回のイベントで何か役にたちたいと思って試行錯誤したわけよ。防衛戦でキモになるのはやっぱり回復、だからより高い回復量の薬が作れる服を模索したの。だからハナちゃんに合成依頼沢山お願いしたんだけどね。で、出来たのがこれってわけ!セット装備で、全部揃えると作成薬品効果+20%の効果付き!」
20%!?
それは凄い。
着てるだけで20%なら着る価値は……ある……けど……。
「ね?着るっきゃないよね!?」
「……はい」
「やったー!」
そう、ナース服なんだけど、ラインは綺麗だし、ところどころレースやビーズで装飾されていたりと可愛いことは可愛いのだ。
ただ恥ずかしいだけで。
「きれた」
「あー!クオちゃんもやっぱり似合う!」
「……ありがと」
顔が真っ赤で可愛いらしい。
クオはゴスロリメイド服を白くしてナースキャップとナースサンダル(装飾過多)をはいた服装をしていた。
「クオちゃんは基本は料理だからねー。でも薬品との相性も良い料理だからメイドとナースを足して割った服を作ってみました!」
「クオ可愛い!」
「……変じゃ……ない?」
「「変じゃない!」」
クオのは料理に対して補正大と薬に対して補正小がつくという。ルルさん流石だな、凄まじい効果だ。
「もっと効果上げたかったんだけど、今はこれが最高なのよ」
そんなこと言ってたけど、ちゃんとDEXとLUKも上がるような装備になっているので十分だ。更にキリヤくんが来てSTRとLUKが上がるアクセサリーを渡してくれた。ルルさんが頼んでおいてくれたそう。
「これでバンバンお薬作っちゃってねー!」
上機嫌のルルさんを先頭にニーナさん達がいる1階の広間に戻る。ここに今回の防衛戦作戦本部が置かれるらしい。
ここに来るまでにルルさんから聞いた話しだと、生産側はニーナさんが代表で、戦闘側は眼鏡同盟クランリーダーのタモツくんが代表らしい。
なんと眼鏡同盟のメインパーティー含む殆どが防衛戦参加らしい。何でも卵の声が可愛い女の子だったからって事らしい。男って……いや、クランには女の子も居るんだけどね。
今回の防衛戦でお薬なんかは無料で提供するし、装備も無料で修理する事になっている。その代わり戦闘メンバーには頑張って戦って貰うということだ。他に戦闘に参加出来ない人達は薬の材料を集めてきたり雑用したりと色んな形でこの防衛戦に関わるらしい。
「ハナちゃんとクオちゃんはここでいっぱい生産してね~!」
「「え?」」
「2人とも人気あるから、皆に声かけて上げてね~!」
マスコットキャラクターですか?
そしてニーナさんはよく見えるようにいつの間にか用意されていたステージのようなところを指さした。笑顔の威圧に断ることも出来ず、そにホームから持ってきた錬金術セットを設置する。ホームにあるものは取り外し可能なので一応持ち運びも出来るのだ。面倒だから普段はやらないけどね。
今回はニーナさんの呼びかけで持って来るよう言われていたので準備してきたのだ。インベントリの中身もほとんど錬金術や瓶の素材ばかりだ。作ってあったお薬は既にニーナさんに渡して配布が始まっている。この砦を囲むような防壁が2つとも出来上がった時、砦に格納庫と言う名の異空間倉庫が装備された。メニューから行けるので、生産者はそこに作ったものをどんどん入れていくというわけらしい。
入れるぶんには制限が無いのだが、何故か出すのは制限がある。この砦内でメニューを開き引き出せるのは1種類につき最高5個まで。種類によって制限個数が変わってくるので1個しか引き出せないのもある。なので戦場と砦を行ったり来たりしなければならないようだ。
「正面からミニ黒の大群が来たらしい。俺は外の防壁に行ってくる」
「気をつけてね~!何かあれば連絡して~!」
どうやら本格的な攻防が始まったらしい。
既にヤトは最前線に送られている。というかヒメもこちらに参加しているらしく競うように出て行ったとのこと。ちなみにまっちゃも付いて行っている。少しでも手数は多い方がいいという事でお手伝いだ。
私達はというと、素材はたくさんあるので道具を設置してから直ぐに生産に取り掛かった。というか何かしてないと視線が刺さって気まずいのだ。
なんか拝んでる人いるし!
おかしいな?どちらかというとわたしって引きこもりだよね?ゲームで引きこもりってのも変な話だけども。
今は無心に薬作りに没頭する。
まだ作れる人が少ないリバースポーションを作る。これは時間が掛かるし、練習するのにも丁度良い。この為に神水をたくさん取ってきたのだ。
それからはひたすらお薬を作って戦闘を頑張っている人達のサポートに徹した。リバースポーションの他にも在庫が少なくなってきたものを順次作っていく。今回のイベントもゲーム内時間で3日間行われる。睡眠もとらなくてはいけないので、早々にシフトが組まれ戦闘が行われている。後から防衛戦に参加したいといった人達も増えていて、最初は人が集まらないのではと懸念していたが今では隊列を組めるくらいの規模になっていた。
思ったより楽勝?
そう思ってすらいた。
しかし。
「外城壁が崩された」
日が落ちた後、タモツくんが一度戻ってきて重々しくそう報告した。